遊戯王 ~とある男の再出発は少女として~   作:7743

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お久しぶりです。言い訳は後書きで。
ペンデュラム召喚とやらを出す予定はありません。
先攻ドローも続けていきます。


絶望的ミスを指摘していただきました。すぐに改編できるものでもないので、正しい効果と裁定だけを明記しておきます。この文章はいずれ改編時に消去します。

『自分フィールド上のレベル2以下の植物族モンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたモンスターのレベル+3以下のレベルを持つ植物族モンスター1体を、手札・デッキから特殊召喚する。』
Q:この効果でリリースして特殊召喚する効果は、手札からフィールドに出した(あるいはセット状態から発動した)時の1回のみですか?
A:はい、そうなります。(11/05/19)


種と花

 崩れ落ちる二人。

 一瞬の静寂から、水がこぼれおちるように誰かが行う拍手。

 その波紋が一斉に広がり、たちまち興奮に包まれた観客たちの手を叩く音が重なり瀑布となる。

 その中心で、どこか不満と悲しみの入り混じった表情をした渚は二人から視線を離し、寮の方へと足を向けた。彼女を囲む群衆の一角が道を作り、凱旋将軍を迎えるように彼女を通す。その後ろを、文に片手を抱えられた二人が顔を伏せて続く。

 

「あの二人は――これから?」

 

 不安げに尋ねる冴月に、隣の上級生は唇を弓の形にしたまま答える。

 

「別に退学とかにはならないわよ。『オベリスク・ブルー』から追放されることもない。会長とはいえ、一生徒にそんな権限はないからね」

 

「え? じゃあ、今のデュエルは?」

 

「ただのパフォーマンス……ってわけでもないんだよねぇ」

 

 想像してみて、と彼女は胸に手を当てる仕草をする。

 

「お前たちは生徒の中で一番強い、だから一番偉いんだって言われ続けてきたブルーの生徒が、ほかのブルー全員の前で、しかも二人がかりで負けるのさ。そんなの、耐えられると思う?」

 

 去っていく小さな二つの背中に視線を投げ、楽しそうに続ける。興奮からか、少し頬が紅潮しているようだ。

 

「私だったら耐えられない。他の人間だって、よほどの恥知らずじゃない限りはそう。そして、敗者を同じブルーとして迎えてくれるほど――私たちは甘くない」

 

 冴月はあたりを見回した。事情を知らない一年生たちはともかく、上級生たちはまるでショーの終わったあとの観客のように、楽しそうに料理を囲んで語り合っている。冴月はとてもそんな気分にはなれそうにもなかった。

 

「あの娘たちは、徹底的にブルーから排斥されるわ。誰からも話しかけられないし、ブルーの施設を使うことも許されない。出来るのは負け犬同士傷をなめ合うか、自分からブルーを出ていくことだけ」

 

 彼女が顎で指した先は会場の端。木の陰に隠れるようにして黙々と食事をとる生徒たちがいる。冴月が自分と同じでこの空気になじんでいないと思った生徒達だ。

 

「あれがもしかして?」

 

「そう。ブルーとしてふさわしい力を持たず、でも出ていく勇気もない敗者たち。貴女はそうならないことを祈っているよ」

 

「その……ありがとうございます」

 

「よく見たら貴女、かわいい顔してるじゃない。部屋の番号を教えてくれたら……色々教えてあげるけど?」

 

 色っぽく唇を湿らせて顔をのぞきこまれ、冴月は一歩引いて作り笑いを浮かべた。冗談にしては目が本気だ。ゴシップネタは大好物だが、自分を餌にしてまで作りだす勇気も趣味もない冴月は曖昧に笑ってごまかすしかなかった。

 

「ま、まあ、考えておきます。じゃあ、その、私はこれで……」

 

「そう。残念ね。でも気が向いたら声を掛けてね。ふふ、相手に押し倒されるっていうのも偶にはいいかもしれないわ」

 

 なにやら妖艶な笑みを浮かべ始めた彼女に背を向けて、冴月はこそこそと会場の裏へと小走りで消えていく。

 なんとか誰からも咎められずに脱出したことに胸をなでおろし、呼吸を整えて寮の中を通り、強面の警備員に如才なく頭を下げて『オベリスク・ブルー』の建物を後にしたところでようやく髪を一本お下げへと戻す。

