フォーサイト、魔導国の冒険者になる   作:空想病

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foresight


最終章 ────── 最終話
フォーサイト


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 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 エ・ランテルの屋敷──魔導王の執務室。

 

「そうか。ついに掴んだか」

「はい、アインズ様──ズーラーノーン十二高弟たちの調書から、かつてシャルティアを洗脳したワールドアイテムは、法国の特殊部隊“漆黒聖典”に存在している可能性が高いと思われます」

 

 報告書を読み終えたアインズは、一年前の記憶を掘り返すでもなく、ありありと想起する。

 あの時の怒り、憎しみ、苦しみが、存在しない心臓をジリジリと焼き焦がすのを、感じざるを得ない。

 

「元漆黒聖典──第九席次だったクレマンティーヌからも、それらしい証言を得ていたが、どうやら確定のようだな」

「はい。シャルティアに隷従した(シモーヌ)などは、400年前からスレイン法国を知っております。それほどの人材からの証言ともなれば、信憑性は高いかと」

「おまけに、エリュエンティウを知る十二高弟・トオムも、同様の証言をしている。彼は率先してこちらに従属を誓ったからな──そのトオムは今どうしている?」

「現在、彼は“修繕中”ですが、お呼びしましょうか?」

 

 アインズは首肯する。

 一分も経たずに執務室の扉を叩いたのは、あの銀髪の少年──その上半身のみ。

 

「息災かな、トオム君?」

「無論ですとも、陛下」

 

 現れた姿は重傷重篤以外の何物でもないが、トオムは全自動車椅子を手を使わずに操作して、アインズに深々と一礼する。

 パンドラズ・アクターを通じて、アインズ・ウール・ゴウンに、ナザリック地下大墳墓に寝返った元十二高弟。

 副盟主のドラゴン・ゾンビに切断された時とほぼ変わらぬ姿だが、その表情に苦悶という色は浮かばない。切断面は治癒──もとい修繕作業の途中で、血は一滴たりとも流れていなかった。これは、彼が人外の存在であるという証左に他ならない。

 

「便利なものだな、ゴーレムの身体というのは」

「なんの。陛下のような骸骨(スケルトン)兵力に比べれば、とかく金食い虫も良いところです」

「しかし、ゴーレムを扱う術者の君自身が、ゴーレムだったとはな」

「私も400年前に創られた身の上。我が創造者の願った、『究極のゴーレムを創る』という大願を叶えるために、私のように永遠に駆動し続けるものが必要だと判断したようで」

「確かにな。人間や生物は死に絶えるが、異形の我々は永遠に存在し続けることができる」

「それも良し悪しはありましょうが──とりあえず、私は陛下の望むだけ、ゴーレムを製造し続けることを誓いましょう。とくに、陛下が依頼された“箱型”や“板状”のゴーレムというのは、なかなかにおもしろそうではありませんか」

 

 そうして、銀髪の少年はガラス玉の眼をにこやかに微笑ませ、作りものとは思えないほど朗らかな表情で部屋を辞した。

 

「──この世界で、あれほど情感豊かなゴーレムが製造されていたとは」

「やはり南方に偵察部隊を送りましょうか?」

「それには及ばん。トオムの言を信じるに、彼のようなゴーレムは例外中の例外──何より、エリュエンティウとは全く違う南方の文化圏……今は亡き“カラクリの都”の出自らしいしな」

 

 焦ることはない。

 今は、目の前の問題と課題である。

 その時、執務室を叩くノック音が──アインズ当番のメイドが、来訪者を中へ。

 

「おはようございます、アインズ様。このデミウルゴス、ただいま御身の許に帰還いたしました」

 

 魔導国の参謀たる悪魔が入室を果たす。

 

「ご苦労だった、デミウルゴス。どうだった、オーリウクルス──竜王国との交渉は?」

「抜かりなく。すべてはアインズ様が、沈黙都市を掌握されていたおかげです」

 

 アインズは首をひねりかけて、直前に思い出した。

 

「ビーストマンの侵攻理由は、狩りで獲物が取れなくなったのが原因だったか」

「ええ。それがひとつの要因だったことは間違いございません。ですが、沈黙都市を守護するアンデッド兵力を、竜王国と国境警備へ極秘裏に回せましたので、こちらとしてはほぼ何の労もなく、ドラウディロン女王を懐柔することが可能でした。彼女らには、法国から追加兵力を呼び込ませるよう、協力を取り付けております」

