ダンジョンに転生者がいるのは間違っているのだろうか 作:黒歴史
「さて、話し合いはこれくらいにして…始めるとしようか」
そう言ってイシュタルが指をパチンと鳴らす。その瞬間、部屋の背後に回ったタンムズがベルを取り押さえる
女神と話していた事ですっかり気を取られていたベルは何の抵抗もなく捕らえられてしまった
「ふふふっ……」
「っ!?ヤミさん逃げて!!」
イシュタルがヤミの頬に触れる。ベルは逃げるように叫ぶがヤミは一切動かない
それでもなお、もがき叫ぶベルにイシュタルが言った
「無駄だ。この男は私に夢中、お前みたいなやつの言葉なんて入ってこないさ。なぁに、すぐにお前もこうなる」
「そんな……って!?」
ベルが絶望の眼差しになる寸前、目の前で起きた事に目を見開き速攻で閉じた。イシュタルが服を脱ぎ始めたのだ
「えっ、えっ、ええええっ!?」
「うぶなやつめ。ヘスティアは何も教えていないのか……って、ああ、あいつは処女神だったか」
「なななななっ、何で服をっ!?」
ベルは見ていないが僅かにあった衣料を脱ぎ捨てて全裸になった女神が言った
「言っただろう、私のモノにしてやるとーーーー骨の髄が溶けるまで『魅了』してやる」
ああ、頭がふわふわする。これが『魅了』というやつなのか。いつまでもこの感覚を味わっていたい。目の前の全裸の女神を見ながらそんな事を考えていた
女神の手が下半身に伸びる寸前、俺は
『俺とベルはヘスティア様が勧誘してくれたからこうやって冒険者になって、あいつ等に会う事ができた。今更その恩を仇で返す事なんて出来ねえよ』
『ほ、本当かい?』
『本当だ女神の「魅了」だろうが何だろうが、曲げるつもりはないぞ。安心してろ、ヘスティア様』
これは嘘ではない。嘘にしたくはない
ならばここで俺はどうすれば良いか、簡単だ
「はぁっ!!」
「なっ!!?」
体から闇を噴き出させ、気迫で『魅了』を跳ね除けた
「さっきから聞いてりゃあ……イシュタル様よぉ」
「な、なぜ『魅了』が聞いていない!?」
俺の言葉も聞かずにイシュタルは自分の『魅了』が聞いていない事に慌てふためく
「子が親に尽くすのは当たり前?そりゃあ否定しねえよ
だがな?親の我儘の為に子が尽くすのは俺は納得いかねぇ
……わかってるよ。これは俺とアンタの考えの食い違いだってな
だから言ってやるよ。お前がさっき使った言葉をな」
ベルを抑えていたタンムズが俺に武器を持って飛びかかる
俺はすぐに反応し、闇を纏った拳で死なない程度の全力でぶん殴った
そして改めてイシュタルに目を向けると息を吸って言い放った
「俺は、お前が気に食わない
だから、俺達は春姫を連れて行く。【フレイヤ・ファミリア】が気に食わないから春姫を利用しようとしているように、俺はお前が気に食わないからお前という檻から春姫を連れて行こう」
神に対して『お前』という言葉で、理不尽極まりない理由で喧嘩を売った
「行くぞベル坊」
「へ?あ、うん!!」
拘束が解かれたベルに声を掛け、窓を突き破り外へ逃げ出した
〜イシュタル〜(書けるかどうかはわからない)
自分の『魅了』が聞かない。そんな者が2人もいた
1人は自分の姿を見たはずなのにいつまでたってもウブな子供のように喚く白髪の少年
もう1人はもう少しで『魅了』が完了した。するはずだった
にもかかわらずいきなり意識を取り戻し、挙げ句の果てには『魅了』という神の力をも吹き飛ばした黒髪の青年
『俺はお前が気に食わない』
青年の言葉が脳裏をよぎる
「ふ、ふふふっ……」
神である自分に対して唾を吐いた男にイシュタルは笑った
「イシュタル様ッ!先程の音は……」
急いで入ってきた従者の言葉はそこで止まる。女神の剣幕に押されたのだ
イシュタルはすぐにその従者を睨み付けると叫んだ
「あの兎と悪魔は逃がすな!?私の前に引きずり出せ!!」
「は、はいぃ!!?」
美の女神として己の『美』が通用しない存在が許せない