 伊達眼鏡と入れ替えに普段の眼鏡とメモ帳をとりだし、先ほど見たことを纏めようと白紙を睨みつける。

 

「歓迎会は豪華で……生徒会長がブルー二人相手にワンターンキルをきめて……先輩はサディスティックな同性愛者」

 

 自分でつぶやいた言葉に、ペンの頭で後頭部を掻く。

 

「どれも面白そうな話題ではあるんですけどねー」

 

 もしも記事にするとしたら話題には事欠かないが、冴月の頭の大半を占めているのは、もっと別のことに対する興味だった。

 

「『オベリスク・ブルー』が厳しいっていうのは知っていましたけれど、あれほどとは。心底イエローで良かったとおもいますね」

 

 軽く嘆息して、自分がまだ『オベリスク・ブルー』の制服に身を包んでいることに気づき、早足で『ラー・イエロー』の寮に走り込む。

 『オベリスク・ブルー』については、まだ色々と知りたいことがある。特に生徒会長には何か秘密があるはずだ。あの『公開処刑』の真意は、晒しものなどとは別のところに理由があるのかもしれない。少なくとも、彼女自身が楽しんでいるようには見えなかったのだ。

 

「これは調査のし甲斐がありそうですね」

 

 黄色の制服に袖を通しながら、冴月は軽く唇をなめ、獲物を見つけた野生動物のような眼光を灯す。

 とりあえず、生徒会長のことなら上級生は多少なりとも知っているはずだ。どうにかして上級生の接点を作るためには――。

 そこまで考えて、ふと、新入生歓迎会の催し一覧が冴月の脳裏に降って湧いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「何処へ行っていた?」

 

「あれ、気付かれてましたか」

 

 私の問いかけに、冴月はごまかすように小さく舌を出した。

 

「ちょっと部屋に忘れ物を」

 

「二十分は経っているが?」

 

「……まあ、その――ほら、アレですよ。ちょっとお花を摘みに」

 

 台詞だけなら言いにくそうだが、表情はあっけらかんとしている。話す気はない、という間接的な意思表示だろう。もう少し深く読むと、「貴女には関係のないことだ」といったところか。

 だから、私もそれ以上は深く追求しなかった。万が一私の部屋に忍び込んででもいたらかなりの確率で気づくだろうし、今のところ冴月が私に対してそこまでする理由もないはずだ。そこまで考えて、私はまるでケージから逃げ出したハリネズミのように周囲すべてを警戒していることに気付いた。

 長くつまらない生活のせいで身についたつまらない考え方は、意外と抜けないものだ。自分自身を諫めるために軽く鼻を鳴らし、くだらない考えを払拭する。

 

「他の方々は?」

 

「ユウヤは適当な相手とデュエルを。遥とシズカは応援だ」

 

「貴女は?」

 

「人ごみは苦手だ」

 

 それは本心だった。特に、周りが本当の自分の半分ちょっとの年齢の少年少女だとなれば、居心地の悪さを感じずにはいられない。だから私は皆と少し距離をとり、適当な木の幹に背をつけて休んでいるわけだ。

 無論、視線はシズカの姿を追従している。幸い長い金髪は目立つし、となりにはやや挙動不審気味な遥の影もある。初対面ではなにやら確執があったような二人だが、どうやらそれは解消されたようだ。二人で見守る先には、フィールドを凍てつかせるシルフィーネに加えて獲物を構える半鳥人を2体も従えたユウヤの背中。それを見ると心の奥底がうっすらと熱くなってくるようで、私は腰のデッキホルダーを軽く撫でた。

 

「ええと――奏さん、でしたっけ。貴女はデュエルしに行かないんですか?」

 

「そういうお前は?」

 

「ほら、私は取材が専門なので、実戦はちょっと」

 

 カメラを構えて見せる冴月。嘘か本当かは知らないが、『ラー・イエロー』に所属する以上、まったくの素人ではないはずだ。その実力が気にならなくもないが、私が求めたところで冴月は勝負を受けないだろう。

 わ、と歓声が響いた。どうやら追いつめられたユウヤの対戦相手が逆転の一手を紡ごうとしているらしい。つま先立ちで軽く目をやって状況を把握した私は、再び力を抜いて幹に体重を預ける。

 

