【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
今回はまた色々と大切なお話。一応ですが、次のお話で第8章は終わりです。
グレイビアードに担ぎ込まれたデルフィンは、寺院の一角に座らせられ、治療を受けていた。
戦士としては再起不能になったためだろうか。治療を受ける彼女の表情はどこか力が抜けており、とてもサルモール相手に数十年間戦い抜いた諜報員には見えなかった。
彼女の隣には、同じように座らせられたエズバーンの姿もある。
「どうして、私達を治療するの?」
唐突に告げられた質問に、アーンゲールは眉を顰めつつも治療を続ける。
もっともな質問だった。なにせ彼女達は自分達の目的のために、アーンゲール達を無理やり眠らせたのだ。
傷一つつけていないとはいえ、普通に考えれば簡単に許せる所業ではない。
さらには、パーサーナックスの命を長年狙い続けていたこと、シャウトに対する根本的な考え方も含め、そもそも双方は相いれない存在である。
だが、疑問を漏らすデルフィンと違い、グレイビアード達は長年の潜在的な敵対者を前にしても、超然とした構えを崩さなかった。
「我らの関係を考えれば、あり得ないだろう。少し前なら、私も激高しながら拒否したはずだ。だが、私も思うところがあってな……」
乾いた血で染まった包帯を取り換えていたグレイビアード、アーンゲールはデルフィンに向かってそう言い放つ。
彼の脳裏には、ドラゴンレンドについての見識の相違から、リータと口論になった時の光景が浮かんでいた。
本来、声の道が己の心を静かに保ち、運命を受け入れることが肝要。しかし、彼はドラゴンレンドに対する嫌悪から、己の目を曇らせ、頭ごなしに否定した。
ウルフガーの取り成しで収まったが、この一件はアーンゲールにとって、自分を見直す機会となっていた。
「それに、今の其方には憎しみの色がない」
なにより、アーンゲールの心を動かしていたのは満身創痍になったデルフィンの様子。
まるで枯れた大樹のように静かで、どこか厳かな雰囲気をまとっており、その姿はどこかグレイビアードにも通じる、達観した気配を醸し出していた。
少なくともその声には、憎しみも殺意も無い。
「そうね。ずっと燻っていたはずなのに、どこか行ってしまったわ」
アーンゲールの見透かすような透明な視線を受け、デルフィン大きく息を吐きながら、壁に背中を預ける。
胸の奥に巣食っていた閊えが、今は無い。
どこか宙を浮いているような感覚に身を委ねながら、彼女は静かに天井を見上げていた。
「さて、これで治療は終わりだ。後は、大人しくしていることだ」
「普通ならそうね。でも、私は先へ進ませていただくわ」
安静にしているように告げるアーンゲールの言葉を聞き流しながら、デルフィンは立ち上がる。
静かな戦意を漂わせるその佇まいに、グレイビアード達は眉をひそめた。
そんな彼らの反応に、彼女は苦笑を浮かべる。
「安心しなさい。パーサーナックスのことじゃない。弟子を竜王と戦わせたまま、何もしないわけにはいかないのよ」
「デルフィン……」
エズバーンが、意味ありげな視線をデルフィンへ向ける。
今までのデルフィンは常にほの暗い空気を身にまとっていた。
人を信用せず、自分を明かさず、常に距離を保ち、利用する。
ドラゴンボーンを前面に押し出し、その陰に隠れるように常に裏方に徹し、リータの名声と力を最大限利用して目的を達成しようと動いていた。
それは、人としてはともかく、隠密、諜報員としては正しい姿。
戦友の視線に口元に浮かべた笑みを深めながら、デルフィンは自分の心を確かめるように瞑目した。
