「雅」
「はい」
彼女はベッドの端に腰掛け、シャツのボタンを首元から順々に外しながら俺の名前を呼ぶ。
ボタンが外れていく事でボタンに拘束されていた彼女の豊満な胸は少しずつ解放され、シャツの隙間からは白い肌と鮮やかなピンク色の可愛らしい下着を覗ける。
男なら誰でも目が釘付けになるその光景を、男である俺は例に漏れず目を逸らさずに終始見続けていた。
そして名前を呼ばれた時も俺は下着を見ていたことに悪びれる訳でもなく、ただ単調に返事を返した。
「さっきから私の着替えをジロジロ見てきて、ちょっと引くよ? あっ、もしかして今夜はYES? うんうんいいよ♡ だーい歓迎だよっ♡」
「引くって……。あの、ここ、俺の部屋なんですけど。着がえるなら自分の部屋で着替えて貰えません?! あと別にYESじゃないですし!」
「またまた~♪」
全てのボタンを外した彼女は今度はスカートに手を掛け、ぱつっとホックを外す。
ホックが開いた事でそこから覗けるショーツはブラジャーとお揃いの可愛らしいピンク色で明るい性格の彼女によく似合っていた。
しゅるしゅると布擦れの音を立てながら取り払われたスカートは床に投げ捨てられる。
薄い桜色にベールを掛けたような透き通った太ももは蛍光灯の明かりを反射してキラキラ輝いていた。
目線を上げれば肌の色とは対照的な色濃いピンク色のショーツがある辺り彼女のセンスが光る。
全開のシャツから見える引き締まった腹筋はすらりと縦に線が入っていてとても綺麗だ。
彼女はいやらしさとか色っぽさとかその程度の感情、彼女の前では無意味だと言えるほど極々自然にブラジャーを外した。
たわわーだ。今日は金曜だけどたわわーしてる。毎日がエブリデイ並みに毎日たわわーしている。
ここ数年で見慣れた筈の彼女の胸に、いつものことながら動揺を隠せない。
揉みたい。乳白色の胸肉を素直に揉みたい。揉むとは言わないから手の平いっぱい沈めたい。もう顔を埋めたい。
思考の大半を奪われてしまったが、これでも俺は冷静だ。
襲わない。大丈夫だ。なんたってここは、
「……って、俺の部屋で何してるんですか師匠!!」
「何って、ナニだよ。ほら、おいで♡」
ばっと広げた師匠の両腕に無意識に飛び込みそうになるのをどうにか抑える。
正直俺の体は素直に師匠に包まれたがっているがそこは理性で全力でカバーした。今度から自己PRに強靭な理性とか書けるレベル。
「ちょっと意味深な言い回しはやめて下さい! 俺が高校に入るまでしないって約束したじゃないですか!!」
「……だって、雅が人の着替えとか素肌とかジロジロ見てきて誘ってるんだもん」
頬を膨らませ唇を尖らせた師匠は今すぐに抱き締めたいくらい可愛いが俺は誤魔化されない。
「人の部屋に突然入ってきて着替えし始めた素敵な美女からなんで目を逸らせるんですか!? 俺男子中学生ですよ!? 青春真っ盛りのナウいボーイなのですよ!?」
「ふぇっ!? び、美女? 素敵? 私のこと? ふぇ、ぇえへへ……♡♡」
熱くなった頬を両手で挟みながら師匠は俺のベッドの上を嬉しそうにゴロゴロ転がる。
日常茶飯事のことではあるけど週末ということもあり流石に疲れが出始めてきた俺は胸の奥から重い溜め息を吐き出す。
「あ~、じゃあ風呂入ってくるんで師匠は自分の部屋に帰ってて下さいよ?」
「お風呂!?」
一気に起き上がった師匠は気付けばシャツは着ておらずショーツ1枚になっていて、目を逸らさずを得ない。
「私もお風呂入りたい! 一緒に入ろっ? ねぇ、お願い! 入りたい! 雅とお風呂入りたい!」
「だーめーでーす!! 何回一緒に入って俺のこと溺れかけさせたと思ってるんですか!?」
「あの頃から私も成長したからさ! 大丈夫だって! 溺れさせないように頑張るから!! お願いお願いお願いお願い!!」
