ビルドリビルド 仮面ライダービルド at once A and B   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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04 運命のエンカウンター

『どぉーだい同志! 泣かせるハナシじゃねえか!』

『うるさい』

『さぁーて同志! 作戦開始だ! 活きのいいスマッシュが作れるかも知れねえぜ!』

『待て、作戦とは何のことだ? いきなり連れてきて説明も何もなかっただろう』

『細かいことはイイんんだよぉ! 下準備はオレがバッチリ済ましてあるから、指揮官どのはドーンと構えて見てやがれ!』

 

 

 居住可能区域の商店街を目指して歩いていた龍我のスマートフォンが着信音を奏でた。

 ポケットから引き抜いたスマートフォンの表示された発信者を一瞥して、指先を滑らせ耳にあてる。

「──おう、どうした」

 ところが、受話スピーカーからは龍我の返事も待たずに悲鳴と絶叫が飛び出して耳朶を打った。

「っ、おい! どうした! なにがあった!」

『……ぼ、ボス、たす、たすけッッ 』

 声が途切れ、ゴトンという衝撃音があってからは、くぐもった騒音が聞こえてくるのみとなった。

「おい⁉︎ ……おい!」

 ただ事ではない様子に必死に端末に怒鳴りつけるが、それきり応答はない。

 スピーカーからは、ドタバタという騒音と、断続的な遠い花火のような爆音、そして悲鳴しか聞こえない。

「……ヤロウ……!」

 詳細は知れないが、近隣の敵勢力に襲われているに違いない。

 あの赤と青のヒーロー気取りのネット番組が流れてすぐこれだ。

 ……それにしても、早過ぎるのではないか?

 だが、考えている暇はない。

 龍我は道端に停められていたバイクに取り付くと、キー周辺を殴り壊して中身を弄り、瞬く間にエンジンを起動させ飛び乗ると急加速をかけた。

 

 前回放送の山中の地点からは少し離れた場所に、仮面ライダービルドの姿があった。

『さあーて、と。ここからこの角度で……イイね!』

 両手の人差し指と親指で組んだフレームでロケーションを確認したビルドが、どこからともなく手のひらサイズの機械を取り出した。

 続いて片手を翻すと、そこにブルーの小瓶が現れた。

 その小瓶の表面には一眼レフのカメラにも見える刻印が刻まれていた。

 ビルドはそれをひと振りしてキャップをひねると、先の機械の中心の穴に装填した。

 その途端、その機械はビルドの手から勝手に飛び出し、細かく変形すると飛竜の姿になって、小さな翼で羽ばたき滞空した。

『オッケー。カメラの成分もドラゴンの反応も、感度良好!』

 ビルドが、その機械の飛竜に向かって片手を振り側頭部に手を遣りながらひとりごちた。

 やがて調整が済むと、ビルドは辺りを見回して撮影範囲に異物が無いのを確認し、飛竜に向き直って指を三本立てた片手をかざした。

『ハイ、撮影開始三秒前ー、にー、いち……』

 一本ずつ折り曲げた指を、すべて曲げ切る寸前に訝しげに首を傾げたビルドが、五指を広げて振り向いた。

 それは撮影中止の合図。

『いま、何か音が……』

 聴覚センサーに異音を感知したビルドは、その発信源を特定すべくビルドの感知機能をフル稼働させていた。

 それは並みのDテクターのセンサーよりも遥かに強力なセンサーだった。

 兎のように鋭敏で、戦車のように高精度な今のビルドのセンサーは、音を始めとしたありとあらゆる波長を捉え、情報を統合し、三次元的に再構成して内部の装着者の脳裏に開示する。

