ビルドリビルド 仮面ライダービルド at once A and B   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第1話 ベストマッチにはまだ早い
01 霹靂のビューチューバー


『ビルド・チャンネル! いえーい!』

 どこか軽薄なタイトルコールと共に、画面の二色のロゴが渦を巻いて消えると、そこには緑深いどこかの山中の光景が映し出された。

 ただ、空は澄み渡る青さなのに、辺りは煙に巻かれているかのように靄がかかって薄暗い。

『フッフー! やあみんな!実験してる? 仮面ライダービルドでぇーす!』

 そこに画面の上方から着地してきた人影が、斜めに構えてフレミングの右手のサインを振りながら前口上を述べ始めた。

 それは、赤・青・黒の斜線で構成された装甲服を纏った人間に見えた。

 頭部は顎まですっぽりと覆う球状のヘルメットに包まれており、目にあたる位置には左右非対称の奇妙な形状のクリアパネルが張り付いていて、外からでは中の素顔は見通せない。

『今日の舞台はこの辺! 場所は言えないけど見覚えのある人ならだいたい分かるかな? 通報してくれた視聴者さん情報ありがとー!』

 だが、そんな無機質な異様に反して口調と身振りはどこまでも軽薄で非常に人間臭く、底抜けな明るさと愛嬌に満ち溢れている。

『通報にあったスマッシュの居場所はだいたい絞り込んでいるよ! あとはもう追い込むだけだからね!』

 振り返った背後の彼方を指して、仮面ライダービルドが宣う。

 その遠景には、山並みの向こうを遮る、左右の果てから果てまで連なる壁のようなものが見えた。

『それでは今回も、ビルドのバイナリー・コンプレックスの真骨頂をお目にかけよう! 』

 言って広げた両手を振ったビルドは、振り返るなり猛然とした勢いで駆け出した 。

 画面もすぐに追従するが、同期したビルドの周囲を流れる景色が凄まじい勢いで後方に流れてゆく。両足で駆けているにも関わらずバイクに勝るとも劣らないスピードだった。

 そしてその速度のまま倒木を、大岩を、地面の亀裂を迅速に柔軟に飛び越えてゆくのだ。

 まるで野ウサギのごとき俊敏性にして、戦車の無限軌道のごとき走破性。

 それは、あれほどの装甲服を着込んでいる人間とは思えない動きだった。

 やがて小高い丘から跳躍すると、下方へ向けてオーバースイングで拳を振るった。

 まるで何も無いところを殴りつけたようにしか見えないが、あろう事か拳の軌跡から黒い靄が出現し、寄り集まると砲弾の勢いで射出されたのだ。

 未だ宙にあるビルドが続いて右脚、左脚で回し蹴りを放つと、同様に蹴りの軌跡から黒の霞が現れ、砲弾と化して撃ち出された。

 それら黒の砲弾は、地上にある廃墟に殺到し凄まじい音を立てて爆砕した。

 爆煙たゆたう地上の拓けた場所に、難なく着地するビルド。

 そこは、かつて町だった場所。建物は寂れ、軒並み崩れ落ち、生活の気配が一切無いゴーストタウン。

 やがて、爆砕した瓦礫の中からのろのろと何かが這い出てきた。

『情報照会。ビンゴ! 通報にあった個体だね!』

 ぱちんとフィンガースナップを打って指差したそいつは、人でも動物でもないおぞましい異形だった。

 鈍く輝く金属色。まるで工場の機械を圧縮して歪な熊かゴリラの形に練り上げたかのような体躯。それなのにまるで筋肉のように有機的に膨張、収縮する腕脚を動かして、そいつは立ち上がった。

『罪の無い市井の皆さまの生活を脅かす野良スマッシュは、今ここでこのビルドが討伐する! さて、御視聴の皆さんもご一緒に!』

 そこまで言ったビルドは画面に顔を向けて指を差し。

『──さあ。実験を始めようか!』

 フレミングの右手を横に振り、高らかに宣言した。

 

 

