【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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久しぶりの投稿。


第三話 踊る娼婦達

 夜の帳が降りると、蒼の艶百合のテントの前には、多くの男たちが集まってきていた。

 ホール用の大テントの中には、既に酒を飲み始めている客もいる。陽が落ちてから半刻もたたないうちに、テントには二十数人の男たちが詰めかけていた。

 男たちが最初に手を付けるのは、料理と酒だ。飲んで食ってエネルギーを蓄えてから、女を抱く。

 売れっ子の娼婦であるレキナラやメリエルナだけでなく、他の娘たちもすでに積極的に男達にその美貌を男達に見せびらかし、酌をしながら誘惑している。

 一方、健人は裏手の仕事をひたすらこなしていた。

 料理、皿洗い、大テント内を温める薪の追加等々……。仕事は絶え間なくあり、休む暇もない。

 消費される食糧も膨大だ。パン、肉、野菜、そして酒。それらがあっという間に消費されていく。

 

「追加のスープとパン、それから、鹿肉のステーキも焼いて!」

 

「パンを六個ちょうだい! それから、アルトワイン五本!」

 

「あれ? ねえ、蜂蜜酒の予備は!?」

 

「ちょっと、このワイン、温まってないよ!?」

 

 次々と来る追加オーダーに、見習いの娘たちもてんやわんやといった様子。何人もの少女たちが、バタバタと炊事場内を行き来している。

 健人は追加の薪を切り続けながら、忙しそうな彼女達を横目で眺めていた。

 

(……ん?)

 

 そんな中、ふと視線を感じて顔を上げると、黒ローブを纏った女性が離れたテントのそばからこちらを見ていた。

 

(セラーナさん?)

 

 ジッと炊事場の様子をうかがっていた彼女は、健人の視線に気づくとスッと視線をそらし、自分のテントへと戻っていく。

 錬金術で薬を作っている彼女のテントは、他の娼婦のテントと比べても二回り以上大きい。素材の保管場所や錬金台などを設置する必要があるからだろう。

 しかし、健人が気になるのは、彼女の態度。以前から感じていたが、初めて出会った時と比べ、明らかに隔意がある。

 侮られたり、畏れられたりするのは多少慣れたとはいえ、それでも避けられ続けるというのは、あまり気分のいいものではない。

 しばらくはこの旅団にはお世話になるのだから、健人としてはできるだけ不和の種は取っておきたいのだが……。

 

「ケント、ちょっといいかい?」

 

 そんなところに、団長であるクレティエンが声を掛けてきた。

 彼女は両手に画材や画板を抱えている。これから芸術活動にいそしむつもりなのだろう。

 その辺りは特に問題はない。いや、男女の営みの中に突撃しようとしていることが問題ないのかと言われると困るが、互いに合意ができているなら、それ以上第三者がとやかく言う必要はない。

 

 ただ……既に全裸になっているところはいただけない。

 

 なんでこの女はもう痴女モードに入っているのだろう。

 まあ、確かに初めて会ったときはすでに全裸だったが、それにしたって理性が緩すぎる。

 

(どうにも、雰囲気がカシトによく似ているんだよな……特に人の話を聞かないところとか)

 

 カジートの親友を思い出しながら、健人は改めてクレティエンの様子を窺う。

 この人物の強引さと後先考えない無軌道さを見せつけられた健人としては、一抹の不安を抱かずにはいられない。

 健人はひきつる口元を必死に抑え込みながら、努めてクレティエンに目を合わせないようにしつつ、黒板に文字を書いて掲げる。

 

『なんですか?』

 

「これから忙しくなるんだけど、ちょっと薬が足りないんだ。悪いけど、セラーナのところを手伝ってもらえないか?」

 

 とはいえ、用事があるのは本当らしい。

 実際、錬金術の手伝いも契約の際の仕事となっていた。

 とはいえ、どこまでやっていいのか健人としても不明。

 

(初日から新人にこんなに色々な仕事をさせていいのだろうか? 多分、試されているんだろうけど……)

 

『分かりました。何の薬ですか?』

 

「避妊薬さ。一応、こんな仕事をしているんだ。子供ができてしまったら、色々と大変だろう?」

 

(避妊薬……。そういう薬ってこの世界でもあるんだ……)

 

