ようやく、当初予定していたスタート地点にたどり着きました。
本来はここの辺りから始まる予定だったんですけどね。
少しの間は、日常回の予定(実際そうなるかは不明)
では、本編をどうぞ
2019/3/17 若干編集しました
第43話 横須賀鎮守府着任
12月1日 10:00
横須賀鎮守府 執務室
硫黄島奪回から数日後、俺とほのかは横須賀鎮守府にいた。
「山本裕一。海軍軍令部作戦部から横須賀鎮守府司令補佐として着任しました」
「山本ほのか。同じく横須賀鎮守府に着任しました」
目の前に立つ女性に向かって敬礼する。
「横須賀鎮守府司令長官の高野綾香です、お二人を歓迎します。どうぞ座ってください」
高野提督に座るよう促され、対談用に設けられた真新しいソファに腰掛ける。
高野提督が向かいに座り、話を切り出す。
「久しぶりですね、“デスピナ”さん」
そう切り出した高野提督。俺が艦息であることは機密指定された情報のため知ることはできない。つまり…
「…やはり、あの仮想世界にいたんですね」
以前、高野総長から聞いた通りあちらの世界にいたようだ。
「えぇ、提督を目指したいと思ってね。経験を積みたくておじいちゃんにおねだりしてね」
高野総長は孫娘に随分と甘いらしい。
「それで、妹さん?でいいのよね」
「はい、あちらの世界で兄がお世話になりました」
「いえいえ、少しの間だけでしたので…裕一君、彼女は脳内設定の妹じゃないよね」
「実妹だよ」
俺にそんな趣味はない!
高野提督がほのかに話をふる。
「あなたも艦娘なんてすごい因果ねー。何か特別な絆でもあるのかな?」
「まぁ、私とお兄ちゃんはすっっごく仲良しなんで、当然の結果です」
「あらあら、とったりしないわよ~」
「そうですか、それならよかったです」
「「うふふふ」」
「やだ、私のために争わないで(裏声)」
てかなんで取ったり取られたりの話になったのかと思ったが時間も押しているので、特務艦隊の話に入る。
「総長から特務艦隊の指揮権は山本大佐にあるということは聞いています」
「はい。特務艦隊の作戦では、指揮はこちらで取るというだけで難しく考えずとも大丈夫です。潜水艦たちは横須賀鎮守府所属で表向きは出していますし、こちらにひとこと言っていただけたら戦闘に参加させても大丈夫ですので。それと、ほかの艦娘には特務艦隊の身分は機密保護のため内密にお願いします」
「理解しています。しかし…」
高野提督がこちらをまじまじと見る。
「特務艦隊の存在を隠すためとはいえ、それ必要ですか?」
俺が被っているものを凝視しながら聞いてくる。
「必要です(迫真)」
「何言ってんの。好きな人に格好つけるためでしょう……はぁー、だからモテないんだよ」
と、ほのかが呆れながら言ってくる。
翔鶴さんに自分がいることを隠し、提督として別人のように振る舞う。一種の照れ隠しだ。自分でもなんでこうなったのかと思っていたが、他人に言われると腹が立つ。
「ほのか、少し表出ようか」
「へぇー…やるの?私と」
鼻で笑いながら小バカにしてくるほのか。こいつ…いい加減に〆るか。
「よろしい、ならば戦争だ」
互いに腰に帯刀している軍刀に手をかける。部屋が一瞬で殺気立つ。
「はいはい、そこまでにして。12:00に艦娘が着任するから準備してねー」
俺とほのかが殺気立つなか、動じた様子もない高野提督が間に入り、あやふやになった。
覚えておけよ、ほのか。
工廠エリア
「すみません、工廠長はいますか」
「ここにいる」
奥からひとり妖精が出てきた。
「はじめまして工廠長。横須賀鎮守府司令補佐兼海軍軍令部直轄独立遊撃艦隊司令の山本裕一です。よろしくお願いします」
(文字にするとなんかの呪文みたい)
「俺が横須賀鎮守府の工廠を預かっている工廠長だ、よろしく」
工廠長が1mくらいの大きさになり握手を交わす。その手は、ゴツゴツとした職人の手であった。
「体調はどうですか?」
