俺とアタシの居場所《一応 完結 》   作: 紅葉 

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新しいバイト、始めました

以上!バイト応援ソング聞いて頑張ります


多忙人は暇人と同じ悩みを抱える

 

 

 

 

 

 

「遥都はさ……、噂ってどう思う?」

 

 

 唐突にリサの口から放たれたその言葉。それが何をいみしているかは分からない。けど、それでかなり痛い目を見ている俺からしたらかなり嫌なものではあった。しかし、それはリサのせいではない。リサに心配させてはいけない、これは絶対条件だ。

 

 

「ど、どうしたんだよ急に……」

 

「あ、えっと……、やっぱり大丈夫!!ゴメンね!!」

 

 

 ちょうど信号も青に変わり、前へが空いた。リサは逃げるようにそちらにかけていく。全く…………。そうやって、人に弱味を見せようとしないところ、流石だよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第14話:多忙人は暇人と同じ悩みを抱える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信号待ちの間、何を思ったのかアタシは言ってしまった。何を特に意識していた訳では無い。無意識と言えば少し違うだろうが漏れ出てしまったアタシのその言葉にアタシ自身が揺れた。

 

 しまった……!と、思った時には既に時遅し。何かを感じたのか遥都の表情が一転して曇る。慌てて、取り消しの言葉を出すが、遥都には届いたのだろうか?信号が黄色に変わり、焦りを感じるような様相へと変わった。

 

 

「急に走り出すなよ……」

 

「え……、ゴメン……」

 

 

 遥都の言葉で我に返るアタシ。道路を渡ったあたりで立ち止まり、遥都が追いついてくるのを待った。自動販売機に持たれ、大きく息を1つ吐く。そのまま上空を見上げると、立ち並ぶビルに視界を遮られる。

 

 

(あれ……?空ってこんなに狭くて、遠かったっけ……?)

 

 

 雲はなく、一見綺麗な青空。けど、届きそうな時もあった空の広さや雄大さというのはアタシの目には映らなかった。いや、映せなかった。

 

 

ガコン!!

 

「ほれ、リサの好きなやつ。奢りでいいよ」

 

 

 後ろの自販機から大きな音がしたと思い、ビクリとする。何が起きた?と振り返ると、顔の付近にペットボトルを寄せられていた。

 

 

「…………珍しいじゃん。遥都が自ら奢るだなんて」

 

「気分だよ。あんまり、深読みすんな……。行くぞ」

 

 

 一足先に歩き出す遥都。アタシもあとを追うように小走りで追いつき、横に並んだ。右手に力を込めて、ペットボトルを開ける。プシュっと炭酸が抜ける2つの音が妙に心地よく聞こえる。

 

 

「今から言うことは独り言だから」

 

「え?」

 

 

 ジュースを一口のんだ遥都が唐突に言い出す。何を言っているのか、その意図が掴めないアタシはどうしていいか分からず止めることすら出来ないアタシは、遥都の独り言に耳を傾けることしか出来なかった。

 

 

「噂ってのはいい意味でも悪い意味でも大きくなるから。都合のいい部分だけが盛られて伝わってしまう。だけど、聞き手はそれをあたかも真実のように捉えてしまう。しかも、伝わるのは恐ろしく速い。"無勢に多勢"とはよく言ったもんだよ……。伝わるのが早い分、聞いた人も多い。だから、一度出回った噂は絶対に消えやしない。引っ込みはつかなくなり、意見することさえできない。例え、本人がいくら違うと言えど、それは少数派として跳ね除けられるし。それがいい意味だったらいいんだが……、悪い意味だった時は……ん、まぁ、お察しの通りになるんだよな」

 

 

 正面に見える大きな空に少し寂しげな視線を送りながら遥都はいった。その横顔は何かを知っているようで、その何かとやらを聞いてみたいという好奇心もアタシの中でうごめく。だが、その表情からも分かるように、明らかにいいものでは無い。アタシは好奇心に蓋をして遥都の独り言に耳を傾ける。

 

 

「だから、こう思う。もし、リサが悩んでるんだったら、その人達に自分がどういう人間なのか解らせてあげないと噂はエスカレートしてく。だから、その人達の話すのが一番手っ取り早い方法かなって。そうでもしないと止まらないよ……」

 

「独り言って言ってたくせにアドバイスなんかしちゃって!」

 

「っるさい……」

 

 

