ビルドリビルド 仮面ライダービルド at once A and B   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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04 無明のスタンドオフ

 煙で視界が利かない中、謎の施設を手探りで壁沿いに駆け抜け、ビルドが撒いた煙幕の範囲を抜け出た龍我は予定通り反対側の通路に駆け込んだ。

(あとは、そこを曲がれば──)

 勢いのまま角に飛び込むと、そこに見覚えのある人影がタムロしていたのに気付いて慌てて立ち止まった。

「げぇっ⁉︎ 」

 戦兎も一言も言わなかったため、龍我は完全に失念していた。

 戦兎のドローンの映像には、仲間を攫ったロボットの姿は無かった。

 攫った本人なのだから、当然この施設のどこかにいるはずだった存在。

(──あの野郎!)

 拳を構えた龍我の前で、十数体のロボット・偽ガーディアンが立ち上がり、ぞくぞくと銃口をこちらに向けた。

(やっべ⁉︎ )

 ここはネビュラガスが無い地域だ。いつものようにガスを防御力に変換することはできない。

 だが、その手に握っていた白い小瓶を見て思い出す。

 十数の機関銃が一斉に連射された。

「うおおおお!」

 白い小瓶・パンダフルボトルを乱暴に振って、両腕を交差させて身構える。

「あだだだだ⁉︎ 」

 衝撃に身構えた全身に無数の銃弾が跳ね回り、尋常でない激痛に襲われる。

 だが。

「効かねえ!」

 大きく吼えて腕を振り払うと、偽ガーディアンの群れに飛び込んでいった。

「おらああ!」

 龍我の拳が偽ガーディアンを粉々に吹き飛ばす。

 拳の軌跡がパンダの爪跡のごとき五本の閃光と化し、目の前の偽ガーディアン数体をまとめてバラバラに引き裂いた。

 銃撃を掻い潜る龍我の拳が唸るたび、偽ガーディアンが粉微塵になって吹き飛ばされてゆく。

「うらあああ!」

 跳躍し、最後の一体を真上から叩き潰した。

「っしゃあ! お前ら!助けに来たぞ!」

 拳を振り払い、大きく吼えた龍我は、散らばったロボットの部品を踏み越えて通路の先へ駆け込んでいった。

「ボス? ……ボスー!」

「こっちです!ボス!」

 通路の奥、鉄格子で仕切られた一画に押し込められていたチーム「クローズ」の仲間たちが騒ぎ出した。

「おまえら! 良かった! ……ちょっとどいてろ」

 鉄格子にしがみつく仲間を下がらせ、パンダフルボトルを一振りした龍我がその腕で格子をまとめてなぎ払った。

 殴りつけた腕を境に次々と格子が「く」の字に折れて、ちぎれた端から吹き飛ばされてゆく

「うおおおお⁉︎ 」

 どよめきを上げる仲間たち。

「やっぱ流石だぜボス!」

「いいから出ろ! 急げ!」

 続々と這い出てゆく仲間を、引っ張り出し背を叩いて追い立てる。

「ボス!出口はどっちですかい⁉︎ 」

「バカやろコッチだ!」

 その時、通路の照明が消滅した。

 たちまち暗闇に閉ざされ、男たちが泡を食って狼狽える。

「うわああ⁉︎ 見えない⁉︎ 逃げられねえ⁉︎ 」

「慌てんな! 見ろ! 向こうに灯りがついている! 」

 停電か何かは知らないが、これから向かう予定だった方向の通路の先のエリアは灯りが消えていなかった。

「あの先だ! 走れ!」

 

 

