【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
第一話 繋ぎ直された絆
ぼやけた視界。まどろみの中、まるで水中から昇って行くように、徐々に意識がハッキリしてくる。
目に飛び込んできたのは、違和感を抱かずにはいられない、摩訶不思議な光景。
眩い星空、輝く太陽、そして、空を覆うオーロラが天空で混ざり合う。
スカイリムでも見たことも無い程の大規模の、そして多彩な色が、まるで絵の具をぶちまけたように空を染め上げていた。
(これは……夢? にしては、妙に、リアルだ……)
太陽と星が並んで空を照らし、更には全天を覆うほどのオーロラ。
いくら異世界だからとはいえ、普通ではありえない空だった。
空を見上げていた視線が、下へと移っていく。
そこには、さらに目を見張る光景があった。
(ドラゴン。そして……人間?)
地上に降りた複数のドラゴンと、彼らを取り囲む人間達。
竜戦争の一幕だろうかと思ったが、双方の様子は、戦いの場と言うには明らかに穏やか過ぎる様子。
タムリエルでも聞いたことのない言葉でドラゴンに話しかける人間達と、静かに彼らの言葉に耳を傾けるドラゴン達。
その様子は、憎しみのまま殺し合う姿を多く見てきた健人にとってはとても新鮮で、同時に驚くべき光景だった。
(ここはいったいどこだ? それに一体いつ頃の……まさか、夜明けの時代?)
夜明けの時代。
エルフの時代よりもさらに前。神々による『創造』後、まだ世界が安定していなかった時代だ。
万華鏡のように揺らぐ空は、その予想を強く確信させる。
その時、彩色の空を漆黒の巨竜が飛び越していく。
(アルドゥイン?)
世界を食らう者。そう呼ばれ、恐れられているはずの竜王。
しかし、アルドゥインを前にした人々の反応は、健人が知るものではなかった。
手を振り、笑顔と歓喜で竜王を迎える民衆。
そしてなにより、そんな民たちを前に、竜王は理知的で慈愛に満ちた青色の瞳で見下ろしていた。
ありえない。健人が知る限り、アルドゥインは強大な力を持ってはいても極めて傲慢で、己の力や権威を誇示することに躊躇いのない性格だった。
(これは、いったい……)
疑問がよぎる健人の目の前で、アルドゥインが着地する。
群がる民たちに苦笑を浮かべながら迎える竜王。それは、自分の知るアルドゥインとは明らかに違う。
その時、アルドゥインの青色の瞳が、健人を捉える。
“ウォ、コス、ヒン、ドル……?”(誰だ、そこにいるのは……?)
(え? なんで)
過去の光景を見ているだけのはずなのに、どうしてアルドゥインが自分に気づくのだろうか。
その答えを知る間もなく、場面が切り替わる。
次に飛び込んできたのは、無数のドラゴンが集う光景。地に降り、そして空を舞う有翼の竜達の数は、数えきれないほど。
そして彼らの中心には、王であるアルドゥインが鎮座しており、彼の眼前には黄金の巻物が置かれていた。
(あれは……星霜の書?)
