【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十七話 ソウルリンクバースト

 完全な『共鳴』のシャウトの発動と共に、隆起したドラゴンソウル。

 温かい光の奔流に包まれながら虹色の視界の中に映るのは、健人自身が取り込んだドラゴン達、そして戦友であるミラークの姿だった。

 

(まったく、起こされたと思えば、またとんでもない相手と戦っているな。ドラゴンボーン、私と同じアカトシュが真に選んだ、この世界の行く末を決めるべくもたらされた裁定者の一人か……)

 

 呆れたような友の声に、健人は苦笑を浮かべる。

 眠っていたところを起したのは悪かったと思う。しかし、今は彼らの力がどうしても必要だった。

 

(分かっている。止めたいのだろう?)

 

 ああ、そうだ。

 憎悪に飲まれたまま戦う家族を止めたい。たとえそれが、自分自身のエゴだとしても。

 

(前にも言ったな。全ての戦いは、エゴのぶつかり合い。むき出しの殺意、飾らない激情と魂の咆哮。それこそがドラゴンの本質だと。)

 

 覚えている。自分もそれを認めた。

 理解できる。無力な自分と、理不尽で無慈悲な世界に対する怒りを。なにより、怒りに身を任せてしまいたくなる現実を。

 そんな負の思いから力を求めたこともある。

 自分も、リータと何も変わらない。

 こうして今も、自分の思いを貫くために力を求めている。それは、ある意味矛盾を抱えた行動だろう。

 

(そして、あの女の姿はこの世界のドラゴンと人間の関係の縮図だ。止まる事のない憎悪の連鎖。どちらかを止めようとしても、どちらかが憎悪を呷る。どうしようもない程、終わった関係だ)

 

 止まらない連鎖と、積み重ねられる連鎖。それはもう、どうしようもないところまで来ているのかもしれない。

 

(そして、お前はその裁定者を倒すことを願った。それは、お前があの女の立場になることに等しい。お前は……あの憎しみの炉に自ら焼かれに行くつもりなのか?)

 

 不安はある、恐怖もある。

だが、それでも願わずにはいられない。矛盾を孕んでいるのだとしても、叫ばずにはいられない。

 魂が、震えているのだ。憎しみに囚われた彼女を止めろと。

 なぜならそれこそが自分の飾らない激情。剥き出しの意思。

 覚悟は……とうに決めている。だから……。

 

(今更言葉にする必要はない。既に、我らの返事は決まっている)

 

 健人が言葉を言い切る前に、ミラークが彼の言葉を遮った。

 鼻白みながらも、どこか興奮した様子で返される答え。その声にはどこか、親しみが漂っている

 よく見れば、他のドラゴン達の視線もいつの間にか窺うような色は消え、親愛と肯定の意思がある。

 

「ありがとう……」

 

 その言葉と共に、視界に浮かんでいたいミラーク達の姿が消える。

 そして健人は一度瞑目して大きく息を吐くと、前を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グウウウッ!?」

 

 虹色の奔流に吹き飛ばされたリータが、地面にしたたかに背中を打つ。

 吹き上がった虹色のドラゴンソウルは瞬く間に集束。そこには、まばゆい光鱗に身を包んだ人型のドラゴンが佇んでいた。

 あまりにも強い輝き。ともすれば後ずさりそうなほどの圧力。

 なによりもリータを戦慄させたのは、荒れ狂うドラゴンソウルから向けられる無数の視線と、光鎧を纏う者の背後に見える“仮面をつけた男”だった。

 

「っ!?」

 

 仮面の男が、光鎧を纏う者と重なるように消えていく。

 全身に走る怖気に突き動かされ、リータは地面を蹴った。

 あれを野放しにしてはいけない。あれの好きにさせてはいけない。

 もし放置すれば、確実に自分は敗北する。

 

「行くぞ、ミラーク……」

 

(ああ、ケント)

 

 左手が翳される。途端に増す悪寒。

 向けられた右手を視線から隠すように、リータは反射的にデイドラの両手斧を掲げる。

 次の瞬間、強烈な紫電が走った。

 

「アグゥ!?」

 