 胸が何か暖かいものに包み込まれたような感覚。それを感じて楽になる。顔を紅くそめながらそっぽを向く遥都をからかいながらも、アタシは心の中でそっと『ありがとう』と呟いた。

 

 その後、心が軽くなったアタシはいつも通り、遥都に話しかけた。それを遥都が面倒くさがりながらも返してくれる。今、この時間の居心地が本当に好きで……Roseliaのようなアタシが本気になれる場所も好き。だけど、遥都の横はアタシがアタシに戻れる場所、そんな感じが好きだ。

 

 

「でねでね!美術のあの宿題、氷川日菜って友達がいるんだけど、その子に見せたら大爆笑されちゃったんだよ!?ヒドくない!?」

 

「別に酷くはないんじゃないのか……?それより、また、"氷川"って苗字がいるんだな。よくあるとは言えない苗字なのにすごいな」

 

「日菜は紗夜の双子の妹だもん!紗夜とは正反対のタイプだけどね〜」

 

「へぇ〜。あ、氷川さん…、姉の方ね、と言えば、今日はRoselia?だっけか、バンドの練習ないのか?知夏良も言ってたし、氷川さんを見て何となく察したが、毎日のように練習するバンドなんだろ?」

 

「ん〜、あーちょっと色々あってしばらく休みなんだ〜……」

 

「そっか」

 

 

 "色々"そうアタシはぼかしたが、要は友希那のこと。あの夏休みの夜以来、友希那がどうもおかしい。あの後、友希那の家で2人で話して、話を詳しく聞くことは出来たものの、友希那の傷跡に対する意識を強くさせてしまっただけみたいだった。

 

 その日以来、友希那の意識がどこか遠くにあるような時が多かった。言わずもがな、その影響はRoseliaの練習にも現れた。絶対にミスしたことがない所で友希那がキーを外したり、歌詞を間違えたり……。あまりの惨状に友希那に対してはあまり苛立たない紗夜がかなり苛立っていたのだ。アタシやあこ、燐子で話し合ってどうにか休みにはしたものの、友希那と遥都のトラブルがなんとかならない限り、アタシ達は…………。

 

 

「Roseliaって、リサの大切な居場所なんだろ?」

 

「うん…………」

 

 

 いっその事、友希那が遥都のことで悩んでいる、そう打ち明けようかと思う自分がいたが、それを言葉にする言葉は出来なかった。言葉に出来なかった理由は明白。あの夜、遥都は言っていたからだ。『友希那と関わらない』と。誰に言ったのか、勢いで言ったのか本心で言ったのか、それすらも分からないが、あの真面目な表情を見てしまった限り、アタシが軽く口にしていいものではないことはわかる。

 

 

(ホント、どうしたらいいんだろ……?)

 

 

 視線を落とすアタシの目には、遥都とアタシの黒い影が大きく広がっている。まだ4時半。それなのにも関わらず、いつもと比べて暗く見えるのは気のせいだろうか?アタシは視線を落としたまま歩き続ける。だが、いくら歩いてもその答えは出ることがなく、むしろ頭の中がぐちゃぐちゃになるだけ。

 

 

「……サ!…………リサ、おい、リサ!!?」

 

「え!?な、なに?」

 

「何って……、もう家着いたぞ?」

 

「あ、あぁ、ってもうそんなに来てたんだ……」

 

 

 遥都の呼びかけにハッとなって周りを見渡すと、見慣れた道路にカーブミラー、それから隣の湊家。毎日見る景色が飛び込んでくる。そこでようやく理解した。結局、家の前まで来ても考えがまとまらず、そのままにせざるをえなくなる。

 

 家の門を開け、ちょっとした階段を登りアタシは家の扉に手をかけた。そんな時だった。

 

 

「リサ、携帯鳴ってる」

 

「え!?あ、ホントだ!!誰からだろ……?」

 

 

 遥都に言われポケットで震えているスマホを慌てて取り出した。一体、誰だろう……?そんなことを思いながら画面を覗き込む。そこに映っていたのは、『氷川紗夜』という名前。アタシは遥都にゴメンと、顔の前に手を持っていくと。遥都は気にしないからと手を二三度振り、少し離れていってくれた。

 

 

「あ、もしもし?」

 

『今井さんですか?』

 

「そうだけど……、一体どうしたのさ?」

 

『あの、湊さんのことで話したいことがあって……、』

 

「友希那のこと?」

 