既に意識が戻り始めているのか、時折視界がぼやけ、音も遠くなってきている。だがその特徴的な装飾と、何よりも放たれる荘厳な気配は見間違えようがない。
いや、目の前の星霜の書は、世界のノドで見たものよりもはるかに強い神気を纏っているようにみえた。
“ズゥー、ボルマー。ズー、ドィン、フェント、クロン、アー、セ、デズ。フェン、ドルーン、クリン、プルーザー、デツ”(我が父よ。我らは貴方に与えられた役目を逸脱することにした。より良き未来を求めるがゆえに)
ドラゴン達の声も先ほどよりも遠く、よく聞こえない。
ただ、アルドゥインはドラゴン達と共に星霜の書で何かをしようとしているのは確かだった。
霞む視界の中、健人は必死にこの光景を目に焼き付けようとする。
“フィム、――――、ズゥー、スゥーム。ドロゥク、――、ナウ、オニク、ダール、――――、エヴォナール、ディノク”(さあ、我らの声を――――。この――に新たな理を刻み、そして来るであろう終末を消し去るために)
聞こえる声も、虫食いのようになってきた。もう時間がない。
感覚は既に遠く、視界の周囲は黒く抜けてしまっている。
まるで単眼鏡で覗いているかのような光景の中、アルドゥインの呼びかけに他のドラゴン達が応じ、スゥームを紡ぎ始めた。
“―――、フェン。アロク、コダーヴ、ヴィーク、―――。”(―――は望む。――の打倒を)
大気を震わせながら響く声と同調するように、ズズズ……と虹に包まれた世界が僅かに振動を始めた。
“―――、フェン。クロン、――”――は望む。――の簒奪を)
大地の震えは瞬く間に増していき、やがて空までが震えているのではと思えるほどの地鳴りを響かせ始める。
いったいドラゴン達は……アルドゥインは何をしようとしているのだろうか?
健人の疑問をよそに、蜃気楼のような光景の中で時は進み、シャウトの重奏はいよいよクライマックスへと向かう。
“クァーナール、グラヴーン、―――、ファー、モロケイ、ヴィンタース”(終わりにむかう―――時を、輝かしいものにするために)
そしてアルドゥインが高まるドラゴンソウルに導かれるように、星霜の書へ向かってシャウトを放った。
“――――、―――、――――!”
無音のシャウトが無色の衝撃波と化し、星霜の書に直撃。続いて周囲を囲むドラゴン達もまた、星霜の書へと同質のシャウト放つ。
次の瞬間、彩色に彩られた空がぐにゃりと歪み、まばゆい光と主に衝撃波が走る。
そして世界を打ち壊すのではと思えるほどの轟音が世界に響く中、健人の意識は遠く闇の中へと消えていった。
「ん……」
背中に走る痛みと、全身を包む倦怠感の中で目が覚める。口の中の渇きに、思わず舌でカサカサの唇を舐めた。
数秒の間まどろみの中を漂っていた健人だが、顔を指す冷気が一気に彼の意識を現実へと引き戻す。
視線を横に逸らすと、親友のカジートが心配そうな目で健人の顔を覗き込んでいた。
「ケント! 目を覚ましたんだね!」
安堵からカシトは強面の獣人顔をへにゃりと緩ませ、肩を落とす。
「カシト……俺、どのくらい寝てた?」
「一か月だよ、一か月! もう、目を覚まさないかと思った~~!」
「そうか……また随分と眠っちゃってたな……」
以前、ソルスセイム島では三週間。あの時以上に意識を失っていた事実に、健人は額に手をあてる。石造りの天井が、蝋燭の明かりに照らされてユラユラと揺れていた。
「ケント、とりあえず水」
「あ、ああ。ありがとう」
身を起こし、カシトが差し出してきたコップの水で乾いた喉と唇を潤していると、黒檀の鎧を纏ったノルドの青年が近づいてきた。
リータの幼馴染であり、暴走したリータを止めるためにその刃を受けたドルマだった。
「目が覚めたか?」
「ドルマ……っ、おい、怪我は!?」
「大丈夫だ。お前のおかげで、なんとか一命をとりとめたよ。というか、どっちかっていうとお前の方がヤバかっただろうが。まったく、相も変わらずというかなんというか……」
彼が負った傷を思い出した健人が慌てる中、ドルマはしっかりとした足取りでベッドの傍に歩みよると、近くにあった石の椅子に腰を掛ける。
どうやら、健人の応急処置は間に合ったらしい。