 それら情報によれば、異音の中には銃声と人の悲鳴が含まれていた。

 距離はおよそ二千数メートル。町の方角だった。

『おいおいおい。こっち方面にDテクターの出動なんてなかったでしょ』

 呻いたビルドは奇妙な形のスマートフォンを取り出すと、手早く操作して情報を表示させた。

『うん。やっぱ無いよなあ。スマッシュの緊急通報も無し。何よ何事よ』

 言いながらスマートフォンをしまい込み駆け出した。

 機械の飛竜もその後を追従して飛翔する。

 やがてたどり着いたのは、居住可能区域に比較的近いゴーストタウンのとある一画だった。

 わざわざ進入禁止区域に住み着きたがる輩がいることは知っている。

 それが、好ましからざる人種であることも。

 だが、おかしい。

『……なんでこんなガス濃度のところに人がいるんだ?』

 戦車由来の環境センサーによる大気成分の数値を読み取ったビルドが、訝しげに首を傾げた。

 それによれば、ここ一帯のネビュラガスの濃度は、人体に対する危険水準から圧倒的に低いとは言え、ゼロでは無かった。

 居住可能区域からの最短距離を鑑みても、往復する時間で具合を悪くする人が出るであろうレベルだった。

 例えどんな角度でドロップアウトしても住み着ける場所でない。

 なんにせよ、正義の味方としては見過ごせない事態ではある。

『やれやれ。どこのバカとバカだよ一体……』

 ぼやくと、ビルドは片手を振って機械の飛竜に指令を出した。

 指令を受諾した機械の飛竜が指示した方角へ飛んでゆくのを見送ったビルドは、目的の方向へ走り出した。

 

 アジトのビルにたどり着いた龍我は、スタンドも立てずにバイクを蹴倒して玄関に駆け込んだ。

 そこは酷く荒れていた。

 元々廃墟だと言うことを差し引いても、最後の見覚えからゴミや瓦礫の配置が大きく変わっていた。

 何より、いつもなら何人かたむろしている仲間の気配が無い。

 遠くから、くぐもった打ち上げ花火のような音が響いてきた。

 なんらかの銃器に違いない。

「クソったれ!」

 銃まで持ち出すようなヤクザとも関わりが無いではなかったが、近隣の連中とてそう手安く入手できるものではない。

 ──そうなると、ますます相手が分からない。シマを奪うにしては、あまりにも過剰な手段だからだ。

 屋内を駆け抜け裏口から飛び出した龍我の前に、黒い人影がふたつ、立ち塞がった。

「なっ⁉︎ 」

 それは、荒くれた生活で喧嘩慣れした龍我をして一瞬の困惑を催す相手だった。

 そいつらが構えていた黒の円筒がくぐもった爆音を立てた途端、肩に、胸に衝撃を受けた龍我の身体が派手に後方へ吹き飛んだ。

 たった今出てきたアジトの裏口に転がり込み、朽ちた木材を背中で砕きながら、もろとも巻き込んで壁に激突した。

「……ってえ……」

 だが、生きてる。

 銃弾の直撃を受けたと言うのに、だ。

 逆さまの状態から、もたもたと足をついて起き上がる。

 見れば、服には穴も開いてなければ出血も無い。

「ゴムスタン弾か⁉︎ 」

 暴徒鎮圧用の武器だ。

 ──だったら、仲間は生きている……!

「っしゃあ!」

 立ち上がった龍我は気勢を上げると、再び裏口から飛び出した。

 今度は遅れは取らない。龍我は両の拳を目の高さに上げたファイトスタイルで敵の攻撃に備える。

 ようやく相手の姿を視認した。

 それはフルフェイスのヘルメットを被った人間に見えた。

 何が判断を曖昧にしたかと言えば、バイザーにあたる部分、顔面が、ヒトの面貌を無視した構造のパネルに覆われている事と、垣間見える関節部分が、全て機械だった事だった。

「ロボットかよ!」

 龍我が吼えたと同時、そのロボットが構えた銃口が火花を放った。

 その銃弾は、龍我の前腕に弾かれて明後日の方角に消えた。

「へっ。もうその手は食わねえよ!」

 犬歯を剥いた龍我の腕が、黒い靄に覆われていた。

 ──それは龍我の人生と共にあったものだった。

「おらあああ!」

 一方のロボットへ飛びかかった龍我の右腕に、黒い靄が密集し、さながら雷雲のように電光を散らせた。

 その謎のオーラを纏った拳を叩きつけた途端、ロボットは粉々に砕け散って吹き飛んだ。

「次ィ! ぼさっとしてんじゃねえノロマッ!」

 もう一方のロボットが放つ銃撃を、半身に纏った黒の靄で跳ね返すと、そのまま体当たりして打ち砕いた。

 ロボットの手足が、首が辺りに散らばる。

 龍我は残骸には目もくれずに、遠くの銃撃音のする方角へ駆け出した。

 

