俺とアタシの居場所《一応 完結 》   作: 紅葉 

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いよいよ佳境ですね、
過去編自体はもうすぐで終わりそうです
では、もうしばらくお付き合い下さい!


歌姫がために

 

 

 沈黙が流れる教室。それは時が止まったようだった。凍りつく教室、遥都はその中を凛と皆の前に立ち、堂々と席に戻る。そして、遥都が席に座った瞬間に、

 

〜♪〜♬

 

 高らかにチャイムがなる。凍りついた空気が一瞬にして崩れ、クラスの時計の針が動き出す。それと同時に先生が慌てふためくように遥都を呼んだ。

 

 

「伊月くん!ちょっと!!!」

 

 

 教室の外へ呼び出され、そのまま手を掴まれ、連れ去られる。先生は去り際に皆に帰りの許可を出して、皆が遠慮気味にランドセルを背負い始めた。合唱コンクールはこうしてなんとも後味の悪い形で終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第33話:歌姫がために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知夏良は職員室に連れ出された遥都を心配で待っていた。だが、既に20分は経過している。やったことを考えたら仕方ないとも思えるが、昨日や一昨日のことを見てはいないが知っている分、なんとももどかしい気分が知夏良を包んでいた。

 

 そんな時だった。教室に残る知夏良に帰ろうとしていた今井さんが声をかけたのだった。

 

 

「知夏良は帰らないの?」

 

「今井さんか。どうかした?」

 

「この後さ、クラスのみんなで友希那に最優秀賞取ったこと、話しに行くらしいけど知夏良も来るよね?みんな帰ったら一旦、公園で集合していくんだけど」

 

「ん〜〜〜、今はいいかな……。自分は遥都を待ってるよ」

 

「そっか……!じゃあ、また今度ね!」

 

 

 少し残念そうな顔をするリサに知夏良は申し訳なさを感じるも、今は親友のことを優先したい。そう思い、ランドセルを背負い、友達の元へいくリサの背中から視線を外した。

 

 その後も、半分くらいの生徒がいる教室で知夏良は外のグラウンドを見つめながら、遥都を待った。教室のざわめきも雨音により少しは薄れ、雨が降り注ぐグラウンドには誰一人おらず、遊具だけが孤独に雨に打たれている。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

「おいこら、起きろ。いつまで寝てんだよ」

 

「んあ?」

 

「『んあ?』じゃなくて……。ほら、さっさと帰るぞ。ったく、待ってなくて良かったのに……」

 

 

 あれから20分経ったのだろうか?知夏良はどうやら教室でそのまま寝てしまったらしい。そうしたら、説教から帰ってきた遥都が知夏良を起こしに来たのだ。

 

 

「けどさ、えらく長い時間怒られたね?」

 

「まぁな〜、まぁ、でも、言いたいこと言えたから良かったよ」

 

「遥都が満足してるなら良かったけどさ」

 

 

 ランドセルを背負い、帰りの用意をする遥都の横で机に腰かけ、知夏良は嬉しそうにそう言った。それを聞き、遥都もフッと口元を緩ませる。これは目の奥の炎感じ取っていた知夏良にしか出来ないことだっただろう。傍から見てもその2人が作り出す小さな正義はとても鮮やかに見える。

 

 

「あ、そういや、聞いたか?この後、クラスのみんなで湊さんのお見舞い行くらしいぜ?誰が発案したか知らないけど……」

 

「リサじゃねぇのか?言い方悪いけど、アイツ以外あんまり、友希那のこと相手にしようとは思わないだろ?」

 

「いや、多分違うと思うぜ」

 

「理由は?」

 

「だって今井さんが自分に言ってきた時、『行くらしい』って言ったからさ。もし、自分が言い出しっぺなら、"らしい"なんて付けないだろ?」

 

「確かに……」

 

 

 この瞬間、遥都の頭に2つの可能性が頭に浮かぶ。一つはクラスのうちの誰かが"同調"の空気を破り、言い出したという可能性。こちらならば友希那にとって良い風となる。だが、もう一つの可能性は……、

