【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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お待たせしました。第十一話です。



第十一話 ショールの間

 

 断崖絶壁に隔てられ、死後に勇敢な魂がたどり着く場所、ショールの間。

 勇気の間とも呼ばれるそこへと続く巨大な橋の前で、一人の偉丈夫が佇んでいた。

 二メートルを超える巨躯。彫りの深い顔。豊かな黒褐色の髪を後ろへ流し、背中には武骨ながらも神秘的な気配を放つ斧を背負っている。

 組んだ腕は丸太のように太く、露わにしている上半身は金剛石のごとき筋肉でおおわれている。その肉の鎧に秘められた膂力は伝説の魔獣であろうと容易くその首をへし折るであろう。

 ノルド達から見れば、まさしく戦士としての理想像。そう思わせる容貌をしている。

 彼の名はツン。ショールの盾の従士にして、このソブンガルデの番人。そして勇敢な魂を選別し、ショールの間へといざなう案内人でもある。

 自らの持ち場である鯨骨の橋の前で瞑目し、石像のように微動だにしなかった彼ではあるが、ソブンガルデを包む霧の奥から迫る気配に、閉じていた眼をゆっくりと開いた。

 

「まさか、貴様が私の前に姿を現すとはな、汚らわしいワームよ」

 

『そういう貴様は、相も変わらずここで橋守をしているのか、狐の腰巾着』

 

 ツンの前に姿を現したのは、竜王アルドゥイン。このソブンガルデを霧で包み、本来この場で試練を受けるはずだった魂を貪り食っていた者だ。

 ツンにとっては、主の世界に入り込んだ寄生虫であり、忌々しい存在。しかし、ショールの命により手を出すことを許されておらず、忸怩たる思いで竜王の蛮行を静観するしかなかった。

 一方、アルドゥインにとっても、ツンは敵ではあるが、相対したい者ではない。

 彼はエイドラ。ニルンを作った者の一柱であり、なおかつ、あのステンダールの兄弟とされている神。この世界に生きる者達の最上位に位置している存在だからだ。

 

(しかし、だからこそおかしい。なぜ、このドラゴンは今私の前に姿を現した?)

 

 脳裏によぎる疑問を押し隠しながら、ツンは背中に手を回す。

 そこには神代より、彼を守り、そして主の敵を薙ぎ払い続けた相棒の斧がある。

 いくら主から手を出すなとは言われていても、振りかかる火の粉は払わねばならない。なにより今のアルドゥインの体からはツン自身も思わず息を飲むほどの戦意に満ちている。

 向けられる戦意が、ツンに数千年間守り続けていた主の命を一瞬忘れさせていた。

 

「戦うつもりか、この私と……」

 

 このドラゴンは、明らかにツンと戦うつもりでここに来たのだ。

 なぜ、今さらになって戦う気になったのか。それも神と。

 疑問を抱けど、そこはショールの盾の従士。即座に戦闘態勢に移行し、戦意の篭った眼でアルドゥインを睨みながら両手斧を構える。

 神が戦意に答えた姿を見て、アルドゥインがニヤリと口元を吊り上げる。

 ニルンの中でも最上位の存在を前にしても、まるで怯む様子がない。嫌な予感が、ツンの胸中によぎる。

 

「っ、はああああああ!」

 

 こみ上げる予感を払拭せんと、ツンは神気を猛らせ、全力でアルドゥインに踏み込んだ。

 地を吹き飛ばし、衝撃波を纏いながら、文字通り神速で踏み込む。

 

『――ッ、――、―――――!』

 

 雷のごとき速度で迫るツンに、アルドゥインのシャウトが襲い掛かる。

 聞いたことのない……否、聞き取ることすらできない、正体不明のシャウト。同時に疾駆していたツンの速度が、まるでそよ風のようにガクリと落ちた。

 速度と共に急激に失われていく神気。両足から力が抜け、ショールの従士は思わず膝をつく。

 

「こ、これは……ぐは!」

 

 速度の落ちたツンに、アルドゥインの尾撃が襲い掛かる。

 巨躯の男神は弾き飛ばされ、宙を舞った両手斧が鯨骨の橋の巨大な碇台に突き刺さる。

 地面に倒れ伏したツン。彼の神気は陽炎のように漏れ出しながら、アルドゥインへと吸い込まれていく。アルドゥインが彼の力を貪り食っているのだ。

 失われていく力と共に、急激に暗くなっていく視界。

 目を見開き、驚愕の表情で固まるツンをアルドゥインは冷徹に見下ろす中、ショールの従士は意識を失い、その存在ごとすべての力を食いつくされた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハドバルさん?」