 目的地を見渡せるビルの屋上で。

 編み込みのチンピラが素手でガーディアンを破壊する光景を目撃したナイトローグが、愕然としていた。

 その隣で、ブラッドスタークが腹を抱えて笑い転げている。

『……おい、ブラッドスターク。あれは人間か?』

『多分な! くっはっはっは!』

 辛うじて答えたブラッドスタークだが、再び声にならないほど笑い転げて両足をバタバタさせていた。

 その笑いのツボは良く分からないが、確かにあのチンピラは興味深い存在だった。

『なるほど。あれはいい検体だ。そして、ガーディアンが通じないなら、俺たちが直接捕らえねばならんと言うことか』

 言って立ち上がったナイトローグの眼前に、横から刃が差し込まれて足を止めた。

『……何のつもりだ?』

『まあ慌てんなよ同志』

 パイプが複雑に絡み合ったかのような銃剣を突き出してブラッドスタークが続ける。

『当座の検体は、これまで捕らえた連中で充分だろう。だけどアレだけは別格だ。見れば分かるだろ?』

『だからどうした』

 銃剣の切っ先を指先で押しのける。

 ブラッドスタークも、たいして拘らずに武器を引っ込めた。

『アレを捕らえるために俺を連れてきたんじゃないのか?』

『捕まえるだけだったら、わざわざお前を呼ばずにオレが直接捕まえて連れてくよ。今日はな、アレをお前に見せてやりたかっただけだ』

 ナイトローグの怪訝な問いに、ブラッドスタークは相変わらずの態度で答えながらも、その気配が段々と剣呑さを帯びてくる。

『お前、何を考えている……?』

『いやいや、オレも真剣に話してんだよ。アレはな、オレが責任を持って観察するんだ。ちゃんとした手順があるんだよ。金の卵を産む鶏をシメてどうする、ってハナシだよ。 なあ、これだけは任せてくれよ、同志よ』

 銃剣を肩に担ぎ、拝むように片手を立てて言うブラッドスタークに、ナイトローグはしばし黙考していた。

──なにしろ装備は同格だ。この二人が激突したら、どちらもただでは済まない──

『……わかった。お前に任せる』

 たちまち気配を収束させたブラッドスタークが、上機嫌で口笛のような音を立てた。

『ありがとうよ同志! いやあ、話の分かる上司だと仕事が楽しくて捗るぜ!』

(良く言う……!)

 気安く肩を叩かれるまま、ナイトローグは背筋の冷たさを押し殺していた。

 

 もろガーディアンのパクリみたいなロボットが放つ銃撃を、棒立ちで胸郭で跳ね返しながらビルドは困惑していた。

『うん、まあ、ウツミンの作ったガーディアンだよねコレ』

 銃撃を避けないのは、それが暴徒鎮圧用のゴムスタン弾だと分かっていたからだ。

 これではDテクターにすら傷ひとつ付けられない。

 そして困惑の理由は。

 それが東都政府直轄防衛装置・ガーディアンに酷似していて、それが生身の人間を攫っているからだった。

 遠くの森を、足を生やしたバスみたいな形状の巨大な多脚機械が遠ざかってゆく。

 偽ガーディアン複数体が合体して形成する形態のひとつだ。

 東都ガーディアンのDテクター隊員輸送形態とそっくりだった。

『……どういう事だ? 不法居住者の捕縛って、ガーディアンの仕事だったっけ? そんな訳ないよなあ』

 誰かに尋ねようにも、今のビルドもお忍びの身の上である。通報するわけにもいかない。

『いいや。壊しちゃおう! パチモノが出回るのはウツミンも嫌だろうし!』

 あっけらかんと決心すると、ビルドは未だに無駄な射撃を繰り返す偽ガーディアンの一体に無造作に近寄ると、ぶん殴って粉砕した。

 そしてもう一体にも、胸郭で弾ける銃撃を無視しながらすたすたと歩み寄り、上から拳を振り下ろして叩き潰した。

 そうしてここにいる全ての偽ガーディアンを破壊してしまった。

『さて。じゃああとはあの囚われた人たちを』

 未だ見える距離を歩いている多脚機械を振り向いたその時。

 圧倒的なプレッシャーがビルドに襲いかかった。

 

