【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第四話 休戦

 健人がサルモールの隠密部隊を制圧した後、護衛の兵達に見つからないように崖上を進み、回り込んで中庭側から寺院の中に戻った。 

 扉を開けると、帰って来た健人の姿に、先に戻っていたカシトが手を上げてくる。

 

「ケント、終わったの?」

 

「ああ。休戦会議の方は?」

 

「そっちもちょうど今終わったよ。ほら」

 

 カシトが言う通り、大会議室から次々と出席者達が出てくる。

 その内の一人。豊かな髭を生やし、クマの毛皮の外套を纏ったノルドが健人とカシトの姿を見て、手を広げながら歩み寄ってきていた。

 

「おお、やはりここにいたのだな」

 

 ガルマル・ストーンフィスト。健人としてはヴィントゥルースのウィンドヘルム襲撃時に一緒に消火活動をした間柄である。

 彼の後ろには、彼の主であるウルフリック・ストームクロークの姿もあった。

 

「ケントよ、久しぶりだな。壮健そうでなによりだ」

 

「ええ、ガルマルさんもお元気そうで」

 

 髭面の強面に迫られた健人は少し気圧されながらも、キチンと挨拶を返す。低く、重みのある声色ながら、そこには一定の信頼が垣間見える。

 一方、彼の隣にいるウルフリックは厳めしい表情を崩していない。腕を組み、威厳と圧のある態度をとっていた。

 

「また会ったな、ドラゴンボーン」

 

「お久しぶりです、ウルフリック首長」

 

 一方の健人も礼儀を弁えながらも、定型的な返答をするのみ。

 そして開く数秒の沈黙。ウルフリックとしては、健人はバルグルーフと同じく、一目置いてはいるが決して自分に忠誠は誓わないと分かっている人物。

 健人としても、ノルド至上主義を掲げているウルフリックとはあまり気質的に合わない。

 微妙な距離感を窺わせる二人に、同じく会議室から出てきた人物が声をかけてくる。

 

「ほう、君がもう一人のドラゴンボーンか。彼女から聞いたときは耳を疑ったが……ほんとうなのか?」

 

 ノルドとは違うが、日本人よりも彫りが深く、短い白髪の初老の男性。

 身に纏う服は帝国軍人の装いであり、同時に金刺繍の施された豪奢な細工が、彼の地位を明確に示している。

 また、健人はこの人物にも見覚えがあった。

 テュリウス将軍。ヘルゲンでウルフリックを処刑しようとしていた帝国軍の総指揮官だ。

 彼の傍には副官であるリッケ特使、そしてバルグルーフ首長とエリシフ首長もいる。

 バルグルーフはホワイトランでリータが従士になった際に顔を見ているが、個人的に話をしたことはなく、エリシフの方も面識はない。

 

「一応……そうですよ。もっとも、ドラゴンソウルを吸収した経験はリータほどありませんけど」

 

 健人は小さく“フリン……”と唱える。次の瞬間、冷たい部屋に心地よい熱が広がる。

 唱えたドラゴン語の意味は「熱」。スゥームが生み出した熱に包まれ、テュリウスを始めとした帝国勢は目を見開く。

 しかし、その視線にはすぐに警戒の色が戻る。

 特にエリシフは睨みつけるような眼を健人に向けていた。

 エリシフはウルフリックに殺された上級王トリグの妻。おそらく、直前にウルフリックと話をしていたからこその警戒と嫌悪だろう。

 とはいえ、礼儀を欠くわけにもいかない。健人は静かに、二人に帝国式の礼を向かってする。隔意の無い健人の態度に、エリシフの表情に迷いが混じる。

 そんな中、唯一健人と面識のあるバルグルーフが、彼の顔を見て微笑みながら小さく頷いた。

 

「君は確か、ホワイトランがドラゴンに襲われたとき、ドラゴンボーンと一緒にいた異邦人だな」

 

「はい」

 

「エリシフ首長、テュリウス将軍。彼は間違いなく、ドラゴンボーンとともにホワイトランを襲ったドラゴンと戦ってくれた者だ。その性根は、私が保証しよう」

 

「バルグルーフ首長がそう言うなら、間違いないのだろう」

 

 バルグルーフの言葉に、テュリウスの視線から幾分か警戒の色が解ける。

 しかし、エリシフのほうは疑惑が拭いきれないのか、瞳を震わせ、戸惑っている様子を見せていた。

 

「ところで君は、帝国軍に入る気はないか? 帝国は、いつでも強く、若い戦士を必要としているのだが」

 