 

「君は……ケントか?」

 

 その人と再会した時の気持ちを、どう表現したらいいのか。健人にはよくわからなかった。

ハドバル。健人に戦士としての心構えを教え、アルドゥインに焼かれたヘルゲンから助け出してくれた恩人。

 そして、その恩を返す間もなく、ドラゴンに殺されてしまった人。

 

「こんなところで会うことになるとはな……」

 

「ええ、本当に……」

 

 こみ上げる感動を押し殺し、努めて平淡な口調で返事を返す。

 

「それにしても、生きたままソブンガルデに来るとは。それに、その装具、ドラゴンのものか……。立ち姿にも、威厳がある。一角どころではない戦士に成長したのだな……」

 

「…………」

 

 目頭が熱くなる。こみ上げる喜びと感激に涙がこぼれそうになるのを耐えながら平静を保とうとするも、自然と目は潤んでしまう。

 グスリと鼻をすすり、親指でわずかに漏れた涙をぬぐう。

 そして大きく息を吐き、心を落ち着ける。

 

「ハドバルさん、そちらの方は確か……」

 

「ああ、レイロフだ。俺の幼馴染だよ。あの時、ヘルゲンでドラゴンと戦った」

 

 レイロフ。

 元ストームクロークの兵士であり、ハドバルとは内乱に対する意見の相違から仲たがいしてしまった人物。

 そして、ヘルゲンからの逃げる際にアルドゥインに立ち向かい、文字通り命を懸けて健人たちが逃げる時間を稼いでくれた人でもあった。

 

「あなたのおかげで、俺もリータも助かりました。本当に、ありがとうございます」

 

「いいさ、俺は俺の納得できる戦いがしたかっただけだしな。それに、こうしてソブンガルデに来れた。願わくば、英霊の末席に加えていただきたいところだが、こう霧が深くちゃな」

 

 カラカラと笑いながらも、レイロフはすぐに真剣な表情を浮かべて、周囲を漂う霧を見つめた。その視線につられ、健人も再び霧に視線を戻す。

 健人が持つドラゴンボーンとしての感覚が、周囲を包む霧から漂うシャウトの気配を感じとっていた。

 

「これはたぶん、アルドゥインが引き起こしたものです。いつから、こんな状態に?」

 

「少なくとも、私がここに来たときはもうこの状態だった。おかげで、完全に道に迷ってしまってな。ところでケント、今、アルドゥインと言ったな。もしかしてあの、伝説の世界を食らうものか?」

 アルドゥインの名に反応したハドバルの言葉に健人が頷くと、二人はそろって驚いた表情を浮かべた。

 

「まさか、俺がヘルゲンで戦った相手が、あのアルドゥインとはな。ハハッ! どうだハドバル。俺のほうが戦ったドラゴンの格は上だったみたいだな」

 

「別に勝負していたわけじゃないだろ」

 

 得意気に鼻を鳴らすレイロフに、ハドバルはあきれたような言葉を述べながらも、不機嫌そうにムスッとした表情を浮かべる。ライバルの方が強いドラゴンと戦ったということで、内心悔しいらしい。

 死んでも自分の誉れを最重要視するあたりは、さすがソブンガルデに来るほどの戦士といったところだろうか。健人が呆れとも感嘆ともとれる微妙な表情を浮かべている中、ハドバルはワザとらしく咳き込みながら話を変える。

 

「とにかく、世界を喰らう者が戻ったってことは、世界の終焉が訪れたということか。まさに予言の通りだな」

 

「しかし、そんな時になぜ君はこのソブンガルデに? 確か伝説では、世界を喰らう者が帰還するとき、最後のドラゴンボーンが現れるという話だったが……まさか」

 

 健人の正体に行きついたハドバルとレイロフが揃って目を見開く中、健人は彼らの予想を肯定するように苦笑を浮かべながら、ポリポリと頬をかく。

 まあ、本来予言に書かれていたドラゴンボーンとは違うが、一応彼も竜の血脈である。随分とイレギュラーな存在ではあるが。

 