 突然の暗転にも、ビルドのセンサーは即座に対応した。

 今のベストマッチ「鋼のムーンサルト」ならば、戦車由来の暗視装置とウサギの夜目を融合した視力で、例え暗闇でも問題なく目標を捉えることができる。

 超音波で周囲を認識するコウモリの能力を持つであろう敵とは、互角のはず。

 だが、不意の暗転に対して、肝心の戦兎自身の意識は一瞬の隙が生じてしまった。

『いってぇ⁉︎ 』

 真正面から宙を一直線に飛翔してきたコウモリのパワードスーツが顔面に一撃を加えていったのだ。

 無様に仰け反って後転したビルドは素早く起き上がり、続く攻撃を警戒して真後ろを振り返る。

 ところが、そちらには何者の姿も無かった。

『あれ?』

 だが、続く衝撃は真上から襲いかかった。

 頭上からの打撃に、顔面から床に激突する。

『くっそ! コウモリだもんなあ!』

 それほど高くはない真上の天井に、逆さにぶら下がっていたのだろう。

 しかも、そこからはただの飛翔ではなく、いかにもコウモリらしい小刻みなジグザグ機動で旋回して戦兎の意識を欺く。

 加えて、ウサギは夜目が利くが、視力は良くはない。

 ビルドは戦車由来の索敵能力で、飛び回るコウモリのパワードスーツを狙って拳や蹴りから砲撃を発射する。

 だが、敵の凄まじい戦闘機動にはかすりもしない。空を切った砲弾は、無為に壁を粉砕してゆく。

 それどころか、砲撃の合間を的確に縫っては迅速に接近してビルドの頭に一撃を入れていくのだ。

『くっそ⁉︎ なんであいつの攻撃ばかり⁉︎ ……あ!』

 ふと気付いたビルドは、右の青いセンサーアイを片手で塞いだ。

『やっべ⁉︎ コウモリは赤外線見えるじゃん⁉︎ 』

 今のビルドの暗視能力のうち、戦車由来の暗視装置は「赤外線暗視装置」をイメージしていた。

 そしてコウモリの一種の「吸血コウモリ」には赤外線を感知できる能力があると言う。

 暗闇にあっては、こちらが一方的に居場所を晒しているも同然だった。

『「アクティブ」はダメダメ! 「パッシブ」に切り替え!』

 慌ててベルトのボルテックレバーをひと回しして取り込んだトランジェルソリッドのエネルギーの組成を変更し、センサーアイに付与された「赤外線センサー」の意味を「パッシブセンサー」に書き替えた。

