【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
今回はちょっと短め。またまたオリジナル要素満載となります。
山頂での起こったアルドゥインとの戦い以降、完全に沈黙していたパーサーナックスの突然の来訪。
それに驚いたのはリータ達だけではなくグレイビアード達も同様だった。
ウルフリックやテュリウス将軍たちは言わずもがな。
リータ達が目を見開き、グレイビアードが深々と礼をする中、パーサーナックスはたった一人の青年、健人へと視線を向ける。
「俺に話って……」
“突然すまない、異端のドヴァーキンよ。必要だと思ったのだ。異界からこのニルンに流れ、兄弟を看取り、そして我らと同族となった君に……”
「ニルンの外って……」
パーサーナックスの言葉にリータが戸惑いの声を漏らしながら、ドルマと共に隣にいる健人に目を向ける。その表情には明らかに動揺の色が見えていた。
他の者達にいたっては理解すら及ばなかったのか、目をパチクリさせて老竜との間で視線を行き来させている。
“ニド、アロク、ホン。知らなかったのか……。彼は元々、このニルンの人間ではない。否、我らの神々が生み出した存在ですらない”
「じゃあ、記憶喪失って……」
「すまない。初めて会った時、俺はタムリエルの言葉も通じなかったし、言っても信じてもらえないと思っていたから、話せなかったんだ」
当時の健人はタムリエルに流れ落ちたばかりで、簡単な意思疎通にすら難を抱えていた。
タムリエルのことを何も知らず、言葉すら理解できず、誰ともコミュニケーションが取れなかった彼がヘルゲンを追い出されていたらどうなっていたか。間違いなく、野垂れ死にしていただろう。
とはいえ、隠し事をしていたのは事実。気まずさから、自然と健人の表情は強張っていく。
「まあ、ならしゃあないか。あの時の俺がその話を聞いたら、間違いなく気狂いだと思ってお前を追い出していただろうし……」
申し訳ない様子で視線を逸らす健人に一番に声をかけたのはドルマだった。
最初に会った時、健人に対して一番隔意を持っていたノルドの青年。
苦笑を浮かべながら肩を竦めつつも、自然体なドルマの様子に、強張っていた健人の肩から力が抜けていく。
「知っている人はいるの?」
「人の中で気付いていた人がいたかどうかは分からない。ただ、数柱の神々は多分気づいている。ソルスセイムで、色々あったから……」
緊張のほぐれた健人に、続いてリータが声をかける。
一方、この話を聞いていた他の者達は、健人の話に懐疑的な様子だった。まあ、いきなり異世界の人間ですという話をされて、信じる者がいるとも思えない。
健人はとりあえず自身の出生については横に置いておき、目の前の老竜に話の続きを促した。
「話っていうのは、星霜の書とドラゴンについて……か?」
“そうだ。我らがなぜ、この姿になったのか。なぜ、名を持つようになったのか……”
健人の脳裏に、先日の夢が思い返される。
通常、夢は1日もすればほぼ完全に忘れ去られてしまうものだが、あの時の夢ははっきりと頭に残っていた。
“時は、夜明けの時代。まだ神々により“塔”が作られ、創造によって生み出された世界がつなぎとめられる前の話だ”
この世界には、“塔”と呼ばれる構造物が複数存在する。
もっとも有名なのは、ハイロックにあるアダマンチンの塔。その次にシロディールにある白金の塔であろう。
この塔は、そのままでは拡散してしまう現実を繋ぎ止めるものとしての機能があると言われているものであり、世界のノドも“雪の塔”と呼ばれるものの一つである。
“アルドゥインはドラゴンと、そして定命の者すべてを繋ぎ止め、統治していた。己が生み出した異界で、生まれたばかりの定命の者たちを守っていたのだ……”
「定命の者たちを守る?」
“ゲ、ロク、コス。正確には、定命の者となる前の原初魂だ”
この世界はエイドラと呼ばれる者達が不死を代償にして作り上げた世界だが、世界が誕生したばかりの頃はまだこの世界は幼く、原初の混沌の影響を色濃く受けていた。
そんな中で、定命の者となる存在も生まれた。
しかし、同じ“創造”より産まれながらも、その原初魂は世界よりも遥かに弱かった。荒れる混沌の残滓に触れただけで、容易く霧散してしまうほどに。
“定常化していない世界。嵐のようにうねるティード……。“時”の中では、原初の魂たちは容易く霧散してしまう。しかし、我らが父は人間たちの父を裁かなければならなかった”
「ロルカーンか……」
夜明けの時代におけるもっとも大きな出来事に、神々を騙したロルカーンへの制裁がある。
創造の代償を黙っていたロルカーン。不死を失い、怒り狂ったエイドラによる制裁。そののち、ニルンにおける最初の塔、アダマンチンの塔が作られ、夜明けの時代はようやく終わり、エルフの時代へと移っていくことになる。
“アルドゥインはアカトシュが最初に作り上げたドラゴン。ゆえにその本来の力は、並みの神をはるかに上回る。そして“塔”の能力も持っていた。奴は、アカトシュがアダマンチンの塔を作る前準備として作られたボルマー、原形であり、生ける塔なのだ”