 

 

「その"クラスのみんな"って具体的に誰なんだ?」

 

「ん〜、自分は聞いてねぇな。言い出しっぺはさっき言った通り、わかんねぇし」

 

「なら、集合場所と時間は?」

 

「それはえぇっと……、あ、そうだ。あの公園で一旦帰ってから集合って言ってたから、そろそろじゃねぇか?」

 

「ナイス、知夏良」

 

 

 その瞬間、遥都は急いで走り出す。わけも分からず、知夏良はそのあとを追う。廊下を走りながら、急いで昇降口まで階段を駆け下りていく。

 

 

「どうしたってんだよ!?」

 

「ちょっと、嫌な予感がするだけ!」

 

「はぁっ!?嫌な予感!?」

 

「何日か前に吉田さんはあんだけ俺が煽ったら俺に仕返しをしに来た。そんで、その後の今日だ。何かしてくるって考えるのが妥当じゃねぇか!?」

 

「た、確かに……」

 

「それだけじゃねぇよ!今回、このお見舞い企画したの誰か考えてみろよ!なんでそんなイベントを俺らに伝わってないんだ?俺が怒られてたからっていう単純な理由ならいいけど、多分そうじゃねぇだろ?簡単だよ。俺らを疎ましく思ってる奴が今回のことを企画して、俺らに気づかれないように実行しようとしているんだよ!」

 

「あ……!!」

 

 

 遥都が考えていたもう1つの可能性、それは吉田さんらによる"復讐"だった。遥都に暴力をすることではすました顔でやり過ごされる。ならば、アイツの頑張りの根源を無くしてしまおうという考え。つまりは友希那に何らかの嫌がらせをしてしまおうということだ。

 

 

「分かったなら、知夏良も急いで!」

 

「分かったよ!てか、自分より遅いくせに前でんな!」

 

 

 冗談めかしていう知夏良がアクセルをふむかのように一気に加速をして、遥都の前を走る。負けじと遥都もグングンとスピードを上げていく。そして、学校を飛び出し、公園へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 一方で、遥都らが昇降口から飛び出して10分ほどたった頃、待ち合わせ場所となっているはずの公園には、リサが来ていた。

 

 

「ゴメン〜!ちょっと遅れた!」

 

「全然、大丈夫だよ〜!吉田さんたちがまだ来てないし」

 

 

 集合時間は特に決まっていなかったが、帰ってからすぐという約束だったので、既に何人かの女の子がここに来ていた。

 

 

「吉田さん?あの子来るの!?」

 

「リサちゃん、知らなかったの?」

 

「う、うん……。他に誰が来るの?」

 

「えっとね、川瀬くんとか。あの吉田さん達のグループが言い出したらしいよ?」

 

「え?」

 

 

 リサは少し困惑した。リサの目からも吉田さんや川瀬らが友希那に対し、嫌悪感を覚えていたのは分かっていた。それなのに、そんなお見舞いのようなイベントを起こすとは考えにくい。そんな短時間で嫌悪感は払拭できるものなのだろうか?プラスに捉えるなら、心を入れ替えたということなのだが……、

 

 

「とりあえず、もう少しだけ待ってみようよ」

 

「そ、そうだね……」

 

 

 不安な気持ちはそのままにリサはその友達と公園で待ち続けた。

 待ち始めてから10分程だろうか?少しずつ、人は集まるものの、やはり吉田さんらは来ない。

 

 

「ど、どうしよう。もう、時間も時間だし……」

 

「あれ!?まだいる!?」

 

「マジか……。ラッキー!!」

 

「遥都?それに、知夏良!?」

 

 

 息切れをしながら、公園の入口に立つ二人。公園内で待ち合わせをしていた、十人弱の同級生がリサの声に反応して一斉にこちらを見た。

 

 

「リサ、なんでまだみんないるんだ?」

 

「だって、まだ来てないし……」

 

「誰が?」

 

