【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十話 裏で察する者

 ハドバルが謁見を終える少し前。

 ドラゴンズリーチの宮廷魔術師、ファレンガーは、とある人物の訪問を受けていた。

 ファレンガーはこのホワイトランの首長に仕える高位の魔法使いであり、首長に対して魔法や呪いに関して助言を行う立場の人間である。

 

「やっと来たか。それで、見つかったのか?」

 

「ええ、ブリークフォール墓地の奥で見つけたわ」

 

 そう言いながら、デルフィンは背負った荷を机の上に降ろし、包んでいた布を解いた。

 五角形の石版が、露わになる。

 

「おお! 間違いなくドラゴンストーン! 古のドラゴンを記した遺産!」

 

 興奮した様子で、ファレンガーは机の上のドラゴンストーンに齧り付くように観察し始めた。

 顔面が接するほど近くに顔を寄せ、表面の模様や形状、傷の一つ一つに至るまで、目に焼き付けるように眺めている。

 

「見ろ、後ろに刻まれていのは、間違いなくドラゴンの文字だ! 古の時代、ドラゴンが残した神秘の文字……。ああ、美しい」

 

「ちょっと、興奮するのはいいけど、こちらの質問にも答えて」

 

「ああ、わかっているさ。それで、ドラゴン研究の第一人者であるこの私に何を聞きたいのかね?」

 

 このファレンガーという人物。高位の魔法使いにありがちな、偏屈さと頑固さを併せ持つ人物だが、同時にドラゴンに対して異常なほど執着している面があった。

 

「ドラゴン研究の第一人者というより、ただのドラゴン狂いのような気がするけど……」

 

「何か言ったかね?」

 

「いいえ、なんでもないわ。欲しいのは、この遺物についての情報。それからヘルゲンから飛び立ったドラゴンの情報よ。炎を思わせる漆黒の鱗を纏った巨大なドラゴン。なにか知っている?」

 

 デルフィンが聞きたかったのは、ブリークフォール墓地で見つけた五角形の遺物についてと、墓地から帰る際に目撃した、漆黒のドラゴンについて。

 彼女自身の存在意義にかかわることだけに、何としても知る必要があった。

 だが、ヘルゲンを襲ったドラゴンについて、デルフィンは遠目からしか見ていない。

 そのため、特徴となるのはせいぜい鱗の色くらいだった。

 

「まず、この遺物についてだが、おそらくドラゴンの墓地について書かれている。おそらく、墓地の位置が書いてあるのだろうな。

 飛んで行ったドラゴンについてだが、ドラゴンというのは伝承において、著しく特徴のある個体もある。

 だが、そもそもドラゴンの個体について調べた統計的な情報はほとんど存在しない上に、伝承におけるドラゴンはどれもが曖昧だ。

 被膜を纏った前肢などのある程度の共通した特徴を持つが、おおざっぱな外見と鱗の色だけでは何とも言えんな」

 

「そう……」

 

 やはり、個体の特定には至らないらしい。

 ファレンガーが自分の研究を漏らしたくないからなのか、それとも本当に何もわからないからなのか判別できなかったが、デルフィンは澄ました表情の裏で、内心臍をかんだ。

 ドラゴンの個体名が特定できれば、過去の自分たちが持つ情報から、ある程度の対策ができるかもしれないと思ったのだ。

 

「ふむ、やはりドラゴンは復活したのか?」

 

「ええ。この目ではっきりと見たわ」

 

「そうか! それは素晴らしい! ぜひこの目で一度見てみたい!」

 

「あなた、本気でそう思っているの?ドラゴンの復活は、人類の危機なのよ?」

 

 ドラゴンの復活。それは、タムリエルに住まう人々にとって、看過できない事態である。

 ドラゴンは太古の昔、人間たちを支配し、圧政を強いてきた。

 そして、数えきれないほどの人間を戯れに殺してきている。

 今ではその歴史を知る者はほとんどいないが、デルフィンはその事実を歴史として知っている。

 何より、彼女が持つ自身の存在意義が、ドラゴンが復活したこの事態を見逃せぬ事とし、危機感を煽り立てていた。

 

「ああ、どんな姿のドラゴンなのだろうか? 鱗の形状は? 被膜の厚さは? 体温は人より高いのだろうか……」

 