ほっと安堵の息を漏らすも、健人はこの場にもう一人、大切な人物がいないことに気づく。
「そうか、よかった……リータは?」
「ああ、リータはちょっと今席を外していてな。すぐ来るよ」
ドルマの声に続いて、遠くからバタバタと誰かが駆け寄ってくる音が響く。
健人が足音の方に目を向ければ、心配そうに顔をひきつらせたリータがいた。
「っ!」
「うお!?」
ドヒュン! と、まるで旋風の疾走を使ったかのような加速。一瞬で目の前に現れたリータに、健人は思わず体をビクつかせるた。
「ケント、大丈夫なの!? 痛いところない!? 意識、ちゃんとしてる!?」
「ちょ、いやいや、いて、いてて! 大丈夫、大丈夫だから……!」
驚きに固まっている健人を余所に、リータは彼の体を確かめるように、落ち着きなくペタペタと触り始めた。
「というか、リータの方こそ大丈夫なの?」
身体に走るむずがゆさと残った傷の痛みに悶えつつも、健人は同じ質問をリータに返す。
健人のソウルリンクバーストによる猛攻勢を受けた事を考えれば、彼女も少なくない傷を負っていることは容易に想像できた。
「え、ええ。あの時は山頂から降りるのもギリギリだったけど、薬飲んで一週間くらいしたらちゃんと動けるようになったわ」
リータの話では、あの後目を覚ましたグレイビアード達が助けに山頂まで来てくれたらしい。
年頃の少女に戻っているリータの様子に、健人はほっと胸をなでおろす。
ハルメアス・モラの策略で自身が取り込んだドラゴンソウルと、ドラゴンレンドに込められていた人間達の憎悪に飲まれた彼女。一歩間違えば、取り返しのつかない事態になっていたのだ。
まだ懸念事項はあるとはいえ、助け出すことはできた。健人はほんの少しの間、安堵に身をゆだねる。
(それにしても、治るの一週間って、早すぎないか?)
ミラーク達の知識と力、技術も総動員した攻勢を受けて、快癒に一週間しかかからなかったというのだから、今のリータの頑強さは健人の想像以上である。
(外見はアイドル顔負けの美少女なんだけど……。随分と見た目によらない存在になっちゃってるな……)
健人がブーメランになりそうなことを思い浮かべながら乾いた笑いを浮かべていると、突然リータの表情が沈んだ。
蒼い瞳が潤み、溢れた涙がポロポロと冷たい石床に滴り落ちる。
「ちょ、え? ええ?」
「ケント、ご、ごめ、ごめん。ごめんなさい……」
ヒック、ヒックと嗚咽を漏らしながら、声にならない謝罪を口にし始めたリータに、当惑していた健人だが、数秒ののち、ようやく彼女の心を未だに覆う影を思い出す。
彼女は、後悔しているのだ。ヌエヴギルドラールを、健人の友を殺めたことを。
そして、彼の想いを力で打ち壊したことを。
「いや、いいよ、もう」
「で、でも……」
さらに言いつのろうとするリータを、健人は静かに手を上げて制する。
正直、そのことに関して、今はもうどうこういう気はなかった。
もとより、健人が彼女の意思を無視して勝手についてきた旅。
それに、否定された時のことを思い出しても、心は驚くほど凪いでいる。
彼は、とっくに全てを受け入れることが出来ているのだ。否定されたことも、自棄になったことも、ここまでの旅で味わった、全ての苦い記憶を。
それをリータに示すように、健人は静かに笑みを返す。
影のない、穏やかな微笑み。それを目にして、強張っていたリータの表情が和らいでいく。
「ありがとう、ケント。助けてくれて」
「ああ、本当に……。その気高く強い魂に、心から感謝する……」
ずっと胸の奥で溜まっていた澱み。それが消えれば、口からは自然と後悔ではなく、感謝の言葉が出ていた。
冷たい寺院の中に、静かな温かい笑い声が響く。
「なんだか、ドルマからそんな礼儀正しい言葉を聞くと、変な気分になるなぁ……」
「おまえ……。いやまあ、確かに今までの俺の態度から考えれば無理ないが……」
ようやく笑い合えた三人は、しばしの間、穏やかな空気に身を委ねる。
「そういえば、随分長いこと寝ちゃってたけど、現状はどんな感じなんだ?」
「芳しくないな。先の戦い以降、ドラゴン達の襲撃が急に増えた」
