オオツキ月華伝   作:MATTE!

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追跡

 転写眼──大月一族のごく一部の家系に見られる特異体質。

 その眼は時を遡る。生物・無機物問わず、どんな過去も記録し、その姿を写す。

 例えどんなに痕跡を消したとしても、過去を読み取る転写眼の前には無意味である。

 

 

「お前、そんな眼があったなら普段からもうちょっと頑張れよ。そんな眼があるの初耳なんだけど」

「黙っているつもりはなかった。わざわざ自慢するほどのものじゃないし、コレは燃費が悪すぎる」

 

 

 大月一族の血継限界である転写眼の存在を知ったサギトは、ハヅキがそのことを今まで自分たちに黙っていたことに不満をもらす。

 そんな不満をハヅキは受け流す。ただ先を見つめて過去を現在に写し出す。

 

 

「そんなことより、追うぞ」

「おま、人の家の襖を蹴破るな!」

 

 

 そう言ってハヅキは庭に面している襖を蹴破り、庭へ出た。慌ててサギトは追いかける。

 

 

「緊急事態だからって人の家を壊して良い理由はないからな!?」

「後で直す。お前も行くだろ?」

 

 

 サギトの説教も気にせず、ハヅキは扉の向こうにいた人物に問いかけた。

 その人物にサギトは目を見開く。

 

 

「君は……」

 

 

 

*************************

 

 

 

「ハヅキ、二人を攫った忍びは雲隠れの忍なんだね」

「ああ、額当てを見る限りそうだ。化けてる可能性もあるが、この方角は雲隠れだ。そっちに向かっている時点で雲隠れの忍だと思っていい」

 

 

 襖を蹴破った先にいたミナトと合流し、彼らは雲隠れの忍を追う。

 ミナトの問いに、ハヅキは写した過去と影が向かう方角から犯人は雲隠れの忍だと断言する。

 

 

「そいつらってどれくらい強いんだ?」

「……クシナと紐利の護衛を殺すくらいの実力があるなら上忍クラスだ。それが三人」

「上忍クラス……対する俺等は……」

「アカデミー生、数は同じ三人だな」

 

 

 聞かれたことをそのまま答える。怖気づくかと思ったが上忍クラスの実力があると聞いても二人は迷わずハヅキに着いて行く。

 それはそうだ。ここで怖気づくような奴らなら、自分で追いかけようとしない。追うことを決めた時点で、覚悟はすでにできている。

 となると問題は三人でどう対処をするべきかだ。

 

 

「ミナト、一応聞いておくが手持ちの装備は?」

「これだけだよ」

 

 

 ミナトから今の装備(クナイ一本)を見せられる。

 俺たちと一緒で起爆札みたいな物騒なものは持ってきてないと……まあいい。

 

 

「武器が人数分あるなら充分だ。俺に一つ策がある」

 

 

 

 

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「気を付けろ。霧が濃くなってきた」

 

 

 うずまき一族のガキどもを捕らえ、国境間近となっても追手が来る気配もない。任務は順調だった。

 だが霧が濃くなり、近くの人間すら見えなくなる。

 

 

「おい、ガキどもを繋いでる縄はしっかり握ってろよ」

「……ああ、わかってる」

 

 

 幻術にかけてるからその心配はないと思うがこの霧の中で逃げられないよう、縄を持っている男に声をかける。

 

 

「全く楽な任務だったぜ。平和ボケした忍を殺してガキどもを拐ってくるだけだったしよョ」

「気を緩めるな。国境はすぐそこだが、まだ木の葉の追手が来る可能性がある」

 

 

 先頭に立っていた男は無駄口を叩く銀髪の男に注意を促す。

 しかし銀髪の男はその注意を聞く気はなくヘラヘラとした態度を崩さなかった。

 

 

「んなこといってもョ、俺の探知に何もひっかからねぇし。向こうは拐われた事もまだ気づいてねぇんじゃねぇの?」

 

 

 隊長の注意を男は心配しすぎだと思っていた。侵入されていたことも気付けない奴らが自分達を追えるはずがない。

 霧は多少鬱陶しいが、これは自然発生したものだ。ならはそこまで気を張る必要はない

 それが男の最期の思考だった。

 

 

「あんな平和ボ──」

「平和ボケとはひどい言いようだ。国境近くではあるけれど、ここはまだ火の国の領土、敵陣にいるのにだらだらと下らない話をして油断していた君には言われたくないね」

 

 