 文字通り雷速で駆けた雷が、リータの掲げた両手斧に着弾。強烈な衝撃と共に、彼女の突進を押し止める。

 さらに弾けた紫電は地面を反射しながら、何度もリータに襲い掛かってくる。

 

「グゥ、ガッ!?」

 

 体に走る痛みと痺れ、なによりも強烈な違和感に、憎悪に染まった頭に動揺が走る。

 それは、『魔法を使うには詠唱が必要である』という大前提を覆されたことによる動揺だった。

 無詠唱による魔法展開。

 坂上健人がかつてソルスセイムで激闘を繰り広げた、ミラークが使っていた技術である。

 また、放たれた魔法も相当な上位。精鋭クラスの破壊魔法、チェインライトニングであり、その威力も桁外れに強化されている。

 

「ッ!?」

 

 それでも、リータは歯を食いしばり、痛みと痺れを押し殺して体勢を立て直すと、再び“敵”に向かって踏み込む。

 

「そこ!」

 

 そんなリータを前に、健人は左手に魔力を込めて払った。

 次の瞬間、リータの足元に赤色の魔法陣が出現し、踏み込んできたリータに反応して炸裂。周囲に熱波と衝撃波をまき散らしながら、再び彼女の足を止める。

 炎の罠。

 侵入してきた敵に対して反応して爆発する魔法陣を展開する、設置型の破壊魔法だ。

 ドラゴンアスペクトとデイドラの鎧は精鋭クラスの破壊魔法による爆風を防ぎきるものの、巻き上げられた雪と煙が、一時的彼女の視界を塞ぐ。

 そして、更に煙の奥からさらに強力な閃電が、リータに襲いかかってきた。

 

「ガアアアアアアアア!?」

 

 あまりの痛みと衝撃。身構えていたにもかかわらず、彼女の体は何メートルも後ろに押し込まれた。

 桁違いの膂力を持つ彼女を退かせるほどの衝撃。いったい何がと視線を向ければ、煙の奥で両手を突き出した健人がいる。

 

 二連の衝撃

 

 二つの魔法を組み合わせ、その威力を劇的に高める技術だ。

 しかも放ったのは、先ほどのチェインライトニングよりもさらに上位のサンダーボルトである。

 

「ふっ!」

 

 そして、腰の『落氷涙』を抜いて双剣となった健人が地を蹴った。

 衝撃が走り、空気が弾ける音が響く。

 次の瞬間、健人はリータの懐に飛び込んでいた。

 元々規格外の身体能力とドラゴンアスペクト。さらには取り込んだ憎悪と『共鳴』を繰り返したリータすらも置き去りにする加速力だった。

 

「おおおお!」

 

 一瞬でリータの目の前に現れた健人が、薙ぐような斬撃を放つ。

 リータも負けじと、デイドラの片手剣を振り下ろす。

 激突する刃。次の瞬間、キン! と言う甲高い金属音と共にリータの片手剣の剣身が半ばから斬り裂かれ、宙を舞った。

 

「っ!?」

 

「ぜええい!」

 

 左手の落氷涙が突き出される。

 反射的に体を捻り、攻撃反射で健人の突きを弾き返そうとするものの……。

 

「スゥ、グラ、デューン!」

 

「ガッ!?」

 

 激しき力のシャウトが紡がれ、突きが風の刃で加速したことでタイミングが崩された。

 ドラゴンアスペクトとデイドラの鎧を貫く衝撃に、一瞬彼女の動きが止まる。

 その間にさらに一歩踏み込んだ健人が、血髄の魔刀と落氷涙を重ね、腰だめに構えながらすくい上げるように振り抜く。

 

「クレン!」

 

 さらに、シャウトの重ね掛けにより、風の刃が炸裂。斬撃とともに強襲してきた衝撃波が、リータの体を上空高くへとかち上げた。

 

「ガッ!?」

 

「ウルド!」

 

 上空に飛ばされたリータに、健人は単音節の『旋風の疾走』で追撃をかける。

 足の踏ん張りがきかない空の上では、リータの攻撃反射は使えない。あれは元々、両足をしっかりと地面につけて踏ん張ることで最大限の効果を発揮する技術だ。

 シャウトも、先の刺突の衝撃が肺にまで及び、まともに息を吸うことすらできない。

 一方、健人は足場のない空中にも関わらず、次々と超高速の連撃をリータに叩き込んでいく。

 アポクリファでの無数のデイドラ達の戦い、そしてウィンドヘルムでのヴィントゥルースとの空中戦。

 それらの経験がたとえ足場のない場所でも、彼に十全に剣を振るい続ける技術を与えていた。

 

