「吉良くーん!おっはよーぅ!」
朝の爽やかさそのままの快活な挨拶が響いてきた。
主人を見つけた犬が尻尾を振るように、上機嫌にぶんぶんと腕をふって挨拶をする彼女が礼奈だ。
「毎朝毎朝早いね...。僕のために貴重な睡眠時間を削らなくたっていいんだぞ?」
「お寝坊したら吉良くんを待たせちゃうじゃない。」
「その時は置いていく。」
「き、吉良くん冷たい。いつも待っててあげてるのに...。」
彼女が少し困った表情をする。人の言葉に、いちいち一喜一憂する分からない奴だ。
「冗談だ。君の言う通り、君がやってくれている分は待っていてやる。」
その一言に、彼女は全身の緊張を解いたようだった。
顔が一気に紅潮する。
「...わ、...あ、ありがと...。」
私は当たり前のことを言ったまでだが、なぜこんなにこいつはもじもじしているんだ?
分からんがまあいい。漬物の礼を言おう。
「それから、親父から伝言だ。漬物をありがとうだと。」
「う、ううん。どういたしまして。どうだった?しょっぱくなかったかな?」
「まあまあだな。歯ごたえがあり、白飯との相性もなかなかよかった。普通に旨い漬物だった。」
「あ、ありがとう。」
「あれは君が作ったのか?」
「えっ?ま、まあ、レナだけど...。レナがつくったけど...。」
「ふむ、そうか。中学生にしてはなかなか腕がいいんじゃないか?僕は悪くないと思う。」
また赤面している。ぽーっとした感じだ。
もう一度言う。
私は当たり前のことをいったまでだが、なぜこんなにこいつはもじもじしているんだ?
ここまで感受性があると、からかい甲斐のある奴だと思う奴が出てきて、悪い男に簡単にだまされるんじゃあないだろうか?
私としちゃあそれはさすがにこいつの責任であるし知ったことではないが。
まあ、頑張りたまえ。誰か人並みにでも戻してやれる人でも出会ってくれればいい。
「早く行こう。魅音が待っている。」
「は、はぅ!そうだね。早く行こ!」
この、すぐ真っ赤になってぽーっとする変な奴は竜宮礼奈。
まだ知り合って一月も経っていないが、変わっているのは名前だけではないことはよくわかるだろう。
自分のことをレナレナと読んでいることもおかしい。それになぜ「礼奈」から「い」を抜くのか。
なんの事情があるのか知らないが、少なくとも私はどうとも思わない。まあ、それについてはわざと突っ込まないでおこう。
...だが、それでもこれから会う奴に比べれば個性はまだ薄いと言えなくもない。