DQ8 オーブと罪びとの旅   作:ぽんぽんペイン

9 / 16
リブルアーチに到着です。


リブルアーチで

「かーっ! やりましたね、旦那ぁ。リブルアーチですぜ! 勇者がやってきた時ぁ、ヒヤヒヤしましたよ」

ベルガラックのユッケからキメラの翼を貰い、逃げるように翼を放ったマルチェロ一行。今度はちゃんと目的地のリブルアーチに到着しました。

 

ベルガラックで降っていた雨、このリブルアーチでも同じように降っています。気温が少し低いのかもしれません、ベルガラックよりも冷たく感じます。一行は石造りの道をハワード邸に向かって静かに歩いていました。

 

「……レオ、大丈夫か?」

「兄さん、すみません。足が…すくんで…」

月のない夜。レオパルドに先導されて歩くマルチェロですが、その歩みが次第に遅くなり、ついに止まってしまいました。マルチェロは腰をかがめ、優しくレオパルドの背を撫でます。レオパルドは鼻づらをマルチェロの身体に押し当て、どうにか安心を得ようとしました。そのようすを見ていたドルマゲスも、今回はケンカを売ることなく小さく息をもらしました。

 

「……レオパルドはリブルアーチであの杖を拾っちまったんだもんな……。犬だもんな、棒っ切れがありゃ拾うだろ……」

レオパルドは、チェルスを殺してしまったことを思い出し、どうにも進めなくなってしまったのです。黒く長い尻尾も後ろ足の間に入り、耳も緊張で震えています。

 

一行は、町へは入らずに、とりあえず雨の当たらない場所を探して腰をおろしました。

 

「なあ、レオパルド、お前だけは杖のせいだよ」

ドルマゲスがレオパルドの隣に座ります。

 

「俺だけ?」

「ああ。……俺は、きっと一番の悪者だ。トロデーン城からあの杖を盗み、師匠とサーベルトとオディロ院長、それからギャリングを殺しちまった。俺ぁ……師匠を殺した時、気づいてたんだ。こんなことしてどうするって。いや、その前に、杖の力が強すぎて、俺じゃコントロールできないこともわかっていたんだ……トロデーン城に呪いがかかった時に。あれは、俺の予想外の力だった。だけど、あん時ぁ、とにかく力が欲しくて杖を利用し続けることにしたんだ」

マルチェロもレオパルドも、ドルマゲスのその話を聞くのは初めてでした。雨音がバラバラと木の葉を叩きます。

 

「……師匠を殺した時、暗黒神が息づいた。旦那とレオパルドならわかるだろう? 杖が息をしてるんだ。次にサーベルトを殺したとき、暗黒神の心臓の鼓動が聞こえた。杖がドクンドクンと脈動して、まるで、血が通ったみたいに」

マルチェロは、杖を手にした時、すぐにそれを察知していました。ドルマゲスの言いたいことはよくわかります。

 

「オディロ院長を殺したとき、暗黒神は考え始めた。俺に意思を伝えてくるんだ。あの時は、それがなんだかはわからなかった」

マルチェロは、暗黒神の言葉を聞きました。杖は常に語りかけてきて、マルチェロの心を乱したのです。ドルマゲスの元にあった時は、まだそこまでの力はなかったのでしょう。

 

「……あいつは少しずつ、復活の力をためていったんだ。賢者を殺すことで。封印とかいうのが解けていったんだ。こうなったらもう駄目だ。俺はもう俺でなくなって、ギャリングを殺した。その時、あいつに手足が生えた。あいつは動きたかった。身体が欲しかったんだ。俺という入れ物をコントロールしていたが、大きくなりすぎて収まり切れなくなってきた。だから、闇の遺跡で入れ物である俺を育てた。へんな袋の中に俺を入れて。……そこへ、勇者がやって来て、俺は倒された……」

「……強かったか? あいつらは」

マルチェロが尋ねました。

 

「旦那、あいつらは複雑な迷路を解き、多くの魔物をやっつけながら遺跡の最奥までやって来た。俺の前に立つあいつらからは、空と海と大地のにおいがした……あったかくて、強くて、ゆるぎない力。……俺はあの戦いの中で、負けていきながら、自分を取り戻していった。何故、力が欲しかったのか。何故、師匠を殺したかったのか」

ドルマゲスは空を見上げます。

 

つられて見上げるマルチェロとレオパルド。雨はまだ降っていましたが、薄い雲の向こうにぼやけた月の姿がありました。

 