どういうことかと話の続きを急かしたところ、彼らは健人が寝ている間、ブレイズの生き残りであるエズバーンが、デルフィンの残した情報網を使って情報収集をしていたとのこと。
元々リータの活躍もあり、ドラゴンの活動は下火になっていたのだが、ここ最近、スカイリム各所でドラゴンの襲撃が倍加。
特にソリチュードを中心とした帝国側の各地で、被害が顕著に出ているらしい。
ついでにサルモールも被害を受けているらしく、スカイリムに来たいくつかの部隊が壊滅しているらしい。
「でも、話を聞く限りなんか変なんだよね。統率が取れていない感じで……」
「というと?」
「街を壊しに来たって感じじゃないの。なんというか、大慌てで逃げている感じ。確かに戦いにはなるんだけど、すぐに飛び去っちゃうらしいわ」
基本的にドラゴンが、自分達よりも劣等種とみている人間との戦いから簡単に逃げるはずがない。彼らの矜持が、それを許さないはずだ。
健人の脳裏に、先ほどまで見ていた夢の光景が蘇る。
「ドラゴン側で、何かあったと考えるべきか……パーサーナックスは?」
「グレイビアードの話では、あの戦いの後、山頂で石みたいに固まっちまっているらしい」
アルドゥインとの戦いでかなりの傷を負った様子のパーサーナックスだが、彼もまた無事らしい。しかし、その様子は一変しているらしく、やはりドラゴン達全体に何かが起こっているのは確かなようだった。
「…………そういえば、グレイビアード達は何も言わなかったのか? その、パーサーナックスの事で」
ブレイズ達はドラゴンレンドを習得した段階で、ドラゴンボーンにかの老竜を殺させるつもりだった。その為に彼らはグレイビアード達を眠らせ、邪魔されないように暗躍もした。
リータ、ドルマの二人はブレイズの意向に思うところがあったものの、ドルマは健人がデイドラに魅入られたとして彼の排除を優先。
リータはドラゴンレンドに込められていた憎悪に呑まれて暴走。結果的に、グレイビアードが師と仰ぐドラゴンを殺しかけることになった。
当然、その事実はグレイビアードも把握しているはず。普通に考えれば、リータとドルマがハイフロスガーに逗留できるはずがない。
「あ、ああ。俺達も当然、ここにはいられないと思っていたんだけどな……」
「アーンゲールさんが言ってくれたの。どんな形にしろ、私達と師は君にドラゴンレンドを学ぶ術を教えた。その結果がいかなるものとはいえ、それは自身の怒りを乗り越えて受け入れなくてはならないって……」
アーンゲール達とて、思うところがない訳ではない。
何千年も自身の過ちに後悔し、存在意義を問い続けてきたドラゴン。先達が守り通し、師と仰ぎ続けてきた者を殺されかけ、怒りがわかないわけはない。
しかし、彼らもまた、リータがドラゴンレンドを学ぶことを良しとし、パーサーナックス自身がその道を示した。
であるならば、彼女達に全ての罪を押し付けることは、グレイビアード自身が定めた声の道から目を背けることになる。
ゆえに、彼らはそれ以上、リータ達の罪を問うことはなかった。
「それにグレイビアード達はどうも、お前に対して妙に畏まっていてな。この部屋も治療に必要な薬や水、食料なんかも、彼らが態々用意してくれたんだ」
「……どういうこと?」
健人が首をかしげていると、彼の覚醒に気づいた四人のグレイビアード達が姿を現した。
起きている健人の様子を確かめると、彼らは厳めしい顔の口元をほんの少し緩める。
「起きたか、無事なようでなによりだ。もう一人のドラゴンボーンよ」
「ええっと、お久しぶりです」
重く低いが、隠し切れない安堵を漂わせる声色。
普段から厳格で、悟りを開くために自身の感情を抑えることが常である彼らの珍しい反応に、健人は当惑の声を漏らす。
「こうして会うのは二度目か。まさか彼女以外にドラゴンボーンになった者が現れるとはな……」
「あの……。治療、ありがとうございます。助かりました」
「気にすることは無い。私達が至ることを放棄した道を進み、極致に到達した者をむざむざ死なせることはできないからな」
「?」
至ることを放棄した極致とは、どういうことなのだろうか?