「なかなか盛り上がっているようですね」

 

「あれでは無理だ。生き延びることはできるがアドバンテージを失いすぎて、あと2ターンで詰むだろう」

 

「そうなんですか?」

 

「……言ってみただけだ」

 

 再びの歓声。視界の端では、私が頭に思い描いた通りの展開が広がっている。相手が、デッキの上に手を置いた。投了の意思を確認し、ソリッドビジョンが解消していく。ユウヤは相手が軽く握手を交わし、シズカと遥を連れてこちらに向かってきた。

 

「いやあ、結構強敵だったぜ。一歩間違ってたら追いつめられてたな」

 

「凄いですよ、ユウヤさん。デュエルに全然無駄がないんです」

 

 遥が頬を紅潮させながら言った。

 ブラックフェザーはボードコントロール力の高いデッキだ。基本的に、一対一以上のアドバンテージを奪い続ける戦い方を得意として相手との差を広げ続けられる。多彩なシンクロ召喚とエクシーズ召喚を使いこなせれば決定力と突破力をも手に入れることが出来るため、使い手によっては相手を手のひらで踊らせるようなデュエルもできるだろう。

 ただ、ユウヤの戦い方は巧妙であっても狡猾さは感じられない。あくまでも相手との真正面からの駆け引きを楽しむデュエルを心がけているようだ。

 

「どうだ、奏。俺と一戦やらないか?」

 

「そうだな……」

 

 ユウヤのデュエルには、自分だけでなく観客までを楽しませる華がある。それにあてられたのか、私の闘争心もゆっくりと鎌首を上げ始める。

 

「あの時の決着もきちんとつけたいし、そんな堅苦しい言い訳しなくても肩慣らし代わりでいいぞ」

 

 ユウヤはすっかりやる気のようだ。私とユウヤが戦うというのならシズカも観戦するだろうし、任務に支障もない。

 やる、と言いかけた、その時。

 

『あ、あー』

 

 ノイズ混じりの割れた声が、中庭中にこだまする。出所は一番初めに熊手とかいう寮長が立っていた横断幕前の壇上だ。そこに、スピーカーを足元に置いた男子生徒がいる。始めの挨拶をしていた個性がないのが個性と言ったような地味な生徒だ。彼は手元のマイクを操作し何度か声を通して音量を調節した。

 

『えー、皆さんお楽しみのところ失礼します。これより、上級生による新入生との歓迎デュエルを開催したいと思います。お相手をするのは、『ラー・イエロー』3年生、蓼科・京子さんです。彼女は昨年の『ラー・イエロー』最優秀デュエリストを獲得したツワモノです』

 

『ご紹介にあずかりました、蓼科・京子(たてしな・きょうこ)です』

 

 壇上に上がってきたのは、黄色の制服に身を包んだ女子生徒。丁寧に頭を下げると、重力に引かれて艶やかな長い黒髪が流れるように垂れる。上げた顔は細面で、大きな黒壇の瞳と柔らかいカーブを描く目じりが印象的な少女だ。横一線に切りそろえられた前髪の下に、細いまゆ毛が引かれている。

 古い映画の中から飛び出してきた女優――そんな雰囲気の彼女の隣では、男子生徒がほとんど背景と化している。京子と名乗った彼女は、背景からマイクを借り受けると、会場全体に視線を巡らせる。

 

『物怖じる事はありません。どなたの挑戦でもお受けしましょう。我こそは、という方は遠慮なく挙手をなさってください。わたしは皆さんの先輩として、デュエルを通じてこの3年間のアカデミアでの勉強の成果を少しでもお伝えしたいと思っています』

 

 台詞にざわめきが広がる。新入生たちは近くの知り合いと顔を見合わせるが、手を上げる者はいない。まあ、いきなりそう言われて行動に移れる者の方が少ないだろう。私も興味こそあれど、事態を見守る姿勢をとっていた。

 と、ユウヤが肘でこちらをつついてくる。

 

「なんだ」

 

「いけよ、奏」

 

「なぜ?」

 

「彼女、相当の実力者みたいじゃないか。腕試しにはちょうどいいだろ」

 

「お前とのデュエルはどうなる」

 

「そんなの、いつでも出来るさ。いいだろ、減るものじゃないし」

 

「それならお前が行ったらどうだ」

 