 赤・青・黒の装甲服と金属色の異形のぶつかり合いを映す携帯端末を、獰猛な目付きで見つめる男がいた。

 一部を編み込んだ頭髪に、ストリートファッションのラフな着崩し方など、まるでチンピラめいた男だった。

 人知を超えた異形同士のバトルは程なく決着し、断末魔の爆炎を背に額のアンテナをなぞり上げた右手をパッと開いたビルドと名乗る装甲服姿が勝ち鬨をあげた。

『イエーイまずは一体! 引き続き、この周辺で野良スマッシュをやっつけるから、みんな安心してね! 他、スマッシュの目撃情報は引き続き東都政府にも連絡を!あっちの方がプロだからね。 それじゃあまた! ビルドチャンネルでした! 応援コメントが力になるのでよろしくね!』

 番組終わったところで男は携帯端末を床に放り捨てて立ち上がった。

「俺らのシマで派手にやってくれんじゃねえかよ……」

 犬歯を剥き、獰猛に呻いて拳を掌に打ち付ける。

「ボス。コイツやっちまうんですかい?」

 危うく携帯端末をすくい上げた後ろの男の問いに、ボスと呼ばれた男が振り返って吼えた。

「ったりめーだろうが! こんなもんネットに流しやがって、あんなのが好き勝手してんのを他所のチームに見られたら、ウチらが舐められんだぞ!」

 ボスはそこにあった一斗缶を蹴りつけて仲間を振り返った。

 十数の眼光を睨め回して続ける。

「お前ら! そいつを探し出して居場所を掴め! 見つけたら俺が戻るまで目ェ離すな! 後を付いて張り続けろ! いいな!」

 おう!と男たちの声が唱和した。

「……って、ボスどっか行くんスか?」

 小首を傾げた男の額を、ボスのデコピンが打った。

 打たれた男は尋常ではない勢いで縦回転しながら派手に吹き飛んでいった。

 仲間数人を巻き込んで、机やロッカーもろともなぎ倒してようやく止まるほどの威力。

 それは人知を超えた暴力だった。巻き込まれた男たちが怯えた顔で目を白黒させている。

「馬鹿野郎。今日の仕事があんだろがよ。尊い尊い労働がよ」

 そんな部下たちを見下ろし、口の端を上げてボスは頑丈そうなアタッシュケースを掲げて見せた。

「いいか! このシマは誰にも渡さねえ。ここのスカイロードは、俺たち『クローズ』のモンだ!」

 

 それから程なく、ボスの姿は山深くの森の中にあった。

 辺りは日射を枝葉に遮られていることを差し引いても薄暗い。黒の霞が淀んでいるよう。

 それでもボスは意に介さず、荒れた地面を軽々と踏破してゆく。

 岩を乗り越え木々の間を抜けると、巨大な壁が見えてきた。

 高さはおよそ日本一と謳われた公共電波塔に匹敵すると言われる。

 幅に至っては果てが見えない。

 何しろ日本を海まで三つに割っていると言うのだ。

  ──「スカイウォール 」。

 十年前、初の有人火星探査で発見された謎の物体のお披露目会で、その物体が原因で生えてきたシロモノらしい。

 その壁は、陸路を物理的に遮り、上空をも謎の力場で遮り、海洋の遥か遠くまでを遮って、日本を完全に三つに分断してしまった。

 かつては電波すら遮断していたらしいが、今では政府によって新たなインフラを構築され、限定的ながら通信網が敷かれている。

 そしてもう一つ、直接壁を通り抜ける術があった。

「……」

 ボスが立ち止まったのは、巨大な壁に穿たれた大きな亀裂の前。

 この亀裂の穴は、壁の向こう側まで通じている。

 スカイウォールに空いた道、ということで「スカイロード」と通称されているものだ。

 こうした亀裂はここだけではなく、どこかに数カ所あるらしい。

 当然、政府が発見・確保した直轄の通路もあるし、探せば誰でも壁の向こうと行き来できるかもしれないが、おいそれとそうする訳にはいかない事情がある。

 その理由は、辺りに立ちこめている黒の霞にある。

 それは壁の根元、地面の隙間からだくだくと湧き出ているガス。

 研究機関によって「ネビュラガス」と名付けられたそれが、壁の根元から常時吹き出して辺りに蔓延しており、壁全域から十キロメートルの範囲を進入禁止区域に指定させてしまったのだ。

 もちろん人体に有害な為だ。防護策も対処も無しに常人が立ち入れば、いずれ死に至ると言われている。

 だと言うのにボスは意に介さず、普通に呼吸して歩を進め、壁の亀裂「スカイロード」へと入っていった。

 

