【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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注意! 
こちらは筆者がスカイリムDLCドーンガードをこねくり回した結果、魔改造された作品です。
ストーリーラインの大幅な変更やオリキャラの投入などがあります。
前日譚は基本的にリフテン、リフトホールドでのお話になると思います。
他の作品もあるので、話数もすくなめに終わらせたいところ。



ドーンガード編前日譚 
プロローグ


 リフトホールドの中心地、リフテン。

 その都市の門から、荷台にこれでもかと荷物を積み込んだ馬車が続々と出ていく。

 それは、複数の商人たちが集まって作られた商隊だった。治安が悪化している昨今、商人達も自衛の為に、単独で旅をすることは少なくなっている。

 当然、商隊には護衛のために雇われた兵達もおり、彼らは商隊の前後と中央に別れて同道しながら、見張りをしている。

 そんな商隊の最後尾に、ひときわ異質な雰囲気を醸し出す馬車が3台続いていた。

 馬車自体は、普通のもの。荷台に布を張り、雨風を凌げるようにしているくらいだ。

 変わっているのは、その馬車に乗る者達。そのほぼすべてが年若く、なかなかに器量の良い娘たちが乗っていた。その数、二十人ほど。

 最後尾の彼女達は華やかなおしゃべりに興じながら、時折武骨な傭兵や、慇懃な商人たちに意味深な目配せを送っている。

中にはあからさまに手を振ったり、これ見よがしに胸元をちらつかせている者もいる。

 年頃の少女たちの淫靡な視線に何人かの傭兵や商人たちが鼻の下を伸ばす中、商隊はゆっくりと湖の南の街道を、西へと向かっていく。

 その少女たちが乗る馬車に、特に目立つことなく、静かに荷台の端に座っている人物がいた。

 この地に住まうノルド達はもちろん、レッドガードやインペリアルと比べても小柄で、特徴がつかみにくい平淡な顔を持つ黒髪の青年。

 

 坂上健人。

 

 五年前になぜかタムリエル大陸に迷い込み、色々あってリフテンの郊外に流れ着いた日本人兼ドラゴンボーンである。

 

 

 

 

 

 リフテンを出発した商隊は西へと進み、その日の目的地に到着する。

湖に接する街道、その一角。

 一日の移動を終えた商人たちはほっとした様子で馬車から降りると、馬の世話をしたり、テントを立て始める。

 傭兵達も一部は商人達と同じように野営の準備を始め、他は周囲の安全を確かめに行く。

 そして、彼女達もまた馬車から降りると、各々準備を始めた。

 十人は入れそうな大きな天幕を張り、その周囲に小さなテントを立てていく。

 天幕の前では、既に野営の準備を終えた商隊の男達が、そわそわと何かを心待ちにしている。

 よく見ると、商隊だけでなく、近くにある農園の農夫達も来ていた。

 そんな男たちに目配せしながらテントの設営を終えた少女たちは、天幕へと入ると、あらかじめ中に運び込んでいた商売道具を取り出し、身に着けていく。

 赤、青、黄色などの、きらびやかな衣装。ガラスなどで拵えたペンダントや、色鮮やかな櫛や髪飾り。

 

「さあ皆、始めるよ。準備はいいかい?」

 

 美しく着飾った彼女達の前には、一際華美な衣装を身に纏った女性。年のころは、二十代だろうか。

 明らかに少女たちのまとめ役といった雰囲気を醸し出す彼女の呼びかけに、少女達はハキハキとした返事をする。

 

「「「はい!」」」

 

「よし! 『蒼の艶百合』の開園さ。君たちの美しさを思いっきり見せつけて、たっぷり稼いでおいで」

 

 女性の宣言に、少女たちは天幕を飛び出していく。

 

「皆さん、おまたせしました~~!」

 

「今夜もいっぱい、楽しんでくださいね~~!」

 

「よっしゃ! メーヴィルちゃん、いいかい」

 

「メリエルナ様はどこだ! ぜひ俺と熱い夜を……!」

 