 リッケの方にいたっては、さっそく健人を帝国軍に勧誘し始める始末。

 とはいえ、健人としては帝国軍にもストームクロークにも入る気はないので、深々と頭を下げて彼女の誘いを断る。

 

「ところで、休戦については、お互いに合意できたようですね」

 

「ああ、まあな。思うところがないわけではないが、ドラゴンのことを考えれば、やむを得ん」

 

 渋々と言った様子のテュリウス将軍とリッケ特使。

 エリシフの方は口を真一文字にして無表情を貫いているが、何も言わない所を見ると、一応飲み込んではくれているらしい。

 

「ところで、リータは……」

 

「ああ、彼女なら、会議室にまだいるはずだ」

 

 テュリウス将軍の言葉に健人は義姉の様子を見に行こうと、頭を下げて会議室へと足を踏み入れる。

 会議室の中にはリータと一緒にいるはずのドルマの姿はなく、リータだけが残っていた。そこで彼女は……。

 

「うみゅ~~~………」

 

 目を真ん丸にしながら机に突っ伏し、頭の上に雪山をこんもりと乗っけながら項垂れていた。山のような雪からは、シュ~~……という雪が溶ける音と共に蒸気が立ち上っている。

 そんなシュールな義姉の姿に、健人は言葉を失う。

 

「……なに、これ」

 

「ああ、ケント。リータの奴、慣れないことして知恵熱出しちまってな」

 

「……はあ?」

 

 後ろから掛けられた声に健人が振り返ると、会議室にいなかったドルマが腕に雪を一杯に抱えて戻って来ていた。

 茫然とする健人を余所に彼は持ってきた雪を、リータの頭から一気にかける。

 

「うぶぶぶぶ……」

 

 呻き声を漏らしながら雪に埋もれていくリータに言葉を失っている中、ドルマは休戦会議の流れを健人に説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サルモールの裏工作が実行される前。リータは、漏らしそうになる溜息を押し殺しながら、目の前にいる休戦会議の出席者達を眺めていた。

 まだ話し合いも始まっていない段階から荒れる様相は、このスカイリムの問題の根底を示している。

 対立する二勢力。しかし、その裏で糸を引いているのは別の勢力。

 帝国もストームクロークも対立の原因は理解しているが、互いに譲れない一線があり、さらには殺す、殺されたによる連鎖があるがゆえに、終わりが見えない。

 心配そうに会議室の中をのぞいている義弟に「大丈夫だ」というように笑みを返すと、リータは静かに深呼吸をして、ウルフリックに向かって口を開く。

 

「あの、煩いんでちょっと黙ってもらえます?」

 

 いきなりの喧嘩腰の口調に、ウルフリックが眉を顰める。

 しかし、彼が言い返してくる前に、リータは視線をウルフリックから外し、笑顔とともにハイエルフの女性へと向ける。

 

「それからエレンウェン特使、いちいち鼻につくような言葉で挑発しないでください。程度が知れますよ?」

 

 リータの静かな怒りのこもった声に、会議室の中の空気が静かに震え、刺すような冷気が走った。

 全身を無意識に固くしたエレンウェンとテュリウス、そしてウルフリックは眉を顰め、他の参加者は一様に驚きの表情を浮かべる。

 彼女はドラゴンボーン。たとえ真言たるスゥームでなくとも、その声には強い力が宿っている。

 興味、関心、驚異、感嘆。各々の複雑な視線を浴びながら、リータは毅然とした態度で口を開く。

 

「そもそも、貴方はこの場には呼ばれていませんし、交渉内容はどの道、後ほど全て公開されます。確かめるのは、それからでもいいはず。それに、ここは休戦会議の場。交渉をするのは帝国とストームクローク。サルモールではありません」

 

 サルモールはそもそも、帝国とは別組織。

 そしてこのような会議の場合は、主要となる対立している二勢力の代表と、仲介者となる第三者のみで行われるのが普通だ。帝国とストームクロークの休戦会議の場にいること自体がおかしい。

 

「彼女は帝国の使節だ。どうこう言ってほしくはないな」

 

