DQ8 オーブと罪びとの旅   作:ぽんぽんペイン

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一人だけはぐれてしまったマルチェロ。パルミドにいます。


夢で会えたら

──さて、どうしたものか……。

 

 

ドルマゲス、レオパルドとはぐれてしまったマルチェロは、パルミドの井戸のサウナで一晩を過ごしました。

 

月明かりがまだわずかに残る明け方、マルチェロは井戸から外へ通ずる縄ばしごを昇ります。

 

──レオとドルマゲスはサヴェッラに向かったのだろうか……。

 

南の大陸からは確か定期船が出ているはずだと思ったマルチェロは、とりあえず酒場へ向かいました。あのマスターなら、何か知恵をかしてくれるかもしれないと考えたからです。

 

ぼんやりとしか見えない視界の中、懸命に酒場へ向かいました。

 

 

酒場の営業は終わっていましたが、一人後片付けをするマスターの姿がありました。

 

「おや! あの時のお坊様じゃないですか? どうなさったんです?」

マスターは、すぐさまマルチェロを店に入れてくれました。

 

「……実は連れとはぐれてしまったのだ。夕べはサウナで世話になった」

マスターは暖かいお茶をマルチェロに出し、自分も水を持ってカウンターに座りました。

 

「賢者の弔いをされてらっしゃるのですよね……。すべて終わったのですか?」

「いや……。あとはサヴェッラの法皇さまのところだけだ。……マスター、サヴェッラに行きたいのだが、定期船は運航しているだろうか?」

 

「マイエラの船着き場からの定期船は通常通り運航しています。……でもお坊様、お目が……」

「ああ……マイエラまで行けば、修道院に助けを求められないかと思うのだが」

マルチェロの言葉に、マスターは深いため息をつきました。

 

「マイエラ修道院ねえ……」

「……」

マルチェロは、数日前に訪れたマイエラ聖堂騎士団の体たらくぶりを思い出していました。パルミドにまで噂は届いているようです。

 

「……あそこのやり手の若い院長が法皇さまになるってんで、ドンチャン騒ぎしてるらしいですよ。あっ、修道院には行かれたのでしょう?」

「行った。情けない限りだ。……私もあそこで学んだ。オディロ院長は素晴らしいかただった……」

「そうだったんですか……。今は群れのリーダーが不在で、巣で羽を伸ばしているだけだと思いたいですが。マルチェロ新法皇は行方不明、主要な騎士団員の方々もゴルドに飲み込まれたと言うではないですか。マイエラの人たちは、それを信じようとしないとか。……お坊様、悪いこと言いません。マイエラに助力を求めても無駄です。いっそアスカンタのお城に求めたらいかがでしょうか……」

 

──それほどまでに……。私は騎士団をしっかりまとめていたつもりだった。私の右腕たる団員は、確かにゴルドの就任式に来ていた。他の者と。後のことは修道士の……。いや、修道士では騎士団をまとめられん。副団長は団長にちゃんと昇格したのだろうか。あいつは真面目だが、リーダーシップに欠ける……。古参の団員がしっかり固めれば大丈夫だろうが、みなゴルドに落ちたとすれば、気の荒いものたちを統率できていないのだろう。……なんということだ。私は騎士団を捨てたのか……。私はなぜ杖を取ったのだ? ドルマゲスもレオパルドも、なぜ杖に操られたかわかったというのに……。私もサヴェッラに行けばわかるはずだろうに……。

 

マルチェロは頭を抱えてしまいました。酒場のマスターはそんなマルチェロに困惑ぎみです。

 

──女神よ、サヴェッラへは一人で行けということなのか……。

 

いえ、単なる手違いかと思いますが……。ドルマゲスもレオパルドもサヴェッラで待ってますよ。

 

──仕方がない。夜まで待ち、路銀を稼いで船着き場から定期船に乗ろう。

 

「マスター、身体の具合が悪いのだが、宿屋まで案内してもらえないだろうか」

「それはいけませんね。きっと地下サウナの空気が悪かったのでしょう。すぐにご案内しましょう。私が話をつけます。ただし、お坊様、身の回りのお品にはお気をつけください。盗人が多いですから……」

「かたじけない……」

 

 

マルチェロは宿屋で夜まで休むことにしました。

 

「……騎士団宿舎並みに固い寝台だ……」

マルチェロは懐かしい感触に安心し、すぐに眠りにつきました。

久しぶりの熟睡……。

 

 

「……団長どの、マルチェロ団長どの?」

──誰だ? ……夢だな。

 

「……どうしたんです? そんなところで」

──私を見ているのか?