 彼女達は娼婦。金銭と引き換えに春を売る女性達。

 美しく着飾った少女達に、同道していた商人や傭兵たちだけでなく、村の男たちが群がっていく。

 そんな中、健人は喧騒の裏手で一人、複数のたき火を焚き、鍋や鉄板、かまどで次々と料理を作っていた。

 この手の類のサービス業に、飲む、食うは欠かせない。

 健人のこの旅団での役目は雑用であり、料理を提供するのも彼の仕事だった。

 

「ケント、料理の方はどうだい?」

 

『問題ない』

 

 先程娼婦たちを送り出した旅団の長が、健人に話しかけてくる。

 彼が腰に下げた黒板で返答する中、彼女は焚火に掲げられた鍋の中のスープを嗅ぐと、勝手に味見をし始めた。

 

「うん、さすがだ! これはインペリアルの帝国貴族でも唸る品だぞ」

 

 スープを一口味見した彼女は、にんまりと笑みを深めて健人の料理を絶賛する。

 一方、健人は彼女の讃辞に肩を竦めていた。

 実際のところ、結構健人の料理は手が込んでいるが、貴族が食べるような品と比べると、どうしても食材の質で埋めようのない差が出てしまうものだ。

 それを自覚してのこの反応である。

 

「ところでケント~~。せっかくだから、今夜どうだい?」

 

 味見をしていた女性が、突然意味深な言葉と共に、健人の背中にしなだれかかってくる。

 そんな彼女の目の前に、健人は溜息と共に、再び腰に下げている黒板に文字を書き、彼女の目の前に突き付けた。

 声を失った健人の残ったコミュニケーション手段。それが、黒板による筆談だった。

 

『遠慮しておきます』

 

「君はいつもそう言う。これほどの美女のお誘いを無碍にするなんて、男としてどうなんだい? ああ、もしかして不能かい!? 安心してくれ。男女の愛の形は一つじゃないんだ」

 

 一方、女性は健人に冷たくあしらわれても堪えた様子はない。

 むしろ、よりいっそう情熱的に健人にすり寄ってくる。

 この女性、色々と有能な人物なのだが、性格的に非常に難のある人物だった。具体的には、常時セクハラ発言を連発し、本人もそれを自覚した上で改める様子がない。

 そしてなぜか、健人を気に入っていた。それこそ、初めて出会った瞬間に絵のモデルを頼んでくるくらいには。

 

『彼女達もそろそろ本番です。絵を描きにいかなくていいんですか?』

 

「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ行ってくるよ! 終わったら二人でディベラ様に祈りをささげようじゃないか」

 

 健人が『お断りです』と返事を書ききる前に、彼女は自分の画材を持って娼婦たちが男たちを相手にしているテントに突撃していった。

 彼女は裸婦画、いわゆるヌード絵や春画を描くことを生業としている画家であり、その手の道では相当な有名人との事。

 ちなみに、彼女の名前はクレティエン・キュリオ。

 そう、あのアルゴニアンの侍女。その著者の系譜である。

 

「お疲れ様ですわね」

 

 そんな人物の相手をさせられた健人に、再び声をかけてくる人物がいた。

 深くローブを被り、目を眼帯で覆った黒髪の女性。一見すると僧侶のようにも見えるが、その蠱惑的な声と白い肌、そして滑らかな曲線を描く小顔と相まって、顔を隠していても隠し切れないほどの美しさを感じさせる女性だった。

 

『いえ、料理は慣れていますから』

 

「そちらではありませんわ。彼女の相手の方です。いい人ですが、変わった人ですから大変だったでしょう?」

 

『変わった人の相手にも慣れていますから』

 

 筆談でやり取りをしながら、健人は少し前のことを思い出す。

 彼女もまた、健人がこの娼婦旅団と関わるようになるきっかけとなった人物だった。

 

 

 

 

 リフトホールドは、スカイリムの南東に位置する、比較的温暖な場所だ。

 最も大きなホンリッヒ湖を中心に大小の湖が散在し、農業や林業、更には漁業が盛んな土地。

 政治としてはホンリッヒ湖東側のリフテンという都市が中心となっている。

 この都市の郊外で目覚めた健人は、とりあえず情報収集と必要な物資を手に入れるため、真っ先にリフテンへと向かったのだが、早々にめんどくさい事態に直面してしまった。

 