「ずっと、苦しみに染まった顔が頭から離れなかった。サルモールに殺された、仲間たちの顔が。戦っているときも、ベッドに横になっているときも、酩酊の沼に沈んでいるときも……」
長い間、誰にも明かさなかった心の内を、デルフィンは静かに吐露し始める。
そんな彼女の言葉を、エズバーンもアーンゲールも静かに耳を傾ける。
「今なら分かる。私は、彼らと一緒にいられなかったことが、死ぬべき場所で死ねなかったことが、只後ろめたかっただけだった」
ずっと脳裏で叫んでいた、戦友たちの断末魔と怨嗟の声。
彼らにサルモールの凶刃が振り下ろされているとき、自分は帝都に呼び出されていて、何もすることができなかった。
その後悔がずっと胸の奥に巣食い、彼女を誰よりも冷徹な戦士へと変えていたのだ。
ブレイズの為に、ブレイズの為に、
「今にして思えば、情けない話。結局私は、自分の後悔を覆い隠したくて、生き延びた自分に意味が欲しくて、ドラゴンボーンたちを利用していたに過ぎなかった。でも……」
大戦から数十年。いまさらながらに気づいた、自分の本心。後悔と懺悔の言葉を滔々と語り続けていくうちに、デルフィンの凝り固まった心がほぐれていく。
「無為に過ごし、血と暴力だけを振り撒いた数十年だけど、そんな私にも最後に遺せるものがある」
意味深な、しかしながら、しっかりとした口調で述べられたデルフィンの言葉。
アーンゲールはしばしの間、じっと彼女を見つめていたが、やがて小さく息を吐くと、すっと身を引き、山頂への道へとつづく扉への道を開けた。
「……わかった。行くがいい、贖罪を求める戦士よ。この世界の運命が決まるその時に、後悔を残さぬように……」
「ありがとう。ふふ、変な感じね。こうして貴方達グレイビアードに礼を言うなんて」
ムスッとしているアーンゲールに小悪魔のような笑みを返しながら、デルフィンはエズバーンに向き直る。
「エズバーン、後はお願いね」
「……分かった」
彼女が何を考えているのか、エズバーンは簡単に察することができた。しかし、彼は止めることはせず、静かに頷く。
そんな彼の思いやりに感謝しながら、デルフィンはハイフロスガーを出た。
その瞳に、これまでとは違う、強い覚悟と未来を見つめる光を宿して。
目指すは山頂。最後の弟子が、運命の戦いを繰り広げる戦場である。
無効化されたドラゴンレンド。切り札が効かないという現状に皆が呆然とする中、アルドゥインが一気に攻勢に出る。
目標は、リータ達よりも前に出ていた健人。巨大な口を開き、敵を引き裂かんと竜王の牙が襲いかかる。
迫るアルドゥインを前に、彼は反射的にドラゴンアスペクトを唱えた。
「くっ! ムルゥ、クァ、ディヴ!」
虹色の竜鱗が再び健人の体を包み込むが、その鎧はどこか虚ろで、頼りなく揺れていた。
ソウルリンクバーストの弊害。肉体と魂にかかった負荷は、予想以上に健人に消耗を強いている。
それでも健人は、迫るアルドゥインの牙を横に躱し、両手に携えた得物を振るう。
漆黒の鱗にデイドラのブレイズソードが振り下ろされる。
しかし、手に返ってきたあまりに異質な感触に、健人は思わず目を見開いた。
「っ!?」
手ごたえがまるでない。
確実に刃は届いていたにもかかわらず、斬った感触も衝撃も返ってこない。
健人の額に冷や汗が流れる。まるで、絶対零度の世界に自分だけが放り込まれたような感覚だった。
物理的にありえない現象を目の当たりにしたことで、健人の動きが一瞬鈍る。
“死ぬがいい、厄災の元凶!”
「っ、ファイム、ズィー、グロン!」
再度、アルドゥインの牙が迫る。
健人は反射的に『霊体化』のシャウトを発動。物理的な攻撃を無効化しつつ、離脱を試みる。
“無駄だ! ホルヴダー、ズィー、ハール゛!”