「それで、アルドゥインはこのソブンガルデに潜伏しているみたいなんですけど、肝心の居場所が分からないんです。なので、情報を得ようと、遠くに見えた建物に向かう途中なんですが……」

 

「それはたぶん、勇気の間だな。ショールに認められた戦士が、世界の終末までの時を過ごす場だ」

 

「なら、情報もありそうですね。行きましょう」

 

「しかし、この霧をどうやって……」

 

「ロゥク、ヴァ、コーール!」

 

 言いうが早いか、健人は早々に“晴天の空”のシャウトを発動。目の前の霧を吹き飛ばして見せる。

 視界を覆っていた霧が一時的に晴れ、下る道と遠くに勇気の間が見えた。

 

「苦も無くシャウトを使うとは……」

 

「いや、本当に驚きだ……」

 

 ドラゴンボーンとしての健人の能力に驚きつつも、二人は健人と共に、勇気の間への道を下り始める。

 道の幅が広がり、傾斜も徐々に緩やかになっていく。そんな中、健人は再び霧の中にたたずむ人影を見つけた。

 

「すまない、道に迷ってしまってな」

 

「この人は……」

 

「まさか、上級王トリグ!?」

 

「え、この人が!?」

 

 上級王トリグ。

 ウルフリックの挑戦を受けてしまったために、今現在スカイリムに起こっている内乱の起爆剤となってしまった王。そして、休戦交渉で帝国側にいた首長エリシフの夫である。

 健人はその不幸な王を目の当たりにして、驚きの表情を浮かべる。

 

「いかにも、私はスカイリムの上級王トリグだ。ウルフリックの卑劣なシャウトによって、冥界へと送られたのだ」

 

 美麗な顔と死者とは思えないほど艶やかな髭。しかし、顔立ちは若く、恐らくは二十代であろう。

 健人はウルフリックに殺されたという、かつての上級王の容姿は知らなかった。

王ともなれば、常に美しい妻を侍らせるものだから、かなり歳をとっている可能性もあったが、件の上級王は思った以上に若々しく、生命力にあふれた人物だった。

 エリシフと並べば、本当にお似合いと言える夫婦像をイメージできるだろう。

 

「このソブンガルデに来ることを許されたということは、ショールは私の戦いを見てくださっていたということなのだろう。しかし、この霧の中で迷ってしまってな……」

 

「まあ、俺達も勇気の間へ行くところですから、一緒に行きますか?」

 

「頼めるか? 感謝する」

 

 予想外の人物も交えながら、健人達は勇気の間を目指して再び先を進む。

 急だった下り道が徐々になだらかになり始める。どうやら、目的地が近いようだ。

 

「見たところ、君はまだ死者ではないようだが……」

 

「ええ、生きています。アルドゥインが戻ってきて、このソブンガルデに潜伏しているので、情報を得るために勇気の間に行くところです」

 

「アルドゥイン。あの世界を喰らう者か。生きたままソブンガルデに赴き、かの竜王と戦うとは、剛毅なことだな、ドラゴンボーン」

 

 トリグは健人がドラゴンボーンであることに言及しながらも、生者の身でここまで来たことに賞賛を送る。

 そして数秒、迷いを含んだ沈黙の後、彼は静かに口を開いた。

 

「もしも、もしもだが。君が現世に、スカイリムに帰ることができたのなら、頼みがある」

 

「……奥さんへの伝言、ですか?」

 

「そうだ。私自身、ウルフリックの挑戦を受けたことも、その戦いに敗れたことにも後悔はない。ノルドの王として、相応しい生き方を全うできたからだ。唯一の心残りは、我が麗しのエリシフのこと……」

 

 トリグの妻、エリシフは現在ハーフィンガルホールドの首長となっている。

 休戦会議で、健人も面識があった。

 

「伝えてほしいのだ。君の夫は、ノルドの上級王としてふさわしい最後を全うできたのだ。だから、エリシフにも君自身の幸せを探してほしい、と……」

 

 自分の人生に後悔はなくとも、これからも続く伴侶の人生への憂いは残ってしまった。

 しかし、もしもその機会があるのなら……。

 人は死を思うことで、自らの心に素直になれる。

 本来、語ることはできない死者。生者に対して言葉を送る事などできない。そもそも、許されることではないのかもしれない。

 だが、生前の身分など関係なく、真摯に誰かを思う言葉であるのなら……。

 

