DQ8 オーブと罪びとの旅   作:ぽんぽんペイン

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ゴルド崩壊後、ゴルドの底にはたくさんの人びとが閉じ込められてしまいました。暗黒神の杖に操られたマルチェロもいます。マルチェロを心配するオディロ院長が天国からやってきて、女神と交渉しました。


プロローグ

蠢く人々。

 

阿鼻叫喚は、永遠に続くかと思われたが、今はもう泣き叫ぶ声もなく。

 

身体の痛みを感じることだけが、生ある証拠。

 

圧倒的な暗闇に、私たちは潰されている。

 

目を、閉じていても開いていても、見える景色は同じ。

 

朝か昼か、考えることすら煩わしい。

 

不思議な身体の感覚。空腹を感じない。落ちたときのまま、時が止まったのだろうか。

 

少しずつ、この状況を認め始めた。

 

落ちたのだ。ゴルドの深淵に。巨大な女神像と共に。神殿の中にいた者たちは皆、ここにいる。

 

誰かを探す声がなくなって、どれくらいの時間がたったのだろう……。

 

* * * * *

 

一人の小柄な騎士団員が、自分の隣で小さくうめいている人に声をかけました。

 

「あの……どなたか存じませんが、お怪我はないですか?」

「……ああ?」

「大丈夫ですか?」

「わしは、サザンビークから来たんじゃ……新法皇のお顔を見に……どうなったんじゃ……何も見えん」

「私も見えません」

 

二人の会話がきっかけとなったのか、あちこちから話し声が起こり始めました。

 

「おい! お前」

「あっ!」

騎士団員は仲間に会えたようです。仲間の騎士団員は、とても身体が大きいようです。暗闇の中、がれきなどにぶつかりながら、どうにか小柄な騎士団員のほうへやってきました。

 

「無事だったか?」

「はい、多分……。一体、どうなったのですか?」

「わからん、何も見えん」

「ちょっ……どこさわってるんですか!」

「すまんすまん……暗くて……」

セクハラのような会話をしている場合ではありませんが、なにしろ真っ暗です。手探りで様子を探るしかありませんでした。

 

しばらくすると、なにやら風のような感覚。真っ暗な中、人びとはきょろきょろとしていましたが、突然、雲の上からかけられたような、くぐもった遠い声がしました。

 

「……聞いたような声じゃ。もしやマイエラの者かの?」

「まさか! オディロ院長様!」

「まちがいない、この声は……」

二人の騎士団員は暗黒の空間を見上げます。すると、ぼんやりした白いシルエットがふわりふわりと二人の方へ近づいてきました。

 

「おお、おまえさんたちか。元気そうじゃのう」

「院長様? ご無事で……?」

「いや、わしは死んでおる」

白いシルエットは、よく見ると、オディロ院長でしたが、どうも生きた人間のようではありませんでした。

 

「何が起きたか、わしは見ていた。ゴルドに封印していた暗黒神ラプソーンが女神像崩壊とともによみがえったのじゃ」

「暗黒神? 伝説の、ですか?」

「そうじゃ」

「ああ、あの黒い胎児のようなものが暗黒神……」

大柄な騎士団員は頭を抱えます。

 

オディロ院長は、くるりと360度回転し、生前のままの優しい声で言いました。

 

「皆さん、わしはオディロと言います。マイエラ修道院の院長をしておった。わしは正確に言うと、間違いなく死んでおるのじゃが、なぜか、ここにおる。とりあえず女神の思し召しということで、まずは集まってもらえんかの……ほれ、チンカラホイ! っと」

オディロ院長が手を振ると、蜂蜜ミルク色のほわほわした丸い塊があちこちに浮かびました。

 

「ああ、明るい!」

「温かいぞ!」

オディロ院長の出した塊に人々は笑顔を浮かべました。

そして自然とオディロ院長の霊の前に集まります。

 

「院長様……私たちは生きているのですか?」

若い女の声に、オディロ院長は優しく答えます。

 

「ふむ、わしの見たところ、死んではいないようじゃ」

「死んではいない? では生きているのですね?」

ああ、よかった、とあちこちで喜びの声があがりました。ところが。

 

「そうとも言えん。ここは、時が止まっておる。生きたまま、止まっているのじゃ」

あまりにファンタジーな展開に、辺りがざわめきだちます。

 

「私は、空腹も眠気も感じません。ただ、痛みが……」

「あたしは痛くないが、すごく腹が減ってるよ。あの時のままでさ」

「そのようじゃな。痛い、と思ったまま落ちた者は痛みが抜けん。腹が減っていた者は腹が減り、居眠りしていた者はねむいじゃろう」

 

「では、ここへ落ちる直前の感覚が持続していると……?」

「持続……時は止まっているのじゃから、持続とは言わんじゃろうが、何と言うか、確定? まあそこはよいか……」

 