「俺は――ほら、お前が戦ってる姿を見たいんだよ」

 

 言って、恥ずかしげに視線をそらす演義まで見せられる。そんな三文芝居に付き合ってやる道理はないので、半目でユウヤを睨みつけた。しかし、思わぬところから増援が現れる。

 

「奏さん、いっちゃいましょうよ」

 

「冴月――」

 

「これもいい経験ですよ。もしも勝っちゃったりしたらヒーロー間違いなしですよっ」

 

 なぜか積極的に私を推す冴月に力づけられたのか、ユウヤまで拳を握って親指を立てる。

 

「行ってこいよ。奏なら勝てるって」

 

『そこの方、いかがでしょうか?』

 

 そんなふうに騒いでいたのが災いした。京子の言葉は、明らかにこちらに向けて放たれたものだった。会場中の視線が集中し、遥が身をこわばらせてユウヤと冴月、シズカまでが私を見る。

 最悪だ。望んでもいないのに、悪目立ちしてしまった。

 視線はそのまま圧力となって、私に突き刺さる。

 断ることはできるだろう。しかし、京子の背後霊と化した男子生徒の目を見て、私は目を伏せる。ここで断るとせっかく盛り上がってきた会場のボルテージが下がる。それは開催側としては望むことではない。たった一瞬の視線の交錯で、なぜかそこまでのことが読み取れてしまう自分が純粋に恨めしい。

 

「奏さん、上手くいけば上級生とお知り合いになれるチャンスですよ」

 

「誰がそんなものを望んだ?」

 

「覚悟決めて行っちゃえよ。怖気づくなんてらしくないぜ」

 

「怖気づいてなど……」

 

「じゃあ、決まりだな」

 

 まんまと乗せられてしまう。死刑執行の書類にサインをされた気分だ。

 

「奏さん、頑張って!」

 

「健闘をお祈りしております」

 

 遥とシズカにまで背中を押されれば、私の小さな体はグリーンマイルを進むしかない。ならばいっそのこと走り抜けて電気椅子など叩き壊してやろう。

 そんな自暴自棄にも似た感情が、ユウヤのともした小さな炎に煽られて私の中で煮立ち始める。立ち上る湯気を表すように、私はデュエルディスクを装着した左手を天に掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ラー・イエロー』3年生、蓼科・京子です」

 

「『ラー・イエロー』1年生、柚葉・奏」

 

 『ラー・イエロー』の生徒ほぼ全員の視線の中心で、二人の少女が向き合っている。どちらも矢鱈と整った容姿をしているために、まるで映画か何かの一シーンのようだ。互いにデュエルディスクを構え、緊張が走る。

 ファインダー越しにその様子を見ていた冴月だが、一回シャッターを切るとレンズから目を離す。これから始まる戦いは自分自身の目で見たくなったのだ。二人の少女の間で交わされる視線だけで、どんな試合が展開されるのかという期待感が嫌が応にも高まってくる。 

 

「先攻はそちらからどうぞ」

 

「では――私のターン!」

 

 奏のドローが、デュエル開始のゴング代わりだ。

 

「私は……『マドルチェ・マジョレーヌ』を召喚。召喚成功時、デッキから『マドルチェ』と名のつくモンスターを手札に加える能力が誘発する」

 

「マドルチェデッキ……相対するのは初めてですね。解決まで、どうぞ」

 

 ソリッドビジョンの粒子が、箒代わりのフォークに腰を乗せたぬいぐるみの魔女を描き出す。ぶっきらぼうで人当たりの良いとは言えない奏のイメージとは違って、使うのは意外と女の子らしい、可愛らしいモンスターのようだ。

 効果発動の合図として、魔女が指を鳴らす。デッキから吐き出されたカードがカードそのままの形でソリッドビジョンに投影される。

 

「手札に加えるのは、『マドルチェ・エンジェリー』。さらにフィールド魔法カード『マドルチェ・シャトー』と永続魔法カード『マドルチェ・チケット』を発動」

 

 二人を囲むように出現するのは、白いクリームと黄色いケーキ、チョコレートに各種果物。そんなパフェの中身をぶちまけたようなお菓子の世界だ。どちらかというと甘いものは苦手な冴月は胸焼けがしそうだった。