「あぁ、大妖精に治してもらったからな。問題ない」
そう言って、工廠内に案内される。工廠は再び使えるように機器の修理を行っており、工廠の妖精達が忙しく働いていた。
工廠長は、地下司令部よりさらに下の場所でほかの妖精たちとは別で監禁されていた。
発見時の姿は、身体には内出血、痣、打撲痕などのひどいケガと精神も壊れかけていた。すぐに、大妖精による治療がおこなわれていた。
現在すでに、完治しているようでよかった。
「大妖精から話は聞いている、横須賀を取り返してくれて感謝する」
「いえ、感謝されることはなにも。艦娘をひとりも救助できませんでしたから」
工廠長は首を横に振り、
「いや、彼女たちはもはや艦娘ではなくなっていた。ただの兵器、実験のモルモット、愛玩具にされちまっていた。俺たち妖精は、艦娘の悲鳴や叫びをただ聞いていることしかできなかった」
工廠長がその時の悔しさ、怒りからか、右手を見つめ強く握りしめていた。
「横須賀を取り戻し、奴らにやり返すチャンスができたと思っている」
工廠長がこちらに振り返る。表情は覚悟を決めたものであった。
「裕一殿、どうか俺たち妖精の代わりにあいつらを、そして彼女たちを頼む」
「「「「お願いします」」」」
工廠長と集まってきた妖精さんたちに頭を下げられる。
復讐。悪いとは言えない。
俺自身にも身に覚えがある。
あの時も対象物を徹底的に苦しめ殺した。
工廠長もよく似た感情が芽生えているのだろう。だからこそ、その手を取ってあげたい。無力感で潰れて欲しくない。
「…わかりました、必ず。しかし、その前に深海棲艦とプライマーと決着をつけなければいけません。どうか、私たちに力を貸してください」
頭を上げた工廠長は、どこか安堵したようだった。
「おう、よろしくな」
工廠長と今度は固い握手を交わした。
12:00
横須賀鎮守府 体育館
翔鶴視点
「翔鶴姉、大丈夫?」
「大丈夫よ、瑞鶴。心配いらないわ」
「そう…」
いいえ、本当はまだ気持ちの整理がついていない。
一昨日、私たちは戦闘中に突如急な眠気に襲われ気が付くと、カプセルの中にいた。
カプセルを出たあと大きな部屋に連れていかれ、待っていた妖精さん、大妖精さんから説明を受けました。
私たちがいたのは仮想世界。さっきまでいたのは、仮想世界を用いた訓練設備だったようです。
そこで、仮想世界とここ現実世界の間で起きた歴史についても説明をうけました。中村提督が戦死されたことを聞き、泣き出す子もいたけどみんな受け入れていました。
最後に、大妖精さんから12月1日に横須賀に全員着任してもらうと説明されました。
しかし、説明のなかにデスピナさんについての話は出てきませんでした。
疑問に思い大妖精さんに説明が終わったあと、尋ねてみたのですが
「大妖精さん、デスピナさんはあちらの世界で突然姿を消したのですが。こちらの世界に先に向かったのでしょうか?」
「えっと、翔鶴さん。デスピナさんという方については私から説明できません。すみません」
そう言って部屋をすぐ出て行ってしまい結局、モヤモヤが晴れることが無く今に至っているわけですが。
デスピナさんはこの現実世界にいる。確証はなく、女の勘ではありますが。
おそらく、機密性の高い任務、危険な任務についているのでしょう。だから、大妖精さんは話せなかったのでしょう。
それならば、強くなってデスピナさんたちの任務に参加できるようになればいいのですから。
そう考え、仮想世界であの時渡され、身に付けているネックレスに手を置く。このネックレスが今、デスピナさんと私を繋ぐ唯一の物になっていました。
「総員、敬礼!」
一時的に長門さんが秘書艦として号令をかける。敬礼をして提督を出迎える。
ステージに登壇したのは、女性の方と…
「あれはなんだ」
「何者?」
「なんでT?」
ざわざわ…
女性提督のうしろには黄色で大きなTの文字をしたものを被った?人?がいた。