「なっ!? ぐあ!」
アルドゥインがシャウトを唱え、霊体化したはずの健人をその牙で捕える。
物理的な効果を無効化しているはずにもかかわらず、何故か竜王の顎はがっちりと健人の体を掴んで離さない。
よく見れば、淡い白色の光が、アルドゥインの牙に纏わりついている。
“捕魂の手”
かつて、死霊術を得意としていたドラゴン。その竜が使っていたシャウトの亜種。
本来触ることが出来ない霊体に触れられるようになるシャウトだ。
ミシミシと光鱗が軋みを上げ、鎧の留め具が歪んではじけ飛ぶ。
今にも健人が押しつぶされそうになっているその時、横合いから強烈な衝撃破が襲いかかってきた。
“ファス、ロゥ、ダーーーー!”
「むっ!?」
「ぐあ!」
『揺るぎ無き力』のシャウトが、アルドゥインが捕縛していた健人を弾き飛ばし、その牙から逃れさせる。
“逃がすか!”
「がはっ! っ!? ウルド、ナー、ケスト!」
アルドゥインが地面に転がった健人に追撃をかけようと牙をむくも、彼は旋風の疾走のシャウトを唱え、一瞬で牙の間合いから逃れる。
舌打ちしながらアルドゥインが衝撃破の走ってきた方に目を向ければ、急降下しながら向かってくるパーサーナックスの姿がある。
“ふん、パーサーナックスめ、しぶとい。クォ、ロゥ、クレント!”
紫電の咆哮が、老竜めがけて放たれる。
とっさに回避しようとしたパーサーナックスだが、避けきれずに右翼を貫かれてしまう。
“ガアッ!?”
“スゥ、グラ、デューン!”
バランスを崩したパーサーナックスに、アルドゥインが『激しき力』を唱えながら襲い掛かる。
翼に風の刃を纏わせながら飛翔し、真空刃で老龍の胸を深々と斬り裂く。
“グオオオオオオ!!”
血をまき散らしながら、落下していくパーサーナックス。老竜は世界のノドの山頂に積もった雪の上に激突し、動けなくなってしまう。
一方、パーサーナックスを排除したアルドゥインは、更なる攻勢を健人達にかける。
“――ッ――ッ――――ッ!!”
健人の耳にも聞き取れないシャウトが、天空を揺らし、無数の隕石を降らせる。
メテオ・アポカリプス。
アルドゥインだけが使うことを許されたスゥーム。天より隕石を降らせ、すべてを焼き尽くすスゥーム。リータ達の故郷であるヘルゲンを瞬く間に焼き払ったシャウトである。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
天空から降り注ぐ隕石が、雪の白に覆われた世界のノドを、炎の赤に染めていく。
あちこちで爆風がまき散らされ、健人達は舞い上がる土と雪にもみくちゃにされていく。
更に上空に飛翔していたアルドゥインは『激しき力』でさらなる加速を開始。
ドン! と、空気が破裂する音を響かせ、瞬く間に音速を突破しながら、ループを描く。
そして降下を開始したアルドゥインは、重力でさらに加速しながら、その口腔を開いた。
“ヨル……トゥ、シューーール!”
超加速されたファイヤブレスが、健人に襲い掛かる。
咄嗟にその場から飛び退くものの、ファイヤブレスは地面に着弾した瞬間に圧縮され、一気に熱量を解放。
ひときわ大きな爆炎をまき散らしながら、健人の体を吹き飛ばす。
「ぐああああああっ!?」
ドラゴンアスペクトの鎧すら突破する熱量。さらにそこに、アルドゥインが衝撃波を纏いながら飛び抜けた。
十数メートルの巨体が生み出す衝撃波が、炎に纏わりつかれた健人をさらに弾き飛ばす。
「ぐううぅう!」
身を焼かれ、吹き飛ばされて、健人の体は地面に叩き付けられた。
全身の骨が折れたような激しい痛みが、雷のように体中を駆け巡る。
それでも彼は歯を食いしばりながら、雪で体に纏わりつく炎を消し、回復魔法で傷を癒す。
“さすがにしぶとい。そして、クリル ゙、ヴォス、アークリン。勇敢だ。無謀とも言えるがな”
旋回しながら立ち上がる健人を確かめたアルドゥインは、再度突撃を開始する。しかし、次の瞬間、正面から白い波動が正面から叩き付けられる。
「ジョール、ザハ、フルル!」
あまりにも高速で飛ぶアルドゥインには、まともな破壊魔法やシャウトは届かない。
だが、突撃してくる瞬間は別だ。その瞬間を狙って放たれた健人のドラゴンレンドが、アルドゥインに直撃する。
“無駄だ! ウル゛、グト、マーファエラーク!”
