俺とアタシの居場所《一応 完結 》   作: 紅葉 

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物語に似合わずハイテンションな前書きだとはいつも思います。だけど、変える気はありません。そして、これからは物語がシリアスになるのでここはハイテンションに行きます。はい、どーぞ!

この前、日間ランキングで16位になってました。凄いですね、嬉しいです!そのおかげでお気に入りも増えてふへへへへですwww
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英雄の決意

 

 

「合唱コンクールのことなんだけど……」

 

 

 遥都の声でざわついていた教室が静まり返る。集められる視線に少しの晒し者のような恐怖に冷や汗が背中を伝う。メモ帳を握る手に力が入り、少し震えているその拳を遥都は身体の後ろで組むように隠す。そして、少しだけ目を閉じ、胸を小さく叩き、自分に言い聞かせる。

 

 

(大丈夫だ。いけるから。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第25話:英雄の決意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば初めてだったかもしれない。昔からあまり気力を出さず、自分から人前で「こうしたい」「こんな風にしたい」といった要求はしてこなかった。そんな風に街頭で演説する国会議員を見て彼は昔から傍観し、そして同時に疑問に思っていた。同級生が全校生徒の前に立ち行う生徒会立候補者のの立会演説会も同様だ。

 

 

『どうしてあんなにやりたいことを言えるの?迷惑とか考えていないのか?』

 

 

 小学生とは思えない冷静すぎる頭がそうさせなかったのだろう。幼い頃から共働きの家庭で育った彼は、塾やその他の習い事も通わせて貰っていたから、頭は切れるし、回転も早い。だが、親が仕事から帰ってくるのは早くて8時や9時、遅い時は日をまたぐ時さえ多々あった。そんな時間に帰ってくる親は常に疲れから小学生の相手なんてする暇はない。彼は自分のためにも働いてくれていることを理解していなし、親を困らせたくなかった。だから、空気を読み、親の邪魔をしないように、苛立ちを煽らないように、気づけばそのように行動するようになっていた。

 

 周りの空気を読み、波風を立てないようにそれにあった行動をする力。彼が持つそれは既に年齢離れしていた。それ故に、小学生特有の多々ある欲求を口にすることを無意識に抑え込んできたのだ。仕方がないといえば仕方がない。だが、それはあまりに大きな影響を残していた。

 

 そんな彼が今、初めて、何十人といる人を前に己の願望を口に出そうとしていた。

 

 

「最優秀賞、取ろう……。友希那がケガをしたからといって、成績を残せないのは、やっぱりダサいよ。だから、その、取るよ……!」

 

 

 時間にして僅か6秒とコンマ数秒。静かに、されど力強く、彼が放った言葉が教室に広がる。皆は少しポカンとした顔を浮かべる。そして、その顔は少しずつ変わっていく。

 

 

「遥都の言う通りだなっ!!湊さんがいねぇからって、最優秀賞取れませんでしたなんてダサすぎでしょ?俺ら!」

 

 

 知夏良がそう皆に聞こえるように声を上げる。それに呼応するかのように周りの男子が、そのまた周りにいる男子が、どんどんと賛成の声を上げる。女子にもリサが中心となってくれたからかその流れは伝わり、教室全体がいい雰囲気に包まれる。

 

 ホッと胸を撫で下ろす遥都。それを見た、知夏良はすぐさま横に来る。

 

 

「よかったな。上手くいって」

 

「ありがとう。でも、頑張らなきゃ行けないのはこれからだから。これで満足していられないよ」

 

「なんだよ〜!ちっとぐらい、この空気を楽しめよ!……ってか、遥都がさっき珍しく、あんな気合い入ってると思ったのはこういうことか!」

 

「ま、まぁ、そりゃな……」

 

「何気、初めてだよな?!遥都があんなふうに前に立つこと!」

 

「うるせっ!」

 

 

 遥都は照れを隠すように知夏良のこめかみをグリグリと押す。笑いながらイタイイタイという知夏良。遠くから見ていたリサはそれを少し羨ましそうに眺める。

 

 

(さすがだなっ、遥都は……)

 

 

 そして、その後はいつもの様に男女で別れて練習を行った。後からきた先生に「いつもより、声が出てて良かったね!」と褒められ、少し照れる遥都とそれを続く男子達。吉田さんの影響が気がかりだった女子の方も良かったよと先生が教えてくれて、遥都は胸を撫で下ろした。

 

 その後、帰りのHR終了のチャイムがなり、その日の練習は終わった。帰り道、遥都は、ドッと疲れが出たのか、いつもよりゆったりと道を歩いた。隣を歩く知夏良も、今日は遥都に合わせて歩いていた。だが、2人の顔は歩調とは正反対に何かをやり遂げた顔をしていた。