 霧の中、サギトの瞳が赤く光る。クナイ一本でサギトは最後尾にいた男の首を跳ねた。

 

 

「追手か!?そこから離れろノルイ!」

「!」

 

 

 隊長の忠告を受け、クシナと紐利の縄を持っていた男は襲いかかってきたミナトの攻撃を紙一重で避ける。

 

 

「くっごめんサギト避けられた」

「どんまい」

「なっガキだと!?」

 

 

 木の葉からの追手が子供であった事に、雲隠れの忍びは驚く。

 しかしすぐに意識を切り替え、武器を構えてクシナと紐利を抱えている弟に呼びかける。

 

 

 

「うずまき一族どもを連れて里へ向かえノルイ!俺もすぐにがっ……!?ノ……ル……!?」

 

 

 雲隠れの忍の隊長はノルイと呼ばれた男を逃すことを優先した。武器を持ち、敵であるサギトとミナトを迎え撃とうとする。

 しかし、“ノルイ”は背後から男にクナイを突き刺した。

 男は信じられない表情を浮かべながら突き刺したノルイに掴みかかろうとするが、その手を払い除け今度は男の頭にクナイを突き立てた。

 

 

「ど阿呆、弟と赤の他人の区別もつかないのかお前は」

 

 

 事切れた男に向けて、最後に残った雲隠れの忍──ハヅキは笑う。

 とても滑稽な話だ。自分が殿をかってでも先に行かせようとした弟は一番最初にミナトに殺されていた。

 声、姿、そしてチャクラ。それら全てを転写して成り代わったが、すり替わっていることを疑問にも思ってくれないとは。

 

 

「自分で騙しといて気付かなかった事に文句言うって血も涙もなさすぎない?」

「弟の姿で懐に入り込んで、弟の姿で兄を殺す……鬼だね」

「なんで!?」

 

 

 血も涙もないとか、鬼とかいうのはひどいのではないかとハヅキは思った。

 クシナと紐利を助けて、うまくいけば全員怪我なしでいける良い作戦だと思っていただけにショックは大きかった。

 ……しかし、よく考えたらゴーサインを出した二人に言われる筋合いはないのではないか?

 納得のいかない気分になりながら指を鳴らす。その動作一つで霧は晴れる。

 

 

「これは幻術じゃないの?」

「幻術は人の五感を対象にして相手に幻を見せる術だろ。これは“記憶転写”」

「記憶……」

「……転写?」

「ざっくり言うと俺が記憶している情報を現実に写す術」

「本当にざっくり言ったね」

 

 

 幻術と記憶転写の違いをざっくりと言う。あまりにもざっくりとした説明をサギトに突っ込まれた。

 だが“転写眼”は大月一族の血継限界。いくら親友といえどその仕組みをハヅキが勝手に説明する訳にはいかない。

 サギト達もそれを察してくれたのか特に詳しい説明を求められなかった。

 

 

「さてとクシナ達を起こしてさっさと帰ろうぜ」

「それもそうだね。皆心配している」

 

 

 幻術が強力だったのか、この状況でもクシナ達は上の空で立ち止まっていた。

 二人を解放しようとハヅキはまず幻術を解くために紐利の額に手を触れようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 

 

「人の妹から離れろ変態。死にさらせええええ!!」

「ふべぶ!!!!??」

 

 

 三人とも、完全に油断をしていた。

 凄まじいスピードで現れた女性は“雲隠れの忍の姿をしたハヅキ”の腹部を殴り、ハヅキは吹き飛ばされる。

 ハヅキが錐揉み回転をしながら空を飛び弧を描く。サギトとミナトはハヅキの名を叫ぶことしかできなかった。

 

 

「「ハヅキーーーーーー!?」」

「……ハヅキだと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 うずまきクシナ・千手紐利拉致事件報告書

 製作者:O

 うずまき一族の特殊なチャクラを狙い、雲隠れの忍が木の葉へ潜入。

 うずまきクシナ、千手紐利両名を拉致。

 拉致されたことに気づいたアカデミー生(うちはサギト、波風ミナト、大月ハヅキ)三名が追跡、そして救出成功。

 

 負傷者

 大月ハヅキ

 胸骨、肋骨6本の骨折及び内臓破裂の重傷 全治数ヶ月

 すぐさま綱手が治療したため、一命は取り留めた。

 

 

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 後にハヅキはこの事件をこう語る。

 

 

「アレは俺が死んだと思った出来事トップ3に入る事件だった」


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