「とまれ。この都市に入るには、通行料が必要だ。衛兵として、払えない奴を通すわけにはいかないな」

 

 都市の門を警備している衛兵に、通行料を払えと命じられたのだ。

 

(……嘘だな)

 

 兜の奥から覗く下卑た視線に、健人は衛兵たちの嘘を確信する。

 確かに、都市の城主が税として通行料を取るという話はあるが、健人が門に近づくまで、都市に入っていった者達は何人もいた。

 その者達も、特に通行料を払っていたようには見えず、おそらくこの衛兵たちは、完全な余所者かつ自分達よりも小柄な健人の風貌を見て、こいつなら金を絞れると踏んだのだろう。 

 行ったことのない土地に行くと毎回これである。

 はあ……。と、健人の口からため息が漏れた。

 ちなみに、今の健人は竜鱗の鎧を脱いでおり、民間人と全く変わらない服装だ。

 デイドラ刀『血髄の魔刀』とスタルリム刀『落氷涙』はボロボロになって用をなさなくなった竜鱗の鎧の一部と一緒に、外套に包んでいる。

 あの二つは異質な武器のため、目立ちすぎるからだ。

 

「ほら、さっさと払えよ。でなきゃ帰りな」

 

「もしくは、その手に持った変なものでもいいぞ。二束三文でしか売れないだろうが、通行料代わりにしておいてやる」

 

(はあ……。毎度毎度、面倒くさい……)

 

 この世界には存在しない日本人であり、ノルド達から見れば弱々しい容姿故にすっかり絡まれることに慣れてしまっている健人。

 以前の……特にソルスセイムに家出していた時なら、苛立ちから色々とトラブルに発展していたかもしれないが、今の彼にそのような気は微塵もない。

 街に入れないなら仕方ないと、踵を返して立ち去ろうとする。

 ここで時間をつぶすことに意味はないし、そろそろ日が暮れる。空を覆う雲も厚くなってきており、一雨来そうな雰囲気。

 野宿の用意が必要だ。少なくとも雨風を凌げる場所を探す必要がある。

 だが健人が立ち去ろうとしたその時、艶のある女性の声が、響いてきた。

 

「もし、すこしいいかしら?」

 

 健人が声のする方に視線を向けると、黒いローブを纏った女性が歩み寄ってきていた。

 一見すると、司祭のようないでたち。手には籠を持ち、中には青い花やキノコなど、多種多様な植物が入っている。

 背は女性にしては高く、纏うローブは全身を覆っているが、豊かな胸と長く細い足の輪郭が見て取れる。

 背の高さを考えても、蠱惑的な肢体。

 また、深々と被ったローブと、目元を覆う眼帯から顔は隠れているが、白く細い輪郭の頬は、その隠された美貌を否応なしに感じさせる。

 

「あ、あなたは……」

 

「し、知り合いなのか?」

 

 相当な美女であることを予感させる女性。

 一方、衛兵は突然現れたこの女性を知っているのか、どこか驚いた様子で彼女を見つめていた。

 

「はい、団長が気に掛けている方です。それで、彼に何か?」

 

「え゛、クレティエン団長が?」

 

「そう、か。そうなのか……」

 

「お前、苦労していたんだな……」

 

 団長という言葉に、衛兵たちが一様におののいたような表情を浮かべ、続いて健人を見つめる視線が同情的なものに変わる。さらには、元気づけるように肩を叩いてくる者も。

 一方、置いてけぼりの健人は、いったい何が起きているのかさっぱりだった。

 この女性とは面識などないし、クレティエンという人の名前も知らない。

 自分のあずかり知らぬところで推移していく事態に、唯々流される。

 

「ということで、街に入ってもよろしいですか? 彼も団長に呼ばれていますので」

 

「ああ、分かった。入っていいぞ」

 

「さ、参りましょう」

 

