オオツキ月華伝   作:MATTE!

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月が登る

 男は逃げていた。ただひたすらに逃げていた。

 男は救いを求め、長い廊下をひたすらに走り、乱暴に目的地の扉を開け放つ。

 

 

「アシュラああああああ!!!匿ってください!!」

「うわ!びっくりした!?」

 

 

 突然現れた来訪者に部屋の主、アシュラは驚く。その横にいたアシュラの友は来訪者を見て、長いため息をついた。

 

 

「お前、今度はなにやらかしたんだ?」

「人聞きが悪いぞタイゾウ。俺の話を聞く前から何かをやらかしたと決めつけるのはやめろ」

 

 

 人の顔を見るやいなや物事を決めつけたタイゾウに男は不満を抱き、ムッとなって睨みつける。

 

 

「いや、だってお前。アシュラに助けを求めるときは大体何かやらかした後じゃん」

「……今回は違う」

 

 

 男にも色々と思い当たる節があったのか、苦い顔をする。しかし今回は違うと言い切った。

 

 

「じゃあなんだよ開幕のアレは」

「……ただちょっと弟子と親友を助けてやろうと思っただけだ」

「はい?」

 

 

 全く想像がつかない男の言葉にアシュラとタイドウは頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「……川に、九重とインドラがいたんだ」

「義姉さんと兄さんが?」

 

 

 男はアシュラの兄、インドラそしてその妻である九重。その二人を見かけた際の話をする。

 

 

「なんというかな、二人ともこの前祝言を挙げたばったりだというのに妙に初々しくてな」

「そうだよなーあの堅物のアシュラの兄さんが九重の前だと本当にカチコチだもんな」

 

 

 村の皆はその姿を見て大層驚いたそうだ。タイゾウ自身、里に戻りその姿を見たときは自らの目を疑った。

 それでも人間らしくなった彼を見て、内心ほっとした。

 

 

「俺はあの二人がもどかしくてもどかしくて……片や弟子、片や親友だから本当に心配になって」

「ああ確かに、あの二人を見てるともどかしい!!ってのは分かる気がする。それでどうしたんだ?」

「ああ、だからな俺は、九重がインドラを押し倒せるように、とーんと九重の背を押したんだ」

「「はあ?」」

 

 

 何を言っているんだこの男は、アシュラとタイドウの心の声は一致した。

 

 

「そうしたら九重を支えようとしたインドラがバランス崩して二人とも川に落っこちた。俺は“俺は悪くねぇ!”と言いながらお前らのところに逃げてきた」

「………………」

「………………」

 

 

 男の言い訳が終わり、皆無言の状況が続く。男に関しては自分の言いたいことを言い切ったためか少々満足げの表情であったが。

 後の二人は状況を読み込むのに数秒の時間を要した。

 

 

「……おい。それどう考えてもやらかしてるだろ」

 

 

 状況をようやく飲み込んだタイドウは男がやらかした事実に顔を青くする。

 この部屋に新たな客人が来たのはそのすぐ後だった。

 

 

「アシュラ、あの馬鹿はどこだ?」

「アシュラ様、馬鹿師匠はこちらにお見えになられましたか?」

「兄さん、義姉さん、ここにいます」

「待って!!いくら何でも秒で売るのは酷くないか!?」

 

 

 黒髪の男と桜髪の女がとてつもない殺気を漂わせながら現れた。

 二人の修羅を見て、アシュラはすぐさま逃げようとした犯人を一切の慈悲もなく修羅に前につきだした。

 男を庇う様子など一瞬も見せなかった。

 

 

「いやだって、どう考えても悪いし……」

「むしろそれでよく俺はやらかしてない、なんて断言できたよな……」

「あらあら……そんな戯言を師匠は宣っていたんですか」

 

 

 アシュラとタイゾウの話を聞いて九重は手に込めたチャクラをさらに強める。

 それを見た男は冷や汗をかき、後ろに下がろうとする。

 

 

「インドラ様、師匠を固定していただけますか」

「ああ、俺の分も遠慮せず──殺れ」

 

 

 インドラは鋭い目つきで男を睨みつけ、逃げようとした男の動きを封じる。

 そして、自分の分も併せて九重に殴るよう頼んだ。

 

 

「ええ、それでは遠慮なく……」

「いや、割と本気で死ぬと思うので遠慮していただけないですかね!?」

 

 

 九重は一歩ずつ標的との距離を詰め、ゆっくりと拳を振りかぶる。

 男は自らを縛る術を解こうと男は必死に抗うが、忍宗の天才による術をこの短時間で解くことは不可能に近かった。

 二人の修羅に友を引き渡したアシュラと横にいたタイドウは友の冥福を祈り、合掌した。

 

 

「やめろー!死にたくなーい死にたくなーい!!」

「しゃんなおおおおおおお!!」

 

 

 