信じられない言葉に、健人たちは全員が目を見開く。
言うならば、アルドゥインはアダマンチンの塔のプロトタイプ。創造によって生み出されたものを繋ぎ止める能力を有し、さらに異界すらも作り出すことが可能となれば、その力はデイドラロードと同等かそれ以上であろう。
健人達がアルドゥイン達ドラゴンの過去に驚いている中、老竜は淡々と語り続ける。
“原初魂はまだ生まれたての無垢な魂。しかし、アルドゥインはその強大な力と神すら上回る聡慧さにより気づいた。自分達もこの無垢な魂も、いずれ混沌に触れて穢れ、そして滅びるのだと”
己と同胞、そして守ってきた者達の末路。それを知ってしまった時の苦しみは、いったいどれほどだったのだろうか。
常人に理解することは難しいが、健人にはその苦悩を僅かだが察することができた。
ヌエヴィギルドラール。未来を見通してしまえるほどの時詠みの能力を持つが故に、全てを諦めてしまったドラゴン。友となった彼が抱えていた苦悩と、瓜二つだったからだ。
だがアルドゥインは、ヌエヴギルドラールとは違った。彼には、神すらも上回るほどの力を持っていた。
“ゆえに、アルドゥインと我らは父と宿敵ですら手に余る力、ケルに手を出した”
「ケル……星霜の書か……」
“そうだ。そしてアルドゥインが持つ“塔”の力、そして我らの力を合わせ、定められた運命を書き換えようとした……”
「そんなことが可能なのか?」
“あの時の我らは、出来ると思っていた……。しかし、結果は悲惨なものだった。アルドゥインの異界は破壊され、守っていた原初魂は荒れ狂う時に飲まれて引き裂かれた”
パーサーナックスの声が震える。
自らが招いた惨劇。低く、唸るような口調に込められた後悔の念に、健人達は息をのむ。
“そして我らは犯した禁忌の代償として、魂を混沌によって穢された。そしてかつての記憶全てを消し去られ、魂を縛る名と、強大な欲を持つようになった。それがどのような結果をもたらしたのかは、よくわかっているだろう?”
ドラゴン達は自らの中に芽生えた欲に、少しづつ狂いはじめ、長い年月の果てにその治世は破綻。守っていたはずの定命の者達との全面戦争『竜戦争』へと突入。ほぼ全滅するという結果に至った。
「それで、過去を思い出したアルドゥインは何をするつもりなんだ?」
“分からぬ。以前の彼なら、ただ只管に力と権力を求めていただろう。だが、今はすべてを思い出し、さらに「罪の名」が我らを縛っている状態だ。それは、アルドゥインとて同じこと……”
過去は分かった。しかしだからこそ、今のアルドゥインは何をするのかわからない。
パーサーナックスすらもアルドゥインの行動が読めないらしく、嫌な予感だけが健人達の胸の奥で膨らんでいた。
“ともすれば、再びケルを使おうとするかもしれん。かつての己の姿を取り戻すために……”
「そうなったら……」
“この世界に深刻な影響を与えることは間違いないだろう。次元は混乱し、うねる“時”は、人間やエルフだけでなく、この世界そのものを砕いてしまうかもしれん。かつてのアルドゥインの異界と同じ様に……”
「……とにかく、アルドゥインを探すしかないな」
こみ上げる焦燥を落ち着けるように大きく息を吐き、これからすべきことを確かめるように呟く。
そんな中、パーサーナックスはその首をもたげ、改めて健人に向き合う。
“そして、聞きたいことがある、異端の同胞よ。君は何故、アルドゥインと戦うのだ?
かつてリータにも向けられた、時代を担うドラゴンボーンを見極めるための問いかけ。
パーサーナックスは先ほどまでの愁いを帯びた目ではなく、歴史を知る賢者としての目で、健人を見下ろしている。
“君は、この世界の者ではない。本来なら、戦う必要のない人間だ。そして、力を持っているものが、必ずしもその力を使わなければならないというわけでもない……”
「……そうだな。この世界に、俺は望んできたわけじゃない。帰りたいと思ったことは、何度もある」
健人は瞑目しながら、ニルンに来たばかりの時の事を思い出す。
突然スカイリムに落とされ、狼に襲われて命の危険に陥った時の混乱。
言葉すら通じない場所に一人、取り残された不安。身勝手に命を奪う神々。理不尽に奪っていく世界に対する憎しみ。すべて、この世界に飛ばされなければ味わう必要のなかった苦痛だ。
「それでも、こんな俺を大事にしてくれた人達がいた。大切なことを、命を懸けて教えてくれた人達がいた」
手を差し伸べてくれた人、生き方を教えてくれた人、勇気をくれた人、歩む道を示してくれた人。ぶつかり合った人もいたし、分かり合えない人もいた。
苦悩に満ちていたけれど、それ以上に震える魂が叫んでいる。
「理不尽で冷たい世界。それでも俺は、この世界が好きだ。滅んでほしくない。だから行く。たとえ、どんなことがあろうとも……」
“プルザー! 他に劣らぬ、よい答えだ。しかし、よい答えを持ち、よき行いをしたところで、世界は変わるとは限らぬぞ?”
