最後の方は駆け足となってしまいましたが、ここで最終話となります。最後はどうなるのか?皆さんお楽しみに!!
それではどうぞ!
英雄の居場所
夜の街を静かに三日月が照らしている。そんな鋭くも美しい三日月が照らす街の、そのうちの一件、予想以上に壮絶な過去にRoseliaの5人が言葉を失う。
俺にとってもその沈黙は居心地が悪い。かと言って、どうしていいかも分からないから、向こうが頭の整理を待つしかなかった。秒針の音が急かすように、自分達の緊張の糸を引く。周りの空気も張りつめ、今にもバランスが崩れ、崩壊しそうだった。
──第36話:英雄の居場所
シンとした部屋。時折、家の前を通る車の音がうっすらと聞こえてはすぐに通り去っていく。話が終えてから何分がたっただろうか?アタシは未だに言葉を発せずにいた。アタシはそんなことが起きていたことなんて微塵も知らなかった。もちろん、トラブルになっていたことは知っていた。だが、遥都が裏でも闘っていることを感じすらしなかったのだ。
(アタシは……)
遥都に対する申し訳なさ、そして、何より自分の不甲斐なさを痛感する。仮にも、遥都とは腐れ縁で他人よりは触れ合う時間は長かった。だが、気づけなかった。いや、もしかしたら気づいていたが、無意識にアタシが"同調"したのかもしれない。そう思うと余計に悔しい。
「アタシ、一体何をして……」
「リ、リサ姉……」
「今井さん……」
自然と頬に伝う涙。とどめなく流れるそれはスカートに静かに落ちる。紗夜がアタシに無言でハンカチを渡してくれるが、アタシは受け取る気にすらなれない。何が『トップ3には入る長い付き合いだから大体のことはわかる』だ。ちっとも分かってないじゃないか?結局、アタシの自己満足。そう感じてならない。
その横で友希那も、表情は変わらないものの、俯いたまま。流石の友希那もなにか思うところがあるのだろう。
うなだれる2人を見ながら、遥都は話をまとめる。
「そんな感じのことがあって、俺は避けられるようになった。知夏良は構ってくれたけどな。それでも、この当たりの小学校の伊月って名前が暴力で大怪我させたっていう噂が拡がって、クラスが知夏良と離れたら1人だった。どこにも居場所なんてなかった。高校まで来ると少し薄れつつはあるが、やっぱり完全に消えることは無いからな」
再び、沈黙。それをなんとかしたいと感じたのか、氷川さんがこちらに問掛ける。
「金属棒というのは……」
「多分、傘のこと、その瞬間だけが誇張され伝わってしまったんじゃないか?」
なるほどと言うように氷川さんが頷く。引っかかっていたものが取れたのか、口角が少し上がる。
「安心して貰えたようで何より」
「えぇ、あの時はすいませんでした」
「いえいえ、こちらこそ敵意むき出しで……」
2人でお互いの顔を見る。初めて、まともに目を合われた気がした。初対面の頃とは打って変わった、冷たい青ではない優しい青。練習への真剣さや意外と仲間思いな所、そして、友希那やリサのことを真剣に考えられるところ、それは仲良くなるはずだと俺の中で勝手に納得する。
「追加で質問させてください。では、どうしてこんな大事なことを今までお二人に言わなかったのですか?」
氷川さんがストレートに聞いてくる。少し背中に悪寒が走ったが今はもう大丈夫。遥都は何故か自信を持ってそう言えた。
「2つ理由はある。友希那に負い目を感じて欲しくなかったんだと思う。これはあくまで俺が行ったこと。そういう風で終わらしたかった。友希那の足枷になりたくなかった。半分は俺の恨み辛みがあるけどね。そして、もう一つなんだけど、いくら止めても噂は止められない。せっかく湊さんの件の噂が塗り替えられたのに、『俺=暴力』という噂が立ち回る中、湊さんが俺のその噂で何か言われないように、って思ったからだな」
氷川さんが少し呆れ顔になりながらも、納得したような顔を見せる。そして顔を湊さんとリサに向けて俺はこう続ける。
「だから、リサも湊さんもそんな自らの責任みたいな感じにしなくていいよ。だって、俺が隠したんだから、知らないのが当たり前だよ」
「で、でもっ!アタシは遥都が頑張ってるのに、何も……、何も出来なかった!!」
必死にリサが大声で遥都に対して叫んだ、いきなりの叫び声に宇田川さんや白金さんがビクリと大きく体を震わす。確かにリサが止めることも出来たかもしれない。それ故に彼女はより一層、強い責任を感じているのかもしれない。
「リサ、人には向き不向きがあるんだよ。リサはこうやって人を脅すようなことより、元気づけたり、前を向かせること。それがあなたの能力だよ」
「でも!それだとしても、アタシはなんにも出来てない!ただの役立たずだった!!!」
リサは再び大声でそう叫ぶ。涙ぐんだ声が部屋の中に響き渡り、前かがみになってリサは机に乗り出していた。
「…………してるよ?今日、こうやって話そうとさせてくれたこと、リサの言葉がなかったら俺は一生しなかったと思う。そうしたら、一生こうやって、真剣に本音で話し合う機会なんて来なかった。それこそ、ここに俺の居場所なんてなくなってたよ。感謝しかない。本当にありがとう。だから、役立たずなんて言うな」