しかし、ドラゴンレンドによって斬り裂かれたアルドゥインの時は、彼のドラゴンオーダーによって瞬く間に無効化される。
そして、無防備になっている健人に、再度衝撃波が襲いかかった。
「あぐっ!」
地面を転がる健人を尻目に、アルドゥインは離脱。三度目の突撃の為の加速を開始する。
「くそ、どうすれば!」
健人達の状況は絶望的だった。
繰り返される爆音の重奏。
今のアルドゥインは例えるなら、超音速戦闘機に爆撃機編隊並の爆装を施したようなもの。さらに、核兵器でも傷一つつかない無敵の装甲持ちである。
おまけに、唯一の突破口であるはずのドラゴンレンドすらも無効化してくる。
まさに、手も足も出ないとはこのことだった。
メテオ・アポカリプスによる絨毯爆撃で動きが取れなくなっている健人めがけて、アルドゥインが三度目の突撃を開始する。
“厄災の元凶よ! パーサーナックスと共に、何もできず、地べたを這いつくばったまま死ぬがいい!”
「ぐぅ! ジョール、ザハ、フルル!」
“ウル゛、グト、マーファエラーク!”
無力化されると分かっていても、健人はドラゴンレンドを放ち続ける。
アルドゥインのシャウトによる砲撃を止めるには、そうするしかないからだ。
しかし、それだけでは隕石による爆撃も超音速の衝撃波も防げず、アルドゥインの攻勢を完全に断ち切ることはできない。
アルドゥインもそのことを理解しているのか、再度ドラゴンオーダーでドラゴンレンドを無効化つつ、そのまま一直線に健人達めがけて突っ込んでいく。
迫るアルドゥインと衝撃波を前に、健人は身構える。
だがその時、彼の視界の端に黒い影が飛び込んできた。
「リータ!?」
その影に、健人は驚きに目を見開く。
飛び出してきたのはリータだった。
彼女は荒い息を吐き、不安に瞳を揺らしながらも、しっかりとアルドゥインを見据える。
(私は……今でもドラゴンを殺したいと思っている)
両親の仇。小さくともかけがえのない幸せを奪われた怒りは、今でも彼女の心に燻っている。
アルドゥインを前にして、その炎は再び燃え上がり始め、その炎に当てられたように、憎しみの囁きが、今一度息を吹き返す。
(殺すのだ、ドラゴンを……)(殺すのだ、定命の者を……)
ドラゴンと人間の憎しみの連鎖が、再びリータを怨嗟の螺旋へと引きずり込もうとしてきた。
脳裏で喚き散らす声の圧力に流されまいと、彼女は歯を食いしばる。
一度飲まれたが故に、恐怖は間違いなく彼女の心を蝕んでいた。
しかし同時に、その恐怖に脅えるだけではダメであることも、彼女は理解していた。そして、もう一度、立ち上がらなければならないことも。
怨嗟に飲まれた自分を引き戻してくれた二人の姿が、リータに力を湧き上がらせる。
だからこそ、彼女は今一度立ち上がった。
この少女もまた間違いなく、“英雄”の素質を持つ者なのだから。
「すぅ……」
リータは大きく息を吸い、ドラゴンレンドの深奥へと意識を潜らせる。
憎悪に満ちた思念の真意。義弟が示してくれたその意思と己を同調させ、真言を紡ぐ。
「ジョール、ザハ、フルル!」
“なに!? ぐおおお!”
リータが放ったドラゴンレンドが、アルドゥインに直撃した。
健人とリータ。二人のドラゴンボーンによって重ねられたシャウトが、アルドゥインの力を上回り、彼の不変、不懐の鎧を剥し、翼を奪う。
“ぬうううう!”
