【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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はじめまして。cadetと申します。
こちらで小説を投稿することは初めてですので、至らないこともあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。




第1章
第一話 流れ着いた者


 肌を鋭く突くような寒さと、天から降りしきる雪のなかで、坂上健人は目を覚ました。

 辺りを見渡せば、背の高い松のような針葉樹林が生い茂っている。

 “ような”と表したのは、少年にその木の種類がよく分からなかったから。

 

「ここは? どこなんだ? さっきいた公園じゃ絶対ないし、そもそも今夏のはずだし……」

 

 彼はほんの少し前まで、夜の公園でベンチに座って、ぼーっとしていたはずだった。

 夏の夜ということで、寒くはなかったが、辺りを飛び交う虫がウザったかった覚えがある。

 だが、今彼がいる場所は明らかに公園などではない。

 月が昇っていたはずの夜空は分厚い雲に覆われ、綿のような雪が深々と舞い降りてきている。

 アスファルトで舗装すらされていない野道の土が、溶けた雪とともに少年の服を濡らし、極寒の強風が少年の体から容赦なく体温を奪い始めていた。

 

「な、なんだよ。訳がわかんない」

 

 口から洩れた言葉が、降りしきる雪に解けて消えていく。

 その時、それを覆っていた雲の一部が切れ、星の光が差してきた。

 そして雲の切れ目から見えた星空を見た時、少年は思わず呆然としてしまった。

 

「え……」

 

 見えた星空は、明らかに今まで少年が目にしてきた日本の空ではなかった。

 澄んだ空の輝く星々はまるで宝石のように輝いており、星々の空に浮かんだ巨大な二つの月が、星の光を浴びてその威容を誇示していた。

 地球の衛星は一つだけのはず。どう考えても日本はおろか、地球上で見える夜空ではない。

 全身に突き刺さるような寒さ、そして何より、今の自分に起きた理解不能な状況に、少年の全身が震え上がった。

 その時、少し離れた茂みがガサリと揺れる。

 

「な、なんだ?」

 

「グルルル……」

 

「な、なんだよ! お、オオカミ?」

 

 少年の目に飛び込んできたのは、黒い体毛に全身覆われた四足の獣。

 犬によく似た外見を持つ野生の獣は、少年の動揺を見抜いたように吠えると、一気に少年に跳びかかってきた。

 

「ガウウ!」

 

「う、うわあああ!」

 

 四足の獣の牙が、無防備な少年の腕に突き立てられる。

 肌を食い破る不気味な音とともに、焼けるような激痛が少年の腕に襲い掛かってきた。

 

「う、うがあ! 離せ、離せ!」

 

 あまりの激痛に少年が、反射的に食いつかれた腕を力いっぱい振り回そうとする。

 しかし、オオカミは四肢を踏ん張り、少年の腕を放そうとしない。

 さらに最悪なことに、茂みの奥から二頭のオオカミが、飛び出してきた。

 

「ガウウ!」「オオオン!」

 

 新たに出現したオオカミ二頭が、少年の両足に食いつく。

 突然命の危機に晒された緊張感から、ガチガチに強張っていた両足に走る痛み。それは張りつめた縄が千切れるように、あっという間に少年の足から力を奪ってしまう。

 

「わああああ!」

 

 思わず倒れこむ少年。

 腕を噛んでいたオオカミが少年の体に馬乗りになり、その牙をひ弱な獲物の首に突き立てようと咢を開く。

 少年は恐怖と混乱の中、自らの命を奪おうとする獣の牙を呆然と見つめていた。

 

「ギャン!」

 

 だが次の瞬間、耳を突く風切り音と共に、馬乗りになっていたオオカミの眉間に矢が突き刺さった。

 さらにヒュンヒュンと空気を斬り裂きながら、立て続けに矢が狼たちに襲い掛かる。

 思わぬ乱入者の存在。オオカミ達は咥えていた少年の四肢を離して飛び退き、矢の飛んできた方向に視線向けて警戒し始める。

 次の瞬間、横合いから飛び出してきた影が、素早くその手に携えた剣を振るった。

 

「ギャウ!」

 

 振りぬかれた剣が深々とオオカミの胴体に食い込み、臓物をまき散らす。

 さらに、乱入してきた影は最後の一匹に向かって、刃を返して薙ぎ払う。

 残っていたオオカミは素早く身を屈めて剣を躱すが、突然の横やりに驚いたのか素早く退散を決め、茂みの奥へと去っていった。

 

「う、ううう……」

 

「○×▽?」

 