「……生きて帰れたら、伝えます」

 

「ありがとう……」

 

「いえ、そろそろ着きます……」

 

 そうしているうちに、一行はついに霧を抜け、目的地にたどり着いた。

 霧が晴れ、開けた場所に出た健人達の前に、巨大で荘厳な建物が姿を現す。

 勇気の間。ショールに認められた勇者が、世界の終末までを過ごす場所。

 地を裂く崖に隔てられたその場所へは、白い骨で作られた橋がかけられている。

 

「この骨の橋。間違いなく、ここが伝説のショールの間だ!」

 

「待ってくださいトリグ王。妙な空気です」

 

 興奮した様子のトリグを、健人が押し止める。

 

「どうかしたのか?」

 

「音がない……」

 

「ああ、ここが鯨骨の橋なら、その橋を守る門番、ショールの盾の従士ツンがいるはず。この橋を渡ろうとする者が勇気の間へ行くのに相応しいかどうか試しているはずなんだが……」

 

 健人の言葉に、ハドバルが同意する。

 鯨骨の橋の前には誰もいない。

 不気味な静寂。背筋がヒリヒリする感覚に、健人だけでなく、ハドバル達も無言で周囲を警戒し始める。

 そんな中、健人の目が鯨骨の橋の大きな碇台の上に、妙なものを捉えた。

 

「あれは……斧?」

 

 巨大な骨の上に突き刺さっているのは、人の身の丈はあろうかという巨大な斧だった。

 見た目は黒色の武骨な両手斧。しかし、普通の武器にはない神気を纏っているようにも見える。

 実際、こうして見ているだけで、背筋がゾクゾクするような寒気を感じる武器。

 健人自身、このタムリエルに来てから、様々な魔法の品を見てきたが、その中でも飛び切り突き抜けた代物であることが察せられた。

 

「普通の人……いや、卓越した武人でも扱えるような代物じゃない。多分、神々が持つような……」

 

「……あれがショールの盾の従士の斧だとして、本人はどこに行ったんだ?」

 

「いるべき場所にいるべき人がいない。そんな異常事態を引き起こすような存在、このソブンガルデには多分一つしかないですよ」

 

 その声に、その場にいた全員が戦慄し、顔を引きつらせる。

 ツンがいないという状況、そしてこの冥界に厄介者が入り込んだ事実。その二つの条件が組み合わさり、嫌な予想がこの場にいる者たちの頭に浮かんでいた。

 つまり、ショールの盾の従士がアルドゥインに襲われ、そして敗れたということ。

 

「……ショールの間にいる勇士たちは?」

 

「確かめるしかない……」

 

 そう言うと、健人はおもむろに鯨骨の橋を渡り始めた。

 

「待て健人、試練を超えずにその橋を渡ろうとすれば、天の雷で焼き尽くされるぞ!」

 

「でも、確かめるにはこれしかない。それに時間もありません。迷っている暇はありません」

 

 本来なら、ソブンガルデの番人であるツンの許可なくして渡ることは許されない橋。相応しくない者が渡れば、天から降り注ぐ雷によって魂ごと焼き尽くされる場所。そこへ、足を踏み入れる。

 

「……っ」

 

 ギシ、ギシ、ギシ……。

 足を踏み出すたびに、巨大な肋骨でできた床板が軋む。

 板の隙間から見えるのは、底が見えないほど深い谷。

 いつ天雷が襲ってくるか。ツツ……と流れる汗が頬を冷たく濡らす中、健人は一歩一歩、慎重に進んでいく。

 

「……ふう」

 

 渡り始めてから数分、健人は対岸のショールの間の前にたどり着いた。

 緊張が解け、ドバッと全身から汗が噴き出す。

 

「はあ、はあ……ふう。よし」

 

 己の無事に安堵する健人だが、同時に先程抱いていた嫌な予感がさらに増していくのを感じた。本来の試練なく、橋を渡れた。それは門番であったはずのツンの力が消失しているということ。

 そして、増大する不安を振り払うように健人は扉に手をかけ、ショールの間へと入っていく。

 最初に目に飛び込んできたのは、広大な広間。

 中央には大きな篝火が置かれ、丸焼きにされた牛がパチパチと油が弾ける音を響かせている。

 篝火の傍には長大なテーブルが並び、卓の上にも郷帳や酒が山のように置かれ、その傍では完全武装をした数多くの戦士たちが飲み食いをしながら騒いでいる。 

 まさに宴会場といった様相。だがそこにはピリッとした張り詰めた空気が満ちていた。

 

