【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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今回は休戦会議での出来事。例によってオリジナル展開。


第二話 休戦会議、その裏で

 帝国、ストームクローク、両陣営の使節団はそれぞれの護衛の兵と共に、ハイフロスガーに到着した。

 護衛の兵はハイフロスガー前の広場で待機し、それぞれの代表者と数名の付き添いだけが寺院の中へと入っていく。

 休戦会議が行われるのは、ハイフロスガー寺院内の大会議室。石造りの大広間に、これまた石造りの机と椅子が部屋の中央に四角形に組まれている会議室だった。

 ストームクロークからはウルフリック・ストームクロークとガルマル・ストーンフィスト。

 帝国からはテュリウス将軍とその右腕であるリッケ特使、そしてホワイトランホールドの首長バルグルーフとハーフィンガルホールドの首長エリシフ。

 そして会議室の奥には、リータとドルマ、手前にはグレイビアードの代表としてアーンゲールが立つ。

 休戦会議は、双方の代表者が到着すると、すぐさま開始されることになる。

 しかしここで、ウルフリックが帝国使節団に嚙みついた。

 

「彼女を交渉に連れてくるなど……我らを侮辱するのか?」

 

 ウルフリックがこれ以上ないほど嫌悪の視線を向けるのは、スカイリムにおけるアルドメリ自治領の代表、エレンウェン。

 彼女は何故か護衛の兵士と共に、この休戦会議に参加していた。

 

「エレンウェン様、お下がりを」

 

 エレンウェンの隣にいる碧水晶の鎧を纏った兵士が、ウルフリックから彼女を守るように前に出る。

 この場にいる彼女の護衛は、この碧水晶の兵士一人だけ。

 護衛は他にもいるが、全員がこの寺院の外で待機している。

 それは、他の使節団も同じだ。公平を期すため、休戦会議を実際に行うこの寺院の中まで同行できる護衛は一名のみと通達してある。

 

「この交渉で私は全権を担っています。私には、ここでの合意が白金協定に反するものでないことを見届ける必要があるのです」

 

 そんな彼女はウルフリックからの罵倒を軽く流しながら、しれっと自分がこの場にいることを正当化する。

 白金協定。大戦の終戦時に締結された、アルドメリ自治領と帝国との間に交わされた協定だ。

 はっきり言って、ストームクロークを正式に認めようが認めまいが、本来サルモールにこの場にいる権限はない。

 本来サルモールはアルドメリ自治領の中にある一組織でしかないはず。しかし、これを帝国のテュリウス将軍が認める始末。

 

「ケント、あっちの方、いきなり険悪な空気になっちゃっているね」

 

「無理ないだろ。ストームクロークとサルモールは水と油だ。というか、サルモール自体、本来ならこの場にいる権利はないはずだ」

 

 いきなり険悪な空気で始まった休戦会議を、健人は会議室の外で聞き耳を立てていた。

 寺院の中には護衛の兵士は一名しか入ることを許可していないため、この場には健人とカシトしかいない。

 会議の様子が気になった二人はこっそりと様子を覗き見ていたのだが、サルモールが同行してくるなど、いきなり雲行きが怪しくなってきた。

 

(頼むから、切迫した事態にならないでくれよ……)

 

 寺院全体を包むギシギシとした重苦しい空気に、健人はごくりとつばを飲む。

 

「しかもエレンウェン特使の隣にいる護衛の兵士は、あの時の部隊長じゃないか……」

 

「ケント、知ってるの?」

 

「俺がサルモール大使館に潜入したとき、追ってきた追跡部隊の隊長だ。魔法も凄腕だが、剣術もかなりのものを持っている。配下の兵士の士気も高かった、優秀な指揮官だ」

 

 エレンウェンの後ろで彼女の護衛をしている碧水晶の鎧を纏った兵士を覗き見ながら、健人は思わず溜息を漏らした。

 あの兵士が健人のことを覚えているとしたら、絶対に顔を合わせたくない相手である。

 そんなこんなしているうちに、ウルフリックはさらに声を荒げ、エレンウェンの休戦会議参加を拒否。休戦会議はいきなり暗雲立ち込める様相を見せ始めた。

 

「ケント、どうするの……?」

 

 二人が不安げな様子で会議室の中を覗き見ていると、リータと視線が合った。

 彼女は健人の方を見て笑みを浮かべると、小さく頷いてくる。

 その強い意思の籠った瞳に、健人は揺れる心を落ち着けるように瞑目し、深呼吸をした。

 