 あれよあれよという間に、健人は街にはいることを許された。

 眼帯の美女に連れられて門を抜けると、中央を水路で隔てられた街が目に飛び込んでくる。

 石造りの道と、木造の建造物。湖の上に建てられた街であるためか、どこか湿気が満ちているような雰囲気に包まれていた。

 

「ふう。これでいいでしょう」

 

 衛兵が門を閉めると、眼帯の美女は深く息を吐き、健人に向き直る。

 目を覆う布のおかげで感情はあまり読み取れないが、こうして近くで見ると、相当どころではない美女だった。

 これほどの女性は、健人が知る限り、義姉であるリータくらいだ。

 

「…………」

 

「余計なお世話だったかしら?」

 

 沈黙し続ける健人を前に、美女がどこか探るような言葉を放つ。

 そんなことはない。街に入ることに苦慮していたのは事実。

 健人は首を振って美女の憂慮を否定すると、礼を言うように深々と頭を下げた。

 

「そう、それは良かった。では、ついでというのなんですが、わたくしの頼みを聞いてはくださらないかしら?」

 

 眼帯の女性は上品な口調で、どこか遠慮気味に、そう言ってきた。

 頼みというのは何であろうか。

 今の健人にできることは限られるが、一応、街に入る手助けをしてもらったのだ。やることは多いが、出来る範囲で手を貸すことはやぶさかではない。

 

「私達はある商隊に属していて、今はこの街に逗留しているのですが、その団長が宿からいなくなったようなのです。ですので、その人を探して連れ帰る手伝いをしてくれませんか?」

 

(面倒な事態でないのならいいんだけど……)

 

 今のスカイリム、そしてリフトホールドの治安がどの程度であるのか健人にはわからないが、あまり時間がかかるようなことに手をこまねいている余裕は正直ない。

 宿屋や食事、なにより、路銀の問題がある。

 それに、そろそろ日が暮れる。最低限、今日の宿は確保しなければならない。最悪、野宿ということも考えられるが、せっかく街には入れたのなら、ちゃんとしたベッドで休んで、今後のことを考えたい。

 

「べつに、変な事件に巻き込まれたとかというわけではないでしょう。どちらかというと、あの方は起こす側なので……」

 

(……なんか不穏な言葉が出てきたぞ)

 

 健人の心の天秤が、一気に「手伝わない」方向に傾く。

 

「まあ、無事であることは間違いないでしょうし、行先もなんとなく想像がつきます。おそらく、この街で一番広い市場にいるでしょう。説得は私がしますし、手伝うにしても、大したことはありません」

 

(どうしよう。面倒なことこの上なさそうだけど……)

 

 ながーーーーーーい沈黙が、二人の間に流れる。

 面倒なことに関わりたくないという心と義理人情に板挟みになりながら、健人は口を真一文字に引き締めながら悩み続ける。

 そして耳が痛くなるほどの沈黙の中、彼は仕方ないというように小さく頷いた。

 

「感謝いたしますわ。それでは、参りましょう」

 

 そうして、ローブを纏う美女と並んで、健人はリフテンの中央にある市場へと続く道を歩く。

 途中、二人は廃屋と化した大きな施設を目の当たりにした。色褪せた看板には、施設の名前が刻まれている。

 

(オナーホール孤児院?)

 

「三年ほど前に閉鎖された孤児院だそうです。なんでも、経営者が殺されたとかなんとか……」

 

 孤児院という言葉に、健人はソフィと出会った頃を思い出す。たしか、孤児となっていた彼女を預ける候補が、リフテンの孤児院だったはず。

 場合によっては義妹がここに来ていたかもしれない。そうだった場合、再びソフィは路頭に迷っていただろう。

 そう考えると、健人はあの時彼女を預かってよかったと思った。少なくとも、殺しなんてドス黒い事件に関わらせなくて済んだのだから。

 崩れかけた廃屋を横目に、二人は道を進む。そして、目的地である市場に辿りついた。

 数多くの露店や店が軒を連ね、あちこちからは商人たちの威勢のいい掛け声が響いてくる。

 健人もこのスカイリムにきてから様々な街を訪れてきたが、その中でも特に熱のある市場だった。

 

「いましたわ」

 

 眼帯の女性の言葉に、健人が市場の一画に視線を向けると、市場の一画に人だかりができていた。

 

「いいぞ姉ちゃん!」

 

「おいおい、もうちょっと見せてくれたっていいだろ!?」 

 

「もうちょい、もうちょい……!」

 

 いったい何が催されているのだろうか。

 よく見ると、集まっている人たちは男性のみ。

 そして健人は男性たちの視線の先に目を向け……思わず噴き出した。

 

(……ぶ!?)

