ビルドリビルド 仮面ライダービルド at once A and B   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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05 黎明のバディシップ

 迫る二体のスマッシュに対し、男が片手をぶらぶらと振りながら歩き出した。

「なんだよ、スマッシュなんざちょっと脅かしゃ追い払えんじゃねえかよ」

『追い払ってどうすんだバカ! 追い払われたスマッシュが、どこかの民家にたどり着いたら、他の誰かが襲われたら、どう責任を取る⁉︎ 』

 だが男は構わず駆け出した。

「俺の知ったこっちゃねえな!」

 拳を腰溜めに構え、周辺から引き寄せたネビュラガスを拳の周りに集束させてゆく。

「オラどけえええ!」

 男が飛びかかった。

 それに対し一方のスマッシュは。

 全身から無数のトゲを爆発的に生やし男を迎え撃った。

「なっ⁉︎ 」

 吹き飛ばされた男が、駆け込んだのと同じ勢いでごろごろと転がり戻ってきた。

 辛うじて防御が間に合ったのか、刺し傷も出血もない。割と元気な様子で跳ね起きた。

「クソッタレ! なんだありゃ!」

『汚染されたハリネズミが変質したスマッシュだろ。生身で近寄るのはやめた方がいい。……って言うか何で生身でどうにかしようと思ったオマエ』

 親切にも忠告していると言うのに、ビルドを見返す男の顔はまるで他人事のようだった。

「へえ。……あいつら、お前の獲物なんだよな?」

『ああ。だから下がってろよ』

「なら任せた!」

 言うや、男はスマッシュを迂回する方向へ駆け出した。

 どうやら男は二体ともビルドに押し付ける腹積もりらしい。

 元々ビルドの仕事だから、任せてもらうのはいい。

 だが。

『軽率だぞ! おい!』

 叫ぶも、男は聞いた様子も無く走り続ける。

「はっ! ノロマがっ!」

 男は大きく迂回するコースを走っている。

 それは、先ほどの伸ばしたトゲが届かない距離。

 ところが、そのスマッシュは大きく胸を反らすと、勢いよく身を丸める動作で全身のトゲを発射した。

「んな⁉︎ 」

 無数のトゲの斉射が男を大きく吹き飛ばした。

 辛うじて集束したネビュラガスによる防御が間に合ったのか、派手に土砂を蹴散らして転がった男に怪我はなさそうだった。

「クソッタレ! 」

 跳ね起きた男はまた多脚機械から遠ざかっていた。

「テメエ早く何とかしろよ! お前のせいだぞ!」

『言われるまでもないんだよ! あと後半については断固無実を主張する!』

 ようやく突破は無理だと理解したのか、男に言い返したビルドは、ベルトバックルの右端のハンドルを掴みぐるぐると回した。

 ベルトバックルの装置には、二つの小瓶が逆さまに装填されており、それぞれ装甲と同じ赤と青の色をしていた。

 それらの内容物を攪拌し、エネルギーを汲み上げると望む形へと練り上げてゆく。

『目標は攻防自在のハリネズミ! 二体が同時に邪魔をする! 対するは、ウサギであり戦車でもあるこのビルド!』

 すらすらと条件を数え上げ、ビルドは右手の指先でマスクのアンテナをなぞり上げると、その手をパッと開いた。

『勝利の法則は決まった! さあ、実験を始めようか! 』

《ボルテックフィニッシュ、レディ》

 ベルトバックルが認証を求める音声を放つ。

『ゴー!』

 叫ぶや、構築したエネルギーを解放し、ウサギの脚力で以って天高く跳躍する。

 目標は、手前のハリネズミスマッシュ。

 片脚を突き出した飛び蹴りの姿勢で急降下してゆく。

 それもただの落下ではない。

 同時に戦車でもあるビルドは今や自身を砲弾と化している。

 見上げるハリネズミスマッシュも、迎撃のために無数の鋭い針を伸長した。

 だが、たかだかネズミのトゲに、戦車の装甲は貫けやしない。

 ビルドの滑腔砲ばりの威力の蹴り足が、トゲを全て打ち砕いてスマッシュを吹き飛ばした。

 もう一体のハリネズミスマッシュへと。