 横を見ると、遥は目を輝かせてお菓子の積み重なった城を見つめている。その他の反応も冴月か遥と同じようなものだ。女子生徒たちはどちらかというと遥より、男子生徒たちは冴月よりか。ユウヤとシズカだけは、眼前に現れた光景に驚いている様子がない。もしかすると、奏のデッキを知っているのかもしれない。

 

「『マドルチェ・シャトー』が存在する限り、『マドルチェ』の攻撃力・守備力は500ポイントアップ。そしてモンスター効果でデッキに戻る『マドルチェ』たちは手札へと還る。さらに『マドルチェ・チケット』が存在する限り、『マドルチェ』が手札・デッキへと還るたびにデッキから好きな『マドルチェ』モンスターをサーチ出来る。そして『マドルチェ』たちは相手によって破壊され墓地へ送られたとき、デッキへと還る能力を持つ」

 

「……『マドルチェ・マジョレーヌ』の攻撃力は1900、さらにデッキではなく手札に戻ることにより実質的な無限ブロッカー化。そこに追加の戦力まで引き連れてくることが出来る、といったところですか」

 

 京子の説明で、冴月も奏の展開したカード達の強力さに気付いた。それぞれの能力がかみ合い、爆発的なアドバンテージを生み出す一個の装置と化しているのだ。

 

(可愛らしい見た目に反してエグい能力ですね……ある意味では奏さんらしいのかもしれませんが)

 

 冴月は息をのんで奏の次の動きを待つも、彼女は淡々と一言を告げるだけだった。

 

「私はさらにカードを1枚セット。ターンを終了する」

 

 

 

 

 

(初っ端から飛ばしていくな。あえて『シャトー』まで張っていくのか)

 

 ユウヤの場所からでは、奏の手札は窺えない。だから彼女が何を考えているのかを完全に読むことはできないが、予想を立てることはできる。

 

(次の展開へとつなぐことのできる『チケット』があれば、マドルチェを回収できる『シャトー』は正直な話ただのパンプアップ・カードにすぎない。もしも『マドルチェ・マジョレーヌ』を回収したいんならマジョレーヌの効果で次のマジョレーヌを引っ張ってきているはずだ。500という上昇値では、大抵の上級モンスター相手には太刀打ちできない。そしてセットカードを含めて3枚もの魔法・罠カードを展開するというのは、相手の『大嵐』による被害が拡大する可能性がある)

 

「では、私のターン」

 

 京子の第一ターンが始まる。奏の真意は、おそらくこのターン中に確認できるはずだ。

 

(よって、あの『シャトー』は手癖ではなく何らかの意図を持って出されたカードだという予測がつく。考えられるのは……3つかな)

 

 ズボンのポケットに突っ込んだ手で、指を三本立てて折っていく。

 

(一つは単純に、『シャトー』をまだ握っている可能性。それならば一応でも張っておけばアドバンテージに繋がる可能性がある。この場合、除去を警戒せずに伏せたカードが本命の妨害用罠。二つ目は、むしろ相手に『大嵐』を打たせるためのブラフ。伏せカードを含めた3枚のカードが破壊できる状況なら、相手が『大嵐』を使ってくれる可能性は高い。制限カードの『大嵐』を序盤に打ってもらえれば、その後はほとんど好きなだけ罠を伏せることができる。その場合、伏せカードも大したことはないだろうな)

 

 最後に残った一本を折りながら、京子の方を見た。

 

(最後は、『シャトー』『チケット』の両方を守ることが出来る故の展開。その場合、伏せカードは相手のカードの発動を無効にするカウンター罠)

 

 京子の視線は6枚の手札と奏の場を幾度か往復している。彼女もユウヤと同じようなことを考えているだろう。、

 

(まあ俺は今回観客だからな。気楽に勝手に適当な読みをしてればいい。だが、奏の正面に立ったあの先輩は、奏の行動をどう読むんだろうね)

 

 

 

 

 

 手札を一瞥した京子が動く。

 

「私は手札から、『ワン・フォー・ワン』を発動。手札を1枚捨て、デッキからレベル1モンスターを1体特殊召喚します」

 

 京子のカードを見て、奏を後ろから見守っていた遥は軽く眉を上げた。【レベル1】を使っている彼女にはなじみ深いカードだからだ。

 

「私が特殊召喚するのは、『イービル・ゾーン』。そのまま効果を発動。このカードをリリースし、相手プレイヤーに300ポイントのダメージを与えます!」

 

 地面から生えたのは、現実では見たこともない鉄の実を付けた植物。効果発動の宣言と同時に、棘付きのラグビーボール似た実がはじけ、棘と爆風をまき散らした。

 

「くっ――」

 

(奏さん……!)

