ビルドリビルド 仮面ライダービルド at once A and B   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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03 埒外のギャンビット

 あれからさらに水路の奥へ進み、途中で壁面に穿たれた整備用と思われる鉄扉をくぐり、下層へ下る螺旋階段を降りては、戦兎の導くままあちこちへと歩き回ることしばし。

「止まれ」

 戦兎がかざした片手に、龍我も足を止めた。

 辺りは相変わらずコンクリートに囲まれており、パイプが縦横に這い回っている。

 少し先に突き当たりがあり、左右へ分岐する通路が見える。

「どうした?」

 龍我の問いには答えず、戦兎は奇妙な形状のスマートフォンを取り出した。

 そのスマートフォンから、バイブレーション機能による振動音がわずかに聞こえる。

「……先行させてたドローンからの合図だ」

「何だよドローンて」

「さっきお前を案内させたドラゴンだよ。見てみ」

 差し出されたスマートフォンのディスプレイには、どこか高みから見下ろす構図でコンクリートに囲まれた部屋が映し出されいた。

 そこには様々な用途不明の機械が並び、チューブやパイプが縦横無尽に張り巡らされ、そこを行き来する防疫服らしき仰々しいものを纏った人間が数人見えた。

「こいつらが、仲間を攫ったやつらか?」

「ああ。ロボットの足跡も続いてたし、ここにある機械はどれもロクなモンじゃない」

 言いながらディスプレイに指先を滑らせると、地図めいた画像が現れた。

「ドラゴンはそこを曲がってすぐのエリアの手前からこれを見下ろしてる。ここからこっちの方にも空間があって、そちらに大勢の人のまとまった反応がある。これがお前の仲間たちだろ」

 ディスプレイを示しながら、目的地の状況と経路を説明する。

「俺がこれから撹乱するから、お前はその隙に仲間を連れて逃げろ」

「「かくらん」って何だ?」

 若干肩をコケさせた戦兎は、咳払いしてから言い直した。

「……混乱させるんだよ。とにかく、奴らにはまともに周囲を分からなくするから、お前は安心してここからこう壁沿いに走れ。絶対に気付かれないから。分かったな」

「お前はどうすんだよ」

「ここの奴らに用があるっつったろ。俺には構わなくていいから、お前は仲間を見つけたらそのまま逃げろ。それで、この協力関係も終わりだ」

「……そっか、わかった」

 スマートフォンから顔を上げた龍我は、鼻の下をこすり、妙に神妙な顔で戦兎を見返した。

「なんか、世話んなったな」

「正義の味方なもんで」

 戦兎は薄く笑んで、何でもないようにヒラヒラと片手を振った

「それに、まだ終わってねえぞ。逃げる時にドジ踏んだらフイになるんだからな」

「そうだな。じゃ、行くぜ!」

「いや待て」

 走り出しかけた龍我の襟首を戦兎が掴み止めた。

「っっ⁉︎ ……なんだよ!」

「俺の準備が整ってないんだよ! ちょっと待ってろ」

 言うと戦兎は通路の真ん中辺りに立ち。

「……おい、そこ危ない。もう三歩離れて」

「なんなんだよおい」

 怪訝な顔のまま、それでも龍我が律儀に三歩数えて後退した。

「ぃよし。それじゃあ」

 言って、戦兎が何やら機械を取り出した。

 赤いクランクレバーに金属色の円筒部、二箇所の装填口めいたへこみ。

 それらをまとめ上げた、小犬ほどの大きさの、黒い機械だった。

 戦兎がそれを自らの腹にあてがうと、機械の端から黄色の帯が飛び出し、戦兎の腹を迅速に一周して機械の反対端に組みついて結束すると、機械をバックルとした大きなベルトとなった。

 続いて戦兎は、小瓶──フルボトルをそれぞれの手に一本ずつ、計二本取り出した。

 一方は赤いフルボトル。胴の表面にウサギの形の刻印があるラビットフルボトル。

 もう一方は、青いフルボトル。先ほど見せた戦車の成分が込められたタンクフルボトルだ。

 戦兎は、それらフルボトルを手首のスナップで小刻みに振り始める。

「フルボトルの中身のトランジェルソリッドは、良く振ることで刺激を受けて活性化し、体積と効果を増幅させる」

 振っていた手を止めると、それぞれの親指でフルボトルのキャップをひねった。

「単体でも中身の成分と工夫次第で如何様にも便利な効果を発揮できるが、俺はそれを、異なる二種類の要素を掛け合わせて、更なる効果を発現する方法を発明した!」

 言うと、左手の赤いフルボトルをベルトの右側のスロットに、右手の青いフルボトルを左側のスロットに、それぞれ逆さに装填した。

《ラビット!》

《タンク!》

 ベルトが、装填されたフルボトルを認証し、それぞれの名を読み上げる。

「これが俺の発明品の最高傑作! ビルドシステムの根幹たる「ビルドドライバー」だ!」

 バックルの右端に突き出たクランク・「ボルテックレバー」を掴むと、それをぐるぐると回し始める。

 連動してベルト各部の歯車が回転し、その機構が装填された二本のフルボトルからトランジェルソリッドを抽出して内部で混ぜ合わせて攪拌し、二種の成分を新たなひとつの成分としてその組成を融合してゆく。

