【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第九話 集落探索

 牢を抜け出した健人は慎重に、階段を進む。

 目的は周囲の地形の把握と、蒼の艶百合を始めとした、捕らえられている人たちの居場所の確認。

 階段を上がると、正面の扉、右隣に螺旋階段が目に入った。

 扉の横には武器棚が並んでおり、鋼鉄製の片手剣や両手剣などが立てかけられている。

 健人は武器棚の片手剣一本を拝借し、正面の扉に耳を当てると、風の音と男達の喧騒が聞こえてきた。僅かにドアを開けて隙間を覗く。

 既に夕方なのか、針葉樹の森の空は赤く染まり、黄昏が山賊たちの集落を照らしていた。

 手前の広間には、商人達の馬車が十台ほど並び、その左には同じ形をした石造りの建物が三つと、木製の二階建ての建物と厩が建っていた

 二階建ての建物の方は窓が複数あり、どこか寮や集合住宅を思わせる。

 そして、十人ほどの男達が馬車から荷を下ろし、一番右端の石造りの建物の中へと運び入れていた。

 

(あの石造りの建物は倉庫か? じゃあ、あっちの木造の建物が山賊たちの詰め所かな?)

 

 今のところ、扉の前に見張りはいない。おそらく、荷の運搬を手伝っているのか、他の場所に出払っているのだろう。

 健人はそっと扉を開き、行きかう男達に見つからないよう、近くの藪の陰に身を潜ませた。男達の会話が聞こえてくる。

 

「へへ、今日も大量だな」

 

「ああ、最近あんまり獲物が多いから、倉庫をまた造ることになったくらいだしな」

 

「前に襲った時の荷はどうしたんだ?」

 

「別の倉庫の中さ。まだ受け取りに来れないらしい」

 

 やがて最後に荷を倉庫の中に運び終えると、男達の一人が「ん~~!」と背伸びをする。

 

「よし、これで終わりだな。じゃあ、俺は帰るぜ」

 

「ちぇ、女がいる奴はいいよな……」

 

 この男はどうやら、家が集落の方にあるらしい。

 そして、妻がいるのだろう。長い間家を空けていたこともあるのか、遠目から見てもウキウキしている様子が見える。

 柔和な笑顔を浮かべる様子は、とても略奪をやってきたとは思えない。ごく普通の男達の仕事終わりの光景に、健人は思わず茂みの影で眉を顰めた。

 

「不貞腐れるな。今日攫ってきた女達は随分と器量よしばかりじゃないか。味見もできたんだろ?」

 

「ま、まあそうだし、良かったんだが、ちょっと……な?」

 

 男達は最後に馬車を集合住宅横に並べると、馬を馬車から外して厩へと運び入れていく。馬もこの世界では貴重な財産だ。当然、下手に扱うことはしない。

 その後、男達は二組に分かれると、集落に戻る組はそのまま帰り、この場に残る組は木造の集合住宅の中へと入っていった。

 男達が消えると、健人は静かに倉庫前へと忍び寄ると、扉に手をかける。

あまり長時間は牢屋を空けられない。

 脱出するのにどれほど時間が掛かるかもわからないのだ。見張りが戻ってくる前には、牢屋に戻っている必要がある。

 

(……やっぱり、鍵はかかっているか)

 

 ロックピックで開錠を試みてみるが、倉庫の錠はかなり複雑な造りをしていた。簡単には開きそうはない。貴重な時間をここで使うわけにもいかず、健人は早々に開錠を諦めた。

 その時、地面できらりと光る砂粒のようなものが入る。

 

(……銀?)

 

 それは、銀の鉱石の欠片だった。健人と脳裏に、メリエルナとの会話が蘇る。

 ストームクロークと帝国の停戦条件。マルカルスの銀を半分ストームクロークに渡すという約定が、最近揺らいでいるという話だ。

 

(ここの山賊か。ストームクロークの銀を横取りしている連中は)

 

 健人は改めて、ここにいるのは普通の山賊たちではないと感じた。

 彼は警戒をさらに強めると倉庫の脇を抜け、集落を見下ろす。

 既に家々には、夕食のための明かりが皓々と焚かれていた。

 そんな中、中央の広場に人だかりができているのに気付く。

 

(なんだ……?)

 

 遠目から見た感じでは、今回連れてこられた人達が十数人ほど集められていた。

 もしかしたら、暴行を受けているのかもしれない。

 健人は息を殺しながら家々の隙間を縫うように進み、広場に近づくと、影から様子を窺う。黄昏時ということで、集落のあちこちは影に覆われている。隠れるには悪くない状況だ。

 

「よくも今まで偉そうな面でこき使ってくれたな!」

 

「ぐえ……!」

 

「いいぞ!」

 

「やれやれ!」

 

 しかし、広場の状況は健人が予想したものとは違っていた。

 殴っているのも、殴られているのも、同じ商隊の人間。

 よく見ると、商人と丁稚。捕まる前は、雇う側と雇われる側だった者達だ。

 

「はあ、はあ、はあ……!」

 

