【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十二話 決戦の始まり

 

 ショールの間から飛び出した健人の目に飛び込んできたのは、引き裂かれた夜空。

 まるで鉈で切り裂いたような荒々しい傷が空を引き裂き、傷跡の奥には灰色に染まった空間が顔をのぞかせている。

 

「ケント、来たのか!?」

 

 鯨骨の橋もたもとで待っていたハドバルが、飛び出してきた軍勢に紛れた健人を見つけて声を上げる。

 いつの間にかソブンガルデを覆っていた霧は晴れていた。おそらく、決戦の気配を察したアルドゥインが、もう意味がなくなったとしてシャウトを解除したのだろう。

 

「お待たせしました、こっちの状況は!?」

 

「先ほど、急激に霧が晴れたかと思ったら、アルドゥインが飛んできた。そうしたと思ったら空が……うわ!?」

 

 ズドン! と腹に響くような衝撃波と共に、アルドゥインが健人たちの上空を通過。同時に漆黒の影の航跡に沿って、新たな傷が空に刻まれた。

 悲鳴にも似た異音が響き、空を覆うオーロラが黄昏色に染まっていく。

 

「奴め、ついにソブンガルデそのものを食い始めたな! 行くぞ戦士たちよ、隊列を組め!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 まさしく終末と呼ぶにふさわしい光景をアルドゥインが生み出していく中、イスグラモルの呼びかけと共に、戦士達が動く。

 盾などを持った重装戦士たちが前へ、弓や魔法を得意とした戦士たちは後ろへ。

 各々が自分達の役割を把握し、瞬く間に隊列を組む。その時間、僅か二十秒足らず。

 それぞれが時代も背景も違う道を歩んできた者達であるにもかかわらず、恐ろしいほど迅速で正確な動きだった。

 

「奴を叩き落とす! ジョール、ザハ、フルル!」

 

 そんな彼らに健人も負けていない。先を制するように『ドラゴンレンド』を放つ。

 青色の衝撃波が上空を飛んでいたアルドゥインに着弾し、その体の時を歪める。

 

“ウド、グラ、マフェラーク!”

 

しかし、アルドゥインも慣れたもの、即座にドラゴンオーダーを発動し、健人のドラゴンレンドを無効化する。

 

「「「ジョール、ザハ、フルル!」」」

 

 そこに、三英雄のドラゴンレンドが放たれた。

 元々ドラゴンレンド自体、彼らが最初に造り、使ったもの。定命の概念を理解している彼らもまた、ドラゴンレンドを使うことができる。

 

“アーム!”(ちい!)

 

 ドラゴンレンドの使い手が四人。数だけなら、世界のノドで戦った時よりも多い。

 ドラゴンオーダーで解除し続けても埒が明かないと即座に判断したアルドゥインは、飛び続けることを諦め、即座に降下。地響きをたてながら小高い岩の上に着地すると同時に、目の前の軍勢に向かってシャウトを放つ。

 

“ヨル、トゥ、シューール!”

 

 アルドゥインのファイアブレスが、地面を融解させながら、イスグラモルが指揮する英雄の軍勢へ向かって疾駆する。

 一度飲み込まれれば、骨すらも瞬く間に焼失させる獄炎の螺旋が迫る中、イスグラモルが声を張り上げる。

 

「盾を張れ!」

 

 いうが早いか、盾を持った戦士たちがファイアブレスの射線に割り込み、持っていた盾を掲げる。

 同時に後方にいた戦士たちが障壁を展開。幾重もの巨大な光の盾を作り上げる。

 着弾、衝撃。 巨大な炎の吐息は光盾を基点に二つに分かれ、その余波が鯨骨の橋とショールの間を焼き尽くす。

 炎の奔流は英雄達の盾に防がれるも、伝わってくる衝撃と熱に、英雄たちは思わず苦悶の声を漏らした。

 

「ぐうう……!」

 

「ぬうううう!」

 

 時代に選ばれるほどの英雄達が作り上げた盾すらも貫通する威力のシャウト。アルドゥインの力は、想像以上に大きくなっていた。

 しかし、その程度で引き下がる様な英雄達ではない。

 

「剣の戦士よ、揺ぎ無き力を示せ!」

 

「「「「ファス、ロゥ、ダーーーー!」」」」

 

“むう!?”