飛翔力を失ったアルドゥインは急激に速度と高度を落しながらも、なんとか体勢を立て直す。
轟音を上げながら地面に着地。勢いあまって滑走しながらも、再び自分を地面に引きずり下ろした二人のドラゴンボーンを睨みつける。
「ケント、今!」
「おおおおおお!」
リータの声に導かれ、健人は地面を滑走中のアルドゥインに向かって全力で踏み込む。
地面を粉砕しながら、あっというまに間合いを詰め、デイドラのブレイズソードを一閃。
血髄の刃がアルドゥインの漆黒の鱗を斬り裂き、赤い血が舞い上がる。
“ぐっ!? 我を地面に落としたからと言って、舐めるなよ!”
即座にアルドゥインが反撃に出る。
牙を剥き、躱したところに鋭い大爪を振るう。
アルドゥインの爪撃が、健人の体を捉える。相手の動きと己の体躯を利用した、的確な反撃。
しかし、迫るアルドゥインの凶爪を前にしても、健人はひるまなかった。
逆にアルドゥインの爪撃に左腕を合わせる。激突の瞬間、虹色の竜鱗がドラゴンスケールの小手と共に弾け飛び、同時にアルドゥインの爪を弾き返す。
“攻撃反射”
リータが自在に操っていた、重装鎧の技術。
それを模して、しかも重装鎧よりも防御力に乏しい軽装鎧で実行したのだ。
“なっ!?”
「ぐぅ、おおおおおおおおお!」
練度不足から、爪撃の威力を完全に殺すことはできず、激痛が腕に走る。
だが健人は痛みに耐えながら、驚くアルドゥインの首に一閃。再び竜王に裂傷を刻む。
「まだ、まだああああ!」
“ええい、ファイム、ズィー、グロン!”
「ホルヴダー、ズィー、ハール゛!」
“なに!? グウゥ!”
反射的に霊体化を使ったアルドゥインだが、先ほどのシャウトを聞いていた健人が、即座に同じ“捕魂の手”を発動。霊体化を無効化し、竜王の頬にさらなる裂傷を刻む。
“この……。調子に乗るな!”
三度も同じ相手に傷つけられたことに激高したアルドゥインが、健人に襲いかかり、健人もまた正面から迎え撃つ。
“オオオオオオオオオオオオオ!”
「あああああああああああああ!」
そして、虹色の竜人と竜王は、真正面からぶつかり合い、互いの身を削り合い始めた。
竜王が強烈な爪撃を叩き込み、健人が反撃とばかりにアルドゥインの頬を殴り飛ばす。
健人の口から鮮血が漏れ、へし折られた竜王の牙が赤い血しぶきとともに宙を舞う。
追撃の刃が漆黒の鱗を千々に斬り裂き、強烈な尾撃が小さな人の体を打ちのめす。
何度も激突を繰り返し、その度に相手の体に傷を負わせていく。
そして、ついにアルドゥインの牙が、健人を再び捉えた。
「ちい!」
“捕えたぞ、このまま噛み潰して、グオ!?”
高々と首を持ち上げて健人を噛み潰そうとするアルドゥイン。しかし、健人はさせじと、口内に血髄の魔刀を突き立てた。
口の中に走った激痛に、アルドゥインは反射的に首を大きく振りながら、健人を遠くに投げ飛ばす。
“ガハ、ゴホ……! ええい、しぶとい! ヨル、トゥ、シューール!”