 しかし、彼女の言葉に異を唱えたのは、サルモールではなく、帝国のテュリウス将軍だった。

 意外な人物がサルモールを助けるような発言をするが、実のところ、サルモール、そして帝国側にも事情があった。

 それはマルカルス事件と呼ばれる一件であり、第四期176年におこった、マルカルスをめぐる騒動である。

 大戦後の混乱期。マルカルスのあるリーチホールドが、フォースウォーンと呼ばれる原住民によって占領されるということが起こった。

 当時は大戦の影響が色濃く残っている時期であり、帝国はこの混乱を治めることが難しかった。

 そして、リーチを支配していたフォースウォーンを排除し、マルカルスを取り戻したのが、ウィンドヘルムの首長であるウルフリックである。

 ウルフリックはこの対価として、部下と自分のタロス崇拝を認めるよう帝国に要求。

 帝国はこれを認めるも、のちにアルドメリ自治領に発覚し、帝国はやむなくウルフリックとその部下を逮捕する事態になった。

 このマルカルス事件のこともあり、サルモール側としてはこの休戦会議は、白金協定に違反するような密約を結んだ前科のある者同士の交渉。故に、看過できない。

 帝国としてもサルモールに目をつけられてしまっている事態もあり、要求をはねのけるのが難しいという事情があったのだ。

 

「であるなら、なおさら度量を見せるべきです。交渉の人数はそちらが六人、対してストームクロークは二人。それだけでも不平等です」

 

 しかし、だからと言ってサルモールがここにいれば、双方まともな交渉などできない。

 リータは交渉にあたる人数が偏っていることを理由に、エレンウェンの退出を求めた。

 どこまでサルモールがしつこく食い下がってくるかは分からないが、彼女は不退の意思を込めてエレンウェンを見つめた。

 二人の視線がぶつかり合い、火花が散る。

 先に折れたのは、エレンウェンだった。

 

「……いいでしょう。そこまで言うのであれば、今回は失礼するとしましょう。ただ、これだけは言っておきます。サルモールはスカイリムを統治する政府が誰であろうと、その政府と交渉するつもりです。内戦に干渉するつもりはありません」

 

「笑わせるな! スカイリムがサルモールに屈するものか!」

 

「ここにいるインペリアルの友達と違ってな」

 

 この場にいる誰もが失笑を漏らしそうな言葉を残し、彼女は護衛の兵士を連れて退出する。そんな背中に、ウルフリックが罵声を浴びせ、ガルマルが更に帝国まで煽る。

 その挑発に、今度はリッケ特使が声を荒げた。

 

「私がグレイビアードの会議を尊重していてよかったわね、ガルマル!」

 

 席を立ち、今にも剣を抜いて斬りかかりそうな剣幕のリッケ。そんな彼女をいさめようとテュリウスが口を開こうとするが、その前に冷たくも怒りに満ちた声が会議室を震わせた。

 

「双方、いい加減にしてくれます? いちいち叱られないと口を閉じないなんて、聞き分けのない子供ですか? スカイリムの子なら、体だけでなく、口も我慢強くあるべきでは?」

 

 声を発したのは、これまたリータである。

 額に青筋立てながら笑みを浮かべる彼女の姿に、リッケだけでなく、ウルフリックやテュリウスまでもが言葉を失う。

 エリシフに至っては、顔を蒼くして冷や汗を流していた。

 たとえ可憐な容姿をしていようが、彼女は数多のドラゴンをその手で屠ったドラゴンスレイヤー。その殺気は竜すらも怯えさせる。

 そして彼女は顎をしゃくり、ウルフリックに席に着くよう促す。

 ウルフリックは一瞬渋い表情を浮かべるも、ガルマルと共に黙って席に着いた。

 

「それが理解できたのであれば、始めよう……」

 

 ようやく会議室が静かになったことで、アーンゲールが休戦会議の開始を宣言する。

 

「では、さっそく始めよう。マルカルスの支配権を所望する。それがこの休戦に同意する対価だ」

 

 さっそく要求をぶち込んできたのはウルフリック。

 彼の要求はリーチホールドの支配権。一国に匹敵する領地の要求に、再び頭痛がぶり返し、リータは思わず額に手を当てた。

 

「ウルフリック、それがここに来た目的なのね? この場を利用してグレイビアードを貶め、自分の地位を高めるつもり?」

 

「エリシフ首長、こいつは私に任せろ」

 

「将軍、こんなの許されない! こんな要求、飲むわけにはいかないわ! 休戦協定の話し合いだったはずよ!」

 

 そんな要求に声を荒げるのは、ハーフィンガルホールドの首長、エリシフ。

 彼女はウルフリックに殺された上級王、トリグの妻。当然、夫を殺した男の要求など、聞くはずもない。

 ウルフリックを睨みつけながら怨嗟のこもった大声を上げる彼女をテュリウス将軍がなだめ、改めてウルフリックに向き合う。

 

「ウルフリック、我々が交渉の場でマルカルスをあきらめるわけがないだろう。冗談はよせ。戦いで手に入らなかったものを、会議でせしめるつもりだな?」

 