 

 隊列の中ほどにいた戦士たちが、一斉に揺ぎ無き力を放つ。

 束ねられた衝撃波はアルドゥインのファイアブレスを蹴散らし、漆黒の巨体をわずかに怯ませる。

 その隙に、三つの影がアルドゥインめがけて踏み込んでいく。仇敵を前に戦意を滾らせる三英雄だ。アルドゥインを前にゴルムレイスが片手剣を、ハコンが双斧を、フェルディルが大剣を振り下ろす。

 

「アルドゥインよ、穢れたワームよ! 今日こそその首をもぎとってやるぞ!」

 

「ここでお前の運命は終わりだ、世界を食らう者!」

 

「あの時つけられなかった決着、いまこそつけようぞ!」

 

“我を封じた者どもか、小癪な”

 

  

 迫る剛撃を前に、アルドウィンは巨大な尾を一閃。三英雄を纏めて弾き返す。

 振り抜かれた尾は三人の体は十メートルほど吹き飛ばし、近くの岩を粉々に砕く。

 舞い上がる粉塵。その塵を突き破って、もう一つの影が踏み込んでくる。

 

「ムゥル、クァ、ディヴ!」

 

 アルドゥインの懐に飛び込んできたのは健人だった。

 発動するドラゴンアスペクト。異端のドラゴンボーンは虹色の竜鱗を纏い、更なる加速とともに刃を振るう。

 

“むう!?”

 

 切り返される尾が、健人のデイドラのブレイズソードと激突する。

 火花を散らしながらせめぎ合う漆黒の刃と鱗。拮抗は一瞬だった。

 数多の魂、そしてエイドラすらも食ったアルドゥインは、健人を遥かに上回る膂力で彼を押し返す。

 

「くっ!」

 

 空中で体勢を立て直し、着地した健人は地面を削りながら、三英雄と共に英雄の軍勢の前まで弾き返された。

 滑走が止まると同時に、彼は改めてアルドゥインと睨み合う。

 巨体を覆う漆黒の鱗はさらにその禍々しさを増し、体の彼方此方からは青白い光が立ち上っている。

 

「アルドゥイン……」

 

“ついにこの地に来たな、異端の同族よ。さあ、あの時つけられなかった決着をつけるとしよう”

 

 数百人の英雄達を前にしながらも、アルドゥインの視線は只一人、健人にのみ向けられていた。

 戦いの口上を述べる竜王を向き合いながら、健人は今一度、自身の胸の奥で燻っていた疑問を投げかける。

 

「……その前に、一つ聞きたい。なぜお前は、今さらになって世界を食い始めた」

 

 きっかけは、あの時。世界のノドで、健人のハウリングソウルと星霜の書が共鳴した事だろう。それによって、ドラゴン達は失われた記憶を取り戻した。夜明けの時代、定命の者となる魂を守っていた頃の記憶を。

 だがそれは動機の起点でしかない。その真意を、このドラゴンはまだ示していないのだ。

 最後のドラゴンボーンとアルドゥインは、世界の命運をかけて戦う運命である。

本来姉が背負う予言。それを健人は、代わりに背負うと決めた。

 だが、それは運命の分岐点を担う一人になると決めたに過ぎない。予言だからと思考停止したまま戦う決断をする気はなかった。

 

「答えろ、アルドゥイン、なぜここにきて、世界を滅ぼそうとする」

 

“それが我の存在意義、存在理由、存在価値だからだ。だからこそ、我はこの名を冠するようになった。アルドゥイン、全てを喰らう者と。なればこそ、その名の通り世界全てを食らってやろうと決めたにすぎん”

 

「答えになってない!」

 

“答える気など、そもそもない!”

 

 アルドゥインは、そんな理由を尋ねる健人の問い掛けを一蹴する。

 

“さあ戦え、貴様の全てを使って、この世の全てを喰らうと決めた我と! 我が真意を知りたいのならば、それが唯一の道だ!”