 

 

「そーいやさ、お前が手に持ってたメモ帳なんだったの?」

 

「ん?あぁ、あれはな、友希那から預かったんだよ。女子のことがメインにはなってたけど、言われたこととかをメモっといたんだと。流石だよな〜」

 

「マジか!?すっげーな、湊さん!」

 

「俺もそう思ったよ。んでよ、その最初のページにさ、ほれ」

 

 

 ランドセルをゴソゴソと探り、見つけたメモ帳を知夏良に手渡す遥都。知夏良が最初のページを開くと、そこには友希那の字でこう書いてあった。

 

 

『絶対最優秀賞』

 

 

「これ見て、やる気にならないわけないだろ?」

 

「確かに!」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 だが、数日後、明らかに異変が起きていた。6限目の女子のパート練習が終わったあと、明らかに空気に差があるのだ。吉田さんらを中心に、笑いながら帰ってくる集団がいる一方で、なにやら、どんよりした顔で帰ってくる子がいた。何か言いたげとも言えるその表情をする集団の中にはリサもいた。

 

 そして、最後の全体練習で事件は起きた。この日は音楽専門の先生が見に来てくれる日で、本番に向けたより具体的なアドバイスをしてくれる予定だったのだが、

 

 

「……パートリーダーさんいますか?」

 

 

 不意に聞いてくる音楽の先生に少し戸惑いを覚えながらも、遥都と吉田さんがいそいそと前に歩み出た。

 

 

「は、はい。俺たちですけど……」

 

「一緒に練習してる時間ってどのくらい?」

 

「え……?」

 

 

 突飛な質問に対し、吉田さんと目を見合わせた。手でお互いに指を出し合い、何度くらいか確認する。その指の本数を見て、音楽の先生は少しため息をついた。

 

 

「なるほどね……。そりゃ、そうなるわね……。それじゃあ、みんなに言うから、みんな一度その場に座ってくれる?」

 

 

 先生がそう言うと、遥都らを含めみんながその場に体育座りをした。音楽の先生の指示に、ざわつく教室を担任の先生が注意をし、聞く体勢に入らせようとする。それもそのはずだ。この先生は普段からいつも笑っているような穏やかな先生だったはずだ。だが、今は少し険しい顔に、しかも声がいつもより低く威圧感があるのだから。

 

 

「みんな座ったわね?まずは男子。まぁ、細かいところは色々あるけど、以前授業で言っていた、息を揃えるべきところは揃えれていたし、抑揚もあり良かったと思う。直すところとしてはやはりクレッシェンドがまだ甘いところがあるところと音を切るタイミングがまだ微妙にずれていることかな」

 

 

 男子は皆で揃えて返事をする。安堵の表情を浮かべながらもまだ直すべきところがある所をそれぞれが自覚し、気を引き締める。楽譜にメモを取るものや、実際に小さな声で歌ってみる物など様々だが、良いものにしようという気持ちはよく伝わってきていた。遥都もそれを見て少しホッとし、パートリーダーとして、記録を残しておく。

 

 

「次に女子だけど……、ここまでバラバラな合唱、私、初めてです」

 

 

 そう言い放った。女子は唖然とし、男子までもが先生の方を見た。一拍置いた先生は続ける。

 

 

「半分くらいはやる気がない。もう半分も声は小さいし、全然、表現出来てない。ここまで見てきた女子のパートの中で一番ひどいと思うわ。今までいかに真剣にやってこなかったのかが1発で分かる。更に言うと、男子と意識の差がありすぎてる。だからパートリーダーに聞いたのよ。どれだけ一緒に練習してる、って」

 

 

 あまりの冷たい発言に流石の吉田さんも表情が曇る。吉田さんだけじゃない。リサやそれ以外の人も俯いて、ショックを隠せない。だが、音楽の先生は担任の先生と遥都の方を見て、さらに続けた。

 

 

「先生。それから、パートリーダーさん。これからはずっと一緒に練習するようにお願いします。加えて、仕事を押し付けるようで申し訳ないんだけど、遥都くん、あなたが全体を仕切りなさい。今まで通りでいいわ。お願いしてもいいかしら?」

 

「え、あっ、はい……」

 

「それじゃあ、よろしくね。じゃあ、私は次のクラスに行ってくるわね」

 

 

 突然のことに教室に沈黙が流れた。気まずい空気が教室を包み、誰もが言葉を発するのを躊躇う。遥都がチラリと吉田さんの方を見ると、皆の前で赤っ恥をかかされたせいか怒りに震えている。その奥に見えた女子、吉田さんとは違うグループにいてどんよりしながら帰ってきていた人は、少しホッとしたような表情を浮かべながらも吉田さんの取り巻きを気にしていて、すぐに恐れを抱く表情へと変わってしまった。

