【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十五話 たとえ全てが終わったのだとしても

“なん、だと……”

 

 虚無の海の上に、定命の者が立つ。

 アルドゥインから見れば、ありえない光景なのだろう。

 世界の全てが虚無に返った中、たった一人だけ自我を完全に保っているのだから。

 

「ありがとう、アルドゥイン。随分といい夢を見させてもらったよ」

 

 正直、健人自身もどうして意識を保っていられるのかは分からない。

 ミラークが何かしてくれたのか、それとも自身が変質したドラゴンボーンだからなのか。

 ただ、これだけははっきりしている。

 

“諦めぬというのか……”

 

「ああ、諦められない。俺は俺である限り、最後まで声を張り上げる……!」

 

 ムゥル、クゥア、ディヴ!

 健人はドラゴンアスペクトを唱える。己のドラゴンソウルを昂ぶらせるシャウトは、既に発動しているハウリングソウルと共鳴し、彼の身体から、虹色の奔流が噴き出す。

 ソウルリンクバースト。

 健人と彼のうちに同化した魂達が、シャウトにより極限まで『共鳴』し、すでに限界まで引き上げられていた彼の能力を、限界以上に押し上げる。

 

“ならば、我の手で直接、その魂を浄化するしかないな。ヨル……トゥ、シュ――ル!」

 

「フォ、コラ、デュ――ン!」

 

 アルドゥインが放つファイアブレスを前に、健人が同じようにフロストブレスを唱える。

 激突する熱波と寒気。互いに相殺するように消滅したシャウトの残滓の中を駆け抜けながら、健人は抜いた刃を振り抜く。

 

「ふっ!」

 

 迫るブレイズソードをアルドゥインの爪撃が迎え撃つ。火花を散らしながら拮抗する漆黒の爪と黒紅の刃。

 互いの力が拮抗した一瞬、健人は身体を捻り、回転しながらアルドゥインの爪を受け流しつつ、相手の懐にも繰り込む。そして、斬り上げるような一閃を放った。

 迫る刃を前に、アルドゥインは反射的に首を引き上げる。しかし間に合わず、健人の一閃がアルドゥインの漆黒の鱗を切り裂く。

 

「っ!?」

 

“ちい……!”

 

 ドラゴンレンドを使用していないにもかかわらず、刃が通ったことに健人が驚く中、アルドゥインは舌打ちをしながら翼をはためかせて後退した。

 なぜ、今になってただの斬撃が通用したのか。健人は頭を巡らせ、そして一つの結論にたどり着く。

 

「なるほど、お前は殻の塔。あの不懐の鎧は、取り込んだ膨大な量のエネルギーや物質を収め続けるための機能か」

 

“そうだ。我の鱗は世界を腹の中に納めるためのものだ。その力はすでに我の体からは離れこの虚無を包み込みんでいる。故に、今の我にあの無敵の守りはない”

 

「となると、あの暴食のシャウトも……」

 

“意味はない。既に腹に収まっているものを、再び食えるわけがない。だが、それがどうした?”

 

 アルドゥインの威圧感が、一気に増す。巨大な漆黒の翼が広がり、巨体が一気に健人に迫る。

 迫る爪撃。反射的に刃を振るい、受け流しながら飛び退く。

 

“ズゥーウ、アルドゥイン。全ての頂点に立つ王。この程度、ハンデにもならんわ!”

 

「ぐぅ……!」

 

 アルドゥインが、一気に攻勢をかける。

 持ち前の巨体と、傑出した膂力。純粋な暴力が嵐のように、健人に襲いかかった。

 その激しさは、以前に世界のノドで戦った時よりも激しく、荒々しい。

 権力と支配欲に呑まれていた頃とは違う、確固たる意志。世界を喰らい、造り直すという絶対に退けない理由が、彼の力を真なる竜王にふさわしいものへと変えていた。

 

「ぐううう……!?」

 

 牙を躱した隙に爪撃を食らい、大きく吹き飛ばされる。

 

“ここは我の腹の中。エセリウスからの魔力も届かぬ今、こざかしいマグナスの魔法は使えん。勝負を決めるのは互いの肉体と技、そしてスゥームのみ!”

 

 虚無の湖面に両足を打ち込み、滑走する健人に、アルドゥインは飛翔しながら突っ込んでくる。

 

“我はやり直す。すべてを! そのために、貴様が邪魔だ!”

 

「やり直す、だと!?」

 

“そうだ! 我らがゆがめてしまった世界と過ち。それを正す!”