 

 大気はおろか、空間そのものすらも震わせる声を響かせながら、竜王は健人の問いかけを無視し、更なる戦意を彼へと向ける。

 しかし、その強い拒絶が、健人に強い確信を抱かせる。アルドゥインがまだ真意を隠していることを。同時に、このドラゴンはもう人の言葉でこれ以上語ることはしないのだと。

 アルドゥインがこちらの対話の場に来る気がないのであるのなら、自らが彼の対話の場に行くしかない。

 ドラゴンにとっての対話の場、すなわち、戦いの場へと。

 健人は改めてその事実を飲み込むように、大きく深呼吸をして顔を上げる。

 

「……ミラーク、枷を外せ」

 

 カチン、とミラークが抑えていた枷が外れる。抑え込まれていた魂が脈動し、ドラゴンアスペクトの鎧がさらに輝きを増す。

 

「……いくぞ」

 

 耳を突くような炸裂音と共に、健人がアルドゥインへと踏み込む。瞬きの間に、彼はアルドゥインの足元まで距離を詰めていた。英雄達すらも置き去りにする加速を乗せ、渾身の一刀を振るう。

 しかし、健人の一太刀はアルドゥインの牙に噛み止められた。

 漆黒の竜王はそのまま首を大きくしならせ、再び健人を宙に放り投げる。

 

「ぐっ!?」

 

“いい加減、見慣れたわ! ヨル、トゥ、シューール!”

 

 空中の健人に襲い掛かるファイアブレス。迫る獄炎の渦に飲まれる前に、健人はシャウトを唱えた。

 

「ウルド!」

 

 単音節の旋風の疾走で射線から逃れた健人。彼が着地している間に、アルドゥインは立て続けにシャウトを展開する。

 

“――ッ――ッ――――ッ!!”

 

 メテオ・アポカリプス。

 世界を喰らう者である彼の身が使うことを許されたスゥーム。衝撃が壊れかけのソブンガルデに響くと同時に、天空に刻まれた虚無から無数の隕石が降り注ぎ始めた。

 しかしアルドゥインの注意が彼に向いている中、三英雄が動く。

 

「ゴルムレイス、ハコン、空を覆う奴の邪気を払うぞ!」

 

「ああ!」

 

「「「ロゥク、ヴァ、コーール!!」」」

 

 三英雄が『晴天の空』のシャウトを唱える。

 白い波が引き裂かれた虚空へと広がり、降り注ぐ隕石の雨の勢いが幾分か削がれる。

 

「むう、我らの力だけでは奴のスゥームを完全に散らすことはできんか!」

 

「だが、これなら踏み込める!」

 

 三英雄の一人、ゴルムレイスがいの一番に踏み込む。降り注ぐ隕石の雨を駆け抜け、燃え盛る地面を突っ切りながら右手に携えた片手剣を振るう。

 続いてハコン、ゴルムレイスもそれぞれの得物をアルドゥインに振り下ろした。

 しかし、三人の攻撃はアルドゥインの鱗に容易く弾かれる。

 

「ぐっ! ドラゴンレンドが効いているはずなのに!」

 

「これほどの存在になっているとは……」

 

 ドラゴンレンドにより不壊の鎧を剥されているにもかかわらず、得物が1ミリも通らない事実に三英雄たちは戦慄する。

 失われていた記憶を思い出したからか、それともツンという神を食ったからか。どちらにせよ、今のアルドゥインの力は彼らが竜戦争で戦った時とは比較にならないものになっていた。

 

“邪魔だ、木っ端ども!”

 

 羽虫を払うように振るわれた尾に打ち据えられ、ハコン達三人は再び大きく吹き飛ばされる。

 そしてアルドゥインは彼らを完全に無視し、一直線に健人へと向かっていく。

 

“グオオオ!”

 

「くっ……!」

 

 向かってくるアルドゥインを迎え撃とうと、健人は構える。

 迫りくる牙を躱し、続けて振われた爪を弾こうと盾をかざす。迫る爪の軌道に向かって斜めに盾を掲げ、両足でがっちりと地面を捉える。さらに爪が盾面に接触する瞬間に全身のひねりを加え、全ての力を一点に集約。完璧なタイミングでアルドゥインの爪撃を迎撃する。

 身に付けた盾術、そしてリータが使っていた攻撃反射の重ね技。しかし、健人の盾はアルドゥインの爪を防ぐことも弾き返すことも出来なかった。

 

「ぐぅうう!?」

 

 接触した盾の一部が消し飛び、受けることも逸らすこともできないまま、衝撃で大きく押し込まれる。

 たたらを踏む健人の頬に、冷たい汗がしたたり落ちた。

 彼我の戦力差は世界のノドで戦った時よりもはるかに開いている。剣筋も読まれたと考えれば、ドラゴンレンドが効いている状態でも、健人独力でこの竜王と戦うことはもう不可能だろう。