 その間も、コウモリのパワードスーツの攻撃は続いていたが、センサーを切り替えた途端に頭部への攻撃は激減した。

『あーもー大天才一生の不覚!』

 ぼやきながらも、敵を追って跳躍し、壁を、天井を蹴ってコウモリのパワードスーツに追いすがる。

 だが、跳躍では飛翔する戦闘機動には及ばない。

 空中で飛びかかったところを、ひらりと木の葉のようき躱されて、背中から蹴り落とされてしまった。

『なんのッ!』

 辛うじて身を翻し、片膝のヒーロー着地を決めた。

『あいたたた⁉︎ 』

 なお、ヒーロー着地は身体に悪いと評判である。

 それにしても、この閉塞された暗所という舞台では、あのコウモリのパワードスーツ相手にはいかにも分が悪い。

 次の突撃を寸での所で回避しつつ、ビルドはベルトのボルテックレバーを数回回してエネルギーを汲み上げると、再びスモークディスチャージャーに変換して煙幕を放った。

《空気清浄器!》

 敵も、即座にフルボトルを銃器に装填して対応する。

 だが今のこの煙幕の目的は、目眩しではなく、時間稼ぎである。

『それならコイツの出番だ!』

 叫んでビルドは白いフルボトルを取り出した。

 胴の表面にはハリネズミを模した刻印が刻まれている。

 引き抜いたラビットフルボトルの代わりに、そのハリネズミフルボトルを装填し、ボルテックレバーをぐるぐる回す。

《ハリネズミ!》

 撒き散らした煙幕を、コウモリのパワードスーツが中和している隙にスナップライドビルダーを展開し、前面のフレームに新たな白いハーフボディを形成した。

『ビルドアップ!』

 叫び、新たなハーフボディが合体するのと、コウモリのパワードスーツが突撃してくるのは同時だった。

 激突。

 だがビルドはこれまでと異なり、衝撃を受けてなお倒れずにそこに立っていた。

『「ヘッジホッグタンク」! さっきまでとは一味違うぞ!』

 先ほどまで赤色だった部位が白色に変わり、右拳を覆う白い凶悪なトゲ付き鉄球を叩いてビルドは身構えた。

『……』

 跳ね返されたコウモリのパワードスーツが起き上がると、訝しげに首を傾げ、再び高速の跳躍で飛びかかってきた。

 半身を変更したため、今のビルドはウサギ由来の夜目を失っている。それにより索敵能力が減少しており、コウモリの突撃を目で追えた訳ではない。

 だが、見えないのならば、跳ね返せばいいだけのことである。

『はっ!』

 激突の瞬間、ビルドの全身から鋭利な長い棘が無数に、爆発的な勢いで伸長したのだ。

『ッ⁉︎ 』

 無数の棘に自らの勢いで激突したコウモリのパワードスーツが、弾き返されて机を、棚を蹴散らしながら吹き飛んでいった。

 このトゲは、動物の体毛が硬質化したものなどでは無く、ビルドシステムによって戦車と融合した今は、トゲの一本一本が戦車の装甲と同じ堅牢さを持っている。

 それらが無数に寄り集まった鋼の槍衾だ。生半に突破できるものではない。

『だけど、ハリネズミは特に素早くないし、防衛向きの組み合わせだから、ベストマッチとは言えないんだよなー』

 若干ぼやくように言うが、別に自信を損なっている訳ではない。

『だけど、お前に対抗するには有効だ!行くぞ!』

 叫ぶや、ビルドの体表から生えている無数のトゲが、砲弾の勢いで発射された。

『ッ⁉︎ 』

 さしものコウモリのパワードスーツも一瞬狼狽の色を見せた。

 なにしろ腕ほどの長さの、戦車装甲ほどの硬さの、トゲと言うより最早「槍」と呼ぶべき代物が、無数に飛んできたのだ、

 言わば槍の散弾。いかなコウモリでも避けきれるものではない。

 どうにか宙で身を翻し、あるいは銃器で打ち払って躱そうとするが、数発のトゲが命中して吹き飛んでいった。

 他方へ飛んでいったトゲは、施設の壁と言わず天井と言わず、全方位を貫き半分以上深々と突き刺さった。

『まだまだこんなもんじゃないぞ!』

 ボルテックレバーをひと回してすると、再び無数のトゲを展開した。

 そして駆け出し、わずかに跳ねると、全身から生えたトゲが蠢き始めた。

 全てのトゲが、ビルドの体表を滑るように縦方向に移動し始めたのだ。

 今のビルドは戦車であると同時にハリネズミでもある。

 ビルドは全身を無限軌道と化して、体表のトゲを回転させたのだ。

 腹這いに着地したビルドは、全身のトゲの無限軌道を回転させて床板を抉りながら高速で疾走してゆく。

『ッ⁉︎ 』

 喫驚し狼狽えたコウモリのパワードスーツがすぐさま飛翔してそれを躱した。

『無駄だ!』

 ビルドがそのままの方向に疾走しながらトゲの一部を後方に斉射した。

 それらは飛翔するコウモリを追って次々と壁に、天井に突き刺さる。

 ビルドはそのまま壁に突撃すると、トゲが壁に喰らい付き、なんと壁を駆け上がり始めた。

 さらに天井にまでトゲを刺しながら疾走し、飛翔するコウモリのパワードスーツに追いすがる。

『待てコラー!』

 空中機動で躱されても、すぐに無数のトゲを斉射して行き先を牽制して追い詰める。

『ッ!』

 数発のトゲを食らいながらも、コウモリのパワードスーツは空中で身をよじると銃器を突きつけ、光弾を発射した。

『え?』

 ビルドは狼狽えた。

 相手の銃器がこちらを捉えているかどうかは、すぐに分かる。

 ところが今発射された光弾は、ビルドとは関係の無い方向に飛んだのだ。

「ぎゃっ⁉︎ 」

 悲鳴はすぐに聞こえた。

『何⁉︎ 』

 コウモリのパワードスーツの銃弾は、ビルドが昏倒させたここの作業員のひとりを撃ち抜いたのだ。

 天井に逆さに着地したコウモリのパワードスーツが、再び別の方角に銃を突きつけた。

 空いた片手で出入り口を指し示して。

 その意味は、すぐに分かった。

(あいつ、自分の手下を人質にして、俺に出て行け、と……⁉︎ )

 その銃口は、別の倒れている作業員を狙っている。

 確かにここは、人々に害を成すスマッシュを、無関係の人を改造して生み出して放逐する、間違いなく悪質な反社会的組織だ。

 だがビルドは、スマッシュの被害を食い止め、被験者からネビュラガスを取り除いて救う事を使命としていても、悪の組織の構成員を殲滅する事はその目的に入っていない。

『しょうがないな……』

 何かしようものなら、奴は作業員を躊躇いなく撃ち殺すだろう。

 ビルドは、コウモリのパワードスーツから目を離さず、トゲの無限軌道を後転させてその施設から後ろ向きに離脱していった。

 コウモリのパワードスーツは微動だにせず、こちらを追うそぶりも見せずに黙って見送っていた。

 ここは、このまま出ていくしかない。

 それにしても。と、仮面の下で戦兎は訝しんだ。

(……もっと早く俺たちを妨害すればいいものを、なぜあのコウモリはこのタイミングで現れた……? )

 

 

 コンクリートで整備された大型河川の脇の水路から、捕らえられていた「クローズ」の男たちが這々の体で駆け出してきた。

「行けー! とりあえず、バラバラに逃げてどっか隠れてろ! しばらく「クローズ」は休業だ! 行けー!」

 最後に水路から駆け出してきた龍我が、腕を振り回しながら叫んだ。

「ボス! 世話ンなりました!」

「また呼んでくださいよボスー!」

 仲間たちは、めいめい惜しみながらもあちこちへと散らばっていった。

「…………」

 彼らの背を見送り、龍我は腰に手を当てて溜め息を吐いた。

 ナワバリとスカイロードと闇ブローカー稼業は惜しくはないが、仲間たちと生きてきた思い出はある。

 しばし、その終焉を噛み締めて、龍我も駆け出した。

 母が待っている病院へと。

「──っ⁉︎ 」

 突然、鳴り出した懐のスマートフォンの振動に足を止めた。

 慌ててスマートフォンを取り出すと、ディスプレイには「非通知」の文字。

 捕らわれた仲間を助けた以上、拉致犯になど用は無いし、闇ブローカーとして非通知着信など珍しいものではない。

 特に気にせず龍我は着信ボタンに指先を滑らせて耳に当てた。

 誰だか知らないが、闇ブローカーの休業は知らせてやらねばなるまい。

「誰だ?」

『万丈龍我』

 スピーカーからは、濁った合成音声が聞こえた。

『──貴様の母親を預かっている。指定の場所へ、一人で来い』

 

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