「フォ、コラ、デューーン!」
ファイヤブレスとフロストブレスが激突する。
極炎と零下の吹雪が激突し、水蒸気を巻き上げた。
健人は更なる追撃をかけるべく、『旋風の疾走』を唱えようとする。
「ウル……ぐぷっ! ごほ、ごほ!?」
しかし、突如として健人が息を詰まらせ、その場に膝をつく。肺に血が入ってしまったために、息を乱したのだ。
難敵が見せた隙に、アルドゥインは大きく息を吸う。
“クォ、ロゥ……”
サンダーブレス。
極めて威力、貫通力に優れた雷撃のシャウト。
アルドゥインが放つそれは、ヴィントゥルースのサンダーブレスやミラークのライトニングテンペストすらも上回る威力を持っている。
健人の危機を前に、戦いを見守っていたリータが走り出す。
「ケント! え?」
その時、彼女の脇を、黒い影が駆け抜けた。
リータの目にもぼんやりとしか映らない、幻のような隻腕の影。
それは地面に落ちていたデイドラの両手斧の柄を掴むと、アルドゥインに気づかれること無く懐に潜り込む。
そして、右手にへし折れた柄を構え、今にもシャウトを放とうとしているアルドゥインの右目めがけて勢いよく突き入れた。
「させない……!」
“クオレ……グオオオオオ!?”
右目を潰され、アルドゥインが首を仰け反らせて暴れまわる。
そこでようやく、虚ろな影が人の姿を取り戻した。
折れた柄をアルドゥインに突き入れた人物の姿に、リータだけでなく健人も目を見開く。
「デルフィン、さん?」
それは、ハイフロスガーにいるはずだったデルフィンだった。
柄を脇で固定し、体ごと突き入れるように突撃した彼女は、暴れるアルドゥインに激しく振り回されていた。
そして、右目から柄が抜けると同時に、遠くへ放り投げられてしまう。
残った左目を怒りで真っ赤に染まったアルドゥインの視線が、デルフィンへと向けられる。
「はあ、はあ、はあ……。どうだ。やってやったわよ、このクソワーム……」
「デル、フィンさん、逃げ……」
怒りの針が振り切れたアルドゥインが、大きく息を吸う。
片手で何とか身を起こして立ち上がるデルフィン。彼女は逃げるように叫ぶ健人に向かって、満足げな笑みを浮かべる。
それは、全てを受け入れた、達観の笑顔だった。
「ケント、未来を掴みなさい!」
最後の言葉を伝えるように声を上げると、彼女はアルドゥインに向き合い、竜王の右目を貫いた柄を掲げる。
仲間達のために、命を賭す。
かつて自分が仲間たちにしてあげられなかったことを、今この瞬間に成すために。
「
“クォ、ロゥ、クレント!”
そして、アルドゥインのサンダーブレスが、デルフィンめがけて放たれる。
極雷の吐息は瞬く間に彼女の体を焼き尽くし、消滅させた。
戦いに翻弄され、怨嗟に呑まれたままの女戦士は、最後に己が遺したものに満足しながら、この世を去った。
健人の胸から言葉に出来ない激情が湧き上がる。
「っ、オオオオオオオオオオオオオオ!」
雄叫びを上げながら、師の命を奪った竜王を睨みつける。
世界を揺らすほど魂が震え、溢れ出すドラゴンソウルが虹色の奔流となって荒れ狂う。
突如として強大な魂の力を現出させた健人を前に、アルドゥインが残った左目を見開いた。
叩きつけられる、強烈な魂の震えに、漆黒の竜王は反射的に最適と思われるスゥームを唱える。
“っ、ウル゛、グト、マーファエラーク!”
ドラゴンオーダーが、効果の切れかけたドラゴンレンドをかき消し、アルドゥインの不滅の鎧を復活させる。
これで、誰も傷をつけることはできないはず。しかし、頭で理解しながらも、全身に走る悪寒は一層強くなっていた。
「モタード、ゼィル……」
“ヨル、トゥ、シューール!”
その悪寒に急かされるまま、アルドゥインは全力のファイヤブレスを健人に向かって放った。灼熱の奔流が、岩の地面を溶かしながら一直線に突き進む。
「ラヴィン!!」
しかし、アルドゥインのファイヤブレスが健人を飲み込む前に、ハウリングソウルの三節目が完成した。
共鳴、魂、世界。
文字通り『世界』を震わせる声が、世界を食らうものへと放たれる。
不可視の衝撃波はプロミネンスを思わせる炎の吐息を千々に粉砕して消し飛ばしながら、漆黒の竜王を飲み込む。
“グオオオオオ!”