「ついに来るべき時が来たな!」

 

「ああ! ショールはまだお隠れになられているようだが、我らの戦いぶりを見れば必ずや目を覚まし、あの獣を共に討ち取ってくれることだろう!」

 

 猛々しいセリフと共に酒の入った杯をぶつけ、飲み干していく英霊達。その様子は宴というより、戦の直前のような雰囲気に満ちている。

 健人がショールの間に満ちる異様な熱気に息を飲む中、背の高い一人のノルドが声をかけてきた。

 

「来たな、異端のドラゴンボーン。アルドゥインが魂を捕える罠をここらに巡らせてからというもの、戸を叩く者とてなかったというのに」

 

「貴方は……」

 

 漆黒の両手斧を背負い、豊かな金色の長髪と髭を持つ偉丈夫。蒼い瞳には深い知性の光を秘め、このショールの間にいる英霊達の中でも突出した威容を誇っている。

 あきらかに歴史に名を記すような偉業を成した人物。健人が名を聞くと、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「私はイスグラモル。五百人の同胞団の長であり、そしてこのショールの間に集う英霊の一人だ」

 

「イスグラモル!?」

 

 イスグラモル。

 アトモーラ大陸からこのタムリエル大陸にたどり着き、最初の国を造った人間。そして入植したスカイリムでスノーエルフとの全面戦争に勝利し、今のノルド、ひいては人間達の歴史を最初に記した偉人であり王。

 その功績は正に人類の開拓者と呼ぶにふさわしいものであり、考え方によっては、あのタイバー・セプティム以上の偉業を成した人物である。

 

「改めて、会えて光栄だ、異端のドラゴンボーンよ。異邦の地よりこのニルンにたどり着き、数多の困難を乗り越え、あのハルマモラすらも撃退したその偉業。永くここにいる私も耳にしたことがない。我が開拓と並ぶか、それ以上の栄誉だ!」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

 突然登場した歴史上の超有名人。さらにはその人から送られる最上位の称賛に、健人は面食らう。

 とはいえ、イスグラモルとしては、健人に向けたこの称賛も当然だった。なぜなら彼は生前、あの知識コレクター、ハルメアス・モラに散々絡まれてきたのだ。

 スノーエルフたちの軍勢をたった五百人で撃退し、人類の歴史を最初に刻んだ開拓者も、あのストーカー邪神からは逃げることしかできなかった。

 ところが、そんな邪神と正面から戦い、撃退した者がいる。

 それを知ったイスグラモルの胸中はいかほどだろうか。

イスグラモルにとって健人は、長年の鬱憤を晴らしてくれた者。そして、自分が成しえなかった偉業を成した人物なのだ。当然、会えて興奮しないわけがない。

 

「それで、アルドゥインはどこに……」

 

 イスグラモルからの強い熱意の視線に戸惑いながらも、健人はここに来た理由を述べると、偉大な古の王はその強面を悔しそうに歪めた。

 

「復活したアルドゥインだが、その力は予言以上のものになっている。あの獣は霧の中で迷った英霊だけでなく、あろうことかショールの従士であるツンすらも食らってしまったのだ」

 

 鯨骨の橋の番人がいなかった理由を聞き、健人は思わず口元を歪める。予想はしていたが、最悪の展開だった。

 

「我らはこれまでショールの命に従い、外に出ないよう努めてきた。しかし、かの竜がショールの盾の従士すらも食らうほどの力を持ったということは、定められた終末の時が来たということ。ならば、我らは剣を取り、最後のその瞬間まで戦おうと決めたのだ」

 

「だけど、神すらも食らうともなれば、ただ正面から戦っただけでは勝てません……」

 

 実際に神に比肩する者と戦った経験があるからくる、実感のこもった言葉。イスグラモルもまた当然、そのことは予見しているのか、健人の言に静かに頷く。

 

「ああ、そうだ。だが、あのアルドゥインすらも畏れる者がいる。君だ……」

 

「…………」

 

「この世界の神々すらも予想できない完全なる異端の魂。そして、その魂と共鳴するシャウト。それがきっと、アルドゥインを倒すカギになる」

 