「翔鶴姉、あれ…」
「こら、指をさしちゃだめ」
Tの被り物をした人をさす瑞鶴の手を下げさせる。
「静粛に!!」
長門さんの一喝で静まり返る、体育館。
「横須賀鎮守府司令長官より訓示!」
「えっと、初めまして艦娘の皆さん。横須賀鎮守府司令長官の高野綾香です。気軽に綾香提督とか、あやちゃんとか呼んでください♪(キラッ☆(ゝω・)V)」
うん、すごく馴染みやすい感じの方でした。
「あ、あれれ?(どうなってんの裕一君!)」
後ろにいたTの被り物をした方に話しかける高野提督。すこし揉めているようですが。
少しして、解決したのか咳払いをして話を再開する。
「おっほん。さて、皆さん聞いているとは思いますが現在、我が国…いえ人類は絶望的状況にいます。日本は現在ここ横須賀鎮守府しか、深海棲艦に対抗する戦力がありません」
数年前に起きたプライマーと深海棲艦の日本への大侵攻。
これにより、佐世保、呉、舞鶴、3つの鎮守府を失っている。
「国防軍統合参謀本部は、近く西日本奪還のための作戦を立案中です。私たち、横須賀鎮守府もこの作戦に参加することになります。明日より、作戦に向け訓練と出撃のための資材確保、周辺海域の制海権の確保をおこないます。忙しくなりますが、一緒に頑張っていきましょう!」
高野提督の敬礼にすぐ敬礼する。
「あ、最後にさっきから後ろに立っているのは、鎮守府司令補佐のT督さんです。T督さんからも挨拶してもらいましょう」
そう言って、T督と呼ばれた方を前に引っ張ってきた高野提督。また少し揉めたようだが、T督が話し始める
「あー、横須賀鎮守府司令補佐のT督だ」
その声は、はっきり聞こえ低い声から男性であることが分かった。
「おもに全体の作戦立案、資材管理などを担当する。よろしく頼む」
そう言って、後ろに下がった。
すると、今度は高野提督が「あっ!」と声をだし
「今夜、懇親会やるので食堂に集まってね!それと、明日の08:00に再びここに集合してね!それじゃあ、またあとでね♪」
と、連絡事項を伝えてステージから降壇していった。
こうして、二人の提督と艦娘の顔合わせは終了した。
12:50
横須賀鎮守府 執務室
裕一視点
「高野提督、どういうつもりですか」
「いやー、挨拶は大事だよ。あんなに騒がれて、みんなの興味全てかっさらっていきやがって。ちくせう」
「八つ当たりで予定にないことをしないでください。いい迷惑です」
と、肩を竦めて見せる。
「まぁいいじゃない、いつかは顔を合わせるだろうし。それより夜の懇親会はどうするの?」
「参加できないです。軍令部から呼び出しがあったので」
「そっかぁ…、残念」
すこし寂しそうな表情になる高野提督。
「ほのかはいるので女性だけで楽しくやっていてください」
「う~ん、そうね。同性同士、楽しくやることにするわ。よいっしょ」
そう言って、デスクチェアーから立ち上がり、俺と向き合う。
「改めてよろしくね、裕一君♪」
「よろしくおねがいします、高野提督」
すると、何か不満なのか
「もう、あ・や・か、って呼んで」
上目遣いで体をくねくねさせながら言ってくる。
「しかし、高野提督」
「あ・や・か」
「…」
「…(涙目)」
「わかりました、綾香さん」
さすがに、泣かれると困るのでこちらが折れることにした。
「うん。まぁ、及第点かな。じゃあ明日から(自主規制)もしめて頑張るぞー!」
「下ネタぶっこむなー!」
この人、ぜっったいわざとやってるぞ。
17:48
海軍軍令部 総長執務室
「ははは、仲良くやっているではないか」
総長に今日のことを聴かれ、話すと愉快そうに笑った。
「まぁ、仲良くやっていけそうです」
「それは、よかった」
その顔は孫娘を心配する祖父の顔であった。
「これから綾香を頼むぞ」
「はい、しっかりサポートさせていただきます」
そして、話は本題に入る。
「さて、あの計画だが、いよいよ最終調整にはいる」