 もし、そんな不可能を可能にするような手があるのなら……。

 

「魔道師たちよ、我らの友の為に代償の血を流せ!」

 

 健人の脳裏に奥の手が過る中、イスグラモルの猛々しい声が響く。

 英雄たちの軍勢の後衛。魔導士たちで固められた場所から、光の柱が浮かぶ。

 何らかの魔法の発動。健人がその正体を察する間もなく、更にイスグラモルの強い視線が送られる。

『準備をしてくれ』

 英雄の軍勢を指揮する指揮官からの無言の要請。健人の脳裏に、勇気の間でのイスグラモルとのやり取りが思い出される。

 

(共鳴のシャウトがアルドゥインを倒すカギとなる)

 

 脳裏によぎるその言葉に、健人も覚悟を決めた。

 

「剣の戦士よ、揺ぎ無き力を示せ! ドラゴンボーンよ、共鳴のシャウトを!」

 

「「「「ファス、ロゥ、ダーーーー!」」」」

 

「っ、モタード!」

 

 英雄たちのシャウトが発動するとともに、健人は反射的に『共鳴』のシャウトを唱えた。

 英雄達の『揺ぎ無き力』と健人の『ハウリングソウル』の二つのシャウトは互いに混ざり合い、次の瞬間、空間そのものを揺るがす巨大な衝撃波となってアルドゥインに襲いかかった。

 

“グオオオオオ!?”

 

 目を疑うような威力だった。

『共鳴』と一体化した『揺ぎ無き力』は、先程までビクともしなかった漆黒の巨体をまるで小石のように吹き飛ばす。

 さらにアルドゥインを吹き飛ばした衝撃波は射線上にあった山を一瞬で粉微塵に砕き、砂の塊へと変えてしまった。

 

「ドラゴンボーン、こっちへ!」

 

「っ、ウルド、ナー、ケスト!」

 

 考える間もなく、健人は直感に従い、旋風の疾走を展開。イスグラモルと合流する。

 

「イスグラモル、これは……」

 

「君のシャウトは共鳴する相手が多ければ、単音節でも爆発的に威力を上げることが出来る。我らのシャウトに続いて君のシャウトを重ねるのだ」

 

 共鳴とは、二つの存在が共に響き合う現象。これの効果を引き上げるためにイスグラモルが考えたのは、共鳴する対象の数を増やすことだった。

 累乗計算において、底が小さいから指数を増やす。イスグラモルが考えたのは正にこれである。

 しかも、先ほど共鳴したのは、ほとんどが英雄たちのシャウト。

 これなら、健人にかかる負荷を押さえつつ、超高効果のシャウトを発動させることが出来る。

 それこそ、世界を喰らう者として覚醒したアルドゥインに通用するほどの威力で。

 一方、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたアルドゥインはその身を起こし、蒼眼へと変わった瞳で健人と英雄の軍勢を睨みつけると、再びその口腔を開く。

 

「ヨル……トゥ、シューール!」

 

 再び放たれる極大の威力を秘めたファイアブレス。

 勇気の間も一撃で焼き尽くす炎の吐息が、健人と英雄たちに迫る。

 

「戦士達よ、冬の吐息を! ドラゴンボーン、もう一度だ!」

 

「「「フォ、コラ、ディーーン!!」」」

 

「モタード!」

 

 健人のハウリングソウルが、再び英雄たちのシャウトを共鳴させる。

 個々のスゥームが共鳴のシャウトにより一体化。その威力を何乗にも引き上げながら、アルドゥインの獄炎のスゥームと正面から衝突する。

 せめぎ合う極寒の息吹と極炎の咆哮。勝ったのは英雄たちのシャウトだった。

 

“むううぅうう!?”