 

 いきなりの先制攻撃に、奏が小さく表情をゆがませる。残りのライフポイントは3700。

 さらに、棘の一部が地面に突き刺さったまま残っている――そこから、2体の『イービル・ゾーン』が再び萌立ち始めていた。

 

「破裂した種は、再び芽吹きます。『イービル・ゾーン』は自身の効果でリリースされたとき、デッキから『イービル・ゾーン』を2体まで特殊召喚できます。ただし次なる世代は効果を発動することはできません」

 

 お菓子の世界に現れた、小さな二つの種。そのままクリームに飲み込まれそうな大きさの種だが、そこから遥は言葉にできない嫌な予感を感じていた。

 

「この二つの種は、あなた方新入生のように無限の可能性を持つ種です。――これより、その可能性の一端をお見せしましょう。永続魔法、『超栄養太陽』を発動!」

 

 京子がデュエルディスクに置くのは、コミカルな表情の燃え盛る球体。その光を浴びた『イービル・ゾーン』の種が、ひび割れていく。

 

「『超栄養太陽』は、レベル2以下の植物族をリリースすることによって、デッキからそのレベルに2を足したレベル以下の植物族モンスターを特殊召喚できます。それらがフィールドを離れたときに破壊されますけどね。私は2体のイービル・ゾーンをリリースし、レベル3のモンスター2体を特殊召喚。『ダンディライオン』、『緑樹の霊王』!」

 

 種がはじけ、拡散したソリッドビジョンの粒子が新たな形へと作り変わっていく。ライオンとひまわりを合わせたような『ダンディライオン』は攻撃力300、森の奥にそびえる大樹の貫録を持つ『緑樹の霊王』も攻撃力は500しかない。

 『イービル・ゾーン』よりはマシだが、低レベルモンスターとしても基準値以下の戦闘力だ。

 だが、遥の脇でユウヤが呟いた。

 

「……こいつは不味いな」

 

 遥とシズカ、それに冴月が同時にユウヤを見る。

 

「わたくしには――まだそこまで追い詰められているようにも見えませんけれど」

 

「あの『超栄養太陽』っていうカードはレベル2以下のモンスターにしか使えないはずですし……」

 

「そもそも、あんな弱小モンスターでなにが出来るって言うんです?」

 

「お、おまえら、落ちつけって。見てりゃ分かるからさ」

 

 三人の疑問の視線に取り囲まれたユウヤは、上半身を軽くそらせて両手をホールドアップしながら視線で奏たちの方を示した。京子が小さく笑みを見せる。

 

「仲のよろしいようで」

 

「……知らん」

 

 愛想のかけらもなく憮然とする奏に、遥たちの方が肩をすくめる。だが京子はそんな奏の態度すらも愛でるように笑みを深くした。

 

「そう、アカデミアでは一人で何かを成すことはできません。たくさんの友人との切磋琢磨により己を磨きあげることが、この学園の存在意義。わたしの植物たちも、力を合わせることで更なる力を発揮しますよ」

 

 何かを感じたのか、奏が警戒するようにデュエルディスクを構える。同時、京子のデュエルディスクの側面、エクストラデッキから一枚のカードが引き出される。

 

「私は『ダンディライオン』と『緑樹の霊王』でオーバレイネットワークを構築!」

 

「エクシーズ召喚か!」

 

 奏の叫び声が、2体のモンスターと共に二人の間にできた空間に飲み込まれていく。あふれ出す光に顔を照らしつつ、京子が持ったカードを優雅な手つきで2枚のカードの上に置く。

 

「世界樹より生まれし木々の精霊よ、その身を糧に次代への礎とせよ。エクシーズ召喚、ランク3、『メリアスの木霊』!」

 

 空間から延びるのは、瑞々しい緑色の葉を無数に宿す巨大な木。その根元から、小さな精霊が顔を出す。せいぜい京子の腰辺りまでしかない、落葉樹の髪を持つ少女のカタチだ。

 