「ついにですか…。大妖精にはかなり無理を強いることになりそうですね」
高野総長から「特別機密指定事項 No.025 第15次中間報告書」が印字された表紙の書類の束に素早く目を通し、返却する。
「統合参謀本部が立案中の作戦後になりそうですね」
「そうだな、[西日本奪還作戦]。西日本の領土、及び鎮守府の奪還が目標だ」
数年前の侵攻で、鎮守府のある都市は深海棲艦が。西日本の各大都市はプライマーの無人機や生命体と思しき者たちに占拠されている。
「特務艦隊はおもに支援がメインになると思う。準備はしておいてくれ」
「了解しました」
軍令部で裕一と高野総長が話している一方、横須賀鎮守府では
「それじゃあ、カンパイ!!」
「「「かんぱ~い!!」」」
食堂は半分ほどのスペースを立食形式のバイキングになっている。
乾杯の音頭を取った高野提督は、積極的に艦娘たちと交流していた。最初のターゲットは、ザラだった。
「ぐへへ、ザラちゃん」
「きゃああ!もう、提督!」
高野提督の交流(セクハラ)が
「次は…潮ちゃんだー!」
「ひゃあぁぁぁ!?やめてください!」
「あべしっ!?」
潮が高野提督にビンタを繰り出し、高野提督が吹っ飛んでいく。
「…ごーやがもうひとりいるでち」
と、スク水を着た伊58が言う。
「…同じ顔が目の前にあるでち」
と、ウエットスーツを着た伊58が言う。
「「不思議なの、ね」」
仮想世界ならば、同じ鎮守府内に同様の艦がいないよう調整されていたため、いわゆるダブりが無かったのだ。
そのため、横須賀鎮守府の潜水艦組と特務艦隊の潜水艦組がなんとも言えない空気の中いた。
残りの半分のスペースは、テーブルといすが並べたままになっており、座って食事や談笑できるようになっていた。そんな一角に周りの艦娘の注目の的になっているところがあった。
「もぐもぐ…」
ほのかは、バイキングでお皿にめいっぱい食べ物をとってきて黙々と食べていた。
ほのかは海軍支給の軍服ではなく、ガラテナの時に着ているEDF海軍の女性用の軍服を着ていた。
「もぐもぐ…うっ(ドンドン!)」
「ガラテナさん、お水です」
ほのかの様子に気づいたエピメテウスが水のはいったコップを渡す。それを素早く受け取り、流し込む。
「(ごっくん!)ぷは~、助かったよ。ありがとね、エピメテウスちゃん」
「どういたしまして(いま、"ごっくん"ってはっきり聞こえたのですが)」
そんなエピメテウスもEDF海軍の制服を着用している。そんなふたりを見ていたある艦娘が、ふたりのもとに来る。
「すみません、ご一緒してもいいですか?」
「うん?いいよ」
「ありがとうございます」
ほのかの前に座った銀髪の長い髪がきれいで、胸も…
「くそ、この世に神はいない」
突如、現実を突き付けられたほのかはテーブルに突っ伏す。
「え?え??」
「あー、気にしないでください。ネタですので。それでお名前は…」
呆れたような目でほのかを見ていたエピメテウスに名前を尋ねられた艦娘が自己紹介をはじめる。
「あ、はい。翔鶴型航空母艦1番艦の翔鶴です」
翔鶴の自己紹介を聞いたほのかが、ヌルりと顔をあげて笑顔で
「デスピナクォーター、ガラテナ級航空母艦1番艦のガラテナです。そして」
「潜水母艦エピメテウスです。よろしくお願いします、翔鶴さん」
「はい、こちらこそ。それで、あの…ガラテナさん」
「なんでしょうか?」
先程の絶望に染まった表情から鉄壁の笑顔になっているほのか。
「デスピナクォーターと先ほどおっしゃいましたが…」
と、おそるおそる聞く翔鶴にほのかは、翔鶴が求める答えをすぐにだす。
「デスピナはこの世界にいるよ」
「!?」
「ほ…ガラテナさん、提督のこと言っていいんですか!(小声)」
その問いにほのかは問題ないと告げ、翔鶴に視線を向ける。
ほのかからデスピナがいることを聞き、安堵したのか涙を浮かべる翔鶴。
「でも、会えないと思うよ」
「!?」
ほのかはすかさず翔鶴の希望を切り捨てた。