「……ここはリータにまかせよう。俺達は外へ」

 

 外と聞いてカシトが首をかしげる中、健人は外套を纏うと、静かにハイフロスガーの中庭に出て、寺院の屋根へと這い上がる。

 層雲が覆う空は曇りと言うには明るく、晴れと言うには薄暗い空模様。

 強い風が吹き荒ぶハイフロスガーの屋根は、その降雪量に反して積もっている雪は少なく、屋根に上がるのはそれほど難しくはない。

 

「ケント、どうしてこんなところに?」

 

「寺院の中じゃ、あの兵士と鉢合わせするかもしれないだろ? それにここなら、アイツらを監視できる」

 

 そう言って健人は、眼下の光景を指さす。

 彼らの視線の先には、ここに来た各勢力の代表を護衛してきた兵士達がいた。

 帝国とストームクローク、そしてサルモール。それぞれの護衛部隊の士官と末端の兵士十数名前後が、互いに睨み合っている。

 血で血を洗う内戦をしてきた者同士だ。本来なら目の前の仇敵を即座に殺したくて仕方ないだろう。

 そしてサルモールの存在が彼らの憤りに拍車をかけていると同時に、この状況を複雑なものにしていた。

 

「会議室に負けず劣らず、こっちもすんごいギスギスしてるね。まるでクマとサーベルキャットとフロストスパイダーが鉢合わせたみたいだ」

 

「ああ、こっちでも休戦会議が必要なんじゃ……」

 

 まさに、開戦一歩手前といった様相。三群は互いに距離を置き、相手を罵ることも無く黙っているが、その沈黙と敵意を隠さぬ瞳が、この場の空気を一層強張ったものにしている。

 そんな緊迫感漂うハイフロスガー前を見つめていた健人だが、視界に映る光景の違和感に、思わず首をかしげる。

 

「ん?」

 

「ケント、どうかしたの?」

 

「あのサルモール兵……。あの部隊長の兵士じゃない」

 

「え?」

 

 彼が注目したのは、サルモール護衛部隊の末端兵士。彼らは以前、サルモール大使館で健人を追撃してきた部隊員ではなかった。

 部隊長がエレンウェンと一緒にハイフロスガー内に入っていった事を考えれば、この場にいるのはあの時の追撃部隊の兵士がいるはず。

 しかし、いるのはこの場で待機を命じられた高官一名と、その部下と思われる兵士数名のみ。明らかに他勢力と比べて護衛の数が少ないのだ。

 健人の胸に、嫌な予感が湧き上がる。

 

「……カシト、ちょっとここで様子を見ていてくれるか?」

 

「わかったよ。何かあったら、まかしといて!」

 

「サンキュー。ちょっと行ってくるよ」

 

 そう言うと健人は改めて外套を被り直し、護衛の兵士達の視界に入らないように中庭に飛び降りると、そのまま見えなくなってしまった。

 親友の行動にカシトはしょうがないなと言うように息を吐くと、改めて眼下の護衛達に視線を戻す。

 その時、ガコン、と重い音と共にハイフロスガーの扉が開き、エレンウェンと護衛の部隊長が姿を現した。

 他の参加者達が出て来る様子はない。おそらく、会議への出席を断られたのだろう。

 その様子を見ていたストームクローク兵の一人が、エレンウェンに向かって罵声を浴びせる。

 

「なんだ、やせっぽっちで木皮顔のエレンウェン。もう帰るのか? そのままサマーセットに返ってくれたら、お互い幸せになるかと思うのだがな!」

 

 一方、エレンウェンはすまし顔。それが尚のことストームクローク兵達の苛立ちを掻き立てるのか、罵声を浴びせた兵士は一瞬眉をしかめるが、すぐに意地の悪い表情を浮かべる。

 

「なんだ、いつもよく滑る舌はどうした? 言い返す気力すらないほど我らが上級王にコテンパンに言いくるめられたのか?」

 

「所詮は猜疑しか喋らぬ舌。声秘術を使いこなす我らが首長には口でも勝てんか!」

 

「うるさいぞ、ストームクロークの名は嵐の衣ではなく、罵声と尻軽な挑発か?」

 

「なんだ、やるつもりなのか、帝国に与する臆病者め」

 