首をかしげる健人に、アーンゲールの傍に控えていたアイナース、ウルフガーが答える。
「其方はドラゴンレンドの深奥。無数の憎悪の先で、その声の真意に気づいた。それは、私達が放棄した道」
「ドラゴンレンドは使い手を憎悪と殺戮へと誘う禁忌。そう決めつけ、私達はそのシャウトに込められた“変化を願う声”から目を背けた。ユルゲン自身、戦いに使われ続けるシャウトの在り方の“変化”を求めていたにもかかわらず」
ドラゴンレンド。グレイビアードが悟りへと至るために不要と切り捨てたシャウト。
ドラゴンへの憎しみに染まったこのスゥームは、声秘術を戦い以外で使うべきと説く声の道からは外れていると思い込んでいたからだ。
だが、ドラゴンレンドの裏にあった感情は、もっと切なく、悲しみに満ちたものだった。
冷たく、悲しみと痛みに満ちた世界が変わってほしいという願い。それを、長年声の道を希求しつづけながらもドラゴンレンドを禁忌としていたグレイビアード達が気づかなかった。
彼ら自身がドラゴンレンドを知らなかったのだから無理もない。健人自身、ドラゴンレンドの真意に気づいたのは、ある種の偶然だったと思っている。
しかし、たとえ偶然でも、数千年分の憎悪を向き合い、その奥に秘められた“本音”に向き合おうとしたのは、健人自身の意思と行動があったから。
だからこそ、その在り方に、グレイビアードは敬意を示しているのだ。
「我々が俗世に過度な干渉をすべきでないという意思は変わらない。しかし、何も変化しないというのでは、時の中を無為に生きていくだけだ」
「グレイビアードとはいえ、時の流れには逆らうべきではない。ならば、我らも腰を上げねばならん。故に、君の治療をしたいという彼らの逗留と、以後の協力を認めた」
グレイビアード達の視線が、リータとドルマに向けられた。
少し気まずい表情を浮かべながらも頭を下げる彼女達に、グレイビアード達もまた小さく頷いて返答する。
「それでケント、これからのことなんだけど……」
話を切り替えるように、リータとドルマは健人に向き直る。
「理由はどうあれ、ドラゴンの襲撃が増加しているのも確か。ということで、今ちょっと色々と動いているんだ」
「なにを?」
「帝国軍とストームクローク。双方の休戦だ」
健人が詳しい話を求めたところ、逃走したアルドゥインを見つけるために、配下のドラゴンを捕獲しようという話になったらしい。
その為にホワイトランのドラゴンズリーチを使うことを考えついた。あそこは第一期の伝説的な上級王、オラフがヌーミネックスを捕まえるために建設された経緯がある。
しかし、現在のホワイトランの首長、バルグルーフはこの話に難色を示した。
内戦が続いている現状では、ホワイトランの守りを削るわけにはいかないとの事。
ならば、双方が休戦すれば問題ないということで、スカイリムでドラゴンボーンとして名の通ったリータが、帝国のテュリウス将軍とストームクロークのウルフリックに休戦を持ちかけた。
結果、ここハイフロスガーで帝国とストームクロークとの休戦会議を行うことになった。
「ドラゴンボーンの名声があってよかったわ。内心では、ちょっと複雑だけど……」
リータが複雑な笑みを浮かべる。
元々彼女自身、一般的なノルドのように名誉や名声を求めていたわけではない。自分のような人間を増やしたくないと思いながらも、同時に復讐を望んでいただけだ。
リータ自身、両親を殺したドラゴンに対する憎しみが無くなったわけではない。
だが、彼女は暴走した自分を救ってくれた健人とドルマのことを考え、未来のために自分に出来る最善を行おうとしていた。
そんな彼女の気持ちを慮るようにドルマは頷き、話を進める。
「まあ、そういうわけで、明日にも双方の代表者が到着するだろう。そこで、俺達はなんとしても休戦にこぎつけるつもりだ」