2人の抹殺も視野に入れるイシュタルの手の中で、煙管が音を立てて真っ二つに折れた
〜ヤミさん〜
いやぁ、間抜けな話。完全に忘れてたよ
ここが地上から30階の高さだって……
「ベル坊!手をつかめ!!」
「わかった!!」
ベルに手を差し出すとすぐにその手を掴んできた。しっかり掴んでいるのを手から感じると鞘に収めた状態の刀を壁に突き刺した
ガガガガガッと鞘は壁に数Mの一直線の傷をつけると停止した
「投げるぞベル坊!!しっかり着地しろよ!!」
そう言って振り子運動を始め、近くにあった窓にベルを投げ込んだ。投げた瞬間にベルは丸くなり、衝撃に備えるとすぐに窓を割って中に入り込んだ
『うっ、うわぁああああああああああああああ!?』
『す、すいません!?』
中から逃げ惑う人の声が聞こえる。多分戦力にならない従者達だろう
俺も窓に飛び込み、闇の腕を作り出し中から壁に刺さった刀を抜く
「ベル坊、体力回復用のポーションをくれ」
「わかってる…!」
進みながらベルからポーションを渡させるとそれを一気に飲み干す
あちらこちらから悲鳴や叫び声が聞こえる中、駆け抜けているとドンッ!!と爆発音が館に鳴り響いた
「赤色……!!」
「失敗か」
廊下の窓から外を見ると上空に赤い華が咲いていた。赤はベルに聞いていたが、春姫の救出失敗のサイン
「ま、こんな事で諦めはしないんだろ?ベル坊!!」
「当然!!!」
『まだ終わっていない』と全力で走り出す。目指す場所は儀式が執り行われる空中庭園。春姫を助けると決めたベルの執念の炎は消えない
「このままじゃ間に合わない。どうすれば……」
窓から月を見ればもう満月が真上近くに来ていた。その事に焦るベルはがむしゃらに走る
「……!ベル坊、俺を使え」
俺はそういうと窓に鞘を突き出し構える。それを見たベルは少し困惑したがすぐに察知、鞘の出来るだけ橋に乗る
「ぶっ飛べオラァァァァア!!!」
ベルを乗せた瞬間、バットとボールのように俺はベルを全力の力で上に向かって吹っ飛ばした
「……あとはベル坊がなんとかする」
それを信じて俺は先にベル達が行った空中庭園へ向かった
「あと少し……」
全力で駆け上がり、40階くらいの高さをやっと登りきる直前まで来ていた
最後の上に続く階段には見張りはおらず、上にいるのだとわかる
ガラ空きになった階段を上り、屋上…もとい空中庭園に来た
ドンッ
「うおっ!?」
その瞬間に爆発が起きた。何が起きているのか分からず一瞬だけたじろぐが、その爆発には魔力が流れていた
敵の中にいる誰かの魔法かと思ったがアマゾネスが巻き込まれているあたり違う
「ベル殿おおおおおおおおおおおお!!!」
「命!!」
爆炎の中から何かが飛んだかと思えばそれは命だった。急いで落ちてくる命をーーキャッチする事はせずに、爆炎の中の隙をついて走るベルの援護に向かった
〜ベル〜
走った。その命が燃え盛った瞬間、誰よりも早く走った
爆炎の中の命の叫びが届き、誰よりも速く走った
『ーーーーッッッ!?』
純白の弾丸となったベルにアマゾネス達の反応が振り切れる
追随を許さない超速の疾走。祭壇に向かって一直線に驀進する白兎に、間を抜かれる
戦闘娼婦は目で追うこともできず、アイシャでさえ振り返ることしかできなかった
「ーーゲゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!」
1人を除いて
「やらせないよ「オラァ!!」ゲフッ!?」
神速と共にベルの前に現れた蛙の女王は、【悪魔】の手によっていともたやすくベルの前から姿を消した
それを合図にするようにベルはさらに加速する
「ああああああああああああああああああッッ!?」
ベルの目の前にあるのは跪きこちらを見つめる少女、儀式剣を持ったアマゾネス、鮮血の光を放つ石
最後の紅石のみを見据え、ベルは≪ヘスティア・ナイフ≫を引き抜き、その石に渾身の斬撃を放った