「それでいい。世界を変えたいわけじゃない。ただ、後悔ないように、精一杯生きたいだけだ」
魂を震わせ、声を張り上げて、意思を伝え続ける。
静かに自分の答えを伝える健人に、パーサーナックスは僅かに口元を吊り上げた。老竜の微笑に健人も静かに笑顔で答える。
“古代の竜戦争の折、離反した我に代わって、アルドゥインに仕えた弟がいた。オダハーヴィング、翼を持つ冬の狩人。彼ならば、アルドゥインの居場所と、今彼が何をしようとしているのかを知っているかもしれん”
「なら、彼を捕まえて話を聞けばいいな」
“空に向かって、彼の名を叫ぶがよい。今のお前は、あのアルドゥインに並ぶ存在として、あらゆるドラゴンが興味を持っている。間違いなく、呼びかけに答えるだろう”
全てを語り終えたパーサーナックスは、その翼を羽ばたかせる。
強風が吹き、舞い上がる雪に他の皆が思わず顔をかばう中、健人は穏やかな視線で見降ろしてくる老竜を見つめ返す。
“もし、すべてが終わったら、また話をしたい。ぜひ来てくれ、ゼイマー。我らが兄弟よ”
「ああ、俺も色々と話したい。その時は、よろしく頼む」
そうしてパーサーナックスは世界のノドの頂上へと戻っていった。
帰っていく老竜の背中を見送ると、健人はホワイトランの首長に視線を移す。
「バルグルーフ首長……」
「あ、ああ、分かっている。ドラゴンズリーチの方は任せておいてくれ」
向けられるドラゴンボーンの視線に一瞬気圧されながらも、バルグルーフは約束通り、ドラゴン捕獲の助力を約束してくれた。
「……ことは思った以上に深刻なようだな。休戦協定の件は了解した。これからすぐにウィンドヘルムへと戻り、配下の兵たちに協定を守るよう厳命しておく」
「こちらもだ。リッケ、戻るぞ」
ウルフリック、テュリウスも先ほどまでよりも一層、真剣な目で健人を見つめていたが、改めて休戦協定の履行を約束し、帰路へとついていく。
そして、翌日。健人はリータ達とともに下山し、一年ぶりにホワイトランへと戻っていった。
その頃、アルドゥインは……。
“ヘト、コス……”(ここだな……)
たった独り、吹雪に包まれた広大な遺跡、ラビリンシアンへと訪れていた。
用語説明
塔
神造、人造問わず、ニルンに複数存在する建造物。拡散する現実を繋ぎ止めるための能力を有するなどと言われており、この世界と深く繋がっている遺物である。
また、塔には対になる存在が「石」の存在があり、石がないと塔は作動しないといった特性を持つ。
・白金の塔
帝都、シロディールに存在する塔。
石は王者のアミュレット(チムエル・アダバル)。
・赤の塔
モロウウィンドのレッドマウンテン。
石はロルカーンの心臓。
・アダマンチンの塔
零の塔、アダ・マンティア。
ハイロックのバルフィエラ島にある。最初の建築物。
石は零の石。
・グリーンサップ(緑の大樹)
ボズマーが育てた大樹。
・水晶の塔
サマーセット島にあった。
オブリビオン危機(TES4)の際、デイドラの攻撃に会い、崩落した。
多次元に同時に存在する。
・真鍮の塔
ヌミディウム。
ドゥーマーが作った、人造の神。
石はロルカーンの心臓を用いる予定だったそうだが、代替品が用いられた。
現在はTES2にて消滅。
・雪の塔
世界のノド。
スカイリムで、パーサーナックスが住んでいる場所。
石は洞窟と言われている。詳細不明。
・オリハルコンの塔
塔の名前以外詳細はほぼ知られていない。
石は剣といわれている。ヨクダ(タムリエルの西に位置する大陸)に存在したが、ヨクダは海に沈んでしまっている。
本小説オリジナル設定
・原初魂
神々の創造によって作られた、定命の者達の魂の原型。
世界最初のドラゴンブレイクによって崩壊している。
・殻の塔
アルドゥイン。別名鱗の塔。
アダマンチンの塔の原型であり、拡散する現実を繋ぎ止めるために最初に造られた試作型の塔。世界最初のドラゴンブレイクによって崩壊、変化した結果、その意味が世界から失われていた。
石は不明。