 

「……ずいぶん落ちぶれちまったようですね。団長どの」

──何だと?

 

「ゴルドでの約束、守って下さってるんですか? みじめに生き延びてますか?」

──貴様っ! ……身体が動かん!

 

「みじめというよりは、楽しそうですよ? 行く先々でももてなされてらっしゃるようだし。夕べもサウナでお楽しみだったようですが?」

──バカ者め!

 

「団長どの? あなたは団長でいればよかったんじゃないんですか? 暫定的な院長はいいとして。何が欲しかったんです? 名誉ですか? 地位ですか? それとも世界征服でもするつもりだったんですか?」

──お前に何がわかる!

 

「わかりませんよ。だから聞いているんでしょう? いや、団長どの。ご自分でもわからないんでしょう? まさかサヴェッラへ行けばわかるとでも?」

──。

 

「自分の行動も省みないで、自動的に真実がもたらされるとでも? ドルマゲスやレオパルドみたいに苦しみもしないで。なぜ、今一人なのか、その意味をお考え下さい」

──意味だと?

 

「ええ。オレを追い出してから、あんたの歯車は完全に狂った。オディロ院長が亡くなったときは、騎士団はまだみんな一つになってた。ちゃんとまとまってた。それなのに、オレを追い出して、勝手に外へ出た。変な人に取り入って。あんたはバカだ。オレをバカだバカだと言ってたけど、あんたのほうがバカだ。オレの仲間は最高だ。あんたより頼りなくて、おっちょこちょいで気が強い仲間だけど、自慢の仲間だ。あんたが取り入った腐れ坊主さえ、オレたちに頭を下げた。あんたは道を間違った。……言えよ! 何が欲しかった?」

──やめろ。

 

「言え! 兄貴の欲しかったもの、そして今も欲しくて欲しくて仕方がないものは……」

──やめろーーっ!

 

 

 

はぁ……はぁ……、はぁ。

 

マルチェロは寝台の上でゆっくりと身体を起こしました。

まぶたの裏に、熱い陽射しが注いでいます。思い切り直射日光をあびた頭はガンガンと脈打ち、マルチェロの思考回路を麻痺させていました。

 

マルチェロは注意深く手を伸ばし、サイドテーブルの水差しを取りました。

 

「……なんという夢だ。最悪だ……」

何度もグラスに水を注ぎ、ため息とともに水分を取り込みます。水差しが空っぽになる頃、ようやく頭の中に立ち込めていた霧が晴れてきました。

 

「最悪だ……」

最悪、と何度も繰り返すマルチェロ。秀でた額には汗がにじみます。それなのに、身体が震えて仕方がありません。

 

ふうっと大きく息をつき、握りしめていたグラスをサイドテーブルに戻しました。

 

──最悪、だ。

 

月の出まではまだかなり時間がありました。マルチェロは、最悪、と時々口に出す他は、身動き一つせずに考え込んでいました。

 

 

「……また眠っていたのか……」

朝方、嫌な夢を見、日暮れまで考えごとをしていましたが、また眠ってしまったようでした。まるい月が顔を出しています。女神の試練で視力を奪われているマルチェロは月光のもとでだけは見ることができます。

 

「行くとするか」

誰に言うともなくそうつぶやき、パルミドの宿を出ました。

 

──船着き場へ行く間、魔物を倒して路銀を稼ごう……。

 

マルチェロは船着き場へ向かいます。

 

──北の船着き場まではあと2時間ほどか。東へ行けばアスカンタ……西はドニ……。

 

──ドニ……?