ベッドの上でばたばたと子供みたいに駄々をこねる姿は巨乳美女のそれではなく、逆にレアなのでは? と目の前の光景に価値を考えてみるが、やはり見苦しい以外の何物でもない。
「Hなこと何もしないからさ! 洗いっこしてお湯に浸かるだけ。ね? いいでしょ?」
「ね? じゃないんですよ! 師匠の"洗いっこ"は"先っちょだけ"と類語なんですよ!もうアウトフラグですよ! 絶対に入りませんから!」
「じゃ、じゃあ、今回は真面目な所洗うから!」
「例えば?」
「ふぇ!?……ぁぅ……んーっと」
視線を上に逸らし考え出す師匠。考えてなかったのかよ。
「太ももとか!!」
「絶対ダメなやつ」
「胸筋とか!!」
「素直に胸弄るって言った方が良かったですよね」
「お尻とか」
「……真面目にそれはやめて下さいよ? 怒りますよ?」
「じゃあ、どこならいいって言うのさ! さっきからダメダメ言って!」
師匠は不満そうにマットレスをボフンボフン叩いて抗議してくる。それさっき綺麗に整えたベッドなんですけど。
かといって師匠に触られても良い部位なんてかなり限られている訳で。例えば純粋に背中だけだったら洗いにくいし、いいと思うんだけど。
待て。俺はなんでセーフライン考えてるんだよ。
「一緒に入らないって言ってるんだから全部蹴ったっていいじゃないですか!!」
「ぬぬぬ……じゃあ、背中!! 背中流すのは!? いいでしょ背中ぐらい!!」
「うぐぐ……。背中だけですよ、背中だけですからね!!」
「頭も洗う! 頭もいいよね! っじゃあ決まり! お風呂入るよ!!」
「や、ま、待って! 腕掴まないで!!」
俺は師匠に腕を引かれドタバタと慌ただしく浴室に連れ込まれたのだった。
* * *
「ひ、一人で脱げますから! 一旦外に出て、ひゃっ、待って! ズボン下ろすのにゃあああ!!」
脱衣所で身包み剥がされた俺は、涙目で師匠にやや押されながら浴室に入りイスに座らされた。
ざぱっぁああ!!
頭から全身を濡らすように掛けられた水は1回で全身の表面を洗い流される。
「……お湯掛ける時は一言言ってからにしてください」
そんな俺の言葉に悪びれることなく師匠はマイペースにしゅこしゅこと体洗う用のタオルに石鹸を含ませ泡立てていく。
するりと胸に添えられた師匠の左手に俺の体が動かないよう力が入ったかと思うとゴシゴシと背中に軽い痛みが走った。
痛みと言ってもマッサージ的な痛みで、むず痒かった部分を擦っていかれるとなんとも言い難い心地よい気分になる。
「加減はどうですか?」
「あっ、はいっ、大変気持ち良いです」
聞き慣れない師匠の丁寧な言い回しにそういうお店に来たような気分になり、返事もついつい変になってしまった。
師匠の心地よい手捌きに早くも眠気に襲われてくる。
師匠凄すぎでしょ……。こんな素敵な女性と早く結婚したいな……。
「それでは約束の部分は終わりましたので」
背中を洗い終わった師匠は俺の左手にタオルを握らせてくる。
ええ、もう終わったの……。もっと気持ち良くなりたかったな~。
「あの、左手を解放して頂けないでしょうか」
「へ? 左手?」
何を言われたか意味が分からず体を見下ろせば俺の右手は師匠の左手をがっちり握っていた。
「え、あ、ごめんなさい!」
咄嗟に離すも、手の感触がなくなると心にぽっかり穴が空いたようにどこか名残惜しい。やっぱり、他の所も洗って貰うのもいいかもしれないね。
俺は振り向いて師匠と上半身だけ向き直る。
「あの、師匠? 全身、頼めます?」
「はい。喜んで♡」
タオルを再度師匠の手に渡すと責任感いっぱいに握り締める姿に思わず俺の頬は緩んだ。
その時の師匠の目が爛々としていたのは忘れられない。
そのあと起きたことは想像にお任せするとするが、結果だけを言えば今夜から俺は高校に入るまで師匠と一度も一緒に風呂には入らなかった。