本当に久しぶりの執筆、投稿。お待たせしてしまい、申しわけありません……。(果たして、待ってくれているのか……?)
これからも、ぐっと投稿ペースは落ちますが、よろしくお願いします……。
『湊さん、私達はあなたにはついていけない!あなたがいない方がいい!!』
その言葉が、教室の空気を一瞬で冷たく張り詰めたものへと変えた。元々、友希那と険悪だった周りの女子はもちろんのこと、ヘラヘラしていた男子までもがそう言い放った女子の先頭に立つ子を見た。こういう時、タイミングが悪いことに先生という絶対的に中立を保ち、調和をもたらすものはいない。すると、クラスの流れはどうなるか、火を見るより明らかだった。
「……うだよ。そう!!友希那ちゃん、周りのこと見て無さすぎ!!」
「なに、ちょっと歌が上手いからって調子乗ってるの!?」
「っていうか、湊さんいない方がいいんじゃない?」
──第21話:歌姫は御旗を失う
"同調"。聞こえはいいが、現実問題、それは遥かに残酷なものだった。日本人独特とも言えるその風習は、時に人に大きな傷を与える。一人を敵意という檻で囲い、孤独という鞭でうち続ける。さらに、それを見世物と見るように、周囲の人間すら、檻となる。
「吉田さんが言ってるってことはホントじゃね?」
「だろーな〜」
なんの悪気もないのは分かる。だが、無意識のうちに男子までもが檻となっていくのだ。視線が冷ややかなものとなり、それぞれが好き勝手に言葉を吐いていく。その言葉は刃となって、友希那の心を次々とえぐる。そんな仕打ちに、友希那が、いや、小学校6年生の女の子が、耐えられるはずがなかった。
ガシャン!!
「なによ!!!??あなたたちのレベルが低いからでしょ!?私、何か間違ったこと言ってる!?いいえ!そんなわけないわ!!私のお父さんは本物のボーカリストなのよ!それを1番近くで見てきた私のが間違えるなんてありえない!!それなのに……!!」
友希那は手に持っていた、CDプレーヤーを地面に投げ捨て、クラスの女子に怒号を浴びせた。地面に落ちたオーディオ器具は明らかに壊れたような大きな音を教室、廊下にまで、響かせ床に倒れる。その音は、教室を再び、沈黙の世界へと変えた。
だが、その沈黙はすぐに破られる。
「ど、どうかしたの!?」
血相を変えた隣のクラスの担任が飛び込んできた。当然だろう。あれだけ大きな音と声がしたのだから。そして、先生はその場を見てすぐさま行動を取る。
「ちょ、ちょっと友希那ちゃん!!なにやってるの!?離しなさい!!」
これも当然。例え、教育のプロの中のプロが見たとしても同じ行動を取るのは手に取るようにわかる。目の前で胸ぐらを掴まれ今にも泣きそうな子、狂気に満ちた表情をして相手に今にも暴力を振るいそうな子、どちらを助けようとするか、そんなこと分かりきっている。そして、そのあと、無意識でもどちらの味方をしてしまうかも……。
「湊さん!職員室に来なさい!!他の子は席に座って先生を待ってて!」
その先生は友希那の手首をギュッと掴むと嫌がる友希那を無理矢理、教室の外へと連れ出した。一方で胸ぐらを掴まれた女子はというと、先生のもう片方の手で背中をさすられながら連れていってもらっていた。
ザワつく教室。先生に言われた通り、大人しく座り出す子、先ほどの光景が余程怖かったのか泣き出してしまう女子やそれを慰める子。最初から傍観を決め込み座っていた子。それぞれが混乱しつつも、ただ呆然としていた。
それから数分後、隣のクラスの先生だけが戻ってきて、少しイラついた口調で、席に座れとクラスのメンバーに言い、全員が我に返った。
「時間かかりそうだな〜。帰りの会」
「仕方ないだろ……」
前の席の知夏良がこそりと僕に言ってくる。ちょうど遥都も同じことを思っていたのか、呆れるように頭を抱えた。そんな遥都を横目に知夏良は背もたれが正面、つまり遥都の方を向きながら、手に顎をのせ、続けた。
「しっかし、女子も災難だよな〜。あんな厳しいこと言われても、出きっこないのに……」
「それね!!他にもね湊さんはね!?」
その様子を見ていた隣のクラスの有力な女子が話へと入ってくる。次から次へと飛び出す、友希那の悪口。まるで、友希那がクラス全員の敵にしようとしているみたいだった。
「ね?遥都くんもひどいと思うでしょ?」
「ん?あ、あぁ、ま、そうなんじゃね?」
小6の遥都。いくら、この時は普通の家庭、普通の学校生活を送っていたとはいえ、空気が読めないほど、幼くはなかった。遥都も周囲にいる、当時、仲が良かった友達に"同調"する。そのまま、情報をシャットアウトするように、目線をその子から移した。
その際、目をある一人に止められる。周りよりも少し派手めな服。周りにもクラスの有力な女子がいる中、その子が不安そうな、そして何かを願うような目で遥都を見ていたのだ。まるで、『アタシじゃなんとか出来ない!遥都、どうにかして!』と言わんばかりに……。