 ハウリングソウル。

 あのハルメアス・モラすらも撃退したシャウト。イスグラモルはそれに希望を持っているようだった。

 

「だが、このシャウトは……」

 

「分かっている。あのシャウトがどれほど君に負担をかけるのかも。そのあたりについても任せてくれ」

 

 ハウリングソウルの負荷は、想像を絶する。実際健人は、このシャウトで幾度となく生死の境をさまよっていた。

 効果は絶大、しかし、その負担も甚大。

 重い沈黙が、健人とイスグラモルの間に流れる。交わる視線と共に、せめぎ合う二人の覇気。気がつけば、周囲で騒いでいた英霊達は皆押し黙り、息を飲んで二人の様子を見守っていた。

 完全に飲まれた英霊達をよそに、健人はじっとイスグラモルを見つめていた。

 健人自身、この偉人がこの期に及んで自分を陥れるような人物とは思っていない。

 彼は真実、健人の負荷を抑える手段に心当たりがあり、その実効性も十分確保しているのだろう。

 どうしてここまで、こちらの事情を深く理解しているのかは疑問だったが、相手は歴史の開拓者と呼べるほどの人物。健人の予想の及ばぬ手を持っていても、何ら不思議はない。

 なにより、その深い知性を湛えた瞳にも、先ほど交わした言葉にも、人を陥れようと言う邪念は皆無だった。

 あとは、健人の意志一つ。向けられる熱意の視線を前に彼は……。

 

「……分かりました。やりましょう」

 

 静かに了承の言葉を口にした。

 その一言が数十秒の沈黙を押し流し、続いて「うおおおおおおお!」という鬨の声がショールの間に響く。

 健人の言葉にイスグラモルもようやく、その強面に笑みを浮かべる。

 

「必ずや、その信頼に応えよう。それから、私以外にも、君に会いたがっている者達がいる」

 

 そしてイスグラモルは三人の英霊を健人に紹介した。

 二つの両手斧を背負った隻眼の勇士。ローブを纏い、大剣を背負う修験者。そして、片手剣を持つ女性の戦士。

 三人ともイスグラモルほどではないにしろ、そこいらの英霊とは比較にならないほどの覇気を纏っている。

 

「初めましてだな、異端のドラゴンボーン。そして、ミラークの後継者よ」

 

「貴方達は……?」

 

「隻眼のハコン、黄金の柄のゴルムレイス、そして古きフェルディル。かの竜戦争でアルドゥインと戦い、そして封印した者たちだ」

 

 アルドゥインが古代の竜戦争で封印されたことは知ってはいたが、彼らが実際にそれをなした人物達とは思わなかった。

 同時に、健人の中で沈黙を保っていたミラークの魂が、ドクンと大きく脈打つ。どうやら、目の前の人物。とりわけ、隻眼のハコンと呼ばれた者に反応しているようだった。

 健人がミラークの反応に戸惑っている中、ゴルムレイスと呼ばれた人物が口を開く。

 

「ようやくか! アルドゥインの滅びも近い。ただ命じてくれれば、あのウジ虫が何所に居ようと、全力で叩き潰してくれよう!」

 

 腰の剣を抜き、意気揚々と声を上げるゴルムレイス。三英雄の中でも最も好戦的であるが、同時に最も優れた剣士。パーサーナックスの弟子でもあり、優れたシャウト使いでもある。

 

「油断するな友よ。奴は既に我らがかつて戦ったアルドゥインではない。だがショールの間の戦士達と彼が加われば、必ずや活路を見いだせるだろう」

 

 そんなゴルムレイスを諌めつつも、戦意を露わにしているのは古きフェルディル。

 彼もまたパーサーナックスの弟子。そして星霜の書を使い、アルドゥインを時の狭間に放逐した人物だ。

 背負うのは大剣。豊かな知性と冷静さを持ちながらも、戦士としての心も持つ英雄。

 

「フェルディル、そしてイスグラモルが言うには、あの世界を喰らう者はお前を恐れている。ミラークの後継者よ」

 

「ミラークを知っているのか?」

 

「ああ」

 

 最後に声をかけてきたのは、隻眼のハコン。

 両手斧を二つも背負っている姿も異様だが、何よりも健人が気になったのは、内にいるミラークがこの英雄に対して妙な反応をしていること。

 