 

ドニ。マルチェロが生まれ育った町。屋敷を追い出されてからは、酒場にククールのツケを払いに行く他は、教会に業務連絡にたまに行ったくらいです。

 

「何故だろうか? ドニが懐かしい……」

自分のふるさとはマイエラ修道院である、今のマルチェロを育ててくれたのはオディロ院長である……決してドニの生家ではない……そう自らに確認するマルチェロ。

 

──では、暗黒神の杖をとった私とは……。

 

マルチェロは頭を振ります。

 

──ククールを追い出したのは私だ。邪魔な勇者一行とニノを投獄したのも私だ……。

 

──私を育てたのがオディロ院長さまならば、今の私を見て何とおっしゃるか……。

 

マルチェロの翡翠色の瞳がじわりとにじみます。「そんな子に育てた覚えはないと、叱って欲しい」と、子供じみた考えが頭に浮かびました。

普段のマルチェロなら、ふんと一笑して済ませてしまうところでしょう。しかし、今は涙が次々に流れていきます。

 

そしてマルチェロは魔物を倒すこともせず、走るようにしてある場所へ向かいました。もっとも、この時のマルチェロは、自分の行き先を意識していませんでした。

 

 

 

「……まさか? いや、違うだろうね」

「全然違うだろう。おかみさんもボケたかい?」

 

無我夢中で走り、たどり着いたのはドニの酒場でした。

客たちは自分の噂をしているのだろうか……聞こえてくるそんな会話の中、マルチェロは案内された席につき、ミネラルウォーターを注文しました。

 

「……お坊様、目が見えないんですって? 難儀なことだねぇ」

労るように声をかけるのは酒場のおかみ。修道院時代だけでなく、ドニの生家にいた時からあれこれと気にかけてくれた人です。

 

マルチェロは名乗ることもできず、渡されたミネラルウォーターをただ黙って口にしました。

 

──私が私でないということが、かようにももどかしいと思ったことはない……。もっとも、名乗ったところで、女神の試練により、私が私であるとはわからないようになっているのだ。

 

時間も時間。客がどんどん増えていき、まだ何か話したい様子のおかみでしたが、マルチェロに背を向け、接客に走ります。

 

「しかし、似ていらっしゃる」

「世の中には自分の他に3人そっくりな人間がいるというが……」

「……いやあ、嬉しいじゃないか。……おごらせて下さい!」

 

マルチェロの周りに何人か集まってきました。話の内容からして、マイエラ聖堂騎士団のようです。

 

──聞いたような声だが、誰だかわからぬ……。

 

目の見えないマルチェロは思いきって声をかけました。

「マイエラ修道院のかたですかな?」

すると、集まっていた男どもは、「おうよ!」と言ってマルチェロを囲みました。

 

「いやあ、あんたは本当に我が騎士団長……院長に……」

「法皇さまだぜ!」

法皇、と聞いてマルチェロの胸がチクチクと痛みます。

 

「……似ていると?」

「そっくりだ。その落ち着き、緑の瞳、マルチェロ団長に……」

酒場にいた騎士団員が更にぞろぞろと集まってきます。

来る者全てが口々に似ていると言うものですから、マルチェロは少しうんざりしてしまいました。

 

「ちょいと、騎士団のみなさん、もうおよしよ。マルチェロ坊っちゃんは……」

 

──マルチェロ坊っちゃん、か。おかみはいつまでも私を子供扱いだ。

 

薄く笑みを浮かべるマルチェロを、おかみは不思議そうに見ていました。

 

「いや女将……その、マルチェロはゴルド崩壊とともに行方不明になったと聞いているが」

マルチェロは、自分のことがどう話されているのかに興味を覚え、そう尋ねました。

 

「ええ。マルチェロ坊っちゃん……院長さまは、法皇就任演説の途中、何者かと戦いになり、決着がつくかつかないかという時に、杖が生き物のように飛び出して女神像を砕いたと……像の中から暗黒神が生まれ、その衝撃でゴルドは落ちたそうです。演説に来ていたほとんどの人が、その大穴に落ちてしまい、助けることができません。マルチェロ坊ちゃんも、おそらく……」

おかみはしくしくと泣き出してしまいました。

 

「おかみさん、大丈夫だよ。マルチェロ団長は不死身なんだ」

「そうだよ。ゴルドの大穴に落ちたとしても、ただで這い上がっちゃこない。必ず戻ってらっしゃるさ」

 

騎士団員たちは楽観的にみているのでしょう、マルチェロに酒を勧め、お祝いモード全開です。

マルチェロは勧められるまま2、3杯を口にし、あとは丁寧に断りました。

 