「おらああああ!」

 銃撃音を頼りにたどり着いたそこにいた、いかにも怪しげな赤と青の斜線の装甲服めがけて龍我は全力で殴りかかった。

 全力だ。生まれついてから身についていた、このネビュラガスとやらを操る力で増幅した腕力を全開で叩きつけた。

 だが、さっきのロボットとは違い、赤青のそいつは派手に吹き飛んだものの、バラバラにはならず、へこみもしなかった。

「テメエが親玉だな! 仲間をどこへやったコラあああ!」

 頑丈な奴は、すなわち親玉である。と龍我は判断した。

 立ち上がった赤青のそいつに向かって、右と左の拳の連撃を繰り返す。

 ところが、今度は吹き飛ばず、赤青のそいつは龍我の猛攻を両腕で捌き、いなして対応している。

 それは、龍我の頭に血を登らせた。

「スカしてんじゃねえぞコラああ!」

『違ぇえよバカ! あっち見ろあっち!』

 その時、赤青のそいつが初めて声を発した。

 左の彼方を指差して。

「ひっかかるかボケェええ!」

 この期に及んで幼いガキのイタズラを繰り出す赤青のそいつに、さらに怒りをたぎらせた龍我の両の拳に、これまでで最大級のネビュラガスが集束する。

 力を溜めるのに一瞬の隙ができるのが欠点だが、この距離、タイミングなら外しはしない。

 赤青のそいつが何やらベルトのバックルを弄っているが、なにをしようと無駄だ。

「死ねえええ!」

 龍我の目の前で甚大な爆発が巻き起こった。

 

「死ねえええ!」

(ええー⁉︎ こいつ、仲間の居場所を知ってそうなヤツを殺しちゃうの⁉︎ バカなの⁉︎ )

 いきなり現れた謎の男のバカっぷりに戦慄しながらも、相手の危険なエネルギー反応に対抗するための策を実行する。

 ベルトの右端に生えたハンドルを数回転させてバックルの機構を作動させ、エネルギーを望む形に導いてゆく。

 それは戦車由来の爆発反応装甲。

 ビルドは形成したエネルギーを前面に放出し、謎の男と同時に両腕を突き出した。

(仰角三十度っ! )

 なんとなく胸中で叫ぶと同時に、巻き起こる甚大な爆発が両者の間で放射状に広がった。

 その衝撃は足元の地面を横一直線に抉り、そこの大木を両断し、大気を震わせ大勢の野鳥が飛び立った。

「……今のを食らって立ってるなんざ、たいした野郎じゃねえか」

  爆煙が晴れた向こうに、無傷の男が現れた。

  両者ともに、激突の瞬間の両腕を突き出して向かい合った状態だった。

『逆にお前は何なんだ。いいから話を聞けこのバカ!』

「バカってなんだ! 人攫いに言われる筋合いはねえよ!」

『だから、逃げられるって!』

 言って、業を煮やしたビルドは右腕を振るって拳の軌跡から黒の砲弾を発射した。

 右方の彼方、遠くを歩き去ってゆく多脚機械の足元に。

 それは多脚機械の足の数本を吹き飛ばした。

「……あ?」

 そちらを振り向いた男が、ようやく多脚機械に気付いたようだった。

『たぶん、アレがあんたの仲間を運んでいる! 早く止めないと……』

 ビルドは指差して訴えるが、その言葉がだんだん尻すぼみになってしまった。

 なぜかと言えば、この忙しい状況に、もう一つ問題が舞い込んできたからだ。

『……え、うそ。今このタイミングで出てくんの……?』

 ビルドが指差す方角、立ち去る多脚機械と入れ違いに、歪な人影がこちらに迫っていたからだ。

 しかも、二体。

『……情報、照合。……今日の放送予定の野良スマッシュじゃん……』

「ああーーー!」

 狼狽えるビルドの横で、男がなぜかこちらを指して素っ頓狂な大声をあげた。

「テメエ! テメエのネット番組のせいでウチらが舐められたんじゃねえかよコラ!」

『ええー⁉︎ 今この姿に気付いたの⁉︎ でも観てくれてありがとう!』

「ふざけんなテメエコラ!」

 掴みかかる男の腕力に、なぜかビルドの腕力でも簡単に振り切れないでいるうちに、二体の野良スマッシュは迫り、多脚機械は遠ざかってゆく。

 

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