 反射的にトゲを展開する一方のハリネズミスマッシュだが、悲しいかな、ジレンマは終わらない。

 ビルドのキックの勢いで激突し、互いのトゲが突き刺さったスマッシュは二体同時に大爆発を起こした。

『フッフー! 計算通り! 天才様に拍手!』

 着地姿勢から立ち上がったビルドが、両腕を上げてひとり喝采をあげるが、応える者はこの場にはいなかった。

 特に頓着せず、未だ炎がくすぶる爆発跡に歩み寄る。

 爆発跡には、スマッシュの残骸が残っていた。

 そこに近付いたビルドは、空の小瓶を取り出すと、キャップをスマッシュの残骸に指し向けた。

 すると、スマッシュの残骸から白い霞が湧き上がり、ビルドの持つ小瓶に吸い込まれていった。

 スマッシュの残骸があった場所には、残骸に代わり、二体の小さなハリネズミの死骸が残された。

『当然、採れる成分はハリネズミだよな』

 手の中の小瓶の表面が蠢き、ハリネズミを模した凹凸を形成した。

『さて、さっきの多脚機械は……』

 完成した小瓶を握り込んで先ほどの森の方向を見やると、すでに多脚機械の姿は見えなくなっていた。

『……あれ?』

「オイコラ。テメエがモタモタしてっから逃げられただろうがどうしてくれんだコラ。あぁ?」

 男が、笑顔のような怒りの形相でこちらへ近づいてくる。

『お前こそなにボケっとしてんだよ。今の一連の攻撃中にこそ追いかけろよ。一体なにしてた?』

 言われた男が立ち止まり、その目が泳いだ。

 ビルドがフィンガースナップを打った指先を突きつけた。

『見惚れてたな? この天才の華麗な実験に見惚れてたな?』

「わ、ワケ分かんねえこと言うなバカ! だ、だいたいテメエ何モンだ⁉︎ なぜここにいる! その赤と青いのは何だよ! アイツらの事知ってんのか?」

 血相を変えて喚き始めた男に、ビルドはパンパンを掌を打ち合わせ、宥めるように手を振った。

『俺もお前が何者なのか知りたいし、実は通りすがりでワケ分かってないんだよ。俺もあの多脚機械に用がある。お互いに情報交換と行こう』

 だが男は収まらない。

「ンな悠長なことしてられっかよ! 仲間が攫われたんだぞ!」

『それを黙って見送ったお前の言えたことかよ……』

 つい、呆れ半分にぼやいてしまったが、すぐに続ける。

『お前の仲間についてはしばらくは無事だ。猶予はある』

「何でそんな事が分かんだよ! テメエやっぱ」

『聞けバカ短絡的過ぎんだよバカ!』

 ざわ、と髪を逆立てかけた男の胸倉を掴み上げて引き寄せ、非対称のセンサーアイで男の目を覗き込んだ。

『アイツらが殺すつもりだったなら、この場で全滅させてたはずだ! それをアイツらはわざわざゴムスタン弾を装備していた! 生かして連れてく用事があったからだ! よって、全員当分の間は生かされる。目的は不明。相手も不明。探すには冷静になる必要がある。理解できたか?』

 ひと息に言い切り、胸倉を離して押し返す。

 ──「誘拐」や「警察」といった単語は敢えて伏せた。まずチンピラ同士の喧嘩ではないし、普通の犯罪でもない。下手に通報すれば、この男も狙われるだろうからだ。

 男の怒りは収まりそうに無いようだが、飛びかかってこない程度には自制してくれたようだ。

 正直、煙に巻いたも同然だが、男が短絡的で助かった。ようやく情報を聞き出せる。

『よし。上出来だ。話をしよう』

「ああ。……いや、ちょっと待ってくれ」

 着信音を鳴らすスマートフォンを取り出した男が、こちらに片手を振って数歩離れると通話を開始した。

「なんだよ先生。 ……あっ⁉︎ 」

 通話相手は知己なのか、これまでの遣り取りでは見られなかった素の態度でしゃべっている。

「いや、わりぃ、仲間がちょっとヤバくて、それで……」

 他人の通話を聞くのはマナー違反だろうが、今やウサギでもあり戦車でもあるビルドの聴覚センサーは、離れた位置からでも通話内容を明瞭に聞き取れてしまう。

 どうやらこの男、入院中の母親の見舞いを放ったらかして仲間の窮地を救いに来たらしい。

 それも不義理からではなく、この男らしい直情径行の熱血によってのことらしい。

(……へえ )