「俺は、何をすればいい?」
力強いドルマの口調に、健人もまた助力を申し出る。
しかし、肝心の彼らの表情は、芳しくないものだった。
「……ケントには悪いんだが、ここは俺達に任せてくれるか?」
「なんでだ? 帝国とのコネはないが、ストームクロークのウルフリックには顔が通っている。交渉をする上では力になれると思うんだけど……」
実際、健人はヴィントゥルースの襲撃からストームクロークの本拠地であるウィンドヘルムを守った功績がある。
ノルド主義を掲げ、他種族の意見をそうそう聞き入れないウルフリックとて、健人は無視できない人物のはずだ。
しかし、それでもリータとドルマは首を横に振る。
「イヴァルステッドにいるエズバーンさんからの報告で、帝国の使節団にサルモールも同行しているらしいの」
「お前、サルモールとはちょっと因縁があるだろ?」
ドルマの言葉に、健人は眉を顰め口元を歪めると、続いてはあ……と深く溜息を吐いた。
健人は以前、ドラゴンの情報を探るためにサルモール大使館に潜入し、そこでハイエルフの高官を殺害してしまっている。
さらには追跡部隊に追われ、その顔もバッチリ見られていた。
捕縛される直前にヌエヴギルドラールが登場したことで、追跡部隊は撤退。健人も死んだものとされているだろうが、態々生存をサルモールに知らせる必要はないというのが、リータ達の意見だった。
「そう……だな。わかった。大人しくしているよ」
「ありがとう、こっちは任せて」
二人の提言に健人が頷くと、リータは柔らかい表情を浮かべる。
「よし、それじゃあ、飯にするか。ケント、腹減ってるだろ?」
「ああ。頼めるか?」
「任せて、腕によりをかけて作るから!」
「「いや、頼むから、リータは何もするな」」
「なんでよ!」
健人とドルマの息の合ったツッコミに、リータが不満の声を上げる。
「あのなぁ、ケントは一か月ぶりのまともな食事なんだぞ。ここでリータのポイズンクッキングを食わせるのは忍びないだろうが」
「ドルマ酷い! アーンゲール師、何か言ってください!」
話を振られたアーンゲールだが、まるで逃げるようにスッと視線を逸らす。
よく見れば、他のグレイビアード達もリータと目を合わせないようにしている。どうやらこの一ヶ月の間で、彼らもリータの毒物料理の被害に遭ったことがあるらしい。
健人は思わず額に手を当てて項垂れる。この姉、ドラゴンボーンとして驚異的な成長をしているくせに、そっち方面の成長は絶無だったようだ。
「さて、なら、私は肉を焼くとしよう……」
「こちらはパンを作るとしようか。確か、昨日仕込んでおいたタネがあるはずじゃ」
「ちょっとアーンゲール師、ウルフガー師、何で目を逸らすんです?」
逃げるように調理を始めようとするグレイビアード達に嘆息しながら、ドルマはリータの肩をそっと押して健人の方に追いやる。
「俺はスープをつくる。ケント、悪いがリータが邪魔しないようにしてくれ」
「了解……」
はあ……と力のない溜息を漏らしながら、健人はギャーギャー暴れる姉を押さえ込む。
「へえ、このスープ、けっこういけるな」
「ああ、リンゴが隠し味でな。まあ、お前の料理には及ばないが……」
ちなみに料理は、そこそこ美味しかった。リータの成長が見込めなかった分、ドルマがそれなりに料理を出来るようになっていたらしい。
「むぅううう……。ケントの意地悪、ドルマの意地悪、アーンゲール師の意地悪……」
余談だが、リータは食事中完全にイジけたまま、まるで報復とばかりに食いまくっていた。
用意した料理の半分がリータの腹に収まっていく様に、健人達だけでなくグレイビアード達すら呆れていたのだから、なんとも残念なドラゴンボーンになったものである。
そして翌日。ハイフロスガーにて、この内戦における休戦協議が開始された。