 

 業火のシャウトを飲み込んだフロストブレスは漆黒の巨体に直撃し、その動きを著しく鈍らせる。

 

「畳みかけるぞ! 槍の英雄達よ、友の穂先に鋭き刃を!」

 

「「「ミド、ヴァ、シャーーン!!」」」

 

 立て続けに下されるイスグラモルの指示。続いて発動したのは『戦いの激昂』のシャウト。

 これは仲間達の武器に『激しき力』と同じ風の刃を付与するもの。

『激しき力』のシャウトの威力は、健人自身も得意としている。ただの鉄の武器が、竜の鱗すらも斬り裂く威力を付与する強力なスゥームだ。

 それが生前、槍で名をはせた英雄達全ての武器に纏わりく。

 

「投擲!」

 

「モタード!」

 

 イスグラモルの声と共に、百の槍の英雄たちが風の刃を纏う槍を投擲した。

 そこにさらに、健人の共鳴のシャウトが重ね掛けされる。

『戦いの激昂』による風の力を受けた槍はその速度を大幅に増し、まるでミサイルのような速度で飛翔して漆黒の竜王に着弾。ハウリングソウルによって劇的に高められた風の力を開放する。

 

“ッ! ッツッ!!”

 

 耳を突くような炸裂音が響き、爆風が荒れ狂う。

 声にならないアルドゥインの呻きを爆音の多重奏が呑み込み、艶やかな漆黒の竜鱗を押しつぶしていく。

 

「吶喊!」

 

「「「「うおおおおお!!」」」」

 

 そこに、英雄の軍勢が突撃を敢行する。

 彼らの武器にも当然のように、風の刃が纏わりついていた。

 次々と振り下ろされる英雄たちの名剣、魔斧、聖槍が、アルドゥインの漆黒の鱗を削っていく。

 

“メイ、ヴォフール! ええい、煩わしい!”

 

「ぐううう!」

 

「うおおお!?」

 

 しかし、それでもアルドゥインは倒れない。

 ダメージなどまるでないかのように、翼をはためかせ、群がる英雄たちを吹き飛ばす。

 

”ロゥ、クォ、レント!”

 

 さらに、サンダーブレスのシャウトを発動。吐き出した雷の奔流を一閃し、吹き飛ばした英雄たちを一瞬で塵に変える。その数、およそ五十人。

 一人一人が時代を担うような英雄たち。それが文字通り灰燼と化した光景に、健人は目を見開く。

 

“ズゥーウ、アルドゥイン、ヌ、ティード、ディノク! ヌ、ダール、ウル! ウスナガール! ズー、サーロト、ムル、オンド、アースト、ヴェンヴィーイグ!”(我はアルドゥイン、今こそ終わりの時! 闇へと帰る時! 我が真なる力よ、戒めを解き放ち、風の翼のごとく甦れ!)

 

「これは……」

 

 アルドゥインが、斬り裂かれた空に向かって咆える。次の瞬間、漆黒の鱗の隙間からあふれ出していた青い光が、真紅に染まっていく。

 心音のように拍動する真紅の光はアルドゥインの漆黒の巨躯を包み込み、全身に葉脈のような毒々しいラインを刻んでいく。

 内側からふれだす力に耐えきれなかったのか、長い首の側面にある一部の鱗は剥がれ落ち、その節々にその下からさらに強烈な紅光の塊が姿を現していく。

 

“ドゥ、クレン、ハールヴェト!“

 

 直後、アルドゥインがシャウトを発動すると同時に、漆黒の光が竜王の体から噴き出した。

 暗闇よりもさらに暗い闇の現出。まるで衣のように竜王の体を包み込むそれの中で、不気味に明滅する真紅の光脈と、唯一蒼いままだった眼光だけが輝いている。

 

“グググ……オオオオオオオオオオオオオオ!”

 

「うわ!」

 

「これは……」

 

 世界そのものを引き裂くのではと思えるほどのアルドゥインの咆哮。それに伴って、ソブンガルデ全体に強烈な地鳴りが響き、引き裂かれた空から覗く灰色の領域が、一気に広がり始めた。

 まるでこの世界そのものが断末魔を上げているような光景。その中で黒紅の体へと変貌したアルドゥインの瞳が、先ほどとは比較にならない圧倒的な絶望感と共に、再び目の前に立ちはだかる英雄たちに向けられる。

 

「っ……英雄達よ、槍を放て!」

 

 軍勢はアルドゥインが纏う絶望感に飲まれ掛けるも、イスグラモルの指示により、かろうじて士気を取り戻す。

 

「「「ミド、ヴァ、シャーーン!!」」」

 

「ドラゴンボーンよ、頼む!」

 

「モタード!」

 