 

 曇り空が広がり、15時代とは思えない校庭の明るさしていた。同じような空気がチグハグクラス6限目終了のチャイムがなった。それを聞き、先生は無理に笑顔を作りながら、皆に切り出す。

 

 

「さ、さぁ、チャイムもなったし一度、帰りの会を始めましょうか!!」

 

 

 皆もそれを聞き、ハッとして席に着いた。だが、その席に座る間も笑い声などは一切起こらず、空気が嫌な音を立てた。ミシミシと上からの圧力に今にも平静を保っていた柱が押しつぶされる、そんなような音だ。

 

 その後、流石の先生も感じ取っているのがいつもより多い作り笑顔を振りまきながら、帰りの会を終わらせていく。遥都もそれに違和感を感じながらも、外を眺めながら、気づかない振りをしている。曇り空が広がり、今にも雨が降り出してしまいそうな天気の中、先生の話を聞き流し、気づくと帰りの会が日直の挨拶を持って締められていた。帰りの会が終わり、さっさと帰りの用意を始める遥都。そこに知夏良が話しかけてくる。

 

 

「あのさ、遥都。ちょっとこの子達が話したいことあるってよ」

 

 

 知夏良は親指でそちらを指しながら、そう言った。遥都が覗き込むようにして後ろを見ると、後ろには、数人の女子が申し訳なさそうにこちらを向いて頭を下げていた。思い当たる節がない遥都は疑問を抱きながらも質問をした。

 

 

「あの、どうかしました?」

 

「女子のパート練のこと、話しておこうかと思って……」

 

「あ……。なるほど。あの、吉田さんのこともいくつか聞きたいんだけどいいですか?」

 

「は、はい。ありがとうこざいます!」

 

 

 周りの目線を気にしながら、小さな声でそういう彼女ら。そして、色々なことを教えてくれた。

 

 内容としてはこうだ。最初のうちはまだマシだったが、吉田さんがパートリーダーとなってから真面目に練習する時間が減っていったということ。始めるまでベラベラと仲良い友達と喋り、練習も早めに終わる。その数少なくなった練習すらヘラヘラとして真面目に行わない。最後の全体を見てパートリーダーが何か言うところも、いつも同じように「すごく良かったよ!?」といかにも作り上げたように言っていること。そんなような内容だった。

 

 

「そういうことか……。それを音楽の先生にガッツリ見抜かれ、見せ物のような注意をされたからあんな吉田さん荒れてたのか」

 

「多分、そうだとと思う」

 

「ん。わかった。教えてくれてありがとね。吉田さんとももう一回話してみるよ」

 

 

 そう言って遥都はその場を切り、吉田さんに目を向ける。この時点で遥都の顔は少し険しいものになっていた。あの人はまだ帰っていない。取り巻き数人と音楽の先生の愚痴を聞こえるような声で話している。

 

 

「あの、吉田さん」

 

「あぁ!?って、ああ、遥都くんか!何?」

 

「ちょっと、話があるんだけど、いい?」

 

「え、いいけど……。ちょ、みんなは先帰っててよ!私は遥都くんと喋ってくるから!!ほら、早く!!」

 

 

 少し浮かれながら言葉を発する吉田さんを後ろに、遥都はスっと心を落ち着かせる。昔誰かが言っていた。その人に対し、声を荒らげ対抗してしまえばそれはその人と同レベルに落ちると。落ち着いた頭でもう一度考える。何を言うか、どう言うのか、どんな口調で、表情で。あらゆることを考えた上で遥都は思う。今から、吉田さんの怒りを逆撫でするようなことをするのだ。それでも言わなければならない。

 

 

『友希那の誇りを守るために』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──合唱コンクールまで残り3日

 

 

 




「やばい、シリアスなのに、こんなテンションでいいのか?」
「ん?あれ?紅葉さん!?そんなインテリぶっちゃってどうしたんですか!?頭でもうちました!?」
「久しぶりにあったのにしつれいだな、麻弥ちゃん……」
「女子力以来ですもんね!いや、ジブンと同じ笑い声が前書きで聞こえてきたので、もしかしてと思ってですね!」
「なるほど!あ、我ながらあの話作者友達の中で人気らしかったのよ。嬉しいよねー」
「そうなんですか!?」

はい、久しぶり麻弥ちゃんの方を読み返したくなり書きたくなりました。自分で作っといてなんですが、オススメですwww

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ぽぽろさん(☆10)、みゃーむら(☆9)ありがとうこざいます

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