 

 鬼気迫る気迫と共に一直線に迫る巨躯。ここにきて剝き出しとなったアルドゥインの強烈な意志と共に、鋭い牙が健人に迫る。

 

「っ、おおおおおおおおおおお!」

 

 そんなアルドゥインの気迫を前にしても、健人はひるまなかった。

 迫る牙を紙一重で躱し、反撃とばかりに血髄の魔刀をくり出す。

 斬り上げるように放たれた斬撃がアルドゥインの首に再び裂傷を刻む。

 確かに、アルドゥインの力は絶大だ。たとえ不懐の鎧が無くとも、その力はタムリエルに存在していた全ての生物を上回る。

 だが、健人も負けてはいない。ソウルリンクバースト状態となった彼の能力は、暴走状態だったリータすらも圧倒するほど。覚醒したアルドゥインと比べても、決して遜色ない。

 

“こいつ……!”

 

 未だに抵抗の意志を示す健人に、アルドゥインが焦れたように口元を歪める。

 

“いつまで、無駄なことを続ける気だ! あの世界、ニルンは終わった。もはや戻すことは叶わん!”

 

 既にニルンは消滅した。

 アルドゥインのシャウトと、健人のシャウトによって、そこに住んでいた全ての生命諸共砕かれ、原初の虚無に戻ってしまっている。

 

「ああそうだ! 俺が砕いてしまったからな。だけど!」

 

 竜王に改めてその事実を突きつけるも、健人はブレない。

 ウルド、ナー、ケスト。旋風の疾走のシャウトにより、突撃を敢行。圧倒的体重差があるはずのアルドゥインの巨体を押し返し、反撃とばかりに三度斬撃を放つ。

 

“ぐう”

 

「その消えてしまった世界で、最後のその瞬間まで命を尽くした人達がいた。自分達の信じたものの為に。だから……!」

 

 攻勢に転じた健人は、続けざまにシャウトを発動させる。

 ティード、グロ、ウル。スゥ、グラ、デューン。

 時間減速、激しき力。二つのシャウトが重ね掛けされ、猛烈な連撃がアルドゥインに襲い掛かる。

 

「無駄だとわかっていても、死ぬのだとわかっていても、最後の最後まで抗う、戦う! この胸の昂ぶりが消える、その時まで!」

 

 反射的に右翼を盾のように間に割り込ませるも、爆風のような剣嵐は硬質な翼を瞬く間に切り刻む。

 あまりの攻勢にアルドゥインが思わず後退する中、健人は追撃のシャウトを全力で放つ。

 

「モタード、ゼィル……ラヴィン!」

 

 三節のハウリングソウルが発動する。

 後のことなど思慮の外。もはや出し惜しみなど一切ない。

 虹色の波動が暴れ狂うように渦を巻きながら、アルドゥインに襲い掛かる。

 

“ドレム、ウル゛、ナーロッド!”

 

 しかし、アルドゥインのシャウトが発動した瞬間、三節のハウリングソウルは四散し、虚無の闇へと消えていく。

 静寂、永遠、沈黙のドラゴン語によって構築されたシャウト。『永劫の沈黙』の名を冠する、アルドゥインが対ハウリングソウル用に作り上げていたスゥームである。

 

“貴様のシャウトはもう知っている。もはや我には効かんぞ……っ!?”

 

「だからどうした!」

 

 だが、切り札を封じられても、健人は一切怯まない。

 むしろ相手がシャウトに気を取られた隙に距離を詰め、さらなる斬撃を見舞う。

 突き出された刃がアルドゥインの胸板を貫き、斬り払うように薙ぎ払われた。

 深々と抉られた傷から、鮮血がまき散らされる。

 切り札を封じられてなお、一切気圧されることのない健人に、竜王は目を見開く。

止まらぬ健人のその姿が、己の最も懸念することを呼び起こしたから。

 

“ッ、オオオオオオオオオオオオオオ!”

 

「はあああああああああああ!」

 

 己の予感を吹き飛ばさんとアルドゥインが咆え、健人もまた裂ぱくの気合で吶喊する。

 あとは只、互いにぶつかり合うのみ、己の全力を相手に叩き付け、向けられる相手の全力を耐え抜く。

 先の世界のノドでの戦い以上の激しさで、健人とアルドゥインは激突する。

 アルドゥインがその巨躯を活かした痛烈な一撃を見舞い、健人はその痛撃を正面から迎撃する。

 健人の鎧がはじけ飛んで虚空へと消え、反撃の刃が不壊の鎧を失ったアルドゥインの肉体を容赦なく斬り刻む。

 切り札だった『白日夢』のバックアップを失おうが、健人の剣技は衰えるどころか、よりいっそう冴えわたり、アルドゥインもまた、タムリエル史上最高峰の戦士を相手に一歩も退かずに戦い続ける。

 

“ヨル、トゥ、シューール!」

 

“フォ、コラ、デューーン!”