「竜戦争の際、アルドゥインと戦おうと話をしたが、断られてな」

 

「ああ……」

 

 その言葉に、健人はミラークの反応に納得がいった。

 竜に憎しみを抱き、反逆したのはハコン達もミラークも同じ。しかし、人としての自分を消され、ドラゴンにもなり切れなかったミラークは、自分の力しか信じなかった。それ故に、ミラークと彼らの共闘は成されなかった。

 もしも、ミラークが彼らと共にアルドゥインと戦っていたら、この世界の歴史はまた違ったものになっていたかもしれない。

 

「しかし、このような形で共に戦うことになるとはな。運命というのを感じずにはいられん」

 

 髭の生えた強面に笑みを浮かべるハコン。

 そんな彼の反応に、未だに不満を捲し立てるように拍動するミラークの魂に、健人もまた苦笑を浮かべた。

 その時、ショールの間に衝撃が走った。

 ズシン……! という轟音と共に、建物が激しく揺れる。

 

「ぐっ!? これは……!」

 

「アルドゥインだ。どうやら、本格的に攻めてきたみたいだな」

 

 窓ガラスが割れ、天井の明かりが落ち、広間が炎に包まれる中、イスグラモルは背中に背負った斧を掲げ、高らかに運命の戦いが始まったことを叫ぶ。

 

「ショールの間の勇士たちよ! 終焉の時が来た。我らの最後の戦いの時だ! この世の終わりに、あの忌まわしき獣と我らの血で、最後の華を咲かせてやろうではないか!」

 

「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!」」」」

 

 その宣言に、ひときわ大きな鬨の声が響く。

 そして武器を抜いた英霊達は一斉にショールの間から外へと飛び出していった。

 

「さあ、行くぞ異端のドラゴンボーンよ!」

 

 地響きが鳴る中、健人はイスグラモル、そして三英雄からの視線に頷く。

 そして腰のブレイズソードを抜き、ショールの間の英霊達と共に最後の戦場へと駆け出して行った。

 

 




いや、お待たせして申し訳ない。オリジナル小説第4巻を執筆中の為、かなり遅くなってしまっております。
次はようやく最終決戦となります。

以下、用語説明

ツン
ショール(ロルカーン)の盾の従士。
エイドラであり、ソブンガルデの番人として、鯨骨の橋の前で勇敢な魂の選別を行っている。
八大神信仰の前、自然信仰をしていた頃のノルド達からは、熊の化身とされて崇められていた。ちなみに、彼の主であるショールの化身は狐。
彼の試練なしに橋を渡ろうとすると、雷で焼き尽くされることになる。

イスグラモル
歴史上の超有名人。タムリエル大陸における人類史の開拓者。
タムリエル大陸の北、アトモーラ大陸の住人だったが、第1期後半にタムリエル大陸に移住し、タムリエルで最初の人間の国を造り上げる。
しかしその後、スノーエルフとの軋轢から都だったサールザルを焼かれ、アトモーラへと逃げることになってしまう。
しかし後年、五百人の同胞団を率いてタムリエルへ帰還。スノーエルフを撃退し、人類がタムリエルに入植する基盤を確固たるものにした。
他にも文字を開発し、歴史を文字で記述することを始める。(ノルド、ひいてはその前身であるネディック人は口伝や絵で歴史を伝えており、その流れは第4記でも残っている)
一方で、その功績と能力から色々な存在に干渉されていたらしく、特にハルメアス・モラか執拗な追跡を受けていた。ある意味、健人と同類であり先輩である。

三英雄
隻眼のハコン、黄金の柄のゴルムレイス、古きフェルディルの三人を指す。
竜戦争においてドラゴンレンド、そして星霜の書をつかい、アルドゥインを放逐した人物。
隻眼のハコンは世界最初のドラゴンボーンであるミラークとは面識があり、アルドゥインとの決戦前に共闘を呼び掛けたが、断わられている。

ショールの間
タムリエル版ヴァルハラであるソブンガルデにある建物。認められた者のみが入ることを許され、世界の終わりまで宴をして過ごす場所。

鯨骨の橋
ショールの間へと続く唯一の道。
橋の前ではショールの盾の従士、ツンが待ち受け、勇気の間へと入るにふさわしい魂を選別している。
勝手に渡ろうとすると空から降ってくる雷に焼き尽くされる場所。霊体化でも躱せない。


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