 

 人だかりの中央では、現地住民と思われる一組の男女が抱き合っていた。

 そして、その男女の前では、眼鏡をかけた壮年の女性が、画板を前に絵筆を振るっている。おそらく眼鏡の女性は絵描き、そして抱き合う男女は絵のモデルなのだろう。

 問題は、この三人が一切服を身に着けていなかったこと。

 白い肌だけでなく、豊かな胸も、隠すべきところも周囲に晒したまま。

まごうことなき全裸である、真っ裸である、裸族である。

 

「ほら、なにをしているんだい、はやく彼女の股に手を突っ込まないか!」

 

「ふざけんな! ただ二人で立っているだけじゃなかったのかよ!?」

 

「立っているだけとは言った。だがそのポーズや格好については聞かれなかったからな!確かめなかったそちらが悪い! ほらほら、そっちの彼女も、ちゃんと足を広げて!」

 

「こ、こんなの、もういや……!」

 

 嫌がる裸の男女と、そんな二人などお構いなしに体位変更を要求する痴女。よく見れば、痴女の足元に三人分の着替えが散乱していた。

 目の前の光景が信じられず、健人はおもわず天を仰ぐ。

 

(あれ? ここってタムリエルだよな? オブリビオンとかじゃないよな?)

 

「はあ……貴方はまた一体何をしているのですか?」

 

 眼帯の女性が、呆れながら痴女に声をかける。彼女の探していた『団長』とは、この痴女のことらしい。

 裸の痴女は眼帯の女性の姿を確かめると、これまたハイテンションな笑みを浮かべる。

 よく見ると、眼鏡の女性も相当な美人だ。

 背はノルドの女性よりは低いことを考えると、インペリアルかブレトン。容貌を考えるにインペリアルであろう。

 

「む? おお、迎えが来てしまったのか。仕方ない、今日はここまでにして、続きはまた明日だな」

 

「もうやるか!」

 

「アナタみたいな人、オブリビオンに落ちればいいんだわ!」

 

 モデルの二人は痴女の足元に散らかっていた自分の着替えを引っ掴むと、そのまま走り去ってしまった。

 

「やれやれ、100ゴールドも払ったのだから、裸になるくらいべつにいいだろうに」

 

「普通の人は、人前で裸になろうとは思いません。というか、どうして貴方まで裸になっているのですか?」

 

「なにって、その方が絵に熱が入るじゃないか!」

 

 眼帯の女性の問いかけに、バッと両手を広げて得意げになる痴女。

 本人が真っ裸であることも相まって、色々と見えてはいけないところがむき出しになってしまっている。

 

(とりあえず、はやく話付けてくれないかな……)

 

 色々と目に毒な光景に健人が目をそむけている中、二人の美女の話は続く。

 

「はあ……とにかく、今日はもう終わりです。戻りますよ」

 

「何を言っているんだ! 私の情熱はまだ燃えてすらいないんだよ! 不完全燃焼なんだ! このくすぶった熱を治めるには、最低一つは絵を描き切らないと……おや? その男は誰だい?」

 

 痴女の視線が、眼帯の女性の後ろに控えていた健人に向いた。

 湧き上がる嫌な予感。デイドラと遭遇した時と同じくらいの悪寒に、健人は顔を思わず顔を顰めた。

 

「貴方を連れ戻す協力を頼んだ方です」

 

「ふ~~ん……」

 

 痴女は健人の『こっちに来るな』という無言でありながら強烈な視線を完全に無視しながら、その肢体を見せつけるような足取りで彼に近づいていく。

 裸足なのにカツ、カツと甲高い音が聞こえてきそうな、完璧なモデルウォークを見せつけながら、痴女は健人の前に立つと、ジッと彼の体を舐めまわすように見つめ始めた。

 

「ふんふんふん、ほうほうほう……」

 

 ゾゾゾゾ……! と体中をヒルがはい回るような嫌悪感。

 健人は思わず目の前の女性を殴り飛ばそうになり、思わず自分の手を押さえる。

 こんな騒ぎが起きているのに、どうして憲兵は来ないのだろうか?