「じいさん、よくねえよ。血が流れ続けて死んじまいそうだ」

商人のような男が、血溜まりの上に丸まって右側の肩と脇腹を押さえていました。

 

「それはいかん! おぬしは重体じゃ。手当てしてあげなさい。他のかたもこの騎士団員に診てもらうがよい」

 

オディロ院長がそう言うと、小柄な騎士団員の回りが更に明るくなりました。この騎士団員は驚異的な回復術を使える医療のエキスパートでした。見る間に男の出血を止め、ベホマをかけてやります。それを見て、負傷した人々が列を作りました。

 

「……院長、俺たちは、ここから助かるんでしょうか」

大柄な騎士団員がオディロ院長に聞きます。

 

「……うむ、それじゃが……」

オディロ院長は騎士団員をそっと手招きしました。

「……えっ? 何ですって? マルチェロも来ている?」

 

何ということでしょう。

(暗黒神の憑依のせいとはいえ)法皇様を亡き者にしたあのマルチェロが。(操られていたとはいえ)暗黒神を蘇らせた、あのマルチェロが。

 

このゴルドの底に来ている?

 

「院長様、ここにいる者たちの中には、マルチェロをよく思っていない者もおります。どうか、内密に……」

「わかっておる。大丈夫じゃ。あの子は別の部屋におる。『大罪の間』じゃ。今はわしの管理下にある」

「『大罪の間』ですか……。そんな所が……。……会えませんか?」

「ダメじゃ。だが、救いはあるのじゃ……話せば長くなるんじゃが……。手っ取り早く言えば、皆を助けるためにあの子は、暗黒神を倒さねばならない」

「は?」

「相変わらずお前さんはトボけておるのう。ちーとも変わっておらん……」

 

オディロ院長は、小柄な騎士団員が人々の治療を終えるのを待ち、二人に話し始めました。

 

「……ゴルドが落ち、お前さんたちがここへ来たあとじゃ。地上で何日経ったか解らんが、マルチェロがゴルドの浜に打ち上げられた。わしは意識のないあの子を見ておろおろしてしまった。死人のわしにはどうすることもできんのでの。すると女神がわしに言った。『お前の愛し子か?』と。わしは『そうです』と答えた。『この者は私を信じぬ。故に、私もこの者を信じぬ』と女神は言った。女神はたいそう機嫌を悪くしておっての。このままではマルチェロはおろか、ゴルドに落ちたお前さんたちも永遠にここに閉じ込められてしまう。そう思ったわしは、女神に申し上げた。『この者は、暗黒神を倒す力があります。どうか助けてやって下さい。まずは女神よ、罪なきあの子羊たちを救いたまえ』と。しかし女神は『あの子羊たちは忠義である。しかし、あの者を救えば、子羊たちはあの者に従い、私を信じなくなる』と言った。なんと、器の狭い神だと思ったが、ここはどうにかこっちのペースにもってこなければならん。わしは『いや、女神よ。あの者は貴女を信じぬわけではない。教会や坊主に祈りを任せておいて、女神の加護を賜ろうとするのを改めようとしているだけじゃ』と言った。女神は、しばらく考え、……実に、地上タイムにして5日以上考えておったな。その間に勇者一行が宙に浮く暗黒神の住みかを壊したのじゃが、暗黒神は間一髪逃げ出して、保護膜に入ったまま空中に浮いておる。巨大な黒い塊じゃ」

院長は、ぶわっくしょん! と豪快にくしゃみをし、続けました。

 

「女神は『では、チャンスを与えます。暗黒神ラプソーンを倒しに行こうとしている者がいますね。あの者たちがいずれ必要となるものを預けます。ラプソーンの杖が殺めた、7人の賢者の没した地に、わが秘宝を置いてくることが出来たら、お前の願いを叶える』と言ったんじゃ。わしは内心ラッキーと思った。あのマルチェロのことじゃ。そんなこと、朝飯前じゃからな。しかし、女神も女神。条件をつけてきた。『更に試練を与えます。簡単に達成できぬよう……あの者の視力を預かります。夜、月の光の中でだけ、見えるようにしましょう。それでどうです?』と。わしは焦った。いくらあのマルチェロでも、目が見えなくては旅に出られない。そこでわしは言った。『女神、それでは暗黒神を倒すのが遅くなります。せめて、無能でよいから付き人を一人……そうじゃ、それと犬を一頭つけてくれぬか?』と」

 

「無能な付き人と犬?」

「そうじゃ。女神は言った。『盲目の騎士と無能な付き人と犬か。まあいいでしょう』と……。それでの、今は女神待ちじゃ」

「女神待ち?」

「そうじゃ。今、『大罪の間』でマルチェロと付き人と犬に説明をしておる」

オディロ院長は楽しそうにくるくる回りました。

 




次からオーブを置く旅が始まります。
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