すいません、頑張れるように頑張りますね!
さて、前回ようやく合唱コンクールが終わった状態でございます。話が一段落した所で、今回は過去から今に戻ります
英雄が知る物語への扉
みんなの前に置かれた麦茶の氷が綺麗な音を立てる。グラスの周りには結露が生まれ、それにより、机の上に小さな水たまりが出来ており、時間の経過を物語っていた。
「……と、まぁ、こんな感じのことがあったの」
リサが皆を見渡しながらそう言った。脇に座る俺と友希那もそれに続き、皆の方を見る。宇田川さんはうるうると目を潤して、白金さんは少し俯き気味に、氷川さんはその事実を真正面から受け止めるかのようにこちらを真っ直ぐに見ていた。
「多少、遥都の付け加えがあったとしても、これがアタシや友希那が知ってる事だと思う。だよね?友希那」
「えぇ。その通りよ。私が入院していた頃の話はよく知らなかったけど」
──第29話:英雄が知る物語への扉
「は、遥都さぁ〜〜〜ん!!」
「宇田川さん、そんな泣く必要ないでしょ……」
「だって、遥都さん!友希那さんのために!!」
「成り行きだから」
涙を流しながら、こちらに向かって突っ走ってくる宇田川さん。正直、どう対応していいのか分からない。これじゃまるで幼稚園児じゃないか。少し困惑する俺を他所に氷川さんが話を続ける。
「そうだったのですか……。なんと言えばいいのでしょう、湊さんのためとはいえ、凄いですね」
「はい……、私も、凄いと思いました……。鬼気迫るものを感じたというか……」
「えぇ、白金さんの言う通りですね」
氷川さんが白金さんに同意を示し、目の前にある麦茶を一口飲む。
「うん……。アタシもあの時あそこにいたけど、遥都のこと、正直怖かったもん……。違う誰か見たいだったから……」
「そりゃ悪かったな。怖がらせてたみたいでよ」
「あ、いいのいいの!!むしろ、そうしてもらって有難かったから!」
慌てて否定するリサが申し訳なさそうにヒラヒラと手を振った。俺はそれを見て少しホッとする。もしも恐怖を与えていたとなれば、申し訳ないのだから。
「てか、リサも意外と知ってたんだな。知らないように湊さんには言うなって言っといたんだけど……」
「実は知夏良を問い詰めたら吐いてくれたの。アタシも色々知っておきたかったしね」
「なるほど。この間、あいつから送られてきた謎の『すんません』ってそういう事か……」
メッセージアプリで知夏良の画面を開き、苦笑いを浮かべる。柄にもなく謝ってくると思ったら、そういう事だったらしい。その時に理由を聞くと、『のちのち分かるから』とか言ってたしな。俺は『理由わかったわ。今度締めるから。でも、ありがと』と送り、携帯を閉じる。そんなリサと俺の様子を見ていた氷川さんが、フッと口元を綻ばせる。
「なんとなくですが、わかった気がしました」
「ん?紗夜、どーかしたの?」
「今井さんが伊月さんのことを好いている理由ですよ。あとは、今井さんが湊さんにベッタリな理由ですかね……」
「"好いている"って……!!ちょ、紗夜!何言ってるの!?」
「あら?本当の事じゃないんですか?」
顔を真っ赤にして、リサが紗夜さんをぽかぽかと殴っている。リサも冗談なんだからそこまでしなくてもいいのにと思いながらも宇田川さんや白金さんの方を見る。
「あの、ゴメンなさいね。急にこんな
シリアスな話聞かせてしまって」
「い、いえ!全然大丈夫です!!」
「はい……!わ、私たちも、友希那さんやリサさんのこと、知りたかったですから……」
「そう言って貰えると助かるよ。そう言えば、何か今の話で質問とかある?」
「んー、じゃあ、3人ともその後はどうだったんですか?」
「友希那が戻ってきてからはもう特に何かイジメらしいものはなかった気がするけど……。湊さんはどうです?」
「そうね。誰かに嫌がらせをされたりというのはなかったわ」
「アタシもそう思ったよ。確かに、ギスギスした感じは残ったけど……。でも、なんだろ?嫌な感じじゃなくて、こう、怖いから避けてるみたいな!あ、ほら、紗夜が風紀委員してて、校門の前をみんなが避けてく見たいな?」
「し、しょうがないでしょう!?それが仕事なんですから!!」
急に話に入ってきたリサが冗談を言い、逆に顔を赤くしながら否定する紗夜さんに場の空気が少し明るくなる。こういう雰囲気を変えることに関してはリサは本当に長けていると思う。