『はい。もっと言うとこの前の湊さんの異変についてです。もしかしたら、今井さんなら何か知っているんじゃないかと……。今日、白金さんと会って話をしていたんですけど、やはりわからなくて。それで、もし今井さんが何かしら知っているなら聞きたいなと』

 

「アタシが、か〜……」

 

 

 知っていることは知っている。これを知るのはRoselia内で友希那を除けばアタシ一人。だから、アタシが言い出さなければ、解決は友希那任せになる。それだと、かなりハードルは上がるだろうし、元のRoseliaに戻るのにだって長い時間がいる気がする。かといって、言っていいかと言われると……、遥都や友希那のことがあるからそう簡単には言っていいことではないことなのは火を見るより明らか。

 

 

『知らないのならいいのですが……。湊さんにLINEで聞いてみても、"問題ないわ"の一点張りなので……』

 

 

 知っている。友希那は昔からそうだったから。何かトラブルがあるとそうやって周りには頼ろうとせず、自分だけで留めてしまう。アタシが何か聞いても、返ってくる答えはいつもそれだったから。

 

 

『湊さん、問題ないわけないじゃないですか……』

 

「え……?」

 

『湊さんのことです。もしも、問題ないのにあんな腑抜けたことをしたのなら、私は直ぐにでもRoseliaを脱退します。けれど、そうじゃない。私達も今井さん程ではないですけど、湊さんとは他人よりは長く関わっているつもりです。湊さんが困っていることくらいすぐにわかりますよ。だから、力になりたいんです。こんな所で湊さんに潰れてもらっては困りますからね……。だって、Roseliaは私達の大切な居場所ですから……』

 

 

 同じバンドメンバーとしてなのか、はたまた友達としてなのか、紗夜は少し楽しげな声でそう言った。今まで、友希那のサポート役はアタシしかいないと無意識にも思っていたことが全て崩れ去る。今は紗夜もいるし、あこや燐子もいる。そんな仲間を誇らしげに思う。そして、そこにアタシの居場所があること、これ以上ない幸せなんだと。

 

 

"Roseliaって、リサの大切な居場所なんだろ?"

 

「…………そうだね、Roseliaはアタシ達の大切な居場所だから」

 

 

 何かが吹っ切れた。遥都といい紗夜といい……、本当に頼もしい。それが嬉しくて、また、安心できて……。そして、心が決まる。

 

 

「うん……!!わかった。知ってること全部話すよ!今からでもいい?」

 

『い、今からですか!?』

 

「そ!!そう言えば、アタシ、あのハンバーガーショップのポテト無料券3枚持ってるんだよね〜」

 

『そ、それは、ゆっくり話せそうですね……。ならそこに集まりましょうか』

 

「はい!了解!!それと、紗夜。今、遥都もいるから一緒に連れてくね?すこぉし、紗夜にも知っておいて欲しいから」

 

『???』

 

「じゃーねー!!」

 

 

 気がつけばアタシは階段を飛び降りていた。そして、すぐさま遥都に駆け寄り、『いくよ!』と手を引く。気持ちが通じたのが嬉しくて、何かに導かれるようにしてアタシは走り出す。

 

 

「んで!!俺はやっぱりついてくハメになるんだよな!?」

 

「アハハ!!そーだよ!?」

 

「知ってたよ!!ほかのところはなんにも聞こえないのに『遥都も連れてくから!』その部分だけ何故かよく聞こえたからな!!」

 

 

 隣には遥都もいる。今のアタシはなんだってできる気がした。Roseliaのみんなに加え、遥都もついてきてくれている。こうやってまたなんだかんだいって協力してくれる遥都。本当に感謝しかない。まるで、小学生の時みたい。素直に楽しんで、はしゃいで……、また、あの時みたいになれている気がする!いや、あの頃より……、かも……!!

 

 

「ありがとね!!」

 

「風の音で聞こえないよ!!なんだって!?」

 

「なんにもないよーーー!!」

 




「紅葉さ〜ん!」
「おー、今井さん。そう言えば、富士急来るらしいじゃん」
「はい!今度、Roseliaのみんなで行くんですけどね〜、あの、ナガシマスカっていう、金色の招き猫が超可愛くて!!」
「四大コースターは?」
「友希那が嫌がって、全然乗れなかったんですよ〜……!あ、そうだ!紅葉さん、戦慄迷宮行きません!?」
「…………遠慮しときます」
「あれ、まさか、紅葉さんって……怖i…」


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