 壁を抜けた先は、まるで冬の墓場のような世界だった。

 季節は晩夏のはずなのだが、ここは酷く寒い。

 陽光を壁で遮断された深刻な日陰である事を差し引いても、異常な冷え込みだ。

 壁一枚、たかだか五百メートル隔てただけなのに、なぜか空の色も薄暗い。

 町へ降りる斜面は乾いた土を晒し、草も無く、枯れ木の群れが墓標のように乱立している。

 もっとも、ボスにとってはどうでもいい事だ。

 三つに分断されたうちの東北方面、すなわち北都地区は壁を境に極寒の地に成り果てたそうだが、壁際で暮らすボスにとっては散歩がてらに行ける避暑地程度の認識しかない。

 とは言え長時間居座っていれば強烈に冷え込む。だからボスは持ってきたスタジャンを羽織った。

 背中に派手な龍の刺繍が踊る。

 枯れ木の墓標の合間を抜けて山を降り、歩くこと小一時間。

 やがてたどり着いたゴーストタウンの取引場所である廃ビルに入ると、中に作業着姿の男がひとり立っていた。

「猿渡 一海さんか?」

「ああ」

 ボスの問いかけに、作業着の男がぶっきらぼうに応じた。

 およそ三十歳前後に見えるそいつは、どこか獰猛な匂いを湛えた、まっとうでない雰囲気を纏っていた。

 もっとも、そもそも『クローズ』のような闇ブローカーに絡む者がまっとうな訳がない。

「……あんたは?」

「注文のブツはこれだ。カネは持ってきたか?」

 相手の質問をはぐらかし、アタッシュケースを掲げて見せる。

「ああ。これだ」

 作業着の男・猿渡もこだわらず、懐から厚い封筒を出して見せた。

 ボスは頓着せずにすたすたと歩み寄り、アタッシュケースを突き出すと、差し出された封筒を受け取ると同時にケースから手を離した。

「おお……!」

 喜色を浮かべた猿渡が、そそくさと屈み込んでアタッシュケースの留め金を解きに掛かった。

  『クローズ』は、一般人では往来の容易でない壁を利用して、物資の遣り取りを仲介している。町の運び屋が持ってきたものを壁の向こうに運んでいるだけなので、ボスもアタッシュケースの中身は知らない。

 政府直轄のスカイロードを通せない以上、まっとうでないモノなのは確かだろうが、ボスには興味が無かった。

 だから、猿渡がアタッシュケースの中身を漁っている間、目もくれずに受け取った封筒の中身を数えていたのだが。

「カーシラー! おーい、カーシラー!」

「げ⁉︎ 」

 秘密のはずの取引場所に、第三者の声が聞こえてボスは猿渡と同時に顔を上げた。

 変な声を上げたのは猿渡だ。

「おい、アンタ! 一人で来いっつったろ!」

 慌てて問い質すが、猿渡も泡を食った様子でケースの中身を掻き集めている。

「いや、違ぇ! 悪い、カネは足りてるよな? じゃ、あばよ!」

 ケースと中身を大事そうに抱え込んだ猿渡が立ち上がり、忙しなく左右を見回す。

 その際、よほど慌てていたのかケースを取り落とし、中身をばら撒いてしまった。

「ああああ⁉︎」

 猿渡は慌てて屈み込み、床に散らばったそれらを必死に搔き集める。

「……?」

 その床に落ちたものを見るともなしに見てしまったボスは喫驚の呻きを漏らした。

「……な」

 それは、華やかな衣装を纏った若い女性の写真、あるいは写真を使用したメモだかカレンダーだか日用品などの、いわゆる「アイドルグッズ」の数々だった。

「カーシラー! まーた生活費持ち出したでしょー! この辺にいるんでしょ! カーシラー!」

「やべえ! じ、じゃ、世話ンなったな!」

 遠くの声が迫る中、ようやく荷物を回収した猿渡があたふたとビルから駆け出していった。

「あー! あそこだ!」

 遠くの声も猿渡を追って遠ざかってゆく。

「……マジかよ……アイドルグッズに闇ルート使うか普通……? オタク怖ぇな……」

 その間ボスはその事実に愕然とし戦慄していた。

 

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