アルドゥインの絶叫が木霊する。
無敵・不懐のはずの漆黒の竜鱗が空間ごとひび割れ、ベキベキ、バキバキと耳障りな音を響かせながらひしゃげていく。
“ガア、ギ、グギギギギ……!”
竜王の全身に裂傷が走り、赤い血とともに黒い靄が噴き出す。それは、アルドゥインがこれまで飲み込んできた定命の者たちの魂だった。
全身に裂傷を負ったアルドゥインは、押し殺すような悲鳴を漏らしながら、全身を外側と内側から切り裂かれる痛みにのたうち回る。
そして、健人のハウリングソウルは、世界のノドからニルンの全域へ、そしてムンダスの彼方へと広がっていく。
次の瞬間、山頂の一角に残っていた雪の中から、まばゆい光があふれだす。
「な、なんだ!?」
突如として発生した光に、驚く健人達。
そこには、宙に浮く黄金の巻物があった。
星霜の書(竜)
リータがドラゴンレンド習得のために持ってきて、健人との戦いの中で落とした、この世界で最も偉大で神秘に満ちたアーティファクト。
そして、ドラゴンのすべてを記した星霜の書は、健人のハウリングソウルと共鳴するように震え始めた。
まるで、世界そのものを打ち壊さんばかりに。
次の瞬間、星霜の書がまばゆいばかりの光を放つと、空に線を描くように、光の帯が走り始めた
光の帯はスカイリムだけでなくタムリエル大陸、そしてニルン全体へと広がっていき、巨大な白い天球図を描き出す。
描かれた天球図は時を巻き戻すように動き始め、やがていびつに歪み始める。
ガキガキと油の切れた時計のように不規則な変動を繰り返した天球図は、やがてピクリとも動かなくなり、サラサラと砂のように消えていった。
「いったい、何が……っ!?」
やがて強烈な反動が健人に全身に襲い掛かってきた。
体中の筋肉と骨が断ち切られたような痛みとともに皮膚が裂け、血が鎧の内側にたまって滴り落ちる。
崩れ落ちそうになる膝に必死に力を入れ、なんとか立ち続けながら、彼は刀を構える。
三節すべてそろったハウリングソウルを受けても、アルドゥインはまだ健在だった。
健人と同じように全身に裂傷を負い、血と取り込んだ魂を漏らし続けているが、口から漏れる荒い息は、竜王がまだ生きている証だった。
“………………”
しかし、様子がおかしい。
重症を負いながらも、アルドゥインは下を向いたまま、黙りこくって微動だにしない。
静寂が、健人と竜王の間に……否、世界全体に流れている。
頭に浮かぶ疑問符に健人が横目でリータの様子を確かめると、彼女もまた虚空を見つめたまま、立ちすくんでいた。
傷を負い、地面に倒れこんだパーサーナックスも、同じような様子。
そばにいるカシトだけが、何が起こっているのかわからず、キョロキョロと視線をさまよわせながら狼狽えている。
「ミラーク、何が起こっている。……ミラーク?」
健人と同化したミラーク達も、まるで石のように沈黙している。
なにか、ただ事でない事態が起ころうとしているのではないか?