「あいつ……。人任せやなぁ〜」
遥都はポツリとそう呟いた。
*** ***
「おい……、うそ、だろ……!?」
「俺もそう信じてぇよ!!」
1週間の始まり、上空は雲におおわれ陽射しはなく、少し寒い月曜日の朝の通学路。こっそりと知夏良とシャンプを買うために寄ったコンビニ。そこに置いてあったスポーツ新聞の一面。野球のことが書かれている片隅に不思議と目がいってしまった。内容は……
『バンド界の超新星"ARGONAVIS"解散!! 〜理由はFWFの失敗か!?Vo.湊、激怒!?〜』
中身を詳しく見たくて、2人でジャンプも買わずにそれを手に取った。店員には変な目で見られるものの、必死ゆえに気にならなかった。置き勉をしていて、中身が少ない知夏良のランドセルに突っ込み、2人は学校へ走った。学校につくと急いでトイレへ駆け込み、個室へと入って、そのページを開く。
内容はあまりに残酷なものだった。それが遥都達は本当かどうかもわからないが、多くのことが書かれていた。そして当然のごとく、記者による内部事情の予想も乗っている。そこに書かれていたのは……
『路線変更を要求していた、プロモーション側に対し、Vo.湊が自らの音楽を主張してしまったためであると予想される』
『それでもFWFに挑むも、本物のプロには通用しなかった』
2人は言葉を失った。もちろん、衝撃的過ぎたのもある。だが、それ以上に知夏良はともかくとして遥都によぎったのは友希那の顔。友希那にとって、あまりにタイミングが悪すぎたそのニュース。遥都は歯ぎしりをするしか出来なかった。
二人の間を重い空気がのしかかる。どちらも言葉を発することが出来なかったのだ。だが、だからといって学校が休みになってくれる訳でもない。無情にも始業の5分前のチャイムがなる。
「……教室、いくか。」
「あぁ……」
2人は泥沼を歩くかのような足取りで教室へと向かった。
一方で教室では、空気が嫌な張り詰め方をする。呆然と席に座る、友希那。それの正面に、数人の女子を従えて、昨日、友希那が胸ぐらを掴んだ女子がニヤついた表情で立っていた。
「ねぇ、なんとか言ったら?えぇ〜っとなんだっけ?"本物のボーカリストの子"の湊さん、だっけ?」
「……っ!!」
「結局〜、あんたのお父さん、失敗してるんですけど〜?そ・れ・な・の・に〜、あなたは『私が間違ってるわけない!』〜?笑えるね〜!!」
そのリーダー格の子を中心に、周りの女子も含めて、クスクスと笑う。ただでさえ劣勢だった友希那。唯一、他の人が逆らえない理由であった、父親の存在による友希那の歌唱力。それをへし折られ、相手側に正義の御旗を立てられると、なんの抵抗もできなかった。小学六年生が受けるにしてはあまりに残酷ないじめ。それは友希那をさらに地獄へ突き落とすのに充分な威力を持っていた。
ダッ……!!
席を立ち上がり、ランドセルも何も持たずに教室外へ走り出した友希那。扉のところでちょうど教室へ入ってくる遥都らとすれ違うものの、そんなこと見えているはずがない。朝の登校時間とだけあって、階段を上がってくる生徒が多い中、猛スピードで駆け下りる、友希那。
「あっ……」
フワリと体が宙に浮く感覚。友希那は足を滑らしたのだ。そのまま、空気中に投げだされる。その数秒後には足が嫌な音を立て、強い痛みが走った。
「いっ……た……!」
痛みを堪え、再び立ち上がろうとする友希那。だが、相当高さがある階段で足を滑らしたのだ。薄々、友希那自身も感じていたが、痛みからして立てるほど軽い怪我ではなかった。
「……んでよ……!!なんで、なんで!!?」
その場から立ち上がることすら出来ない悔しさ。尊敬していた父を侮辱された悔しさ。そして何より、自分の存在意義が失われたような虚無感が友希那を襲う。答えが返ってこない問いかけをひたすらに続け、床を拳で殴る。怒りのままにぶつけ続けたその拳からは深紅の血が滴る。だが、友希那が気にすることはなかった。
やがて、先生がその場に飛んでくる。どうやら、そこを通った下級生が自分の担任の先生に言いに行ったのだろう。保健の先生、担任、それから、生活指導の先生の3人がかりで保健室へと運ばれた。だが、その間も友希那が落ち着くことは無かった。終始、荒れていたという。
遥都達にそのことが伝えられたのはその数十分後。1時間目の時間に入った所でようやく入ってきた担任の先生によって告げられたのだ。ザワつく教室、その反応は様々だった。遥都のように大きな心配を抱える者、知夏良のように心配する友達を心配するもの、あの女子のようにいい気味だとニヤつく者、リサのように本心を隠しつつも周りに合わせる者。
収まりがつかないという表現がしっくりくるだろう。そんな中、全員が共通して持っていた思いが一つ。
"崩れた"
──合唱コンクールまで残り6日
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