「オーバーレイユニットを一つ取り除き、『メリアスの木霊』の効果を発動。1ターンに一度、私の墓地から植物族1体をフィールドへ戻すことが出来ます」

 

「させるか! 罠カード、『魔導人形の夜』を発動! モンスター効果の発動を無効とする!」

 

 『メリアスの木霊』の前で光の玉がはじけるが、それらは結果を見せることなく宙に溶ける。しかし、京子の笑みは崩れない。

 

「しかし、種はすでに巻かれているのですよ。オーバーレイユニットとして取り除いた『ダンディライオン』の効果を発動! 攻守0、レベル1の『綿毛トークン』を2体生成!」

 

 種のはじける音がして、フィールドに頼りなさげに浮かび上がるのは『ダンディライオン』の綿毛。

 

「モンスターが、増えた……」

 

「でも、所詮は弱小モンスター……いまだに奏さんの『マドルチェ・マジョレーヌ』を抜くことのできるモンスターは存在しません」

 

 遥の呟きに冴月が被せる。

 

「いいえ、これであの方は更なるモンスターを特殊召喚できることになります。そう、まるで植物が芽吹くように」

 

「こりゃ本格的に手がつけられなくなってきたな」

 

 シズカとユウヤが揃って眉をひそめる。遥が窺った奏の横顔も、同じ表情を見せている。

 

「『超栄養太陽』の効果を発動。綿毛トークン2体をリリースし、デッキから『ローンファイア・ブロッサム』2体を特殊召喚!」

 

「やはり、入っているのか」

 

「ご存知なら話は早い。『ローンファイア・ブロッサム』の効果発動。植物族モンスター1体をリリースすることにより、デッキ・手札より植物族モンスターを特殊召喚出来ます。コストはローンファイア・ブロッサム自身。――超栄養太陽は自壊」

 

 『ローンファイア・ブロッサム』の花火玉のような実がはじける。鋭い閃光が走り、爆音と煙を噴き上げた。思わず皆が腕で顔を庇い、それらが収まった時、フィールドには巨大なモンスターが降臨している。

 

「『ギガプラント』……!」

 

 怪獣にも似た巨体を見上げた奏が呻く。表情からはそこまでの焦燥を感じられないが、遥は彼女の左手が強く握りしめられているのに気付いた。

 

「レベル6、攻撃力2400。これで『マドルチェ・マジョレーヌ』を打ち果たす攻撃力を得ましたが、『ギガプラント』は拘束された効果モンスター。これよりその拘束を外すとしましょう。『ギガプラント』、再度召喚」

 

 言葉と共に、『ギガプラント』が巨体をうならせて咆哮した。無数の鎌にも見える触手をたゆらせ、全身から瘴気が噴き出す。

 

「『ギガプラント』はデュアル・モンスター。普段は通常モンスターですが、私が召喚権を使用することで拘束を解かれ、秘められた効果を発動することが出来ます。さあ、世界に新たな息吹をもたらせ、ユーレカの波動!」

 

 瘴気がフィールドを包んでいく。皆が息を殺して見つめる中、ゆっくりと小さなつぼみの影が膨らんでいく。大輪の花が咲くように、つぼみの中から人の形が芽吹く。

 

「植物を統べる妖精女王。誇りと愛情の化身にして至上の美を体現せし私の切り札。世界を包みこめ、『椿姫ティタニアル』!」

 

 京子の口上は、揶揄でも誇張でもない。ひっそりとその場にいるだけだというのに、『ギガプラント』ですら霞むほどの圧力。このフィールドの中心にいるのが誰かを確信させるだけの存在感。

 未だに『マドルチェ・シャトー』が展開しているの言うのに、その場にいる誰もが焼き菓子の香りを忘れていた。誰が思うだろうか。たった1体の小さなモンスターから芽吹いた種が、上級・最上級モンスターを含む4体のモンスターへと姿を変えたなどと。

 

「この『ティタニアル』は私であり、未来の皆さんの姿。今は小さな種であっても、いずれ大輪の花となることを信じています」

 

 『椿姫ティタニアル』攻撃力2800。『ギガプラント』攻撃力2400。『メリアスの木霊』攻撃力1700。『ローンファイア・ブロッサム』攻撃力500。

 1体の『ローンファイア・ブロッサム』は更なる植物への成長を控えているというのに、既に奏のライフポイント4000と『マジョレーヌ』の攻撃力1900を合わせた数値を超えている。