「デスピナは任務の関係で会う機会がないよ……、その内に秘めた想いは諦めた方がいいよ」
そう告げ、立ち上がるほのか。
「ガラテナさん!?ちょっ、待ってください!――すみません、失礼します!」
ほのかを追いかけていくエピメテウス。
その場には、呆然とした翔鶴が取り残された。
「ちょっと、待てくださいってば!」
食堂を出て、特務艦隊用に割り当てられた寮に向かうほのかを捕まえたエピメテウスは、翔鶴にあのような態度を取った真意を探る。
「ほのかさん!なぜあのようなことを」
「うん…、ごめん。なんかちょっと腹が立ってきて」
「腹が立つ?」
「エピメテウスちゃん。それ以上の詮索しないでくれるかな…、今ひとりになりたいから」
そう言って寮へと行ってしまう。その後をエピメテウスは追いかけることは出来なかった。
「ほのかさん…」
エピメテウスはほのかが振り返った時の表情を、目を見て動けなかった。
その目は、沼のように底がない黒く染まっていた。
「彼女はお兄ちゃんが守るほどのものじゃない。ましてや、背中も預けることが出来ない。彼女がお兄ちゃんの隣に並ぶのは許せなかっただけ」
部屋のベッドにダイブし、呟くほのか。
翔鶴が自分の兄のことを慕っていること。そして、兄も翔鶴のことを慕っていることは聞いていた。だからこそ翔鶴がどのようなものか確かめるだけのつもりであった。
「はぁ……、なんであんなことを言ってしまったのかな……。らしくないな」
だが、自分の方が相応しいと思い、ついあのようなことを言ってしまった。
あの日、兄と別れることになり二度と会えないと思っていた。
だが、この世界で再び会えた。その時からだろうか。ほのかの心の中にある感情が芽生えていた。
「…嫉妬してるの…か、な?……まさかね」
考えることをやめるため、時間的には早いが布団に潜り込む。
ほのかが自分の気持ちに気づくのにはもう少し時間が掛かる。
ほのかが自分の部屋でモヤモヤした感情でいる頃、裕一は
「裕一さん、もうすぐ着きますよ」
「あぁ」
海の上を飛んでいた。
軍令部のヘリポートからC-70ノーブルに搭乗し先日奪還した硫黄島に向かっていた。
建設部隊が急ピッチで整備した飛行場にノーブルが着陸し、硫黄島に降り立った。
「待っていだぞー!!(グギッ)あーー!!!!」
オハラ博士が手を勢いよく振っていたが、肩を抑えて蹲る。
「…デジャブ?」
「いいから、たすけてー!」
ということで、軍医妖精さんにやっぱりどこかで見たような流れで、オハラ博士の肩が戻される。
「……こ、れで、2度目…ガクッ」
「で、例のものは?」
オハラ博士と共に移動用の車両に乗り、島の中央部に。
「いたたっ…あぁ、荷物は完成したんじゃが…配達員が用意出来てないんじゃ」
裕一は疑問に思い、車両の窓から見える建造物を指差す。
「発射台は出来てるのに?」
「なにせ荷物が大きいのでな…その分、配達員も大きくしなきゃならんからな」
車両は、地下へと向かうトンネルに入り、車内が薄暗くなる。
「これからの試射の結果次第で明日の発射か、さらに先になるかじゃな」
「早めに衛星は使えるようにしたいので、成功することを祈りますよ」
地下施設の入り口の前に車が止まりドアが開く。車から降りて施設内へ。
入ってすぐあるエレベーターに乗り込み、下に降りる。
「それにしても、随分と整備が進んでいますね」
と、オハラ博士に聞く。
「EDFの工兵は優秀だからな。工廠の妖精達と遜色がない土木技術を持っている」
途中でエレベーターが止まり、白衣を着た妖精が2人ほど入ってくる。
しばらくして、オハラ博士が話し始める。
「裕一くん、この基地の設計はあれでいいのだな?」
「えっと…、はい大丈夫です」
ここ硫黄島を俺の秘密基地として建設するためデスピナ所属の工兵隊を始め、明日からは横須賀鎮守府の工廠妖精達にも手伝って貰う。