 今日何度目かもわからない罵倒のやり取りを始めた二人に、折衝役のリータが口を開く。

 

「はい、静かに。まずウルフリック首長。あなたがマルカルスの所有権を主張するのは、自身の行いの正当性と、銀の確保でしょう。しかし、その方法では、そのどちらも達成できませんよ」

 

「……ほう、その理由が知りたいな」

 

 リータの言葉に一瞬眉を顰めながらも、ウルフリックは先を話すよう促す。

 

「簡単です。まず、スカイリム全土を恐怖に陥れているドラゴンに備えるための第一歩であるこの場でそれを要求した者を第三者が見た場合、たとえどのような理由があろうと、混乱に乗じた横取りという印象は抱かれる。それでは、正当性の担保にならない」

 

 マルカルス事件において、ウルフリックはどちらかというと被害者である。

 問題の解決に奔走したが、その功績に比べて十分な対価は得られず、更には名誉すら地に落とされたのだ。

 しかし、だからこそこの非常時に過大な要求をするべきではない。

 ウルフリックの要求は溺れそうな人間に対して、お前の全財産と引き換えに助けてやるというようなものだ。たとえ助けられたとしても、不満は残り、それ以上に芽生えた不信により、本来の正当な主張すらも相手に伝わらなくなる。

 

「それから、支配権の委譲に時間がかかりすぎる。支配階層を入れ替え、兵を入れ替え、体制を構築する。ドラゴンに対してのこの非常時に、どれだけ時間をかけるつもり?」

 

「…………」

 

「最後の一つ。それだけの労力と時間を費やしてマルカルスを支配しても、そもそもあの土地は帝国側のホールドに囲まれているから、採掘した銀は自分たちの支配領域に届けられない。使えない銀は、鉄くず以下よ」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 マルカルスからストームクローク領に銀を運ぶには、ホワイトランホールドかファルクリースホールドを通過しなければならないが、そこの街道を封鎖されてしまえば、銀は運べない。

 河川も同様だ。リーチホールドを通る主要河川、カース川が通るのはハーフィンガルホールド。こちらも帝国領であり、どのみち封鎖は容易。

 経済は循環してこそ。たとえマルカルスで銀を採掘しても、自分の領地まで持っていけなければ意味はない。

 リータの主張はウルフリックも納得できたのか、彼女の言葉に異を唱えることはできない様子で押し黙ってしまっていた。

 

「で、あなたの悩みを解決するいい手があるんだけど?」

 

「……聞かせてもらおう」

 

「マルカルスの現首長と帝国からマルカルス事件に対する正式な謝罪と、その対価として二年間、採掘した銀の半分をストームクロークに供給する」

 

「ほう……」

 

「なっ!?」

 

 リータの提案に、ウルフリックは感心したように顎に手をあて、テュリウスは驚きに目を見開く。

 

「ただし、ウルフリックもカースワステンの虐殺に対して正式な謝罪を行う。これならどう?」

 

 カースワステンの虐殺とは、ウルフリックがマルカルスからフォースウォーンを排除した際、彼らに協力的だった民間人に対して行った行為である。

 この際、ウルフリックはフォースウォーンに協力していた役人を殺害。さらに「我々とともに戦わないのならば、スカイリムの反逆者だ」と言い、従わなかった民間人をも処刑した。

 マルカルス事件の裏にある血生臭い出来事である。

 つまり、帝国側だけに対価を払わせるわけにはいかない。自らの行為によって死んだ者に対して、頭ぐらいは下げろ。というのが、リータの主張である。

 

「どう?」

 

「……いいだろう。ただし、二年は短すぎる。十年だ」

 

「そんなに長期間容認できるはずはないだろう。一年だ」

 

 リータの提案により、ウルフリックとテュリウス、二人の交渉は領地ではなく、銀を提供する期間へと移る。

 

「八年」

 

「二年」

 

「七年」

 

「三年だ」

 

「五年。これ以上は容認できん」

 

「いいだろう。マルカルスの銀の半分を五年間、お前にくれてやる。その代わり、お前の蛮行をマルカルスの民に謝罪するのだな」

 

「それはそちらも同じだ。これで貴様らがイグマンドと共に隠そうとした愚行はスカイリムの民に伝わるだろう。そして帝国を見限り、我らと共に立つ時が来るのだ」

 

 二人の交渉は思った以上にスムーズに進んでいった。

 その様子を見守っていたリータがアーンゲールに目配せをすると、彼は静かに頷き、口を開く。

 