「言い出した吉田さんとか?あと、川瀬くんもかな」

 

 

 リサの答えに遥都と知夏良は目を見合わせて、コクリと頷いた。嫌な予感というものはやはり的中するものだ。では、その予感に対応する、防止する最善策を尽くす、その想いが今の一瞬のアイコンタクトで共有する。

 そして、遥都がコンマ数秒で考え出した、最善策を行動へ移す。

 

 

「吉田さんが体調悪くなって急に来れなくなったらしいよ。だから、吉田さんの仲いい子は後日、まとまって行ったら?だから、今日はみんなで遊んできたら?俺はここに残って遅れてきた人に伝えとくから」

 

 

 フワッとした笑顔。できるだけ悟らせないように自然な表情で、後から何を言われたっていい。それでも今は……。戸惑うみんなの前で、遥都は表の仮面とは裏腹にバクバクと大きく鳴る心臓。それが必死さを表していた。

 

 

「なーんだ、なら、みんな行こうぜ。せっかくならみんなで行きたいしな!」

 

 

 わざとらしく知夏良が大きな声でそう言った。どう行動していいか迷うみんなの雰囲気を変えるためだ。そして、それを行ったのは……、

 

 皆がリサに続いてぞろぞろと公園の外へ向かう。知夏良は靴紐を結び直していたためか、後ろから少し駆け足でみなの背中を追いかける。そして、すれ違いざまに……

 

 

「貸し、一、だからな。全部終わったら今度は嘘なしで全部吐いてもらうからな。……けど、託したぞ。信じてるからな」

 

 耳元で遥都以外の誰にも聞こえないようにそう言った。さっきの大声もこの行動も全ては遥都のため。こいつなら信じられる、そんな思いからだった。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 遥都もその想いの重さと有難さを改めて思い知る。こんなにも頼もしい友達がいたのだ。こんなに心強いことはない。

 

 背中の向こうで皆の元へ向かい、また楽しげな会話をする知夏良に大きな感謝を手向ける。

 

 

「よしっ……」

 

 

 皆が見えなくなるのを見届けた後、遥都は小さく気合を入れた。幼馴染の誇りと信念、親友の信頼と期待、それらの重みをもう一度噛み締め、大きく息を吐き出し、心を決める。

 

 

(吉田さんとかが首謀者なら、嫌がらせが目的。それを行うはずだったのに、リサや知夏良に伝わったことでやりにくくなったから咄嗟に計画を変えたのだろう)

 

 

 公園の時計台の時刻をチラリとみた。時刻は3:35。今日来るかどうかも分からない。だが、それでも、友希那に被害をいかせることだけは遥都には許せなかった。だから、遥都はその瞬間、知夏良らが出ていった反対の出口から飛び出した。

 

 

(吉田さんはせっかちなタイプ。一々、時間を置いてとかそんなまどろっこしいことをするタイプじゃない。やるなら今日!!)

 

 

 普段なら絶対渡らないような危険な車間距離でも今日は違った。いち早く、病院に回り込みたかった。クラクションを鳴らされながらも最短距離で遥都は病院へ向かう。

 

 遂に背中を捉えた。場所にして病院と公園のちょうど真ん中あたり、人気のない路地。

 

 

「見つけた……っ!!」

 

「なっ!?伊月ぃ!?」

 

「遥都くんっ!?何しに来たんだよ!?」

 

 

 

 




「知夏良くん、かっこいいことするねー!耳元でボソリなんて……」
「いやぁ、素材がいいですからね!」
「やられた遥都くんもキュンキュンしてるんじゃないの!?」
「そぉなんですよ!!いやぁ、紅葉さんも分かってる!」
「でしょー?というわけで、読者の皆さんにも言ってあげて?」
「分かりました!では……"託してるぞ、信じてるからな"」
「きゃー!かっこいい!」

名無しの大空さん、評価ありがとうございます!
あとバー満タンまでもうすこしですので、皆さんもぜひ!

過去編終了まで……残り2話
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