「おおおおおおおお!」

 

 超高速の斬撃が、リータの体を覆う黒いドラゴンソウルとデイドラの鎧を剝がしていく。

 まるで、彼女の心を飲み込んでいる憎悪の闇を剥すように。

 

「ぜえええい!」

 

 そして、一際強力な一撃がリータの体を大きく跳ね飛ばした。すかさず健人が右手の血髄の魔刀を放り、手をかざす。

 

「ガッ!?」

 

 すると、目に見えない強力な力が、跳ね飛ばされたリータの首を絞めつけながら、彼女の体を引き戻す。

 

 念導力。

 

 精鋭クラスの変性魔法であり、遠くの物体を近くに引き寄せたりすることが出来る魔法。

 魔力の消費は大きく、体質的にタムリエルのマジカが合わない健人には使うのは難しい魔法である。

 しかし、“今の健人”ならば、あらゆる魔法を十全に使うことが出来た。

 無詠唱による複数の高位魔法の連続使用と二連の衝撃。

 まるで、最古のドラゴンボーンを思わせる魔法の練達と研ぎ澄まされた剣技の両立。

 それは完全な『共鳴』のスゥームがもたらした奇跡だった。

 件のシャウトは、共鳴する対象が異質であればあるほど、その効果を高める。

 そして、枷を外された完全なハウリングソウルは、健人と自身の魂と、彼が取り込んだドラゴンソウル達との同調を極限まで高めている。

 その結果が、今の健人の姿だ。彼の思考に反応するように、ミラークの魂が魔法を展開することで、剣と魔法、双方から怒涛の攻撃をかける事が可能となる。

 

 それこそ、世界最高峰の力を持つ最後のドラゴンボーンを、圧倒するほどの攻勢を。

 

「おおおおおおおおお!」

 

「ギギ、ガッ!?」

 

 リータの首根っこを引っ掴んだ健人が、彼女の体を地面めがけて放り投げる。

 同時に彼は念導力で放った『血髄の魔刀』を回収しながら、“旋風の疾走”を唱えた。

 

「ウルド、ナー、ケスト!」

 

 向かうは、地面に向かって一直線に落ちていくリータ。

 隼のように風を切りながら急降下していく健人から、強力なマジカが噴き出す。

 彼の意思に反応したミラークが、術式を展開。同時に舞い上がった炎が虹色の燐光と共に、その手に戻った『血髄の魔刀』に収束し始める。

 

「ッ!?」

 

 まるで爆発寸前の火山を思わせる圧力を前に、リータは反射的に自らの身を守るように両手斧を構えた。

 だが、その抵抗は迫る極大の一撃を防ぐには、あまりにも小さかった。

 

「ミラーク、吹き飛ばせ!」

 

(ファイアストーム!!)

 

 振り抜かれる刃と共に、ミラークが展開した最上位魔法が発動する。

 流星を思わせる刃はデイドラの両手斧を破断。同時に舞い上がった爆炎は巨大な火球と化し、世界のノド上空の雲を全て吹き飛ばす。

 黒い兜の奥で驚愕に目を見開きながら、リータはまるで太陽が二つ現れたような閃光に包まれた。

 

「ふっ!」

 

 巨大な火球を突き破りながら、健人が地上へと降りて来る。

 

「っ、ぐ、はあ、はあ、はあ……」

 

 全身に走る痛みに、思わず健人は地面に膝を付いた。

 三節のハウリングソウルを発動してから、一分ほどしか経っていない。にもかかわらず、健人は全身が千切れそうな激痛を味わっていた。

 極限まで自分が取り込んだドラゴンソウルと共鳴することは、彼の体に今までの比ではない強大な負荷をかけているのだ。

 その時、もう一つの影が上空の火球から落ちてきた。

 

「ガ、ギィ……」

 