「やっぱりドラゴン狂いね……」

 

 しかし、危機感に満ちたデルフィンの警告も、ドラゴン狂いの魔法使いには通じない。

 彼らのような魔法使いが生きる意味は、己が心躍る命題を追い求めることであり、それ以外は俗世の出来事で、自分たちには関係のないことであるからだ。

 デルフィンは興奮して話を聞かなくなったファレンガーを早々に放り出し、諦めたように窓の外に目を向けた。

 その時、宮殿の扉が開かれ、ダークエルフの女戦士が率いる一隊が、宮殿を後にする様子が目に飛び込んできた。

 

(あれは、首長の副官?)

 

 宮殿を後にするイリレス達は皆緊張感に満ちた表情を浮かべており、まるで今から戦場に向かうような物々しさがあった。

 デルフィンは熱狂的なファレンガーの息もつかずにまくし立ててくる講義を聞き流しながら、ほのかに香る戦場の気配に眉を顰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルグルーフとの謁見を終えたハドバルとカシトは、麓の厩の前でバルグルーフから提供された馬に跨り、去ることになるホワイトランの街並みを見上げていた。

 旅に必要な装具、食料、水などの一式も提供され、馬に括り付けられている。

 

「ふう……、これで終わりだな。急いでソリチュードに向かうぞ」

 

「……うん」

 

 名残惜しそうにホワイトランを見上げているカシトに、ハドバルが訪ねる。

 

「不満か? それともケント達が気になるのか?」

 

「……」

 

「お前は帝国兵だ。死んでいるならともかく、生きているのに原隊に復帰しなければ、脱走罪に問われるかもしれんぞ。そうなれば、最悪反逆者達と同じように死刑だ」

 

「そんな事、分かってるよ」

 

 帝国軍は正規の軍隊であり、服務にあたり守るべき規律が存在する。

 地球の軍隊でもそうだが、どの国でもこの軍規は厳粛に守らなければならないものである。

 そして、その軍規に反したものへ下される罰は、総じて重いものばかりだ。

 それも当然のこと。

 兵士とは戦闘という非常事態下で戦うことを義務付けられ、そのために国の最上位の武力を与えられた者達だからだ。

 

「……とはいえ、ヘルゲンもお前が元いた部隊もドラゴンのせいで壊滅状態だ。今お前がいなくなったとしても、誰も分からんだろう」

 

「……どういうつもりかな? オイラがもし脱走したとしても、見逃すつもり?」

 

「いや。私は帝国軍の兵士だ。それに、元の部隊が壊滅した今、お前は私の指揮下の兵という事になる。目の前で脱走されて、見逃すはずはないだろう?」

 

 命令系統において、上位の士官が全て死亡した場合、次に位の高い士官が指揮を執り、命令系統を一本化するのが通例だ。

 この場合、ハドバルとカシト、双方の位ではハドバルのほうが高いため、カシトはハドバルの指揮下に入ったことになっている。

 

「なら聞かないでほしいな~。期待させて落とすなんてひどい話だよ~。

 別にいいじゃないか。このまま帝国軍に残っていたら、あのドラゴンと戦わされちゃうんだよ? そうなったらオイラ死んじゃうよ……」

 

「分かっていたが、お前にはやはり帝国に対する忠誠心はないのか?」

 

「あるわけないじゃん。オイラが帝国軍に入ったのだって、日銭を出さなくても飯にありつけたからだし」

 

 カシトの発言に、ハドバルは呆れたように溜息を洩らした。

 このカジートは口が軽いだけに思ったことを素直に言うからか、受け取り側によっては不評を買うことが多い。

 特に、自尊心の強いノルドやエルフとは相性が悪かった。

 

「ソリチュードに着いたら、お前を除隊させてくれるよう進言する。だから、今はソリチュードに行くんだ」

 

「分かっている。ソリチュードには行くよ。きちんと除隊してから、ホワイトランに戻るさ。しかし、ノルドってのはどうしてこう頭が固くて融通がきかないんだろうね~。面倒くさいよ、本当に……」

 