「うむ。見事だ。デミウルゴス」

 

 実際に効力を発揮するかどうかは不明な部分だが、長年亜人たちと国境を接している同胞の国を無碍(むげ)にすることは、スレイン法国の今後に障るだろう。

 漆黒聖典あたりを相当数出張させればよい。その間に、こちらの作戦が進めやすくなる。

 

「それと、例の件については?」

始原の魔法(ワイルド・マジック)についても、女王は知っている限りの情報を提供すると」

「意外と出し惜しみがないな」

「何しろ、自分たちが食われるかどうかという瀬戸際でございましたので。いくら冒険者や傭兵を雇っても、あれほどの侵攻を阻めるのは、統率された“強力な軍”が必須だった模様──同盟を結ぶ相手との軍事的な折衝についても、今後はアインズ様のご協力を仰ぎたいとのこと」

 

 なるほどなと頷いて、アインズは手元の書類を探る。

 

「確か、始原の魔法(ワイルド・マジック)は、アーグランド評議国の竜王(ドラゴンロード)──ツァインドルクスなる白金の竜王が扱えるという話だったか」

 

 アインズはボックスから『朽ちはてし棺』──あの副盟主が自らの体内に埋め込んでいたアイテムを取り出す。

 それは、骨のように白い、(はこ)

 奴が語っていたことを、一言一句思い出す。

 

《かのアーグランドの永久評議員や竜帝たちとは“目標(しるべ)を異にした”悪しき竜王たちの遺産》

 

 そして、始原の魔法(ワイルド・マジック)《■■》の力。

 副盟主の死体──どころか魂自体が腐り落ちて消え去った事実には極めて驚かされたが、このアイテム──『朽棺(エルダーコフィン)』──死した竜王たち(・・)そのものが宿る(はこ)を解析し、有効利用できるようになれば──どれほどナザリックの利益に結び付くか。

 副盟主と『朽棺』──ワールドアイテムを有する魔導王を拘束したあの大儀式において、アインズは一人の竜王ではなく、複数体の竜王と対峙していたに等しい。おまけに、匣の中の怨念は、上位アンデッドたる者を束縛、食い物にしようとする怨念の集合体であり、これ自体が始原の魔法(ワイルド・マジック)の死霊系術式を形成していた。つまり、二重に発動していた始原の魔法(ワイルド・マジック)が、アインズを絶対拘束下においていた理由であった。

 そして、唯一匣を担い運用できる力を身に着けた小さい竜王・副盟主という術者の死を“喰らい”、匣の封印から解放されようとしていたのが、あの黒い──死。

 しかし。

 アインズ・ウール・ゴウンに装備された世界級(ワールド)アイテムは、その状態の竜王どもを完封するのに覿面(てきめん)な効果を発揮──世界に災厄をもたらしかねなかった竜王たちの憎念は、今も匣の中に納められるままに終わった。

 

「まさか、な」

 

 こいつら一体一体が己の肉体を持っていたら、各々が始原の魔法(ワイルド・マジック)とやらを起動できる存在だったら、どれほどの脅威だったことだろう。

 それほどの力──竜王とやらが複数存在するという評議国は、警戒レベルを最大限に引き上げるべきところだろう。その上で、何もしないまま──というわけにもいかない。

 

評議国(そちら)にも調査を行いますか?」

「うむ──かの国に、王国のアダマンタイト級冒険者“朱の雫”が長く雇われていると聞く──その方面から探るのが得策かな?」

「では、漆黒のモモンを?」

「いや。これからスレイン法国との件で、パンドラズ・アクターは忙しくなるだろうし、ここは我が国の“アダマンタイト級”に任せよう」

「彼らですね。実績も十分な彼らであれば、おそらく適任かと」

 

 アルベドやデミウルゴスも大いに賛同した。

 さてはて、彼らがうまく調べてくれるといいが──まぁ、彼等なら問題ないだろう。バックアップもつけるし。

 

「さて、次だ。ズーラーノーンの本拠──死の城の調査具合は?」

 

 ナザリックの智者たちが朗々と報告する。

 コキュートス、アウラ、マーレら調査団によって、城の全体像が把握された。

 そして把握された死の城は、ギルド拠点では、なかった。

 無数のマジックアイテムで武装された、現地の何者かが建造した城であり、アンデッドの召喚魔法や、催眠幻惑の空気──何よりも特筆すべき、城外に広がる無限の陥穽も、何らかの魔法によって生成されたものだと判明。