 挑発を止めないストームクローク兵に、帝国兵も徐々に苛立ちを募らせ始めている。

 今にも剣が抜かれそうなほど険悪な空気の中、遠目から様子を見ていたカシトは、この場に妙な違和感に首をかしげる。

 

「……なんだか変だな? この場に来る兵士が、こんな風に激昂する?」

 

 帝国もストームクロークも、この休戦会議の護衛に選ばれるほどの戦士となれば、主が白といえば黒くても白というほどの忠誠心と、相応の分別を弁えているはずである。

 実際、ウィンドヘルムでの対ヴィントゥルース戦において、ストームクローク兵の半分以上は街の救世主である健人に対して相当な敬意を示した。

 当然、この場にいる兵士も相応の分別を持つ者達のはずである。

 そうこうしているうちに、ストームクローク兵と帝国兵質の口論は激化。いよいよもって、収拾がつかなくなってきた。

 

「うわ、ケントが懸念していた通り、雲行きが怪しくなってきちゃったよ。仕方ないなぁ……」

 

 立ち上がったカシトは、ぴょんぴょんと軽い身のこなしで屋根から飛び降りると、帝国兵とストームクローク兵の間に割り込み、にんまりと人を食ったような笑みを浮かべた。

 

「やあやあ皆様方、態々この歴史あるハイフロスガーにいらっしゃったのに、随分とイライラしてしまっているみたいじゃないですか。ここはひとつ、双方落ち着いていただいて……」

 

「なんだカジート、貴様、どこから現れた」

 

「なぜ、こんなところにカジートがいる。こいつもサルモールの一員か?」

 

 突然現れたカジートに、この場にいた面々が一様に面食らうも、すぐに怪訝な視線をカシトに向ける。

 今にも爆発しそうな空気の中にこんな抜けたような顔のカジートが現れれば、無理もない。

 とりあえず、激発しそうな場の空気を一時凌いだカシトは、サルモールの下っ端扱いに内心不満を漏らしながらも、口元を吊り上げながら道化を演じ続ける。

 

「いえいえ、私はグレイビアード達の恩情で、この寺院に滞在させてもらっている者ですよ~~。なにやら退屈されている様子ですから、ここはひとつ歌でも歌って皆さんの退屈を慰めようかな~~と思いまして?」

 

 カシトのペースについてこれない兵士達を脇に置いておきながら、彼は喉を鳴らし、他の者達が会話に割り込む暇もなく歌い始めた。

 

「では、さっそく一曲……。ノルドの英雄~~ウルフリック、ウィンドヘルムから馬を駆ってや~~ってきた~~。ノルドの自慢ばかりしては威張り散らし、剣を振り回した~~」

 

「ぶ!」

 

「ぶふぅぁ!?」

 

 歌を聞いた帝国兵とサルモール兵が思わず噴き出した。

 カシトが歌ったのは赤のラグナル、その替え歌である。しかも相手はあのウルフリック。

 元々彼方此方を転々としてきた経歴からか、妙に多芸な彼。ストームクローク兵が呆然としている前で、調子よく口ちょんぱされるところまでしっかりと歌いきる。

 

「ふふ、悪くない歌ですね。貴方、道化としてなら、サルモール大使館で雇ってもかまいませんよ?」

 

「お、オイラ内定確定? やったね!」

 

「き、きさまあああ!」

 

「あらよっと!」

 

 エレンウェンが珍しく微笑む中、激高したストームクローク兵が剣を抜いて襲い掛かるも、カシトはひらりと躱す。

 その身のこなしに、割と冷静さを保っている兵士達の目が変わる。

 一方、振り下ろされる剣を回避しながらも、カシトは斬りかかってきたストームクローク兵を観察し続ける。

 カジートの優れた動体視力は、彼の体にはうっすらと纏わりつく、紅い魔力を捉えていた。

 

(うん、これは間違いなく、なんらかの魔法がかけられているね。それも、誰も気づかないほど弱い魔法を、少しずつ少しずつ……)

 

「あれ? これはお気に召さない? ではもう一曲。テュリウスに死を! 傀儡の悪党! 打ち破った日は飲み歌おう!」

 