 のちに、彼は自らの子孫に語り継ぐ。

 

 

 

 “人の恋路は、もどかしくても手を出すな。小さな親切、大きなやぶ蛇”

 

 

 

*****************

 

 

 

「そもそも、結婚してる時点でそんな気を回す必要なかったんじゃないか?」

 

 

 夢から覚め、屋上で夕寝をしていた黒髪の少年はポツリと感想を漏らす。

 

 

「何が?」

「こっちの話だ。早かったな“うちわ”」

 

 

 学校の屋上で寝っ転がっていた少年は待ち人が来たことで起き上がる。しかし待ち人は少年の台詞に不満を抱いた。

 

 

「だーかーらー俺は“うちは”だよ、というかそのそも名前で呼べし!」

「ああ、悪かったなサギト」

 

 

 一族の名を間違われたとこに不満を抱いた待ち人──“うちはサギト”は自らの服に刻んである家紋を少年に見せつける。

 

 

「そりゃ確かに家紋は完全に団扇だけど!読み方はうちわじゃないんだよ!“は”だよ“は”!!」

「“わ”と“は”を間違えたくらいでそんな目くじらたてるなよ」

「ハヅキ……その台詞、今度俺の家で言ってみる?」

「命が惜しいから止めてみる。さすがにサギトの家族……一族全員からかう度胸はないな。特にフガクが怒りそうだ」

「まあ兄さんは間違いなく怒るだろうね」

 

 

 そう言いながら少年──“大月ハヅキ”は懐から小包と皿を取り出す。小包の中からみたらし団子を取り出すと二枚の皿に盛った。

 月に一度あるこの集まりを、ハヅキはとても楽しみにしていた。

 

 

「それより……菓子持ってきたんだろ?さっさとやろうぜお月見パーティー」

「脱線したのハヅキのせいだと思うんだけど」

「えー俺のせいか?」

 

 

 それぞれ自分が持ってきた菓子を皿に広げ、菓子をつまみながら空を見上げる。

 集まった時刻が早かったのか、まだ月は昇っていなかった。

 

 

「まだ月は登ってないね」

「お前が早く来すぎなんだよ。待ち合わせ時間の一時間前に来るってどんだけ楽しみにしてたんだ」

 

 

 ハヅキは待ち合わせ時間の一時間前からこの場に来たサギトを呆れたように見る。そんな目で見られたサギトはムッとして兄から聞いた話をする。

 

 

「その台詞、そっちにも盛大にブーメラン突き刺さってるからな。昼の時点でここで寝てたの、兄さんが見てるから」

「場所取りは大事だろ」

 

 

 ペチペチと自分が座っている床を叩きながらハヅキは言う。サギトの兄は昼にハヅキの姿を見たと言ったが、実際彼は場所取りのために朝からこの場所で一歩も動かず場所取りをしていた。

 それを目の前のサギトに言う気はハヅキには無かった。もしそれをサギトが知ったら間違いなく“お前は馬鹿か”と最大限呆れた様子で言われるのが確定しているためその事は絶対に言うまいとハヅキは心に決めた。

 

 

「花見はともかく月見に関しては場所取りは必要ないんじゃないか?」

「甘いぞサギト。世の中にはな、月見に命かけてるやつもいるんだよ」

「そんな大げさな……ああ」

「おい、俺を見て納得するなよ。俺じゃねえよ月見に命かけてるのは」

 

 

 場所が限られる花見と違い、空が見えるならどの場所でも大丈夫な月見にそんな命をかける人はいるのかとサギトは思った。しかし、否定しようとハヅキを見て、サギトは全てを理解した。ああ、目の前にいたと。しかし当の本人(ハヅキ)は自分ではないと言う。その言葉にサギトは若干の驚きの表情を浮かべる。

 

 

「え、そうなの?月に一度どんな状況でも……例え試験中でも絶対月見するハヅキよりも?」

「ああ、まあそれは俺の一族なんだかな」

「ただの遺伝じゃないか」

 

 

 驚いて損したとサギトはハヅキが持ってきた団子を口にする。

 

 

「しかし本当に団子好きだねハヅキ」

「月見と言ったら団子だろ。スナック菓子なんぞ邪道だ邪道」

「じゃあ俺が持ってきたポテチはハヅキ食べないね」

 

 

 ハヅキの言葉を受けてサギトはすぐさま行動に移す。二人の真ん中においていた菓子(ポテチ)を反対の方向へ避難させた。

 

 

「まあ、それはそれとしてあるなら食べるぞ俺は」

「食べるなよ、さっき邪道って宣ったのはどこのどいつだ」

「さあ、どこの誰だろうな」

 

 

 うちはサギトと軽口を言い合いながら、大月ハヅキは月見を楽しんだ。

 

 

 

 

──この物語は、守れなかった男の最期の足掻き。

 

 

──この物語は、俺たちの全てをかけた恩返し。

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