健人の脳裏にそんな予感がよぎった時、アルドゥインが小さくつぶやいた。
“ダーマーン、思い出した……”
「なに? うわ!?」
突如として、アルドゥインが首を上げる。深紅に染まっていたはずの彼の瞳は、いつの間にか蒼穹の青へと変化していた。
アルドゥインは光を失い、沈黙した星霜の書を咥えると、翼を広げて飛び立った。
訳が分からず混乱している健人と、棒立ちになっているリータを完全に無視して、深手を負った竜王は一目散に空の彼方へと逃げていく。
一体アルドゥインに……いや、竜族全体に何が起こったのだろうか。
しかし、健人には確かめる間もなく、意識が急速に闇に飲まれていく。
「まず、い。意識が……」
全身を覆う冷たさと脱力感に、彼はその場に崩れ落ちる。
「ケント!? おい、そこのノルド! なにボーっとしてんだよ!」
「……はっ! ケント、しっかり!」
暗くなっていく視界の中で、カシトと、意識を取り戻したリータが駆け寄ってくる。
そして、彼の視界は暗転する。
意識を失う直前、彼の瞼の裏には、アルドゥインに奪い去られた黄金の巻物がチラついていた。
アルドゥイン
世界を食らうもの。竜族の頂点に座す竜王。
彼のスゥームは強大であり、その知識、見識はニルンに存在するどの者たちよりも優れている。
スゥームの知識も並外れており、あらゆる状況に合わせてシャウトを自在に創造、変化させることができる。
また、アカトシュの長子として生まれた彼は、ほかのドラゴンとは違う特別な存在であり、極めて強力な不壊の鎧をその身にまとっている。
それ故に物理的、精神的問わず、あらゆる攻撃は彼の体に傷一つつけられない。
たとえ、その不壊の鎧をはがせたとしてもその戦闘力は群を抜いており、人類最高位の英雄である三英雄を圧倒し、そのうちの一人、“黄金の柄のゴルムレイス”を瞬殺するほどの力量を誇る。
当然ながら、定命の者たちが打倒できるような存在ではなく、まさしく神にも等しい力の持ち主である。
一方で、どのドラゴンよりも強い支配欲を持ち、ニルンに並ぶ者がいないゆえの傲慢さをもつ。
その過剰な傲慢さゆえに足元をすくわれることも多く、竜戦争末期には星霜の書で三英雄に封印された。
復活した後もドラゴンレンドで再び地に落とされ、異端のドラゴンボーンである健人とボコり合いする羽目になった挙句、彼のハウリングソウルによって身にまとう不壊の鎧を肉体ごとメタメタにされ、深手を負う始末。
しかし、そのハウリングソウルと共鳴した星霜の書により、忘れていた何かを思い出したようで、件の星霜の書を奪い、逃げるように姿を消した。
星霜の書(竜)
ドラゴンに関わる全てが記されているといわれる星霜の書。
アルドゥイン封印にも用いられ、また、リータのドラゴンレンド習得と暴走、そして健人の介入とドラゴンレンド習得のきっかけになるなど、かの竜王とは深い因縁がある。
健人のハウリングソウルと共鳴した結果、ニルンに存在する竜族すべてに何らかの干渉をした模様。
捕縛の手
Horvutah、Zii、Haal
死霊系シャウトであり、本小説オリジナルスゥーム。
捕まえた、霊魂・精神、手の言葉で構築されており、霊体に対する干渉能力を付与するシャウト。
『霊体化』の天敵といえる真言である。
デルフィン
最後のブレイズの一人にして、健人の師。
大戦開戦時にすべての仲間を苛烈な拷問の果てにサルモールに殺されたことから、第四期200年代に至るまでサルモールを殺し続けた、超一流の女戦士にして隠密。
その力量は不意を突いたとはいえ、三英雄を圧倒したアルドゥインの片目を奪うほど。
常に命を狙われ続ける日々と、後悔と憎しみに心を荒ませた彼女は誰にも心を開くことはなく、ドラゴン復活以降はかつてのブレイズの存在意義であるドラゴン殲滅に固執していた。
しかし、弟子の手により戦う力を失ったことで、ようやく目を背けていた自分の心と向き合うことができた。
そして、かつての仲間思いの自分を取り戻せた彼女は、唯一残った弟子を守るためにアルドゥインに立ち向かい、その右目を奪う大戦果を挙げるも、その直後に竜王に殺されてしまう。
今わの際、唯一の弟子に最後の声を届けることができた彼女は、数十年ぶりに心からの笑顔を浮かべたまま、仲間たちのところへと還っていった。
パーサーナックス
みんな大好きおじいちゃんドラゴン。
深手を負ったが、きちんと生きている。
しかし、歳を考えずに無理した結果、腰が逝った。一回休み。