 城の所在地については、位置的に大陸の極東──少なくとも600年前に、何者かの手によって建造されたものを、ズーラーノーンが接収・改修したもののようだった。

 

「支配下にくだった、他の十二高弟の様子はどうだ?」

 

 デミウルゴスが帝国闇金融の連中から(さかのぼ)り辿り着いた、組織の財務部門担当──ジュード。さらに、彼女と同時に組織を裏切った木乃伊(ミイラ)──デクノボウは、約束の報酬を受け取り、各々の生活に戻りつつ、デミウルゴスとアルベドの命令に従う駒となった。

 シモーヌとバルトロは、シャルティアが支配下に収め、すっかり従順なシモベの一員に。

 亜人四人組も、ナザリックへの忠誠を誓う、八本指のような位置におさまった。

 ゴーレムのトオムは、アインズ主導で行うゴーレム工房の開発責任者の地位に。

 副盟主のみ、現在は死体だけ──液状に朽ちて腐った黒液という形で、研究と解析が進められている。

 

「残るは盟主だけだが──」

 

 盟主の情報は、本国と呼ばれる場所──おそらくはスレイン法国の神都あたりにいるものと推測されるが、その強さや魔法については、詳しく知っているものはいなかった。盟主のアンデッドにして、最後まで抵抗を続けたシモーヌでさえも、その全容を把握しているとは言い難いほど、情報の確度は低すぎた。

 断片的にわかっているだけでも、盟主は死の神(スルシャーナ)の第一の従者でありながらも、アインズにもよくわからないオリジナル魔法を多数取得しているらしい。

 後腐れないよう盟主も確保したいところであったが、どうにも今現在、盟主は自発的に行動することがないという。何故か。

 

「いずれにせよ、これでスレイン法国を揺するネタは勢揃いだ」

 

 秘密結社ズーラーノーンの最大支援国家にして、人類守護の名目により、各国を裏から操ってきた宗教大国。

 人類を守るという大義のために、隣国の村々を焼き、エンリやネムなどの女子供を殺そうとした──否、実際にカルネ村以外は甚大な被害を被っている──呆れた実態。

 

「そんな名分で殺される方になっては、たまったものではないだろうに」

 

 思い出すのは、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で見た、殺戮の現場。

 頼みます──そう告げたように見えた、エモット姉妹の父の最期。

 断罪するつもりはない。

 糾弾するつもりも、誅罰するつもりもない。

 アインズもまた、弱肉強食の掟を理解している。自分自身、どれだけの命を一方的に奪ってきたのか、数えだしたらキリがない。

 それでも────腹に据えかねることは、確実にあるのだ。

 

「喫緊の問題は、シャルティアを洗脳したアイテムの詳細について、だ」

 

 ズーラーノーン殲滅の結果、ついに尻尾を掴んだ。

 異世界に転移して、はじめて味わった、あの怒り。

 その元凶となったものが、魔導国のすぐ近くに、あった。

 

「いよいよ、でございますか」

「ああ、いよいよだ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは断固たる決意をもって、練習した現地語で、ひとつのサインを記した。

 

「スレイン法国に遣いを送ろう──(くだん)のアイテムを差し出すか、否か──あるいは我が魔導国と“矛”を交えるか、否か」

 

 従属するのであれば()し。さもなければどうなるか、語るまでもない。

 交渉のテーブルには、魔導国の誇る宰相・アルベドが座る予定だ。

 

「場合によっては、かの国への宣戦布告も用意しておく必要がある──おまえは、どう思う?」

 

 呼びかけられた先にいるのは、アルベドでもデミウルゴスでもない。

 その女性と、女に抱かれている黒いモノが、同時に首肯。

 

「すべて、アインズ様の御心のままニ」

《同じク》

 

 そこにいた人間は、金髪で豹のような印象の女。

 どこからどう見ても、死の城で大水晶に取り込まれたはずの、クレマンティーヌに他ならない。

 さらに、その両腕に抱える黒い頭蓋骨は、同じ運命をたどったカジットの姿。

 何故、アンデッドである彼女たちが復活を果たしているのか。

 アインズは椅子から立ち上がり、おもむろにクレマンティーヌの傍に歩み寄る。

 調子を確かめるように、頭や肩をポンポンと叩いてみた。

 

「体の調子はよさそうだな?」

「あ、あぁ、あぃ、ありがとうございまス!」

 