 落ちてきたのは健人の猛攻を受けた最後のドラゴンボーン、リータだ。

 艶やかで光沢のあったデイドラの鎧はボロボロになり、プレートの彼方此方が剥がれ、ひび割れている。

 兜は吹き飛ばされてどこかに行ってしまい、両手斧にいたっては半ばから斬り砕かれ、柄しか残っていなかった。

 ドラゴンアスペクトの鎧も吹き飛ばされ、立ち上がるのがやっとの様子だった。

だが、その瞳には、まだ昏い憎悪の炎が残っている。

 

「アアアアアアアア!」

 

 雄叫びを上げながら、リータが健人に向かって駆けていく。半ばから折れ、もはや武器としての用途をほぼなさなくなった両手斧を携えて。

 走るたびに重心はふらつき、その速度は先の彼女と比べて、明らかに陰りが見える。

 ドラゴンアスペクトが解除されたことで、ハウリングソウルによる強化も著しく減退している。

 今の彼女は、ただ憎悪という燃料をひたすらに燃やし続け、無理矢理エンジンを回そうとしているような状態だった。

 このままでは彼女と言うエンジンは焼けつき、二度と元には戻らなくなる……。

 

「まだダメ、か……」

 

 一方、健人はまだ憎悪から解放されていない彼女の姿に唇を噛み締めていた。

 渾身の一撃とファイアストーム。それでもまだ足りない。

 確かに、ソウルリンクバーストは、リータの継戦能力のほぼすべてを奪い取った。

 だが、力は所詮、意志を通すための手段でしかない。肝心の“意志”をどうにかしない限り、リータは止まらない。

 その事実に彼は一度大きく深呼吸すると、向かってくるリータを前に、兜を脱ぎ捨てた。

 暴走しているリータにも自分の顔がはっきり見えるように晒し、さらに両手を広げ、手に持った血髄の魔刀と落氷涙を手放す。

 力なく落ちた二つの刃が、サクッと軽い音と共に雪の上に突き刺さった。

 

「フウウウウッ……!」

 

 目前に迫ったリータが、半ばからへし折れた両手斧の柄を突き出す。

 柄の断面は歪ながらも鋭く尖り、まるで魚を突く銛を思わせた。

 

(っ! ケント、何を考えている!?)

 

 無防備なその姿に主の意図を察したミラークが抗議の声を上げてくるが、それを無視して、健人はまっすぐに向かってくるリータを見つめ続ける。

 必要なのは、声すら届かず、乱れきった彼女の意志をしっかりと“捕まえる”こと。その為に、健人はあえて剣を捨てて、無防備となった。

 迫る歪な銛を前にしても、彼の瞳には、憎悪に囚われた少女の全てを受け止めようという強い覚悟がある。彼は自分の体を貫かせ、至近距離から三節のハウリングソウルをぶち当てるつもりだったのだ。

 

「がっ!?」

 

 だが迫る銛が健人の体を貫く前に、突如として横合いから飛び出してきた影が、健人を吹き飛ばした。

 

「くっ! いったいなに……が……」

 

「ぐぅぅ……」

 

 衝撃で地面を転がった健人が顔を上げると、驚愕の光景が飛び込んで来る。

 そこにいたのは、黒檀の鎧に身を包んだノルドの青年。

健人の代わりにリータの一撃を腹で受け止めた、ドルマの姿だった。

 

 

 

 




ソウルリンクバースト

健人がミラークの枷を外した状態で、三節のハウリングソウルを自分に向かって使った状態。
極限まで共鳴したドラゴンソウルが著しく身体能力を引き上げるだけでなく、同調の結果、健人が今まで使えなかったミラークの魔法技術が使用可能になっている。
ミラークの技術は健人の魔力特性の不利を補って余りあり、魔力の効率化、高威力化だけでなく、無詠唱による超高速展開、スペルストック、達人クラスの魔法展開すら可能にしている。
特に無詠唱による超高速展開の効果はすさまじく、健人の思考に沿ってミラークが即座に魔法を展開することで、憎悪の多重共鳴で暴走したリータすら圧倒する速攻を可能とする。
剣技、魔法、スゥーム。その全てが完全にかみ合い、敵を蹂躙していく姿は、かつてアポクリファで大暴れした二人の戦いを想起させる。
代償として肉体への負荷は今までの比ではなく、この状態を維持できるのは一分ほどが限界。

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