そう言って俺はリサの頭の上にポンと手を置く。
アタシの頭の上に置かれた手からじんわりと温かさが伝わり、アタシの嫌なものを全て溶かしてくれる。とても、安心するような懐かしい、そんな感じがした。
「もっかい、いうよ。本当にありがとう」
たった一言かもしれない。だけど、アタシの心は十分すぎるほどにその一言に救われた。自然に涙が零れ、大きな声でアタシは泣いた。
今まで止まっていた時計が動き出し、アタシと遥都の時間を再び刻み出す。それは今はまだゆっくりかもしれない。だけど、中学や高校に入ってから関わりを持ててなかったぶんをも取り戻す。そんな意志を持ってまわり始めたようだった。
「湊さんもいい?」
「……えぇ、私達のためにやってくれたこと、それだけ聞ければ私もスッキリしたわ。だから、私からも言わせて?ありがとう」
「こちらこそ、色々ごめんなさい」
湊さんもスッキリとしたようで、穏やかな顔になる。そして、そのまま続けた。
「謝るようなことなんてないじゃない。…………それと、1ついいかしら?」
「なんです?」
「もう、昔みたいに距離を置かなくてもいいわ。私にもリサにも」
「分かったよ、友希那」
「「「あ……」」」
氷川さん、白金さん、宇田川さんの3人が同時に声を出した。俺も自然と出た言葉に、自分自身で驚いた。まさか、昔の呼び方に戻るとは……。
「ふふっ、変な。本当に」
「ですね、みな……、友希那」
お互いに笑い合い、他の3人も釣られて笑う。リサも泣きやみ、真っ赤に腫れた目を擦りながらも笑っている。俺もそれに釣られて笑い、ようやく場の空気が軽くなった。
「もー!!!友希那ばっかりずるい!アタシも名前で……、あれ?そういや、なんでアタシは名前なの……??」
「…………なんでだろな?」
無意識だった。そう言えばなんでリサはあの事件が終わっても名前の呼び方を変えてなかったのだろうか?あんまり関わらないようにするため、距離は取ったはず。なのになぜだったのか……。
と、少し疑問に思いつつも疲れもあり、俺はソファから立ち上がり大きく伸びをした。そのタイミングで堰を切ったようにあの元気な宇田川さんが喋り出す。
「あーーーっ!!なんかよくわかんなかったけど良かったー!」
「あ、あこちゃん、そういうのは、今言わない方が……」
「いいんだよ、りんりん!なんかハッピーエンドっぽいし!」
「そ、そう言うと壊れちゃうから……」
宇田川さんにそれ以外の5人で苦笑いしつつも、空気が和み、少し気が抜ける。俺はもう一度、ソファに座り頭を背もたれにつけた。そんな俺にソファの後ろから目は腫れてるが笑顔という、妙にチグハグな顔をしたリサが俺の顔を覗き込むようにして声をかける。
「あ、そうだ、遥都。この間、紗夜が家に来た時の会話覚えてる?」
「え?なにそれ?」
「ライブの話。決まったんだ。日程。今度の水曜日。Circleで!来てくれる??」
「…………おう、分かった。必ず。」
「うん!友希那もアタシも、それから紗夜もあこも燐子も!みんなで最高に準備して待ってるから!」
リサは屈託のない最高の笑顔でそう言った。
*** ***
「全く……、遥都さんの家で言い出した時は何事かと思いましたよ?」
「アハハ……、ゴメンゴメン!でも、付き合ってくれる紗夜、好きだよ?」
「もう……。日菜じゃないんですから……。それにうちのリーダーも乗る気満々でしたからね。普段なら絶対にしないのに……」
「いいのよ、紗夜。現になんとかなってるじゃない」
「湊さん……」
「でも、紗夜さん!あこはライブ好きだから大歓迎です!ね?りんりん?」
「は、はい……、私も、大歓迎です」
「本当に、もう……。私は、技術の向上が図れるならいいんですけど。しかし、よく数日間で何とかしましたね……。Circleのスタッフさんにも無理言ってこのメインスタジオ貸してもらって……。セットリストや照明、演奏まで……。ここまで皆さんが1つになったのって初めてな気がしますよ?」
「確かにね!アタシ達、Roseliaも成長出来たってことかな?」
「それは今から確かめればいいわ。たった1人の観客ですら、感動させれなかったらどうするの?」
「だね!」「ですね……」「はい!!」「頑張ります……」
「それじゃあ、行くわよ……。リサ、今日はあなたが主催よ。掛け声よろしく」
「OK!任せて……」
「Roselia スペシャルライブ"Held" 絶対成功させるぞーーー!!!」
「「「「「おぉーーーーーーーっ!!!」」」」」
俺はあの後リサから送られてきた通り、4時半にCircleというスタジオまで来た。すると、若い女性のスタッフが来て、スタジオまで通された。
「ん?」
ここで少し疑問に思う。イスが1つしかないのだ。ステージの目の前に置かれたいわゆる特等席というものに当たるだろう。そこに丁寧に席札として"伊月遥都様"と書いてある。どういうことだ?