 ま、貴重な現地人のアンデッド化だからな。

 これまた貴重なデータクリスタルで、モンスターデータをコピーすれば、コピーした段階の人格と性能を持つアンデッドとして召喚……一応の復活が可能だと知れたのは、良い実験であった。つまり、今のクレマンティーヌは、別の人間の死体を「ゾンビ(クレマンティーヌ)」として製作──複製されたシモベということになる。カジットも同様の行程で再製作したものだ。

 

(我ながら──本当にうまくいって、本気でびっくりしている)

 

 ぐりぐりと頭を撫でまわされるままのクレマンティーヌは、アンデッドなのに何故か頬を紅潮させながら、熱っぽいトロけた眼差しでアインズを見つめている。

 

「ぁ、ぁ、ぁ、そこ、ぁン♡」

 

 こういう変なところはゾンビらしからぬ生態──もとい死態?──であるが、同じような反応をする勢・筆頭のシャルティアを考えると、こういうゾンビ個体がいるのも不思議ではない、かも?

 そんな二人のやり取りを、アルベドはハンカチを噛んで、デミウルゴスは眼鏡のブリッジを押さえつつ、恨めしそうに眺めるしかない。

 アインズは金髪から手を離した。

 

「ところでクレマンティーヌ……本当に、フォーサイトの皆には、知らせなくていいのか?」

「ぇ──ええ、構いません。私は、御身のアンデッド。あなた様のシモベ。そして、彼らは最早、私のような“子守り”は不要でしょうシ?」

「そうか──確かに、おまえたちの力は、他に使いようがある、か」

 

 たとえば、我が国の冒険者でも危険極まりないと判明している地域──生物が近づけない毒や無酸素の領域などへの斥候……威力偵察には持ってこいだろう。ナザリックのNPCや金貨を使う傭兵を危険にさらす・死亡させることなく、己の意志で考え、道を開けるアンデッドというのは、なかなか使えるのではないだろうか。

 仮に、フォーサイトと対面しかけることがあっても、変装のアイテムを使えばどうとでもなる。

 

「ん──そう言えば、思い出した」

 

 冒険者とクレマンティーヌとを連想して、アインズは守護者二名に下していた命令を、もうひとつ思い出す。

 

「例の、その、……エ・ランテルの墓地の捜索は、どこまで進んだ?」

「墓地の捜索──ああ、例の銀級冒険者チームの死体ですか。何ぶん一年前に納棺されたものですので、損傷はひどいですが、無事に発見いたしました」

「うむ。ナザリックに運び、できる限り死体を綺麗にし、保存させよ」

「では、復活の儀を?」

「いいや、アルベド。“今すぐに”ではない。ちょっとした実験に使うつもりでいるが、彼らの内ひとりは、ツアレへの褒美として使えるかもしれん。しかし、今は死体を保存するだけでいい。経年劣化で、死者復活にどれほどの違いが生じるか、調べておきたいからな」

 

 アインズは、執務室の窓から外を眺めた。

 これから魔導国が繁栄していけば、彼らを蘇生させ、再び共に冒険の旅をしてみるのも──悪くない気がして。

 

「しかし、あの冒険者チーム“フォーサイト”──ヘッケラン・ターマイトなる人間が〈未来視〉の能力を開眼・会得するとは……よもや、そこまで看破なされて?」

「まさか。デミウルゴス。私でもそこまで読み切っていたわけではない──だが」

 

 フォーサイトという言葉の“意味”に思いを馳せる。

 偶然か必然か。

 あの英単語の持つ意味を考えると、アインズはなるほどという思いが強くなった。

 その上で、思う。

 

「たとえ未来が読めようとも、その結末を超える者でなければ、我等は未来に(かしず)く奴隷に堕ちる。私自身、本当の未来が見えるわけではない。それでも進むことを選び、おまえたちナザリックのシモベたちと共に、この魔導国を(おこ)した」

 

 窓外では、人と亜人と異形が広い通りを埋め始めている。建物は高くなり、空を行く霜竜(クール)便によって新鮮な食材が市場に並び、商いの品や興行は間違いなく増え、以前よりも大量の人材と存在が、このエ・ランテルを行き交っている。都市を警邏するアンデッドたちを、恐れ怯む民は少なくなった。

 それでも、アインズが望む魔導国──すべての種族が垣根を越える未来からは、まだ、遠い。

 

「私もおまえたちも、まだこの都市、この国のように『未完成』だ。だからこそ、私たちは互いに補い、互いを支えあうことで、やがて望む未来を、完成された国を築いていく──そうありたいものじゃないか」