硫黄島基地には、補給施設や工廠、ドックなどの他にアルマゲドンの製造施設、新型の兵装の研究、衛星兵器の製造、打ち上げ施設などを設置する。
現在は、衛星兵器の製造と打ち上げ施設だけを設置している。明日からは人員も増えるので一気に充実した基地となるだろう。
ちなみに、軍令部にはただのロケット打ち上げ施設としか説明していない。
エレベーターが目的の階に止まり、エレベーターから降りる。
地表からマイナス150mの高度にある。この階には、ロケット打ち上げの管制室がある。
まだ、パイプや線などが剥き出しになったままの廊下を歩き、突き当たりのスライドドアの前に着く。オハラ博士が近くのセキュリティシステムにIDを読み込ませ暗証番号を入力すると、ドアが開く。
ドアの向こうでは、打ち上げ施設が映し出されたモニターがあった。
「オハラ博士、準備完了しました」
白衣を着てメガネをかけた妖精がオハラ博士に振り向きそう伝える。
「ご苦労。打ち上げは予定通りかね」
「はい。あと10分後に打ち上げ可能です」
「素晴らしい!では、待つとしよう」
管制室にある自販機でわーお、お茶を買って待っていると、管制室の妖精たちが慌ただしくなってきた。どうやら、始まるようだ。
「ロケット、最終チェック完了」
「作業員の退避完了」
オハラ博士の他に飯綱博士、結城博士3人が揃っていた。
「いよいよですな」
「楽しみですな」
打ち上げの瞬間を見るため硫黄島基地の妖精たちが打ち上げ施設を見つめる。
「やりますぞい!ロケットエンジン点火まで3、2、1、ポチッとな!」
オハラ博士が手元のボタンを勢いよく押す。
打ち上げ台からロケットが発射され宇宙を目指して上昇していく。
「「「ヒャッハー!打ち上げ成功だ!!」」」
「よしっ!」
管制室の妖精たちが歓声に沸く。俺も思わずガッツポーズを取る。
ロケットは爆発も起きず順調に大気圏外へ向かっていく。
「オハラ博士、これで衛星を打ち上げ可能ですか?」
「可能だとも。諸君明日から忙しくなるぞ!」
「それよりも…」
「そろそろですかな?」
「…おー!そうであった!」
と、3博士達が再び盛り上がる。疑問に思い聞いてみる。
「何がそろそろなのですか?」
「見ておれ」
と、オハラ博士がモニターを指さす。
ロケットが熱圏、高度100kmに到達していた。地上からは既に見えなくなっており、ロケットの様子は望遠鏡で見える状態であった。
モニターに映っているロケットの高度計が400kmを越えた時、突如ロケットが爆ぜた。
「おいおいおいおいおい!なんだ今のは!!!」
え?え?ものすごい青白い爆発が見えたんだけど!望遠鏡の映像が爆発で眩しかったんだけど!?
「え?新型兵器」
「すごいだろ」
「見てください、威力が違いますよ」
と、いい仕事をした感じの表情を見せる博士たち。
新兵器?核兵器並にやばくね?てか、なんてものを作っているの。
「…なんで使ったの?」
「裕一くん、スペースデブリって知っているかい?」
「…宇宙空間にある人工衛星の破片などのゴミだよね」
毎秒7~8kmの速さで動き、弾丸のごときものだ。そのゴミがロケットや人工衛星に当たると破壊されてしまう。
「そうだ。それを莫大なエネルギーを発生させるあの兵器を使って少し無くしたのだ!」
「つまり、少しでも衛星の打ち上げ事故を減らすために、やったと?」
「うむ。そして、新兵器の実験のためだ」
「少し威力少なかったけど」
「要開発だな」
これあとで上からなにか言われそうだな。はぁ…。ロケット打ち上げ施設だけって嘘が早速バレそうだ。
「新兵器を開発したら必ず報告して実験とかも許可なくしないでください。それと、あとで新兵器についても聞かせてもらいますからね」
「「「ほーい」」」
…この3人に監視を付けるべきかもしれない。
次回は3月に投稿したい。
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