「わかったのか? ドルマゲス」

「ああ、レオパルド。お前もわかるさ。チェルスと婆さんのところへ行けば」

マルチェロは思います。ドルマゲスは、自分が殺した4人の現場を訪れた。泣き叫び、許しを乞うていた姿は、あれはドルマゲスがああいう性格だからではない。本心からの懺悔なのだと。現場に近づくにつれ、毎回怯えていた。今、レオパルドの足がすくむのも同じこと。

 

──私も同じようになるのだろうか……。

 

無言でレオパルドの背を撫でるマルチェロ。いつの間にかレオパルドの身体のこわばりがなくなっていました。

 

「兄さん、ドルマゲス、俺の話も聞いてくれ」

「もちろんだ」

レオパルドはゆっくりと座り直し、マルチェロとドルマゲスに寄りかかるような体勢になりました。

マルチェロは背を撫で続けます。

 

「……ドルマゲスが消えたあと、杖を持っていたのは女勇者……ゼシカだ。勇者たちはドルマゲスを倒したからもう大丈夫だと思ったんだろう。だが、甘かった。杖はゼシカに取りついた。彼女は、ドルマゲスを倒しても兄貴のサーベルトは生き返らない、トロデーンの呪いも解けないことに落胆していた。暗黒神はその精神的な隙間に入り込んだ。ゼシカは魔法使いとしてかなりの能力があったから、暗黒神はそれを利用した。ほとんどのっとりかけていたんだ。そしてゼシカにチェルスを殺させようとしていた」

ここまで一気に話したレオパルドは、大きく息をつき、続けます。

 

「でも、勇者の仲間はすぐに杖を取り上げた。ゼシカはドルマゲスと同じにはならなかった。今ならわかる。ゼシカは杖の力など欲しくなかった。自分が何者か、どうすればいいのかを知ったんだ。俺はこう考えた……恐らく、トロデーンの呪いを解きたいんだと。私利私欲のためじゃない。何の罪もないトロデーンの国民が石みたいに固まっちまって、王は魔物に、自分と同じくらいの姫が馬になっちまったんだ。助けたい、自分ならその力になれる……仲間と一緒にってな」

「仲間か……俺にゃ仲間なんていなかったな。俺は誰よりも強くなりたかった。誰からもバカにされたくなかった。……仲間。……俺になくて、サーベルトの妹にはあったものだ」

ドルマゲスはしんみりと肩を落とします。

 

「貴様には師匠がいたのだろう?」

「はい……ですがね、旦那、親代わりに面倒を見てくれた師匠だったのに、俺は突っぱねた。身寄りのない俺にとっちゃ、たった一人の家族だったのに……」

ドルマゲスはまた涙と鼻水を豪快に吹き出しながらおいおいと泣き出しました。

 

「……俺は悲しいかな、犬なもんでね、ハワードのおっさんに忠誠を尽くしてました。チェルスがどんなにいいヤツかわかっていながら、俺におびえたりするのが面白くて……。俺はハワードのおっさんの威を借りてただけ……」

呪われしゼシカが落とした杖。それをレオパルドは拾ってしまった。

 

「杖を拾ったのも、犬だから、なんだろう? 仕方ねぇよ」

「そうだ。ドルマゲス、だから俺は杖に忠誠を尽くした。簡単なことだった。……ハワードのおっさんもチェルスを少し疎ましく思っていたことを知っていたから、チェルスを殺したことを自分の中で正当化した。チェルスの亡骸にすがりつくハワードのおっさんの姿を見て見ぬ振りをした」

 

「で、次にオークニスに行ったんだな?」

「そうだ。もう俺は俺でなかった。翼が生え、空を飛んだ。暗黒神は、人間の主人ではできないことを俺にさせた。俺は人間に勝ったとまで思った。だから、婆さん一人殺すのなんて訳のないことだった……。俺は……俺は……残虐な行為が快感だと思ってしまった……」

レオパルドは犬です。主に忠誠を誓うことや、獲物をとることは犬ならではの習性。マルチェロは思います。レオパルドを悪いと責められるだろうかと。しかし、だからと言って身内を殺された悲しみを、仕方がないと諦めることはできない……。

 

 

──あいつらは気づいた。倒すべきものは、暗黒神なのだと。ドルマゲスを倒した時に気づいたのだ……。

 

──私に最後の一太刀を浴びせなかったのは、ゼシカに最後の一太刀を浴びせなかったのと同じ……私はあいつらの仲間ではない。なのに……何故……。

 

 

「……兄さん、ドルマゲス、俺は行く。俺が殺してしまった人のところに、女神の秘宝を届けます」

レオパルドは、そう言うと、すっと立ち上がりました。

精悍な顔を月に向け、遠吠えをしました。

細く悲しい声は、遥か北のオークニスまで届くかのようでした。

 




次はハワードに会います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。