とりあえず、席札を持ってきたカバンの中に入れ、座る。すると、スタジオが一気に暗転した。そして、マイクを通して大きな音が響き出した。
『Roselia スペシャルライブ"Held"!!盛り上がっていくよーーーーっ!!』
そこからステージのライトが一斉に付き、音が響く。それはなんとも綺麗なものだった。鮮やかなピアノに激しめなドラムと高音を響かせるギター、そして圧倒的な存在感を誇る深紅のベースに青薔薇に相応しいボーカル。全てが俺を魅力していた。
*** ***
「ありがとうございました」
友希那の合図で全員が頭を下げてスペシャルライブ"Held"は幕を閉じた。大きく肩で息をするように礼をしていた姿を見て、彼女らが全力を出し切っていたのは見てわかった。俺は最初の女のスタッフさんにロビーに連れてこられると、ドリンクをのみ一息をつく。そして、あの瞼の奥について離れないさっきの映像を脳内で流す。それは、俺がやったことは価値があると証明してくれた、そんなようだった。
「お待たせっ!どうだった?」
Roseliaの5人が裏から急いで飛び出してきてくれる。お疲れ様と言い、5人が座れるように荷物を置いていた窓際の席をあけ、リサに座らせる。
「最高だった。流石だね、5人とも。にしても、驚いたよ、だって観客、俺しかいないんだもん」
「うん!これ、遥都への恩返しのためのライブだから!!アタシ達が本当にライブやるとなるともっと多くの人が集まるけど、今回は遥都に見て欲しかったの。アタシや友希那、それからRoseliaがどんなんか、って言うのを!」
「そっか……。ありがと!最高だったよ」
「でしょ?」
「あぁ」
そう言うとリサは満足そうな顔をうかべる。そして、その隣にいる友希那にも同じことを言った。
「友希那もカッコよかった」
「ありがとう」
「……むぅ、また……。最近、友希那のこと名前で呼ぶようになっちゃって、いや、いいんだけどさ」
何が気に入らないのかリサが少し拗ねた。とはいえ、カッコよかったのも事実だ。別に隠すこともないだろう。
「何をそんなに……」
「そうよ、リサ。あなたがそもそも名前で呼ばれるのは遥都がリサのことを好きだからではないの?」
「え??」
あれ?友希那さん???何か少し嫌な流れを感じる。空気は明るい。だけど、何かこう、風が来る前兆のような、
「小学校5年の頃から、遥都はなぜかリサのことばっかり私に何回も話してきたじゃない」
「えっ!?そうなの!??ちょっと、遥都、どういうこと!?」
いかん、過去のことをほじくり返される。た、確かにあの時は……、、、いや、今は……話題をそらす方が……!!