実際、リサの言う通りだった。あの後、クラスでは女子の行動が見違えるほど大人しくなり、グループが細分化されて行った。吉田さんの取り巻きも減り、2,3人グループができて、クラス外の子とも交流を持つようにな交友関係に変化していったように見えた。
「っと、もう、結構な時間だな。」
緊張がとけ、背もたれに身体を預けていると、壁掛け時計が目に入った。時計はもう9時半を回っていて、体感時間との差に驚いていた。真剣な時や楽しい時ほど時間は早く感じるものだ。
「本当ね……。どうしましょうか?」
「あわわわ!お姉ちゃんに連絡からどこいるんだ!?ってメッセージ来てる!」
「わ、私も、お母さんから……」
「私は日菜から来てるわね……。母さんからの伝言だとは思うけど」
さすがに年頃の女子だ。男子は親にメッセージ一本入れておけば何とかなるものだが、女子となるとやはり身体的や性的な危険も伴うから親は心配になるのだろう。
「どうします?このままお開きでも時間的に悪くは無いと思いますけど?」
白金さんや宇田川さんが家族に急いでメッセージを送ろうとしている中、俺はその言葉を聞いて、足元に置いてあるトレイを手に取ろうとする。だが、リサがその手を止めさせた。
「ちょっと待って!」
リサには珍しく笑顔が消えていた。リサの言葉に皆が一度、行動を止める。しばらくの沈黙。網戸から流れ込む涼しげな風邪がカーテンを揺らし、肌に触れては流れていく。パタパタと風による音が沈黙の中に流れる。その音が止んだ、直後だった。宇田川さんが口を開く。
「で、でも、リサ姉、事件の話はもう終わったよ?」
「アタシと友希那が知る範囲では、ね?でも、多分違うんじゃないかな?友希那も今回はそこを知りたいんだよね?」
「そうね。私がどうしても引っかかってしまう所は、そこのことよ……」
「え?ど、どういうことですか……?」
「そういうことでしたか……。なるほど、理解しました。確かに私の疑問は消えていませんしね。」
宇田川さんと白金さんは頭にハテナマークを浮かべるも、氷川さんは納得したような表情を見せた。あの時、迫ってきた氷川さんなら当たり前と言えば当たり前かもしれない。
「多分、紗夜の想像してることは合ってるかな?さっき話したのはあくまでも、アタシと友希那が知っていることってこと。」
「そう、つまり、私やリサは知らないけど遥都だけが知っている、裏側のことがあるって事よ。今考えるとあの時の終わり方があまりに穏便すぎたのよ。誰かがなにかしかけたとしか思えない。そうよね、遥都?」
湊さんの言葉により5人全員の視線が僕に集められた。
「遥都……。その事について、話してくれないかな……?」
落ち着かせるために俺は一息吐く。そして、また麦茶を一口飲んでさらに心を静まらせる。ここまで来て話さないはないだろう。流石の俺でもそこまでバカじゃない。だが、実際話すとなると隠し続けてきたことなだけあってやはり心のどこかでブレーキがかかる。心拍数は上がり、心臓の音がいつもより大きく響く。だから、俺は、
(大丈夫……)
目を閉じて、胸の前で手をおき、トンっと小さく叩く。昔からかもしれない。いつからかは分からないが、こうやってやるとすごく落ち着く。
「あ、あの時と同じことしてる……」
「ん?なんか言ったか?リサ」
「ううん!あの、小6の時のさ、みんなの前で、『最優秀賞とろうね』って言ってた時も同じことやってたな、って、」
「あ……」
なんだ、簡単なことじゃないか。今も昔も変わらない。あの初めての時にこれをやったから緊張している時にこうすると落ち着くんだ。なんにも変わってないじゃないか。小学校の高学年になってからは薄れてはいたものの、リサとも湊さんとも決して仲が悪くなった訳では無い。むしろ、いい方だったはずだ。それは、さらに昔の小学校低学年の時、リサが誘ってくれたあの時から。途端に胸のつかえが取れた気がした。すると、紡いでいた口が自然と綻んだ。
「それじゃあ、話すよ。ちょっと、不快かもしれないけど、そう思ったら耳塞いどいてね。まずは…………、」
「ヴァーーー、紅葉さん」
「ちょ、なに……?」
「遥都さん、カッコよくて……!!」
「確かに怖いけど、カッコイイよねぇ〜」
「お化け屋敷で人を突き飛ばしてでも自分を守る紅葉さんとは大違いですー!!」
「ちょ、待っ、どっからその話仕入れた!?」