 覗き込んでくる痴女から逃げるように視線をさまよわせれば、市場の端でこちらの様子を窺っている憲兵たちがいた。

 しかし、その雰囲気はどこか微妙。関わりたくないという空気をこれでもかと醸し出している。

 そんな中、健人の品定めを終えた痴女が、嬉々として叫ぶ。

 

「うむ、合格! きみ、早速だが、彼女と一緒に今日の私のモデルに……」

 

「……ふっ!」

 

「あばばばばばっばばばば!」

 

 直後、眼帯の女性がかざした手から雷が走り、痴女に直撃した。

 雷の破壊魔法に撃たれた裸族は瞬く間に気絶し、地面に倒れ伏す。

 

「ふう……もうしわけありませんわ。この人、ちょっと頭がアレなので。皆様もお騒がせしました。この者は私が責任をもって連れ帰りますので」

 

「ほら、おわりだ。散れ散れ!」

 

 周囲を取り囲む群衆に向かって、深々と頭を下げる眼帯の女性。

 その声に、周囲で様子を窺っていた衛兵達がようやく割り込んできた。

取り囲んでいた男たちは心底残念そうに肩を落とすと、ぱらぱらと散っていく。

 群衆と衛兵が去ると、眼帯の女性は疲れたように嘆息を漏らす。

 

「はあ……。申し訳ないのですが、彼女の画材を宿まで運んでくれませんか?」

 

(宿……。そういえば、彼女達はこの街に滞在していると言っていた。なら、なんでこの眼帯の人は街の外に……)

 

 健人の脳裏に、彼女が手に提げていたかごの中身を思い出す。花などはまだ装飾などに使うことが考えられるが、キノコや蝶などの虫も入っていた。

 食用ではなく、錬金術などに使う素材である。

 

(この人は、錬金術師なのだろうか?)

 

 疑問は浮かぶが、いちいち尋ねるのも無粋であると考え、健人は黙って痴女の画材を運ぶ。

 そうして二人は、一人の痴女を運びながら、市場の近くの、ひときわ大きな木造の建物へと向かう。

 名前はビー・アンド・バルブ。キーラバという名のアルゴニアンが経営している宿だった。

 

「ありがとうございました」

 

「…………」

 

 引きずっていた痴女と画材を上階の部屋に押し込んだ眼帯の女性は、再びホールへと戻ると、改めて健人に礼を言う。

 女性のお礼に、健人もまた気にしないでというように、苦笑を浮かべて手を振った。

 そんな健人の返事に眼帯の女性も笑みを返すが、ここまで一言もしゃべらない健人に、さすがに怪訝な表情を浮かべる。

 とはいえ、説明しようにも筆談の道具すらない以上、会話しようがない。

 片やずっと無言の男、片や眼帯で目を覆った美しい女性。沈黙が二人の間に流れる。

 

「…………」

 

「あの……。なぜ何もおっしゃらないのですか?」

 

 奇妙な間が十秒ほど続いたところで、気まずい空気に耐えられなかった女性が尋ねてくる。

 健人は仕方ないなというように頬を掻くと、顎を上げて自分の首を指さした。

 そこにはひきつったような、黒く変色した傷跡がある。

 それでなぜ健人が喋れないかを察した女性は、眼帯の下で目を見開き、続いて痛々しそうに口元を歪めた。

 

「その傷は……。申し訳ありません、話さないのではなく、話すことができなかったのですね」

 

 謝罪をしてくる女性に、健人は再び苦笑を浮かべて手を振る。

 声を失ったことは確かに残念だが、後悔はないのだ。気にしてほしくないのは、間違いなく本心である。

 

「……少しお待ちを」

 

 そんな中、女性は今一度上階へと向かうと、何かを手に持って戻ってきた。

 

「これを。貴方には多分、必要かと思いますので……」

 

 そう言って眼帯の女性は、一枚の板と小さな箱を健人に手渡す。

 それは、小さな、二の腕ほどの大きさの手作りの黒板だった。箱の中には、白墨が数本入っている。

 いいのだろうか?