 

 フォーサイトというチーム……仲間を大切に思う彼らを見て、その思いを強くした。

 この世界にいるかもしれない仲間(とも)のために──皆が安心して住むことができる場所(くに)を造る。

 ささやかな願いではあるが、そう難しいことではないはず。

 そんなアインズ・ウール・ゴウンの望み──魔導国の更なる繁栄──不変の伝説を打ち立てるべく、シモベたちは忠誠を新たにする思いで、その場に(ひざまず)いた。

 

 

 

 

 

 

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 魔導国の新たなアダマンタイト級冒険者“フォーサイト”は、束の間の休日をそれぞれ楽しんでいた。

 

「んー、今日はいい天気ね」

「だな。出かけるには最高だ」

 

 ロバーデイクは帝都のリリア院長と逢引──もとい会いに。

 アルシェは妹たちと共に、エ・ランテルのお菓子屋めぐり。

 そして、ヘッケランとイミーナも、私服姿でデート三昧だ。

 

「そういえばアルシェ……モモンさんに、ハンカチ返しにいったんだって」

「ハンカチ? ああ、まだ返せてなかったのか?」

「返し損ねて、お互い任務や修行やらでタイミングがなくなったからね。それでもいつかは返さなきゃって。で。この間ナーベさんのお見舞いにいった時に返そうとしたけど『それは差し上げたものです』って」

「ああ、モモンさんなら絶対に言いそうだな」

「でしょ? それで結局、お守り代わりにしてるみたい」

「……ていうか、アルシェって、まさか、モモンさんのこと?」

「まぁね。でも、モモンさんって、この間の戦いを見るに、絶対ナーベさん一筋だわ」

「ああ──副盟主にやられたナーベさんを見て、あそこまで怒り狂うとはな」

 

 だが、意外というほどの情報ではない。

 実際、あの二人が銅級(カッパー)時代からひとつの宿部屋を共有する男女である以上、そういうことなのだと察する者は多い。

 だが、それでも、モモンを狙う女性は未だに多いという。

 アルシェしかり。イビルアイしかり。さらには蒼の薔薇のラキュースまでもが、ズーラーノーンの一件から本気で狙うようになった……そうイミーナは確信していた。

 いずれにせよ。

 実の妹のような仲間の恋路は、フォーサイト全員で応援していくつもりである。

 

「で、どう?」

「ん? どうって?」

「だから、ほら」

「……! ああ、体調の方か?」

 

 すこぶる良好である。

 あの死闘と連戦を超えて生き残ったヘッケランたちは、飛躍的に力を伸ばした。

 クレマンティーヌ……いなくなったアンデッドの女戦士が抜けた穴埋めも、あるいは必要がない程に。ちなみに、彼女らの遺品となったオリハルコン級プレートは、魔導王陛下が特別に、ヘッケランたち四人へと分割譲渡してくれた。

 まったく粋な計らいだ。人心を掌握するのが巧みというかなんというか。

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 対照的に、ヘッケランはイミーナの意図を掴み損ねていた。

 テーブルの下の足を蹴飛ばす恋人に、ヘッケランは平謝り。

 そこは人間らしい不手際というところで、勘弁してほしい。

 

「もう! ほかに言うことあるでしょ? ──ほら」

 

 イミーナは通りに面するカフェテリアで、ニコッと微笑む。

 鍔の広い帽子に純白のレースをあしらった丈長のワンピース。魔導国で買った私服を着込んだ半森妖精(ハーフエルフ)は、どこからどうみても清楚なお嬢様という佇まいだ。

 ためしに立ち上がってその場で一回転──おろした紫の髪が太陽の光をうけて艶やかに輝く。

 

「ああ、綺麗だぞ」

「──そんなすんなり言われても、現実味ないわね?」

「事実綺麗なんだから、しかたねぇだろ?」

 

 意表を突かれたように鼻先をこするイミーナ。

 ぶっきらぼうに無表情を装うが、細長い耳を染めてピコピコと動かす様が、実に微笑ましい。

 

「あんたも、その眼鏡……意外と似合うわよ」

 

 褒めてくれたイミーナだが、ヘッケランは自分の顔に装備されたもの──魔導王陛下から直々に賜った特殊な眼鏡に、少しばかり複雑な心境を覚える。

 

「視力が低いわけでもないのに、メガネってのはなー」

 

〈未来視〉の武技だかスキルだか判らないが、自分の意志とは別に発動する未来視というのは、いろいろとアレである。

 もう少しヘッケランの力量が、れべるとやらが上がれば、自在にコントロールできるだろうと言われたが、果たして?