 確かに、この手の類の仕事には欠かせない物だ。安全性や確実性も含め、錬金術を嗜んだ者としても、気にはなる。その薬に付随する行為に関しては何とも言えないが……。

 とりあえず、持っていた斧を手近にある木に立てかけ、健人はセラーナのテントへと向かった。

 歩きながらクレティエンの真意に考えを巡らせる。

 性格はかなり難ありだが、少なくともこれだけの集団をまとめている事実を考えれば、人望も含め、有能な人物であるのは間違いないのだろう。

 とはいえ、注意しておくに越したことはない。一般大衆の前で芸術と称した露出プレイを強要していたのだ。まともな感性の持ち主ではない。

 それが、自身に被害が及ぶ可能性があるというならなおさら。実際、彼女は健人をヌードモデルにしようとしたし、今でも諦めていない様子。

 しかし、仕事は仕事。クレティエンへの疑問は他所に置き、健人はセラーナのテントを目指す。

 

(まあ、セラーナさんのことも気にはなっていたから、ちょうどいいと言えばいいのかな?)

 

 元々健人の容姿はタムリエルに住むどの人種とも似通っていないし、今は失声の障害者。偏見を持つ者に避けられることは理解しているが、その理由を差し置いても、どうにも気にはなる。

 それが何故かといわれると、健人自身上手く説明はできないのだが……。

 そうこうしている間に、健人はセラーナのテントに到着した。

 茶色にくすんだ布地の奥からは、錬金術特有の鼻に突く、青臭い匂いが漏れてくる。

 よく嗅いだ、懐かしい匂い。健人は導かれるようにテントの入り口に手をかけ、中に入る。

 テントの中には錬金台と、小さなテーブル、そして薬瓶や素材が数多く納められた棚がある。錬金台の上には火が灯され、ガラス瓶の中に収められた薬液がこぽこぽと泡を立てていた。

 ほかにも剥き出しの地面にはシート代わりの毛皮が広げられ、その上に寝るためのベッドロールが敷かれている。

 そしてテントの主であるセラーナは錬金台のそばでごそごそと何かをしていた。

 一体何をしているのか。興味本位で健人が近づこうとしたところで、テントに入ってきた気配に気づいた彼女が振り返る。

 

「っ! 誰ですか!?」

 

 その強い声色に、健人は首とかしげる。よく見れば、付けている眼帯が取れかかっていた。ずり落ちそうな眼帯を、彼女は慌てて整える。

 

(取れそうだったのか? いや、眼帯をズラして何かを探していた……?)

 

『薬を作るのを手伝うように言われたんですけど』

 

 とりあえず、健人は要件を腰に下げた黒板に書いて掲げる。

 

「あ、ああ。そうなのですか。助かりますが、既に作り終えてしまいました」

 

 セラーナは少し慌てた様子でずれていた眼帯を戻すと、そそくさと健人の脇を抜けて棚へと近づく。そして、がさごそと棚の中から同じ形の小瓶を幾つも取り出し始めた。

 その数、二十個ほど。

 彼女は薬を取り出し終わると、いそいそと薬瓶を抱え始めた。

 これから、各々の娼婦に薬を配りに行くつもりなのだろう。だが、どうにもその手つきは危なっかしい。

 瓶の数も多いことを考えれば、彼女一人で運ぶのは中々に手間だろう。

 

『手伝います』

 

「しかし……」

 

 健人が黒板をセラーナの目の前に掲げるが、彼女の声色にはやはり隔意が漂っていた。遠慮しがちな声を漏らすセラーナをよそに、健人は薬瓶を手に取る。

 

「……では、行きましょう」

 

 少々強引な健人の行動に、セラーナは諦めたかのように小さくため息を漏らして、テントの外へと出ていった。

 健人もまた彼女の後を追い、天幕を後にする。

 

「彼女達は今、男達を接待するために母屋のテントにいます。その間に、個別のテントに薬を届けておきましょう」

 

 セラーナと手分けして、娼婦たちのテントに薬を配っていく。

 サクサクと落ち葉を踏みしめながら、各々のテントを回って薬の瓶を配り終えると、母屋のテントから喧騒が響いてきた。

 

「そろそろ、宴もたけなわ、といったところでしょうか」

 

 薬を配り終えたセラーナが戻ってきて、そんな言葉を口にする。

 母屋のテントへの入口は前後に二つ設けられており、健人たちがいる場所からも、中の様子をわずかに覗くことができた。

 歌と音楽に合わせて踊る女達と、そんな彼女達に情熱的な賛美を送る男達。

 歌っているのはメリエルナ、踊りを披露しているのはレキーナだ。

 メリエルナはその深層の令嬢のような貴族然とした見た目とは裏腹に、情熱的な歌詞と美声を披露し、レキーナもまた彼女の歌に合わせて、躍動感あふれる肢体で男達を魅了している。

 

(あれは……)