 誰が見ても、奏の敗北は決定的だった。

 それを一番よくわかっている奏自身が、大きく息を吐いた。

 

「これが、デュエルアカデミアの最上級生、か。正直な話――自惚れていたようだな」

 

「私程度、と卑下するつもりはありません。しかし、今は私の方が大きな花であるだけです。貴方の種はアカデミアという花壇の中で、どのような花を咲かせるのか……それ次第では、私など足元にも及ばない大樹へとなることもあるでしょう」

 

「……今の私が未熟だと教えて頂いた。ご教授、感謝する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に人に頭を下げたのは、いつだったか。もしかすると、生まれて初めてかもしれない。

 だが、私はその時、自然に首を垂れていたのだ。それは後悔や屈辱ではなく、相手への尊敬の念だ。

 それを見て、京子も一礼を返す。一瞬遅れ、その場にいた全員の拍手が溢れだす。握手を交わし、京子は壇上へと、私はユウヤ達の待つ方へ振り返る。

 

「奏……」

 

「早々に慢心を叩きのめされただけだ。まったく、大した学校だな」

 

 心配げに私の顔を覗き込むユウヤに、唇を曲げて見せる余裕は残っている。デュエルを分析する余力もだ。

 

「『魔導人形の夜』は、始めの『イービル・ゾーン』に使うべきだった。相手のアーキタイプが分からない以上仕方のないことではあるが」

 

「……『シャトー』を出したのは、大嵐を釣りだすためか?」

 

「手札でダブついていたから出しておいたまでだ。墓地にあった方が、色々と便利なこともあるしな」

 

 ユウヤのいくつかの問いに答えていく。モンスターの召喚、伏せカード、相手の出方。私と同じものを見ていることもあれば、違うものを見ていることもある。

 

『第一試合は、蓼科・京子さんの勝利と相成りました。しかしこれで終わりではありません。次なる挑戦者はいませんか?』

 

 壇上から男子生徒の声。どうやら、一戦で終わるわけではないようだ。

 あれだけの展開力を見せつけられれば尻ごみするものだとも思うが、むしろ戦意を掻きたてられたのか、今度は数人の手が控え目に上がる。

 

「お前は行かないのか、ユウヤ。人を炊きつけておいて」

 

「仇打ちをしてほしいってか?」

 

「そこまで世話を掛けてたまるか」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてさっそく次なるデュエルに挑んでいく京子を見る。

 シズカの護衛という任務をこなせばいいのだが、どうせ3年間の専門校での生活だ。得られる経験値は得ておいて損はない。

 隣でユウヤがデッキを軽く切り交ぜている。なんだかんだと言いながらも、しっかりとやる気のようだ。

 ならばちょうどいい。せいぜい観客に徹して、気楽にデュエルの分析が出来るというものだ。




最後の投稿から、だいぶ時間が空きました。
あれ以降、書きたいものがまったく書けないブランクに陥り、別所で色々と書いてみたり他の連載を進めたりしておりました。
正直まだブランクが抜けない上に、ストーリーとしてもあまり面白くないものとなっています。このあたりが黒歴史になるような展開にしていきたいものです。
思ったのは、意外と主人公が動かしにくいということ。
「大人びた落ちつきのあるデュエル脳」を目指そうとしたのですが、目標の設定が曖昧なために流されるまま、ということになりがちです。さいしょからある程度成長した主人公は書きにくい、というのを実感しました。
ともあれ、そんなことは置いておいて。
今回のデュエル内容ですが、植物族の展開力+LP4000=相手は死ぬ、ということが分かりました。ちなみに奏の手札は『シャトー・ミィルフィーヤ・エンジェリー』なので、こちらもターンが帰れば相手が死にます。世紀末デュエル状態。ドレッジかベルチャーに近いものを感じますね。カードゲーム違いますけど。
デッキ選択が悪いのか、5ターン回ったことがないという現状はどうにかしたいところ。
やりたい小ネタは多々あれど、根幹のストーリーラインの細かいところを詰めていかなければならないので次の投稿もまた遅れるかもしれません、ご勘弁を。
まぁ、その。
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