 やがて解放すべき成分の準備が完了し、ベルト正面から半透明のチューブが伸びてゆく。

 それは迅速に戦兎の周囲の幅二メートル・前後三メートルの四角に走り回って仕切ると、四隅から縦に伸び上がり、前後で網目のように這い回って壁を形成した。

 その範囲は、ちょうど龍我が三歩退いた程度。それでも龍我は足元を走るチューブからさらに一歩足を引いた。

 ベルトから、そのチューブの中を一方は赤、もう一方は青の液状物質が流れてゆく。

 前のフレームには、かつて見たビルドの左側頭部・右上半身・左足が。

 後ろのフレームにはビルドの右側頭部・左上半身・右足が、それぞれ形成された。

 その様はまるでプラモデルのランナー状態のよう。

 これがビルドの装甲服を構築する高速ファクトリー「スナップライドビルダー」。

《Are you Ready!》

 前後のフレームの形成完了と同時に、ベルトが認証を求める音声を発した。

 続いて戦兎は両手を前に突き出した。

 交差した右手の指先は上を、左手の指先は下を向き。

 それは、ベルトにも刻まれている歯車めいたマークに似ていた。

「変身!」

 気合いを入れて叫び、両腕を左右に振り払うや否や、前後のフレームのビルドの各半身が戦兎を勢い良く挟み込んだ。

 その瞬間は痛そうで、龍我は一瞬ぎょっとしたが、そのビルドの半身は本人に激突することなく中央で一体化を果たしていた。

 戦兎のいた場所に、代わってあの赤・青・黒の装甲服姿が現れていた。

 マスクの目にあたる位置には、巨大な複眼めいたパーツが貼り付き、右は青い戦車を、左は赤いウサギの横顔を模した形状をしていた。

 それぞれ主砲が、耳が、兜の立物のごとく突き立っている。

 装甲服の完成と同時に、周囲を取り囲んでいたスナップライドビルダーが逆戻りするように消えてゆく。

『仮面ライダービルド!』

 やおら斜めに構えてフレミングの右手を振ったビルドが名乗りを上げた。

『ウサギと戦車、ベストマッチのこの組み合わせに限り、今のビルドはウサギであってウサギでなく、戦車でもあって戦車でもない! ウサギと戦車を混合した新たな概念だ! すなわち、新たな概念には新たな名前が必要だ!』

 くるりっ、と振り向いて、唖然としている龍我に向かって指をさし。

『名付けて「鋼のムーンサルト」! イエーイ!』

 戦車の主砲のアンテナをなぞり上げて、パッと片手を広げた。

 そんな、ひとり喝采を上げるビルドを、龍我がなんとも温い、哀れむような眼差しで見返していた。

「……あー、と、……もう行っていいか?」

『ぐずぐずすんなとっとと行けー!』

「おま……⁉︎ 」

 両の拳を振り上げて怒鳴るビルドに、龍我は理不尽に呻きながら走り出した。

 