 一方、カシトとしては帝国軍に義理立てする理由はなく、ヘルゲンで戦ったのだから、もう十分だろうというのが、本人の考えだった。

 元々、独自の文化を形成してきたカジートだ。

 彼らが住むエルスウェアは荒涼とした砂漠であり、そんな場所に住むカジートは家族や血族単位の生活が主なだけに、人間の作った大集団を統治するための法律や軍規などはどうもピンと来ないのだ。

 なにより、カジートはこのタムリエルでは被差別の種族。

 不老に近い長寿を持つエルフはおろか、同じ定命の種である人間からも、明確な差別を受けている。

 当然、カシトも心無い差別にあったことは、一度や二度ではない。

 さらに歴史的にもエルフ、人間の双方から、力で支配されてきた歴史があり、それは今でも根強く残っている。

 習慣、風習が違うと言えばそれまでだが、こんな背景を持つ相手に愛着など湧くはずもない。

 

「もし帝国軍に残ってくれるなら、ホワイトランが帝国軍を受け入れてくれた時、お前がこの街に駐留できるように進言するぞ?」

 

「べ~! その前にさっさと除隊するよ。いい加減軍隊生活は飽きたから」

 

「そうか……」

 

 しかし、ハドバルの声には、カシトが帝国軍を離れる気であることを、純粋に惜しむ色があった。

 自分達を差別してくるノルドからの思わぬ反応に、カシトが怪訝な目を向ける。

 

「なんか残念そうだね。普通なら“これでやっと獣臭い人間もどきがいなくなる”と言うと思ったけど」

 

「お前をよく知らぬノルドならそう言うだろうが、道中で見たお前の身のこなしと短剣の腕は確かだった。一人の帝国軍人として、お前ほどの使い手がいなくなることは正直惜しい」

 

「……ふん」

 

 ノルドは閉鎖的な種族だが、戦士としての力量を重んじるだけあり、一角の戦士には純粋に敬意を示す。

 ハドバルとしては、カシトの腕は戦士として、純粋に敬意を払うべきものだった。

 

「それに、リバーウッドからここまでくる間、お前は戦いながらケントに危険が及ばないか注意していただろう?」

 

 なにより、ハドバルがカシトを認めるに至った理由は、リバーウッドからホワイトランに来るまでの、戦士としての彼の振る舞いだった。

 ハドバルの言う通り、カシトはホワイトランに来る間、オオカミとの戦闘を行いながらも、横合いから健人に襲い掛かろうとするオオカミ達を、持ち前の身のこなしで牽制していた。

 そのおかげで、健人はオオカミとの戦いにおいて、一対一で相手に集中することができていた。

 戦いの素人である健人は気づかなかったが、リータやドルマは気づいていたし、戦いを指揮していたハドバルも当然気づいている。

 

「戦士と盗賊の違いは、己の為だけに自分の力を使うか、誰かの為に使うかという事だ。ケントの為にその短剣を振るったお前は、間違いなく立派な戦士だ。そんな人物が去っていくのを惜しいと思うのは当然だろう?」

 

「………ふん」

 

 ハドバルからの純粋な賛辞に、カシトはそっぽを向いて鼻白んだ。

 ノルドからの慣れない賛辞は、今までの人生を思い出して少々スネていたカシトには眩しかったのだ。

 

「ん!?」

 

 その時、二人の目が奇妙なものをとらえた。

 ホワイトランの正門が開き、門の奥から騎馬の一隊が出てくる。

 先頭の馬に乗っていたのは、ドラゴンズリーチの謁見の間で出会ったダークエルフの戦士だった。

 

「あれは、イリレス殿? 何かあったのか?」

 

「なんだか嫌な予感がするんだけど……」

 

 何やら不穏な空気をまといながら、イリレスが率いる騎馬の一隊は西へ向けて駆けていく。

 

「行くぞ。一体何があったのかを確かめる」

 

「ええ!? ちょっと、本気!? って、オイラを置いていかないでよ!」

 

 これ以上ないほど嫌そうな表情を浮かべるカシトを後目に、ハドバルは馬の腹を蹴る。

 駆け出していくハドバルの馬を、カシトは慌てて追いかけた。

 

 

 




ブリークフォール墓地を攻略したのは、主人公じゃなくてなんとデルフィン。
そして西の監視塔に行くのも主人公じゃなくてハドバルという展開!
原作ブレイクも甚だしいな……。

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