 

 そんな中、健人の目に、メリエルナの傍で音楽を奏でる、一人の少女が目に留まった。

 十二から十四歳くらいの、金髪の少女。ルナ・フォアシールドだ。

 彼女は、白くきらびやかなドレスを纏い、リュートを弾いていた。

 音楽を奏でている女性は彼女以外にもいるが、ルナが纏う雰囲気は、他の者達とは一風変わっていた。

 他の女性達が騒ぐ男達に誘うような目配せをする中、一人だけ周囲の喧騒を無視するように瞑目している。

 まるで、自らが奏でる音だけに耳を傾けているかのように。

 実際、客として集まった男達の中の何人かは、ルナに視線を向けていたが、彼女は完全に無視している。

 それ以上に驚くのは、彼女が奏でる音色の繊細さと力強さ。突き放すような本人の雰囲気とは裏腹に、耳の奥にスッと入り、そして胸の奥に何かを訴えかけてくる。

 音楽に関しては素人の健人にも、思わず聞き入ってしまうような旋律だった。

 

「驚きましたか? ルナはかなり優れた演者です。特にリュートなどの弦楽器の才は、あのクレティエンが認めるほどです」

 

 横で健人と同じように音楽を聴いていたセラーナの言葉に、思わず頷く。

 穢れのない純白の衣装と、他の者よりも一回り幼い容姿。そして本人が周囲を拒絶しながらも、聞き入らずにはいられないほどの旋律。

 その全てがまるで奇跡のようにかみ合い、年不相応の色気を漂わせていた。

 

(なるほど、確かにあの全裸団長、人の才を見抜く目は確かなのか……)

 

 そんな中、メリエルナの歌が佳境を迎える。

 薄青髪の麗しい女の美声が、いっそう情熱的に詞を紡ぐ中、ルナのリュートのみが、メリエルナの歌に合わせて音楽を奏で始めた。他の楽器を演奏していた女性達は手を止め、二人の競演を見守る側になっている。

 これには健人も驚く。もっとも曲が盛り上がるところで、ソロパートを任せられているからだ。

 客の男達も、いつの間にか騒ぐことを忘れ、メリエルナの歌とルナの旋律に聞き入っている。

 そして、二人の曲が終わった。

 しばしの間、シーンと静寂が流れ、続いて歓声と拍手が爆発した。

 喝采を浴びながら、女性達は男と達の元へと戻っていく

 男達は娼婦達を出迎えると、その手や胸元に金貨を差し入れ始めた。女たちも、気のいい笑顔で男達と談笑している。

 そして幾人かの女性たちは男たちと共に席を立った。おそらく彼女達はこれから、自分たちの個別テントで愛を交わすのだろう。

 そんな中、ルナだけは他の女性たちの陰に隠れるように、テントの外へと出ていった。

 

「……そろそろ行きましょう」

 

 セラーナの声に、健人は小さく頷く。

 既に薬も各テントに配り終えている。健人達が離れると、次々に大テントの中にいた人達が外に出てきた。

 ペアになって、個別テントに向かう者。お相手が見つからなかったのか、少し残念そうにしながらも、『次こそは!』と意気込みながら、ほろ酔い気分で街の方へと向かう者。

 そんな中、絹を裂くような大声が木霊した。

 

「触らないでよ!」

 

 突然響いた大声。驚きながらも、健人が声の聞こえてきた方に目を向けると、三人の男達が、白い衣装を纏った少女を囲んでいた。

 

 




お久しぶりです、cadetです。
書籍の方が一段落しましたので、チョコチョコ書いていたものを纏めて投稿します。
今回は少し短め。
以下、登場人物紹介

ルナ・フェア・シールド
実は、かなりの音楽の才能を持つ少女。特に弦楽器が得意としている。
クレティエンがその才能を見抜き、教えることで僅か一年にして、その才の片鱗を見せ始めている。

坂上健人
とりあえず、娼婦旅団の下働きをきっちりこなす主人公。
団長に親友と似た雰囲気を感じ、既に言葉による説得を諦めている。
ただし、こちらに手を出して来たら、力づくで制圧するつもり満々。そのあたりは遠慮する気はない。

セラーナ
皆さんご存知、吸血鬼のお姫様。
健人が団員になって以降、どうも彼を警戒している様子。

クレティエン
相も変わらず全裸な団長様
しかし、人の才能。とりわけ、芸術の才を見抜く目は確かで、そのあたりは流石ディベラ信者と言える。ついでに、性に奔放なところも。

三人の男達
娼婦旅団に来ていた客。
詳細は次話で。
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