「では、これで双方の合意がとれたとする。ウルフリック首長、テュリウス将軍。この類を見ない会議において結ばれた同意に対し、誇りと敬意をもって互いの義務を履行するように……」

 

 そして休戦協定の内容を記した書面が二つ作られ、双方の代表者の前に差し出される。

 内容としては、上記の条件のほかに、国境を越えて軍隊を配備しないことなどが盛り込まれている。

 これに署名がされれば、晴れてこの先の見えなかった内戦が一時的とはいえ、終わることになる。

 そしてウルフリックとテュリウスは互いに相手の書類に瑕疵がないことを確かめると、それぞれの書類にサイン書く。

 そして、休戦協定は正式に結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなかんじだな」

 

「なるほど、予想よりもずっと穏やかに事が進んだってことか……」

 

 ドルマの説明で休戦会議が取りあえず結ばれたことを知り、健人はとりあえず胸をなで下ろす。

 場合によっては領地の交換やらなにやら、めんどくさいことになっていたことは間違いないだろう。

 もし、ハイヤルマーチホールドがストームクローク側に渡されていたとしたら、健人の買った土地やらも没収されていたかもしれない。それ以上に、頭の痛い事態も考えられた。

 

「その代わり、リータがこんな有様になっちまったけどな」

 

 目を回して机に突っ伏すリータの姿は、まるで受験を終えて燃え尽きた浪人生のようだった。

 元々彼女は狩りや宿屋の手伝いをしてきた娘。当然、政治や会議における折衝など経験がない。ドラゴンボーンであることが分かった後も、主にドラゴンとの戦闘に専念してきたため、交渉の経験が皆無なのだ。

 話を聞いたところによると、健人が寝ている間、その辺りの交渉術をアーンゲールやエズバーンが入れ代わり立ち代わり、各勢力の詳細情報から予測される休戦会議の流れまでも含めて、全力で教え込んでいたらしい。

 

「……そんなことしてたのか?」

 

「ああ。交渉の折衝役ともなれば必要だろ? お前ばっかに無理させるわけにもいかないしな」

 

 苦笑を浮かべながら、ドルマは知恵熱を出して目を回しているリータに穏やかな目で見下ろす。

 

「ううう……頭痛いよう……」

 

「エズバーンもグレイビアード達もリータの成長には驚いていたんだが、さすがにこいつも限界だったみたいだな」

 

 真言を操るドラゴンボーンであるためか、リータは彼らが驚くほどの成長を見せたが、その反面、相当気を張っていたのだろう。

 結果、全てが終わったことで反動が一気に襲ってきて、このありさまというわけだった。

 

「まあ、しかたないか……な」

 

 まだまだ状況は予断を許さない。

 肝心のアルドゥインの居場所は分からず、星霜の書も奪われたまま。

 そもそも、ハウリングソウルと星霜の書が共鳴した際、ドラゴン達に何が起こったのかもよく分かっていないのだ。

 だが、休戦協定によって、人間側に一応の備えができるようになった。今は、その事を喜ぼう。

 しかし、健人が義姉の奮闘を嬉しく思いながら、今日の料理は腕によりをかけて作ろうと意気込んでいる中、強烈な“声”が、ハイフロスガーに響き渡った。

 

“ドーヴァーーキーーン……!”

 

「っ!?」

 

「今のは……」

 

「中庭の方から聞こえたな」

 

 聞き覚えのあるドラゴンのスゥーム。

 続いてズシン! と言う轟音と共に、寺院全体が揺れた。

 健人とドルマは互いに顔を見合わせ、リータがガバッと雪の中から顔を出す。そして三人は大急ぎで駆け出した。

 三人が広間に戻ると、そこでは同じようにスゥームを聞いたグレイビアードと休戦会議の出席者達が、一様に声の聞えてきた中庭に向かって走っていく。

 そして扉を抜けた一同の目に、ひび割れた鱗を持つ老竜の姿が飛び込んで来た。

 

「パーサーナックス……」

 

“いたな、異界のドラゴンボーンよ。話がある……”

 

 アルドゥインとの戦いで怪我を負っていた老竜。

 ハウリングソウルと星霜の書の共鳴による大激変の時から動かなくなってしまっていたはずの彼は、寺院から出てきた者達を見下ろすと、その視線をたった一人。健人へと向けるのだった。

 

 

 




というわけで、休戦会議の内容でした。
リータさん、健人が寝ている間に色々仕込まれていましたが、元々頭脳労働は得意ではないので、相当な負担だった様子。
内容に関しては完全にオリジナルですね。今見返すと、ちょっとどころではなかった……。

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