俺とアタシの居場所《一応 完結 》   作: 紅葉 

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いよいよ過去編ラスト。

そして……もう……、


英雄の犠牲、英雄との別れ

 

 あれから何時間ぐらいだろうか?日曜日の空は生憎の土砂降り。明け方から歩き回った上に、一睡もしていない遥都にしたら体力的にも少しキツかった。

 

 

「帰るか……」

 

 

 湿り気を帯びたシャツをパタパタとさせ、遥都は痛む足を引きづりつつも家路に着いた。暑さと痛みとそれから後悔の念と、それらが混ざり混ざって視界がぼやけ、真っ黒なアスファルトに吸い込まれそうになりながらも遥都は歩き続きけた。

 

 帰り始めてから20分後ぐらいだろうか。見慣れた家がようやく見え、その扉のドアノブに手をかけた。

 

 

「ただいま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第35話:英雄の犠牲、英雄との別れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、なんのことか全くと言っていいほど理解ができなかった。玄関には母親が仁王立ちして、上からこちらを睨みつける。その目線は少なくとも良いものではなかった。むしろ、怒り。そういった感情の目線だった。

 

 

「……遥都、あなた、昨日のケガについて説明しなさい」

 

「…………」

 

「説明しなさいっ!!!」

 

 

 黙り込む遥都に対し、母が怒鳴り声を上げる。普段から厳しい母だったが、この日は格別だった。今まで受けてきたどの怒鳴り声よりも怖かった。

 

 

「べ、つに……」

 

「嘘つくなって前から言ってるでしょっ!?」

 

「……っ」

 

 

 目を合わせることも出来ず、遥都は玄関で靴も脱がずに俯いたまま。激昴する母はイライラするかのように黙り込んでる時間、組んだ手の指をしきりに動かす。

 

 だが、それでも、遥都が口を開くことは無かった。見かねて母が話を前に進める。

 

 

「さっき学校から電話がかかってきたわよ。昨日、えらく暴れたらしいわね……。しかも、骨折や病院送りにまでして……、なんてことしてくれたの!?」

 

 

 再び怒号が家の中に響いた。先程よりも遥かに大きな声。二階にいた父もそれを聞いて、様子を見に降りてくる。熱くなっている母親に父親が宥めるように事情を聞く。その間も遥都は俯いて黙り込んでいた。

 

 

「なんとか言いなさいよ!!!どうせ、なんにも考えてなかったんでしょっ!?周りへの迷惑、その後のこと!!どうなの!?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、遥都は母親を睨みつける。まるで、『そうじゃない』『きちんと理由はあったんだ』と言わんばかりに。俯いていたが急に睨みつけられ母親は少したじろぐ。

 

 

「い、言いたいことがあるならはっきり言いなさい!!」

 

 

 母はたじろぎを隠すように必死に言葉をつなぐ。父親はただただ黙ってその様子を見ていた。そんな二人の親の姿を睨みつけるように見る遥都。そのまま、お互いに黙り込む時間が流れる。

 

 だが、その様子を見て、父が動き始めた。

 

 

「お母さん、遥都と一緒に謝りに行くんだろ?用意してきて。その間に俺がこいつと話す」

 

 

 そう言って、遥都の腕をグイッと掴むと、リビングへと連れていった。母親は気を落ち着かせるためか溜息をついて、大きな足尾を立てながら2階へと上がっていった。リビングに連れていかれると、床に正座をして、父親はソファに腰掛ける。前かがみになりながら、遥都の話を聞いた。

 

 

「さて……、お前、なにしでかしたんだ?」

 

「別に……」

 

「別にだったらお母さんあんなに怒んねぇだろうが。着くならもっとマシな嘘つかんかい。それで、本当は?」

 

「…………殴り合いした」

 

「それで?」

 

「相手の男子に怪我させた」

 

「他には?」

 

「…………特に」

 

「……はぁ、よし分かった。他にお前はやっちゃいけないって俺が散々言ってきたことをやろうとしたんだよ。とにかく、他はどうだっていい。俺はお前がそれをやったことだけは許さん。全く、お前は何考えていたんだ……」

 

 

 そう言って呆れたような父親はソファを立った。こちらもイラついているのか、徐々に声が低く威圧的になっていく。遥都はなんのことか、頭が回らなかった。疲れと緊張のせいか考えることが出来なかったのだ。

 