 黒板は日本ではありふれたものだが、当然、全て手作りのこの世界では貴重品だ。

 すくなくとも、数十ゴールドはする品。荷物を運んだ程度の手伝いでもらえるようなものではないはず。

 健人が受け取るのに逡巡していると、上階へと続く階段から、一人の女性が降りてきた。

 眼鏡をかけた妙齢の美女。先ほど、眼帯の女性が部屋に押し込んだ痴女だった。

 さすがにもう服は着ているが、全身から漂う残念臭は変わらず。気だるい気配を纏いながら、眼帯の女性へと歩み寄っていく。

 

「ううう、酷いじゃないかセラーナ、いきなり破壊魔法を撃ってくるなんて」

 

「貴方が素直に帰ってくれれば、こんなことにはなっていませんわ」

 

「お、そっちはさっきのモデル君だね。私が目を覚ますまで待っているとは殊勝じゃないか! それではさっそく創作の続きを……」

 

 シレっと眼帯の女性が文句を受け流す中、痴女は再び健人に迫る。

 しかし、今度も眼帯の女性が健人と痴女の間に割って入ってきた。

 

「いい加減になさってください」

 

「やれやれ、うちの姫様はどうしてこう芸術に対して理解がないのか……。あれ? その黒板は……」

 

 痴女の視線が、健人が持つ黒板に向く。

 

「貴方がもういらないと言っていたものです。この方は喋れないようですし、お渡ししてもいいでしょう?」

 

「まあ、確かに使い古したものだから構わないが、タダで渡すというのもなぁ。よし、私のモデルになったらあげよう! どうだい……って、速攻で返すのかい!?」

 

 痴女の要求に、健人は渡された黒板を即返す。確かに必要なものではあるが、代償があまりにも大きすぎた。公然猥褻物になるなどごめんである。

 そんな中、眼帯の女性が再び痴女に圧をかける。

 

「クレティエン……?」

 

「う……わ、わかった。確かに捨てようと思っていたものだし、あげるよ」

 

「はあ……申し訳ありません。この人、本当にどうしようもない人で……」

 

(いえいえ、貴方のせいではありませんよ。本当に苦労をお察しします……)

 

 互いに視線を交わし、肩を落とす。

 出会ってから一時間足らずだというのに、二人の間には既に奇妙な連帯感が生まれつつあった。

 とはいえ、さすがにそろそろ日が落ちる。

 今の健人は無一文であるため、ボロボロになったドラゴンスケールの鎧に使われていた竜の鱗を売る必要がある。

 そのためには、もう一度市場に戻る必要があるのだが……。

 

「ふむ、まあ、この街に来たばかりで、その恰好となると、あまり持ち合わせはないのだな? どうやって路銀を得るつもりだったのだ?」

 

 意外と鋭い痴女の質問に、健人はマントにくるんでいた竜鱗を出す。

 個数としては三、四個。状態としてもまだマシなものを、鎧から剝いできたものだ。それでもあちこちひびが入り、防具の素材としては役には立たないだろう。

 

「ふむ、なるほど。ドラゴンの鱗か。これなら、それなりの値段になるだろう」

 

 近年復活したドラゴンは、魔法の真言を操る強大な存在。当然、その素材など、めったに出回らない。

 素材自体の希少性も相まって、防具の素材としては使えなくても、買い手はいるらしい。

 

「ふむ、なら、黒板とこの鱗一枚と交換にしてくれないか? ドラゴンの素材となれば、芸術の素材としてはいいだろう」

 