 店のお会計を済ませた二人は、骸骨の従業員(ウェイター)に一礼し、通りを進む。

 帝国のワーカー時代には想像だにしなかった世界が、この魔導国で営まれている。

 

「で、今日はどこに連れて行ってくれるわけ?」

「そうだな……、──どこにでも」

「なに、決めてないってこと?」

「いいや、そういうことじゃなくて」

 

 なじみの店でも、新しい場所でも、こいつと二人でいれば、どこでも素晴らしい景色になるのだ。

 

 それは未来を読むまでもない、真実。

 

 人と亜人と異形が行き交う魔導国を、二人は手を繋いで、並んで歩く。

 

 ヘッケランは死の城で、死の淵から救ってくれた最高の女への贈り物を──二人分の指輪をポケットにしのばせたまま、互いが人生で一番幸せになる休日を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 魔導国の新しいアダマンタイト級冒険者“フォーサイト”は、謎多きアーグランド評議国への冒険に出かける。

 

 ヘッケラン・ターマイト。

 イミーナ。

 ロバーデイク・ゴルトロン。

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

 

 彼ら四人の冒険が、その後の魔導国とアインズ・ウール・ゴウンに何をもたらすのかは、また別の話────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 終 】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

「フォーサイト」

英語でforesight

 

・前方を見ること、展望

・将来への配慮、慎重さ

・先見(の明)、洞察力

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『フォーサイト、魔導国の冒険者になる』をご覧いただきまして、誠にありがとうございます。

 偉大なる原作『オーバーロード』と、
 偉大なる原作者・丸山くがね様(むちむちぷりりん様)に、心からの感謝を。

 この場を借りて、ハーメルンという創作の場(サイト)を提供してくれる運営様にも、心からの感謝を。

 そして、ここまで読んでくれたあなたにも、かわらぬ感謝を。

 去年8月15日……アニメ三期でフォーサイトが登場する頃から始まったフォーサイト救済ルートこと『フォーサイト、魔導国の冒険者になる』をご覧いただき、誠にありがとうございます。
 これにて最終回です。
 ほぼ一年で連載終了です。

 本当は、7月の某放火事件がなければ、もうちょっとはやく終わらせることもできたんですが、あの事件で創作意欲がゴソッとなくなったのが痛恨の極み。なんとかモチベ回復しましたが、気づけば駆け足ラストスパートで終わらせることになりました。
 ……本当は、いまも苦しいです。
 ですが、前を向いて行くしかないのです……つらい。

 割烹などで言ってた気はしますが、連載当初はここまで大きな話になるとは予想だにしておりませんでした。そもそも、この話自体、当時連載途中だった『天使の澱』と同時進行的に始めた連載ですので、短く10話前後で終わるだろうと、プロットを組んだんですが──余裕で50話を超えてしまったというね。どうしてこうなるのか、我ながら不思議でたまらない。
 最初は魔導国で冒険者になって終わりのつもりだったのに、書いているうちにフォーサイトの皆がもっとハッピーに終わるようにさらに練り直した結果……ええ、こうなっていたわけですね。なるほど意味がわからん。

 ヘッケランは未来を見る戦士に成長するし、イミーナは旦那様とデート+指輪を受け取って終わったし、ロバーもなんやかんやでリリア院長としっぽりいきそうですし、アルシェもクズ父との問題をそれなりに解消できた感じで、全員が前を向いて、未来を見据えて、アダマンタイト級冒険者──アインズ様のお気に入りとして、これから活躍してくれることでしょう。

 フォーサイト救済ルート、書き切ってやったぞ! いぇーい!(ハイタッチ)

 原作では絶対に、こうはならないんだけどね!(絶望)

 さぁ、とにもかくにも。
 これで空想病の連載終了は三作目。
 謎が謎を呼ぶ空想病の連載シリーズですが、はてさて次回作は本気でどうなることか。前作『天使の澱』のアンケに従うべきか、はたまた……

 ではここで、恒例の最後の御挨拶。

 拙作を「お気に入り登録」してくれた4600人以上の方々。
「評価や評価コメント」、「誤字報告」をしてくれた読者の方々。

 さらに、55話までに「感想」を残してくれた──

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 本当に、ありがとうございました。

 拙い作者ではございますが、これからもどうぞ御贔屓に。

 それでは、また次回。          by空想病
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