 そして、十数秒後ぐらいには母親が黒基調の服装に着替えてきて、俺を連れていく。学校で先生や校長に怒られ、そのまま相手の男子の家にいき、謝る。それをひたすら繰り返す一日だった。

 

 

『申し訳ないですけど……、教師側としても……』

 

『お宅の息子さんはなんなのですか!?』

 

 

 そんな言葉が節目節目に聞こえてくる。それが聞こえる度に、いや、母や父に怒られていた時からだったかもしれない。その度に遥都の心の中では『ちがう。そうじゃない』と叫ぶ。アイツらが自分の都合のいいところだけ言っているのは何となくわかっていた。自分に正義があると思っていた。だが、それが言葉になることはない。一生、棺の中に閉じ込められて、遥都は自身で鍵をかけた。そして、こう刻み込む。

 

 

『確かなものが無いことが唯一確かなことである』

 

 

 自ら鍵をかけ、心の奥底に沈めたその棺がもう上がってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

 

 

 

 翌週からの学校。噂の広がりというのは予想よりはるかに早い。朝、遥都が教室に入った瞬間にざわつき、そそくさと皆が避け始める。うっすらと聞こえてくる、声はどれも、アイツらを擁護するものばかり。

 

 

「ねぇ、あの子がやったんでしょ?」

 

「そうそう!怖いよね〜」

 

「金属でボコボコにしたらしいよ」

 

 

 噂というのはいい意味でも悪い意味でも大きくなる。聞き手の都合のいい部分だけが盛られて伝わってしまう。だが、聞き手はそれをあたかも真実のように捉えてしまう。しかも、伝わるのは恐ろしく速い。"無勢に多勢"とはよく言ったものだ。伝わるのが早い分、聞いた人も多い。だから、一度出回った噂は絶対に消えやしない。引っ込みはつかなくなり、意見することさえできない。そう思ったのはこの頃だろう。

 

 

「好き勝手言いやがって……。おぃ……、遥都?」

 

「いいから。知夏良も同じ目にあうぞ」

 

 

 近くに来ていた知夏良がクラスに一喝しようとする。だが、遥都は虚ろな目でそれを止めた。

 

 

「で、でも、このままじゃ、お前が……!!」

 

「むしろこれで良かったんだよ。このまま俺は悪者のままでいい」

 

「なんで!?」

 

「そうすることで、友希那の話題がなくなるだろ?毒を以て毒を制す、ならぬ、噂を持って噂を制すってところ」

 

 

 そういう遥都に知夏良は何も言えなかった。もどかしい気持ちの行きどころが無くなり、机の足を蹴る。大きな音が教室に響き渡り、皆が黙りこくった。だが、それも一瞬で数秒後にはまたコソコソと話し始める。

 

 

「クソっ……。ムカつくな……!!」

 

 

 知夏良がそういうと同時に扉が開き、また新たにクラスメイトが入ってくる。そこにはあの時にいた女子二人の姿があった。その二人を見るなり、クラスの女子や男子がその人のところに駆け寄り、見せかけの心配と返しを始める。知夏良はそれを見て、さらにイラつきを見せた。

 

 

「ちょっと行ってくる……」

 

「……知夏良?何する気だよ?」

 

「別に変なことをする気はない。遥都の気持ちも無駄にはしたくないし。けど、アイツらに一言だけ言いたいことがあってな」

 

 

 それだけ言うと、知夏良は怖い顔をしながらその集団に入っていった。少し心配になりつつも、遥都は窓の外に視線を移す。久しぶりの快晴。だが、遥都の目に写る雲ひとつない青空は、むしろ寂しく見えていた。

 

 一方の知夏良は集団の中を中心へと進む。

 

 

「あら?佐山じゃない。昨日はマジあんがとね!マジ助かった!」

 

「そうそう!さんきゅー」

 

 

 吉田さんともう一人が笑顔でそういった。だが、話しかけられても知夏良の表情は一つもかわらない。あの怖い顔のままだ。

 

 

「…………お前ら、遥都の気も知らねぇで」

 

「なに?なんて言ったの?」

 

「ちょっと、話がある」

 

 

 そう言って、無理やりにでも二人を連れ出した。そして、人目につかない特別教室が並ぶ3階へと連れていく。

 

 

「急にどうしたの、佐山?」

 

「お前らがどうしてそんなにヘラヘラ笑ってんだよ!?」

 

 

 急な怒号に2人がビクつく。普段、温厚な知夏良。それなのに、見たこともないような顔で怒鳴ったのだ。

 