 再び放たれる風槍の雨。健人のハウリングソウルによって今一度劇的に力を増したそれは、一直線に紅光を放つアルドゥインに着弾。再びその暴力的な破壊の嵐を解放するが……。

 

「なっ……」

 

「馬鹿な……」

 

 荒れ狂う嵐はアルドゥインに触れると、投げられた槍ごと瞬く間に消滅した。

 そよ風すら生み出すことなく自分達の攻撃が消え去った事実に、一瞬の沈黙が戦場に流れる。

 

「一体、奴は何をした?」

 

“なにも。我はただ『壊し、喰らった』にすぎん”

 

 壊した? 何を? その場にいた全ての者の脳裏に過る疑問。その答えは直ぐに出た。

 消えた槍雨。徐々に、だが加速度的に崩壊していくソブンガルデ。その光景がすべてを物語っている。

 そう、アルドゥインは喰らったのだ。自身に迫る槍雨の全てを、瞬きの間に。それこそ、塵も残さず。

 

「奴め、世界を喰らう者として、まだ完全に覚醒していなかったのか……!」

 

“これが、この世全てを壊し、喰らう運命を背負った我本来の姿。さあ、終わりの時だ、ジョール。儚く、それでいて眩い生の光を放つ者達よ。全てを諦め、逃れられぬ運命に身をゆだねるがいい”

 

 完全に覚醒した世界を喰らう者は言葉を失う英雄たちを睥睨しながらそう宣言すると、滅びの光を纏いながら襲い掛かる。

 そして世界の崩壊が本格的に始まる中、戦いの第二部が切って落とされるのだった。

 

 





英雄の軍勢
ソブンガルデの勇気の間にいた英雄たちによる軍勢。司令官はイスグラモル。
数にして数百から千人前後と軍隊としては小さいが、兵の一人一人が一時代を担うほどの英雄であり、その戦闘能力はニルンに存在するどの軍よりも優れている。まさに古今東西、あらゆる歴史の中で、定命の者達による最強、最優、最精鋭の軍勢。
イメージとしては某運命の物語にでてくるマッチョ征服王の宝具そのものだが、兵士の質が違い、圧倒的にソブンガルデの軍が勝っている。
司令官であるイスグラモルの指揮能力もすさまじく、軍隊として戦うのであれば、彼らに勝る軍は存在しない。


戦いの激昂
ミド、ヴィ、シャーン(Mid Vur Shaan)

忠実 勇気 激励で構成されるシャウト
味方の武器に『激しき力』と同質の風の刃を付与するもの。
この作品においては、イスグラモルが率いる英雄の軍勢が使用。彼らが持つ武器全てに風の刃を纏わせ、その威力、攻撃速度を劇的に引き上げた。
さらに健人のハウリングソウルによってさらに強化され、その威力は最終的に一投一投が大型対地ミサイルと同等のエネルギーを内包するに至っている。
某運命の物語に倣うなら、マッチョ征服王の軍勢全員が槍兄貴の全力投擲を繰り出してくるという感じ。



覚醒アルドゥイン

世界を喰らう者として、その権能を全開にした竜王。
全身を覆う漆黒の鱗に、真紅の葉脈を思わせる赤いラインを刻まれた禍々しい容貌をしているが、その中で蒼穹の空を思わせる青い光を放つ瞳だけが異彩を放っている。
覚醒した滅びの権能の能力はけた違いで、この世界で最上位の存在であるエイドラ、デイドラロードすらも捕食可能。
その名の通り、存在するだけで文字通り世界を食らい、崩壊させていく終末装置そのものである。
 


滅びの光衣
ドゥ、クレン、ハールヴェト(du,kren,HaalvUt)

食らう、壊す、触れる、で構成されるシャウト。
全てを滅ぼし、捕食する漆黒の光を己の体に纏うシャウト。アルドゥイン専用スゥームであり、彼が纏う不懐の鎧と対となる能力。
彼の世界を喰らう者としての権能が覚醒することで使用可能になる。
破壊は物理的だけでなく、概念的なものにまで及び、このムンダスにおいて彼に破壊できないものは存在しない。
古今東西最強の英雄達と健人のハウリングソウルによる合体攻撃でも竜王本体には攻撃を全く通さないほどの捕食能力を誇るが、このシャウトも彼の力の一端でしかない。

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