 使われているのはおそらく、激昂、ないしはそれに類する幻惑魔法だろう。

 カシトはストームクローク兵に纏わりつく魔力の残滓をたどりながら、今度は帝国軍を称える歌“侵略の時代”を歌う。

 ちなみに、今度もしっかりと替え歌。ウルフリックではなく、テュリウス将軍が殺されるという役変更である。

 怒り狂って剣を振るっていたストームクローク兵がピタリと止まり、帝国兵たちが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 

「さらにもう一曲ご披露! 乾杯をしよう、その皴顔に~~。エルフの時代は今終わりを告げる。ここからサルモールを追い払おう。奪われた故郷を取り戻そう。サルモール万歳! 堕落した高貴なる者達! その愚かな末路を称え、飲み歌おう!」

 

「は、はは、いいぞ! カジート、まともな歌も歌えるじゃないか!」

 

「堕落した高貴なる者達! その末路を称え、飲み歌おう!」

 

 さきほどまで剣を抜いて殺そうとしていた殺気はどこに行ったのやら。ストームクローク兵は頬を緩ませ、中にはノリノリで同じ歌を歌い始める者もいる始末。

 

「貴様……」

 

「……先ほどの内定は取り消しです。」

 

 今度はサルモール達が金色の肌に深い皴を刻みながらカシトを睨みつける。

 流石にエレンウェンはその表情を微動だにしていなかったが、しっかりと内定取り消しの通達をしてきた。

 全方位にアンチの歌を披露しながらこの場に漂う魔力を探り続けていたカシトだが、その残滓は岩の陰へと消えていき、それ以上確かめられなくなってしまった。

 内心臍を噛むが、その時、崖下から這い上がっていく親友の姿が目に映る。

 そして数秒後、健人が岩陰に消えるのと同時に、この場に漂っていた魔力が消えていった。

 

(よし、もういいね)

 

 エレンウェンとサルモール達が表情をこわばらせている中、彼女の護衛をしていた碧水晶の部隊長が、スッとこの場から離れて岩陰の方へと向かっていく。

 カシトは一瞬眉を顰めるも、全幅の信頼を置いている親友が動いていることを思い出し、演技で凝り固まっていた口元を思わず弛緩させながら最後の演目を始める。

 

「それでは、次が最後の一曲! この場に来た皆さんにとって一番ふさわしいと思える曲を披露いたしましょう!」

 

 空を覆う、アルドゥインの翼、吐く息は炎、その鱗は刃。

 恐れ震えあがり、逃げ惑う人々。戦う者もいるが、むなしく死にゆく。

 我らは求め歌う、救世の英雄を。アルドウィンに挑む猛き勇者を。

 

 カシトが最後に選んだ曲は、舌の物語。

 しかも、替え歌ではない、オリジナルそのままの歌だった。

 

 アルドゥインの勝利は、人の世の終わり。黒き翼の闇が世を覆う。

 恐ろしき日にも終わりは訪れる。雪のように確かな、それは声として。

 それこそアルドゥインの、死を告げる調べ。スカイリムの美しき、空を覆うスゥーム。

 

 舌の物語はアルドゥインの復活とそれにより訪れる災厄。そして、救世主の出現を預言する歌だ。

 替え歌で歌われた歌と、歌われなかった歌。カシトが示していることは端的だ。

 

“お前たちは道化の歌として歌われる、愚か者でいるつもりか?”と。

 

 ここにいる者たちは、各勢力の精鋭。カシトの演目の意味に気づき、全員が苦虫を千匹くらい噛み潰した表情を浮かべた。

 そんな中、カシトの演目はクライマックスを迎える。

 

 アルドゥインの脅威は、声によりて終わり、秘術は伝わる。新たな時代へ。

 不滅なるものはない。アルドゥインも同じ。物語は終わり、そしてドラゴンは……去った。

 

 すべての演目を終えたカシトは恭しく頭を下げる。

 そしてハイフロスガー前の喧騒は去り、沈黙だけが風と共に吹いていた。

 




いかがだったでしょうか。今回は休戦会議……ではなく、その裏で起きているオリジナルの出来事。
休戦会議の場に護衛の兵を一人も付けずに来る要人たちの姿を見て違和感を覚えたことから、作ったお話でした。
……大丈夫かな?
続きは数日以内に投稿予定

以下、登場人物紹介。

碧水晶の部隊長
かつてサルモール大使館潜入時に健人を追い詰めた人物。
剣と魔法、双方を高いレベルで両立している優れた兵士。今回はエレンウェン直属の護衛として休戦会議の場に訪れた。


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