 そんなこんなで、結局竜の鱗と黒板をトレードすることになった。

 健人は黒板の代金として、竜の鱗を二枚眼帯の女性に手渡す。

 

「……なんで彼女に渡すんだい? というか、二枚?」

 

 この痴女と関わりたくないからである。正直触れたくもない。

 美人なのに、性格があまりにも汚すぎる。

 ちなみにもう一枚はここまで案内してくれた眼帯の女性へのお礼である。

 健人は努めて痴女からは視線を外したまま、今しがた受け取ったばかりの黒板に文字を書き、そして眼帯の女性に見せる。

 

『ありがとう。助かりました、もう一枚は、あなたへのお礼です』

 

 伝えたのはお礼の言葉。眼帯の女性は一瞬驚いたような表情を浮かべるも、静かに笑みを浮かべる。

 

「いえ、こちらこそ。しかし、これは流石に受け取り過ぎですね」

 

 そして、健人はお釣りとしていくらかのゴールドを受け取ると、彼女達と同じビー・アンド・バルブに部屋を取った。

 

「君、これも何かの縁だ。すこし、飲んで話をしないか? もちろん奢るし、なんならそれ以外にちょっとした謝礼もあげるよ?」

 

 これ見よがしに胸元を強調しながら、セプティム金貨を谷間に入れて健人を誘惑しようとする痴女。金と色で釣ろうとする当たり、随分と節操がない人物である。

 もっとも、節操があるなら、最初から公衆の面前でヌード写影などしないだろう。

 

『嫌です』

 

 当然、健人は速攻で拒否する。

 これが、彼がクレティエン率いる娼婦旅団。そして、吸血鬼の姫とスカイリムを襲う危機に巻き込まれていく序章であった。

 

 




ということで、ドーンガード編の前日譚です。
すでにDLCのストーリーラインから逸脱している事態!
読者さんたち置いてけぼりになってないといいけど……。



以下、登場人物紹介

坂上健人
ドーンガード編の主人公。
アルドゥインと対を成すドラゴンボーンであり、人知れず世界を救った英雄。
声を失った状態でリフトホールドに辿りつき、ハーフィンガルへ帰るための路銀や移動手段を模索中。
コミュニケーション手段として黒板と白墨を手に入れた。

眼帯の女性
ローブを深く被り、眼帯で目を覆った女性。
顔の半分近くが隠れているが、隠し切れない美貌を持つ人物。
ドーンガード編のヒロインであり、後述するクレティエン・キュリオが率いる娼婦旅団『蒼の艶百合』で錬金術師として働いている。
名前はセラーナ。
そう、スカイリムをプレイした人なら知らぬ者はいないほどの有名人である吸血姫その人である。
本来ならディムホロウ洞窟で封印されているはずの彼女がなぜ既に復活しているのか、どうしてクレティエン達と同道しているのかは、本編にて。

クレティエン・キュリオ
ドーンガード編のオリジナルキャラ。
インペリアルの貴族の女性。都市は二十半ばから後半。
キュリオ家の人間で、芸術の神ディベラを信仰しており、本人曰くもっとも敬虔な信徒の一人。(しかしやっていることはシェオゴラス信者、もしくはサングイン信者のそれ)
キュリオの名前は、TESシリーズをやったことのある人には聞き覚えがあるだろう。アルゴニアンの侍女の著者の家名である。
芸術と性癖に全ぶりした人物であり、その上権力も金もある厄介な人。
人の裸体を描くことを生きがいとしており、裸婦画や春画、その手の彫刻、像などで高い評価を受けている。
現在は娼婦旅団の頭目をしており、見目麗しい少女達と共に各地を転々としながら、絡み合う男女を描く創作活動をしている。
健人を一目見て気に入り、自分の芸術活動のために勧誘。彼の失われた声の代わりに、筆談に使われる黒板と白墨は、元々彼女のもの。


娼婦旅団『蒼の艶百合』
スカイリム各地を旅しながら、春を売る少女たちの旅団。
団長はクレティエン・キュリオ。


オナーホール孤児院
ゲーム本編でも色々と問題視されていた孤児院。
経営者の死亡により、既に廃墟になっている。

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