「就任式から戻った団員はいないというのか?」

「いないね。皆、マルチェロ団長と一緒だ」

「みんなで戻って来るさ! 団長なら大丈夫」

「おい、お前ら、団長じゃねえ、院長でもねえよ。法皇さまだ」

 

団長、院長、法皇……。自分の肩書きを並べられ、やはり「団長」と呼ばれるのが最もしっくりくる気がするマルチェロです。

 

「もし……、もし戻らな……」

もし戻らなかったらどうするか、と聞こうとしたとき、おかみが水をこぼしました。

 

「あっ、なにしてんだよ、おかみさん」

「大丈夫かよ、ほら、坊さんにもかかっちまってるぜ?」

「……すまないねえ、年のせいだよ。手がすべっちまった」

おかみは、マルチェロにかかった水分を拭き取ります。そして、マルチェロだけに聞こえる小さな声で言いました。

 

「お坊様、それは禁句です。騎士団の人たちは、現実を見ようとしない。ゴルドで仲間が死んだなんて信じたくないんだ。もちろん、マルチェロ坊っちゃん……院長さまも。だから、戻らなかったらなんて絶対に聞いちゃいけない」

 

「しかし、修道院は荒れてしまった……」

「お坊様、行ったのかい? マイエラ修道院に」

「主不在の様相を呈していた」

おかみは、そりゃそうだろうよ、と言って新しいミネラルウォーターを手に持たせました。

 

「……みんな、マルチェロ坊っちゃんに頼りすぎた。坊っちゃんの参謀である団員も皆ゴルドに飲み込まれた。誰一人帰ってきてはいない。それから修道院は無法地帯さ」

「本当に、誰一人? 皆ゴルドに落ちたというのか?」

 

マルチェロはまさか、誰もということはないだろうと思いました。

 

──まさか……。

 

「……ああ。誰も。マルチェロ坊っちゃんも、ククール坊っちゃんにくっついていた小さい騎士団員も、人のよさそうなあの大柄の騎士団員も……」

 

「誰も……」

マルチェロは、いらないと言うおかみの言葉を制し、カウンターに代金を置いて酒場を後にしました。

 

 

──誰も……誰も? 誰一人戻っていない……?

 

ふらふらした足取りでドニの町から出ます。

 

──私は何をしたのだ? なぜゴルドが落ちたのだ?

 

見上げれば丸い月。

 

 

──なぜ、杖は女神像を貫いたのだ?

 

──なぜ、杖は法皇を殺せと言ったのだ?

 

──なぜ、私は杖を取ったのだ?

 

──なぜ!

 

混乱し、ふらふらと夜道を歩くマルチェロ。魔物は容赦なく襲ってきます。反撃しないマルチェロは、少しずつ体力が減り、膝をつきました。

 

──もう終わりか……。

 

その時、「もう止めて!」という声がこだまのように頭に響きました。勇者一行に攻められ、あと一撃で死ぬかというときの。

 

──あの時と同じか。あれは誰が言ったのか……ククールだったか、赤毛の娘だったか……。バンダナの少年は、悲しそうな目をしていた……。

 

──意識が遠くなる……。私は何をしてしまったんだろう。私の一生とはなんだったのか……。

 

魔物の数はどんどん増え、マルチェロを襲い続けます。

 

──ドニの生家を追われ、オディロ院長に助けてもらい、マイエラ修道院で生きると決断し……。それなのに、修道院をあんなことにしてしまった。私の責任だ……。法皇になれば全てが手に入り、思い通りの統治ができると思ったのだ……。パルミドの治安維持も、サザンビークの財政難も、トロデーンの不可思議な呪いも……。統べることができると……。知りたかった、世界を。世界に私の力を及ぼしたかった……。

 

──それなのに、騎士団を失おうとしている。常に共にあった騎士団……。

 

──救わねば。今、私にできることはそれだけだ!

 

 

瀕死のマルチェロは、立ち上がり、渾身のグランドクロスを発動しました。

 

まばゆい光とともに魔法の力が魔物を攻撃。マルチェロの周りにいた魔物は一掃されました。

 

はあはあと息を切らすマルチェロ。魔物が散った跡にキメラの翼を見つけました。それを手にしたマルチェロは、迷うことなくゴルドを念じました。

 




船着き場からサヴェッラの定期船があることにしています。一人になったマルチェロ。夢にククールが出てきたりしていろいろ混乱しています。
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