あの人が好きだから   作:Kurahe

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追跡乙女は失望す

 ツンツン尖り外敵を寄せ付けないウニにも環境の変化を回避出来ないという強烈な弱点があるように、刺々しい態度のオカピ先輩にも猛烈な弱点があった。

 

「オカピー! キャッチボール程度でボールを後ろに逸らすなって言ってるだろ!」

「わーってる!」

 投げた相手に指摘され苛立ったように叫びながら、後ろに落ちたボールを追って走るオカピ先輩。

 その姿は準備の時に見せていた強気な態度からは想像出来なくて、あまりに情けなかった。

 ぷぷぷ。オカピ先輩ってば、あんな手を伸ばしても届かないボールなら後ろに下がればいいのに。ちょっといい人だと思ってたけど必死に走ってる姿見たら、ガッカリしちゃうな。相手してる人は一歩も動かないで簡単に捕れているのに。下手だからオカピ先輩はマネージャー仕事ばっかりやっていたんだ。野球出来ないのに私に上から話してて、今思うと面白過ぎでしょ。

 そうしてキャッチボールはオカピ先輩が何度も捕れずに走ってばかりで終わってしまった。

 

 次の練習メニューはトスバッティングというもの。

 3人1組で軽くトスしたボールをバットに当てる内容で、そこではオカピ先輩はトスしたボールをポコポコ打たれていた。

 まあ、軽く投げるだけだし簡単よね。

 期待していたよりもオカピ先輩はミスをせず残念だ。まあ、時折後ろに逸らしたボールを捕りに走る姿を観れただけよしとしよう。

 終わりの掛け声が聞こえた辺りで、オカピ先輩は投げたボールは心地いい音を出し、先輩の遥か後ろに飛んでいった。

 

 各々ベンチに戻り口に一口水分を含む。その後すぐに今日の練習を顧問から指示を受けるため皆はホームベースの周りに集合する。

 一口だけ? と思ったけどまだ今日のメニューに入ってないから別にいいのか。

 部員が集まるところに私も一応混ざってみる。が、中々話が始まらない。それもまあ当然の事だけど、グラウンドの端まで走っていたオカピ先輩を待っているのだ。

 先生のイライラが空気を伝ってくる。先生につられて部員達の空気もピリピリと張り詰める。

 そんなタイミングでオカピ先輩が全速力で走った勢いを殺しながら来たのだった。

 輪の空いている隙間を探してうろうろしながら、先生の隣にあった1人分のスペースに収まった。

「オカピ、お前トスバッティングでなんであそこまで逸らす必要があるんだ。明らかに練習不足だろ! 次のバッティング練習でオカピは守備練習しろ!」

 まあ、当然よね。あんなに捕れないんじゃあもっと練習するべきだって。オカピ先輩にはガッカリだなあ。もっといい人探そっと。

 

 今から始まるバッティング練習は横からボールを軽く投げてそれを打つものらしい。

 部員を2つのチームに分けて並んで打つ形式で効率良く行われるこの練習は、ホームから1塁のライン上でレフトまで打つ長打力を付けることが目的とのこと。

 これはバッティング練習と聞いて気を利かしてバッティング用ボールのケースを持ち上げたところ、反対側を持つよと近付いてきた3年男子にざっくり教えてもらった。

 これといった特徴のない人で、まあ私のタイプじゃないね。あと優しいのはいいけど、ケースもう1個の方持って欲しかった。2度手間じゃん。2人で持つと無駄に時間掛かるし。

 

 これからボールを打つ方向に目を向ける。そこではオカピ先輩が1人で構えていた。さあ、何回失敗するかな? 楽しみ楽しみ♪

 

―――カーンッ。

 

 空気の抜けるような筋のいい打球音と共にボールはレフト前に。手前で落ちたボールはバウンドし、オカピ先輩のグローブの中へ。

 うーん、そこまで速い打球じゃなかったし捕って当然か。

「オカピ! ワンバンする前に捕れって言っているだろうが! そこは走っていってショーバンなんだよ!」

 しかし先生はオカピ先輩のキャッチが不満らしい。

 そっか外野だから早く捕らないとね。オカピ先輩はダメダメだなぁ。……そういえば、今先生が言ったショーバンってなんだ?

 

「あの、ショーバンってなんですか?」

 私は近くで私をチラチラ見ていた男子に一気に近付き尋ねる。笑顔は忘れず、それでいて分からないことがあるって顔で。

「うっ、ん? ぇ? っああ、ショーバンはねっ、こうっ、ここら辺でねっ―――」

 急接近に狼狽えた男子はしどろもどろに身振り手振りだけで私に伝えようとする。

 ほんっと、運動しか取り柄のない男子はこれだからよ。なんで私が言葉で質問しているのに動きでしか答えられないの? 「こうっ」「ここでっ」ってそれしか言葉知らない?

 私がこれ以上見るのが嫌になって「な~るほど! ありがとうございます!」ってお礼すると、先輩は手を振って練習に混ざっていった。凄く満足そうだったけどなんで? 満足出来る説明じゃなかったよ? 最大限出し切ったの? レベル低すぎだよ?

 

 とりあえず、動きから察するにボールがバウンドする瞬間をキャッチする方法みたいだ。確かにそうすれば持ち上げて投げる動作がバウンドを待つよりずっと早いな。

 呆れながらグラウンドを見ればオカピ先輩は走るのが間に合わず後ろに逸らしたところだった。あーあー、全然捕れてないじゃん。もっと予測して動くこと出来ないかなぁ?

 拾ったボールを1塁に向かって投げるオカピ先輩。そのボールは1回バウンドして1塁に届くと順番待ちの部員達が並んでキャッチしていた。

 ほらぁ、誰も後ろに逸らさず胸の前で格好良く捕れているじゃん。捕るときもピシッと一歩も動かずに捕れているし、なんでオカピ先輩はこういうのを見習わないのかね。

 

 この部活は従来の野球部とは違い、顧問の先生が健康に気を付けているとのことで順番待ちの人達はこまめに水分補給をしている。

 そういう体調管理は大事だと私は思うし、なにより部員共と仲良くなれる最大のチャンスが延々と続く。

 代わる代わる来る男共の休憩中に野球の話やオカピ先輩の悪口で盛り上がった。

 長い時間、談笑してしまえば練習にならないから適度なタイミングで話を切っている私の話術は本当に素晴らしいと自画自讃している。

 それにしてもオカピ先輩はダメダメだなぁ。

 皆の話によればオカピ先輩は勉強も出来ないらしい。前の英語のテストでは27点を取って先生に大声で説教をされたという話は面白かった。教室の離れた2年生もその当時の事を知っていて、どうやらオカピ先輩はこの学校の生き恥とまで言われているみたいだ。

 

 もう、ホントに可笑しすぎて気が付けば部活動の終了時間間際になっていた。皆で並んで挨拶をして片付け始めたとき、オカピ先輩だけは一切片付けることなく荷物まとめて走り去って行った。

 ええ!? オカピ先輩、部活全然出来ないクセに帰るときは秒なの!? 皆真面目に片付けているのに? 最低でしょ。あり得ない。もうあんな人知らない!

 

 こうして私がオカピ先輩に出会って高まっていた好感度は3日目にしてマイナスにまで食い込み始めていた。

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