 ボルテックレバーを回してエネルギーを増幅し、ビルドが何かを投擲するように片手を振るった。

 するとたちまちその地下施設に突如として白煙が爆発的に広がり、防疫服を纏った作業員たちが泡を食ったように騒ぎ出した。

 その中をビルドが悠々と進むが、作業員の誰一人としてそれを気に留める者はいない。

 これは今のビルドのベストマッチ「鋼のムーンサルト」による効果のひとつ。

 戦車由来の「スモークディスチャージャー」による煙幕は、あらゆる波長を阻害する。

 重ねてユキウサギ由来の「白い体毛で雪に紛れるカモフラージュ効果」によって、ビルドの体表は煙幕と同色に変化して景色に紛れている。

 加えて敵に発見されないよう声帯を退化させたノウサギのごとく、自ら発する音を無効化している。

 これらの効果を融合し、同時に発現させるのが、このビルドシステムの妙味である。

 なお、現実のスモークディスチャージャーは自身の視界も遮るが、「カモフラージュ効果によって潜んでいるウサギ」は敵を捕捉する事ができる。

 ビルドシステムは、これらの矛盾する現象に対して「都合の良い要素を優先して顕現させ不利な要素をスポイルする」という既存物理を超越した現象を起こす事ができるのだ。

 その擬似完全迷彩の機能を利用して施設を堂々と横切ったビルドは、そこにいた作業員の首筋を手刀で打ち昏倒させた。

 一瞬の呻き声も、倒れた音も他の作業員の耳には届かない。

 倒れた作業員はそのままに、ビルドは付近にいる作業員から順番に次々と昏倒させていった。

 やがて、ここの従業員と思しき人間は全て沈黙した。

 ふと壁際を見遣ると、龍我が屈んだ姿勢で壁に手を付きながら素早く移動してゆく。

 予定通りの経路を進んでいる事を確認して、ビルドは施設内部を見渡した。

 戦兎曰く「ロクでもない機械」の数々が立ち並んでいる、禍々しい空間だ。

 その中でも、最も巨大な箱型の什器に歩み寄る。

 どのくらい巨大かと言えば、例えば人ひとりがゆったりと横たわれるほどの大きさ。

 稼働中のランプが灯るその機械の、透明なガラス部分を覗き込む。

 そこからは機械の中の様子が見え、謎の液体に半分ほど浸された、機械とも生物ともつかない表皮と色と、奇妙な丸みを帯びた人間大の物体が横たわっていた。

 ──スマッシュ。

 時々、街中に突然現れては、通り魔的に人々を襲い傷つけるモンスター。

 文献によれば、スカイウォールが出現してからしばらく後に現れたらしい。

 ビルドが山中で駆除している「野良スマッシュ」との違いは、地域に充満したガスで野生動物が自然発生的に変質した野良スマッシュは元の動物の体躯に近い形状であるのに対し、街に現れるスマッシュは姿形が非常に人間に近いことだ。

 例えば、ここに寝ている個体のように。

 その理由は、野生動物とは異なる、非常に人間に近い形状の生物──要は人間をベースにしているからだ。

 ──龍我には言わなかったが、龍我の仲間を攫った理由については最初から見当はついていた。戦兎が一年前からビルドとして活動していた目的は、まさにこのスマッシュの脅威から人々を守るためだったからだ。

 それと、これまでにかかった時間からして、恐らく一人くらいはスマッシュへの改造が進められるだろうことも。

 そう。現在街に出現する人型のスマッシュは、ほぼ例外無く人間がベースであり、ネビュラガスが及ばない居住区域にあって人型のスマッシュを生み出す為には、「誰かが人為的に人を改造する」しか方法がない。

 つまりは、この施設のように。

 このような施設を作り出し、運営している黒幕のようにだ。

「そいつが何者なのか、分かればいいんだけどねえ」

 溜め息交じりにぼやくように吐き捨てる。

 このような施設を発見するのは、これが初めてではない。

 その時も、施設内のコンピュータなどは完全独立型で、黒幕に至る手掛かりは得られなかった。

 恐らく、ここも同様だろう。

「ま、一応見てみるか。こいつを元に戻してからな!」

 言ってボルテックレバーを握り締めた。

《空気清浄器!》

『え?』

 向こうから、身に覚えのない認証音声が聞こえたと同時、施設内を強力な旋風が吹き抜け、ビルドのスモークディスチャージャーによる煙幕を吹き払ってしまった。

『なんだ⁉︎ 』

 それは、この場所にあってはそれなりに異常な現象だった。

 必要最低限の空調設備を備えているとは言え、限定された空間で空気を攪拌したところで煙幕が消滅するはずがない。ただ煙が室内を循環するだけだ。

 それこそ煙を集めてフィルターに通しでもしない限り煙幕は消えはしない。

 ところがいま室内を蹂躙している風は、煙幕自体に干渉し、片端から中和しているのだ。

 ──ネビュラガスで創られた物質を変質できるのは、同じくネビュラガスで創られたものだけだ!

 戦兎は少なからず戦慄していた。

 野良スマッシュの能力で対抗されたことは何度もあるが、「ネビュラガスを活用する敵」と出会うのは、これが初めてだ。

 認証する電子音声が「空気清浄器」と唱えていた。

 つまりはビルド以外にもネビュラガスの成分を操る敵がいると言うことだ。

 やがて煙幕が消え失せたこの施設の入り口に、奇妙な銃器を構える人影を発見した。

『……?』

 それは、Dテクターとは明らかに異なる系譜のパワードスーツに見えた。

 なぜガーディアンのような「ロボット」ではなく「パワードスーツを着た何者か」と断定したのかと言えば、その佇まいと挙動が非常に人間臭かったから。

 各部を覆う、チューブを巻きつけたかのような装甲。

 顔面を覆うコウモリめいたイエローのバイザー。

 鋭角に尖ったシルエットと相まって非常に禍々しい異様。

 そいつが、謎の銃器から、まるで弾倉のように挿さっていたフルボトルを引き抜いた。

 その銃器が、そいつのドライバーなのだろう。

 スロットはその一箇所しか見当たらない。

(……バイナリー・コンプレックスじゃない!)

 どういう仕組みかは、大天才にはぼんやりと見当はつくが、とにかくこの敵は、パワードスーツに付与した「コウモリ」の成分と、それとは別に任意のフルボトルの成分を操れるらしい。

 一度に、一種のフルボトルしか扱えないらしい。

 そこまで看破したビルドは手を打って身構えた。

(良かった! 敵の開発者は俺ほどの天才じゃない! )

 勝手に失礼な想像で意気を上げたその瞬間。

 全ての照明が落ち、辺りが完全な闇に閉ざされた。

 

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