 なるほど。見たままのチンピラと言う訳でもなさそうだ。

 やがて平謝りを繰り返して通話を終えた男が、何やら逡巡や葛藤を抱えた表情でスマートフォンを握り立ち尽くしていた。

 その様子を見たビルドは、黙って背を向けると多脚機械が立ち去った方向へ歩き始めた。

「……おい!」

 たいして経たずに男がこちらを追いかけてきた。

「おい、待てよ! アテはあんのか」

『ああ。アレの足跡なり熱源の痕跡なり、追いかける手段はいくらでもある』

 隣に駆け寄ってきた男は見ずに、立ち止まることなく言い返す。

『それより、電話の用事はいいのか?』

「……お前には関係ないだろ」

 ぶっきらぼうに男が言うが、先ほどまでの勢いは無い。

『今のこの姿の俺は、時速百二十キロメートルで走れる。お前はついてこれないだろ』

「ナメんな余裕でついてくわ」

『さっきから脊椎反射でしゃべってんじゃねえよ虫かお前は! 』

 振り返ったビルドが怒鳴りつけた。

 男が、きょとんとして身動きを止める。

『ビルドの感知機能は高性能だ。例えばお前が母親のお見舞いに行ってる間にアレの拠点を突き止められるから、それから合流しても遅くはないだろ』

 自らの側頭部をつついて言うと、男は露骨に狼狽えて目を泳がせた。

「な、なんのハナシだよ」

『ビルドの感知機能は高性能だって言ったろ。聞こえてんだよさっきの通話内容ぜんぶ』

 男は目を白黒させて後退った。

「な、な……」

『だから病院行け。見つけたら連絡すっから』

 しっしと手を振ると、再び前を向いて歩き出す。

「し、信用できっかよ! お前に俺のお袋は関係ねえだろ⁉︎ 」

『お前のためとか言ってないだろ。後で合流したいのは、攫われた連中の顔を俺は知らないからだよ。なにかおかしな話か?』

 横並びにせかせかと歩く男に言い返す。

「俺の仲間とも関係ねえじゃねえか!」

『さっきも言っただろ。俺が用事があるのは、あのロボットと、それを使ってるやつだ。 まあ? 俺は正義のヒーローだし? 攫われた人がそこにいるならついでに救い出したいけど、俺の身体はひとつだしなあ。もしかしたら人質は後回しにするかもしれないなあ』

 歩きながら、肩をすくめて嘯いた。

『あーぁあ。人質の顔を知ってる誰かさんが、後で助けに来てくれないかなあ』

「し、しょうがねえな!」

 男が、足を止めて言い出した。

「ヤツらを見つけたら、連絡しろよ! 用事が済んだら後で行ってやるから! 絶対だぞ!」

 ビルドは胸中でこっそりと胸を撫で下ろした。

『ああ。後でまた会おう』

 肩越しに答えると、ビルドはそこから疾く駆け出した。

 時速百二十キロメートルは伊達ではない。

 男を置き去りに、瞬く間に森の奥へ消えていった。

 

 

 

 

────

 闇の中に、嘲りの色を含んだ含み笑いが漏れ出る。

『ンッンー。イイ流れだ。実にオレ好みのイィーイ流れだ……』

 その声は喜色にまみれ、いまにも小躍りを始めそうなほど盛り上がってゆく。

『っはっはあ! さあ、実験を始めようか!』

 耳障りな赤い哄笑が、どことも知れぬ虚空に流れて消えていった。

 

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