 蹲る少年に、掛けられた声。

 激痛ににじむ視界のなかで少年が目にしたのは、豊かな金髪を後ろに結わえた蒼瞳の少女だった。

 外国の言葉なのか、少年には彼女が何を言っているのかさっぱり分からない。

 ただ、心配そうに覗き込んでくる蒼い瞳が、恐怖と緊張で高ぶった少年の気を静めていく。

 少女の瞳が少年の傷に向けられる。

 

「■×! ▽△×○××□!」

 

 目を見開いた少女は、自分の後ろに向かって大声を張り上げると、腰のポーチから赤い瓶を取出し、その中身を怪我した少年の手足に振り掛けていく。

 両手に走る痛みに少年が呻いていると、少女の後ろから、今度は弓と矢筒を背負った青年が姿を現した。

 

「リータ、◆○××◆」

 

「○×▽◆◆、ドルマ」

 

 リータと呼ばれた少女が慌てた様子で声をかけると、ドルマと呼ばれた青年は厳しい表情を浮かべた。

 青年は背負っていた弓と矢を少女に預けると、倒れていた少年を背負って歩き始める。

 腕と両足に走る痛み、そして命の危機という緊張感から解放された少年の意識は、深い闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

 背中に当たるチクチクした感触、そして手足に走る痛みに、少年の意識が覚醒する。

 目を開けば最初に飛び込んできたのは、蝋燭に照らされた木製の天井。続いて顔を横に向けると、石畳と木製のドアに続いて、藁の敷かれたベッドの端が視界の片隅に入ってくる。

 

「ここは、どこだ?」

 

 咽るようなフィトンチッドの香りに包まれながら、健人は戸惑いの声を漏らした。

 目に入る蝋燭の明かりに手をかざすと、視界に噛みつかれた腕に包帯が巻かれているのに気づいた。

 両足を確認すると、同じように包帯が巻かれている。

 誰かが手当てをしてくれた様子だった。

 その時、木製のドアがギイッという音と共に開かれ、一人の少女が姿を現す。

 部屋に入ってきたのは、流れるような金髪をポニーテールに纏めた一人の少女。あの雪原で、健人を助けた少女だ。

 

「○×▽?」

 

 日本人離れした青の瞳に安堵の色を浮かばせながら、少女は茫然としている健人に声を掛ける。

 

「君は……誰?」 

 

「▽◆? △◆××○?」

 

 声を掛けてきた少女が笑みを浮かべている一方、健人は少女の言葉が相変わらずよく分からず、困惑の表情を浮かべていた。

 自分の身に起こった事態が理解できず、呆然とするしかない健人。少女も健人の様子を見て、心配そうな目で見つめてくる。

 

「リータ、××▽◆?」

 

「◇○◆、××○▽」

 

 奥から、太い声が聞こえてきたと思うと、ガチャリとドアが開き、二人の中年の男女が入ってきた。

 健人には中年の男女は見覚えがなかったが、二人の雰囲気は、どこか目の前の少女と似ているような気がした。

 その時、健人の鼻腔に香しいミルクの香りを捕えた。よく見ると中年の女性が湯気の立つ器を持っている。

 

「○×▽? ×◎▽□○」

 

 差し出されたのは、白濁した暖かいスープだった。なんとなくミルクの香りを漂わせる器を、健人は動揺しながらも受け取る。

 漂う香りは健人が今まで食べてきた日本のスープとは違い、どこか獣の匂いが残っていた。

 暖かい器の熱が、冷えきった健人の手を温めていく。

 困惑する健人に、中年の男女は笑いかけながら木製のスプーンを指差すと、掬うような動作を繰り返す。どうやら、食べるように促しているらしい。

 

「い、いただき、ます……」

 

 器に乗せられた木製のスプーンを手に取り、恐る恐る健人は恐る恐るスープを口にする。

 一口目はあまりに熱いスープに思わずむせてしまった。

 二口目は嗅ぎなれない獣臭に、思わず鼻がもげそうになった。

 三口目になって、ようやく少しずつ飲めるようになってきた。

 四口目は……もう止まらなかった。

 ここがどこなのか、自分がどうなったのか、健人には全く分からない。でも、スープが伝えてくる熱が、彼にこれ以上ないほど自分の生を実感させてくれていた。

 

「はふ、はふ……。ぐ、う、うう……」

 

 潤む瞳。あふれ出る涙を止められないまま、健人はスープを掻き込み続ける。

 その様子を、3人の瞳が優しく見守っていた。

 




いかがだったでしょうか?
今回は初めてという事で、さわりだけの投稿になります。
この小説は四部構成を、各部十万文字ずつ、合計四十万文字ほどを予定しています。
登場人物の紹介についても、適宜していこうと思います。
第一部に関しては既に完成していますが、他の作品やリアルの都合などで、更新が不定期になる時もありますので、ご了承ください。

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