 

「で、でも、あの時佐山は私たちを助けたじゃない!!」

 

「助けたわけじゃねぇよ!!遥都が後から後悔しないようにしただけだ!別にお前らのためじゃねぇよ!!」

 

 

 廊下に響き渡る怒鳴り声が空気を震わせる。遥都には勝らずとも劣らない、そんな知夏良の覇気。それをまともに受け、女子の2人はまた腰が抜ける。

 

 

「別に遥都を悪くいうつもりはないけど、あれは確かにやりすぎだ。けど、アイツは無駄に大人だから、大抵の事は流してくれる。それでも今回は流せなかった。お前らが流させなかったんだよ!なのに、変に勘違いしてヘラヘラと……!!昨日、自分が止めてしまった遥都のうでを俺が代わって、振り下ろしてやりたくて仕方ねぇよ!!」

 

 

 震える知夏良の肩。そして、彼は必死に落ち着かせるかのように大きく息を吸い込み、静かに続けた。

 

 

「もう流れちゃった噂に関してはもうどうしようもない。だから、これだけは守れ。遥都がそこまでして守りたかったものだから。

 

"湊さんを、あの人の音楽を、バカにするな。そして、あの人に二度と近づくな。それから、暴力沙汰のことは湊さんに絶対に伝わらないようにしろ"

 

頼むから。アイツが自分を犠牲にしてまでやったんだから」

 

 

 そう言う知夏良の目にはうっすらと涙が見えた。最後の方も少し涙声でしゃべる。そんな知夏良の姿に流石の女子達も首を横には振れなかった。その姿を確認し、知夏良は涙を袖で拭い、階段を降りていった。

 

 教室に戻った知夏良は遥都の席に戻る。周りから避けられ、ポッカリと空いたスペースに座ると、机に突っ伏していた遥都を起こした。

 

 

「わり……。やっぱり我慢できなかった」

 

「そうか……、でも、ありがとうな」

 

「こっちこそ」

 

 

 そうボソリと呟くと知夏良も遥都も黙りこんだ。クラスメイトが登校するにつれ、徐々に騒がしく、明るくなっていく教室。それとは正反対の二人がクラスから妙に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 いつかある人が言った。

 

 The most I can do for my friend is simply to be his friend.

 

 意味は"友人のために私がしてあげられる一番のこと、それは、ただ友人でいてあげること"。知夏良は遥都のために真っ直ぐに動いた。それが本人を危険に晒そうとも彼は躊躇をしない。それは彼が友達でいたいから。彼にとったら遥都の横にいることが一番楽しいからから、そして、同時に全幅の信頼を彼に置いてるからだろう。

 

 

 いつかある人が言った。

 

 英雄は死することで完成する

 

 かの皇帝ナポレオン・ボナパルトも、欧州全土の統一をあと一歩のところで、この世を去った。同様に、天下統一を目の前にまで迫り、第六天魔王と恐れられた織田信長、フランス革命のヒロイン、ジャンヌ・ダルク、明治維新の立役者、坂本龍馬。そして、キリスト教という後世に大きく名を残した宗教の基礎をつくりあげたイエス・キリスト。

 

 彼らの死と引き換えに後の世にどれほど大きな影響を与えたか。知らぬ人はいないだろう。彼らは己の命をとして戦い、そして散っていった。その散りざまを、想いを目の当たりにし、後に民は心を打たれるのだろう。

 

 それは彼らとて、同じ。遥都の自分の犠牲も考えずに、巨大な空気に立ち向かい、そして、その空気の根源を叩いた。これを英雄と呼ばずしてなんと呼ぶ。だが、それに気づくのはまだ先のことだった。

 

 チャイムがなる数秒前。頭の中にあの言葉が浮かぶ。それに答えると同時にチャイムが鳴り響き、英雄として、あるいは本来の伊月遥都としての、幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの子の英雄になってあげて?』

 

 

 

 

 

 

 

『こんな形だけど、なんとかなれたよ、英雄に』

 

 

 

 

 

 

 

 




流石にそろそろ真面目に話をしようかなと思いまして。
残り9人で赤いバーがMAXまで埋まります!まだしてない方いればお願いします!ホントにお願いします……。

それから、所々の修正をしてます。過去編は今までの話の伏線の回収をしまくってますので並行して呼んでくれると楽しめるかもです!

そして、残り1話です……
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