「アタシ、てっきり小学校の頃から友希那とばっかり喋るから友希那が好きなのかと」
「だから、リサ、その時に遥都は私とだいたいリサのこと喋ってたのよ」
「そ、そうだったの!??」
顔を真っ赤にしてリサは慌てふためく。そこに宇田川さんが悪ノリし始めた。悪気がない分余計に腹立たしいが…
「あれれ?じゃあ遥都さんはリサさんのこと好きなの?」
「い、いやぁ〜……」
「嫌いなの?」
「そ、そうとは言ってないけど……」
「じゃあ好きなの?」
「そういう訳でも……」
「じゃ、嫌い?」
「それない!」
「なら、好きじゃん!」
恋愛なんて俺は正直よく分からない。だけど、好きなのかもしれないと言うくらいにはドキドキする。
「す、すき……………」
「だって!リサ姉!!」
「〜〜〜〜っ!!??」
思いもよらない形。更に顔を真っ赤にしてリサは謎にジャップをしたりターンをしたりと、コミカルな動きをし始める。そして、何やら一瞬でどこかに走っていった。
「…………どうしたの?あいつ」
「さぁ、片付けじゃないですか?私たちも行きましょう。私たちがいると邪魔でしょうから?」
「邪魔?どういうことですか?紗夜さん」
「物陰から隠れて見てればわかるわよ」
氷川さんがみなを連れ控え室の方に戻ろうとした。すると、入れ替わるように、先程走っていったリサがいた。そして、彼女は自慢のありったけの笑顔を見せた。
「アタシね、今回、遥都が教えてくれたこと、すごい勉強になったんだ。でも、それでも、いくら向き不向きがあっても頼ってくれないのは悔しかったし、遥都一人に背負わせるのも違うと思った。だからさ、今度、もしこういうことがあっても"一緒に"頑張ろうよ!もう、一人になんてならせないよ?もし、味方がいなくなっても今度は私も一緒に横に並んで戦ってみせる!『居場所がない』なんて言わせない!アタシと一緒にいてもらうんだから!!」
そして、彼女は大きく深呼吸して、次の言葉を…………
*** ***
「ねぇ、キミってさ、なんでみんなと遊ばないの?」
「……自分が入れる空気じゃないし。俺の居場所なんてないから。てか、あんただれ?」
「ん?アタシ?アタシは今井リサ!んー、でも、アタシはそんなことないと思うけどな。キミは?」
「……伊月遥都」
「遥都か〜!よろしくね!」
「”よろしく”って……」
「ほら、早くいこ!?」
そう言って彼女はつまらなさそうに外を見ていた少年に右手を伸ばす。ちょうどその時、外の雨が急に止んだ。
雲の隙間から光のスジが煌びやかに差し込む。空いた窓から、不意に風が流れ込み、窓から垂れる雨雫が宝石のように輝き、光のカーテンが揺れて、空には七色の鮮やかな虹がかかり、幻想的な空間を作り出す。
「…………………………!……………………………………?……………………、…………?」
彼女が笑顔で何かを言った。その様子は気づけば、少年は彼女の手を取っていた。
「ゆきな〜!この子も一緒に遊ぶ〜!」
「リサ……、誰よ、その子……?」
*** ***
ふと、思い出した。あの時も、今も変わってなんかいない。昔から、リサは昔から、他人のために精一杯で自分のことなんかほったらかして、屈託のない笑顔で平気でそういうことを言う、そういうやつだ。だから、俺もあの時、手を取ってしまったのだ。そんな彼女だから、僕は惹かれたのだと思う。
あの時、彼女は言っていた。"一緒に"と。用意をしてもらっているようではダメなのだ。だからこその言葉だったのだろう。たかが一単語、されど一単語。その言葉が入るだけで全く別物の意味を為していた。昔の俺はそれに気づいていたのだろうか?いや、気づいていたと言うよりは感じ取っていたのかもしれない。それにようやく、今、意味を知ることが出来た。そして、俺は今一度言葉の意味を再確認して、少女と同じように手を取り、口に出す。
雲の隙間から光のスジが煌びやかに差し込む。空いた窓から、不意に風が流れ込み、窓から垂れる雨雫が宝石のように輝き、光のカーテンが揺れて、空には七色の鮮やかな虹がかかり、幻想的な空間を作り出す。
「「アタシが遥都と一緒にいる!そしたら、アタシの横が遥都の居場所でしょ?遥都とアタシで居場所、一緒に作ろ?」」
はいっ!ということで、『俺とアタシの居場所』完結しました。
この作品は7000弱ということで過去最長話です。
最後から2つ目のアスタリスクより下は初めから決めていた終わり方なんですが、割と気に入っています!
さて、今後なんですがしばらく二次創作はお休みします。というわけで、今度お会い出来るのはいつになるかわかりませんが……、感想等で絡みに来てくだされば喜んで対応しますので、お待ちしてます!
そして、最後も曲げずに評価募集!あとどなたかお願いします!!
それでは、ここまでご愛読頂きありがとうございました!!