 

 互いの肉体が激突する中、無数のシャウトもまた虚無の海の中でせめぎ合う。

 ファイアブレス、フロストブレス、サイクロン、揺ぎ無き力、氷晶……。

 直接攻撃だけではない。武装解除や霊体化、時間減速、激しき力……。

 無数のシャウトが紡がれ、ぶつかり合う声の力は拮抗する互いの力量を示すように混じり合い、霧散していく。

 普通のシャウトだけでは互いに千日手。ならば、勝負を決めるのは、互いの切り札となるシャウト。

 

「モタード、ゼイル、ラヴィン!」

 

“ドレム、ウル゛、ナーロッド!”

 

 響き渡る『共鳴』のシャウトと、それを迎撃する『永劫の沈黙』のシャウト。

 無残にかき消されながらも『共鳴』のスゥームは担い手の不屈の意思を体現するように何度も荒れ狂い、『永劫の沈黙』もまた、アルドゥインの長年の願いを叶えんと、『共鳴』のシャウトを迎撃する。

 何度も、何度も何度も何度も……。

 その度に虚空に虹色の衝撃波が走り、静寂に包まれているはずの虚無が激しく脈動を繰り返す。

 それはまるで、原初の創造。ニアとパドメイの激突を思わせた。

 

「モタード、ゼイル……ぐふ!?」

 

 だがある時、突如として、健人の喉に衝撃が走った。

 バン! と弾けるような音と共に、力が抜け、思わず蹲る。

 

「がは、ごほっ!」

 

 続いて、熱い何かが口から溢れ出し、びちゃびちゃと虚無の湖面に紅黒い染みを広げていく。思わず喉に手を当てれば、ビラン……と爛れたように垂れさがる皮膚の感触が手に返ってきた。

 ここまでの連戦、そしてハウリングソウルの連続使用により、健人の喉がついに限界をこえてしまったのだ。

 

“限界が来たな。世界を震わせるほどのシャウト、いくらミラークがいようと、それほど放てば、喉が壊れる……”

 

「ヒュー、ヒュー……」

 

 声にならない息が、破れた喉から漏れる。魔法も使えず、とめどなく流れる血が、一気に健人の体から力と熱を奪っていく。

 

“お前と我、勝負を決めたのは、単純に肉体の差か。お前が我らと同じ肉体を持っていたら、結果は別だったかもしれん”

 

 喉という、シャウトを放つための要を失った健人に、もはや抵抗する手は残されていない。

 それでも、健人は必死に、力を失った両足で立ち上がろうとしていた。

 そんな彼に最上の敬意と賛辞を送りながら、アルドゥインはトドメのシャウトを放つ

 

“ドレム、ウル゛、ナーロッド!”

 

『永劫の沈黙』が、健人に襲い掛かる。

 このシャウトは、ハウリングソウルの対となるシャウト。その効果は、あらゆる存在を停止させること。

 物質的な運動だけでなく、魂などの概念的なものから、時間、空間、果てには次元すらも停止させるそれは、文字通り絶対零度を顕現する。

 

「っ…………!?」

 

『永劫の沈黙』を受けた健人の肉体が、瞬く間に凍り付く。同時にその精神、魂、時間を停止させ、永遠の静寂の中へと封じ込めていく。

 そして吹き荒れるシャウトが治まった後には、静けさを取り戻した虚無の海と、姿はそのままに、彫像ように固まってしまった健人がのみだった。

 

“今度こそ終わった。後は……”

 

 これで、このドラゴンボーンはもう動くことはない。虚空の闇で溶かされるのではなく、未来永劫そのままの形であり続ける。どちらにしろ、死であることに変わりはない。

 アルドゥインはそう考えながら、ゆっくりと健人に近づいていく。

 彼の願う世界の再構成。その為には、最後の鍵が必要なのだ。

 だが、一歩一歩近づく中、奇妙な違和感と嫌な予感が竜王の胸によぎった。

 次の瞬間、ピシ、パキ……と空間がひび割れるような音が僅かに響く。

 凍り付いたはずの健人の瞳の奥に、火花が一つ、小さく舞っていた。

 

 




次が最後……。

永劫の沈黙(Drem、Ul、Nahlot)

アルドゥインが対ハウリングソウル用に作りだしていたシャウト。
静寂、永遠、沈黙の言葉で構築され、対象の物理、精神、魂、時間を停止させる。
時空間レベルでの干渉を可能とするスゥームであり、世界を食らうシャウトとは別の意味で、時の竜神の子であるアルドゥインの権能を発揮させる必要がある。


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