「よくやった、これでお前は俺達の兄弟だ! ほら、こいつはもう要らないな?」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

「いいさ。俺も以前はこんな欲塗れの商人に使い潰されかけたんだ。お前の気持ちはよくわかるぜ」

 

 山賊と集落の者達は、かつての雇い主を殴り終えた丁稚をねぎらい、その拘束を解いていく。

 これは私刑ではない。儀式だ。

まっとうに生きていた者達が、山賊の仲間になるための通過儀式。

 異なる二つの人間の仲を取り持つ最も簡単な方法は、共通の敵を作り上げること。

 こうして衆人前で以前の主を殴らせ、彼らが抵抗する理由と意思を固めさせ、自分達側に完全に引き込んでいるのだろう。

 そして一人の通過儀式が終わると、次の虜囚が連れてこられる。そして、また罵声と共に、商人が殴られ始めた。

 健人は一旦広場の状況を脇に置き、近くにいた山賊たちの会話に耳を傾ける。

 

「また仲間が増えたな」

 

「ああ、それに今回の襲撃もほとんどケガ人がでていない。さすがは頭領とサージさんだよな。あの二人が指揮を執ると、こんなに簡単に終わる」

 

「サージさん曰く、あんな商隊は所詮寄せ集めだから、警備には大体穴があるらしい」

 

 そのまま山賊たちは、サージ達がどうして商隊の監視網を突破できたのかを話し始めた。

 寄せ集め、かつ大規模な商隊は、時に護衛の数が足りない場合がある。

 これは、商人達が護衛を雇う金をケチったり、そもそも最初から集まらなかったりと理由は様々。

 だが、最終的に足りない人員を他から補おうとして、商人達は自分の丁稚に見張りを命じることがある。

 そのような見張りは、総じて士気が低く、肝心の見張りもおざなりになる。

 しかも今回、蒼の艶百合が同行したことにより、勝手に持ち場を離れた丁稚もいたとのこと。

 そんな穴があれば、容易く制圧されるのも無理はない。

 

「もっとも、穴があるからって、ここまで完璧に実行できるかは別問題だがな」

 

「まあ、そうだな。俺には無理だ」

 

(なるほど。とりあえず、どうして商隊の護衛達が簡単に負けたのは分かった)

 

 同時に、本当に時間が限られていることも。

 先の儀式の様子を見ればわかるが、商隊の中で最も数が多かったのは、商人達の丁稚だ。

 この先、自分達が奴隷となることを聞かされれば、わが身可愛さに山賊側となる者達も増えていくだろう。

 そうなったら、脱出はさらに面倒なことになる。

 

(集落の様子と、馬車の場所は確認できた。後は、セラーナさんやルナたちの居場所か……)

 

 健人は儀式が終わる前に、静かに来た道を戻り始める。

 残るは、娼婦たちの居場所だ。

 おそらくは、捕らえられていた塔の別階にいるだろう。

 理由は、山賊たちのマンパワーの問題だ。

 いくら大規模な山賊団とはいえ、商隊は百人近くいたのだ。当然、監視するには相応の数の目がいる。それを考えれば、一か所に集めておくのが妥当だ。

 健人はとりあえず茂みから出て、元来た道を戻り、一度塔の中に入ろうとするが……。

 

(っ!?)

 

 塔の入口の扉を開いて出てきた三人に、思わず足を止め、倉庫の陰に隠れて息を殺した。

 出てきたのは山賊長の副官サージ、そして付き人のサミュエルとロアー。

 

「お疲れさまでした、サージさん」

 

「これからどうしますか?」

 

「今日はもう終わりです。部屋に戻りなさい。私も家に戻ります」

 

(あれは、俺の外套……)

 

 サージは小脇に、見覚えのある外套を抱えていた。健人の外套だ。

 おそらく、彼の愛刀も包まれたままだろう。

 健人としては、てっきり山賊の倉庫にしまわれたと思っていたが、どうやらあの副官が持ち出していたらしい。

 困ったことになった。

 一応、拝借した鋼鉄製の片手剣があるが、やはりあの剣は取り返しておきたい。

 その時、サージの視線が、健人の隠れている物陰に向いた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に身を潜ませる。

 気づかれた? 可能な限り息を殺し、自身を影と同化させる。

 今見つかるわけにはいかない。師であるデルフィンならたとえ衆目に晒されていても姿を消すことができるが、生憎と健人にそれほどの技量はないのだ。

 見つかれば、騒ぎになることは避けられない。

 

「サージさん、どうかしましたか?」

 

「…………」

 

 ロアーの声を無視し、サージは健人がいる物陰に向って踏み出す。

 見つかる……!

 サクサクと、徐々に大きくなってくる足音に最悪の事態を想像し、健人は脇に携えた鉄の剣を握りしめた。

 だが、サージが物陰まであと数メートルというところで、気の抜けた声が響く。

 

「ふう、すっきりしたぜ……うえ!? さ、サージさん、お疲れ様です!」

 

 突然、厩の脇の草陰から、山賊が一人姿を現した。

 顔をニヤつかせていた山賊はサージの姿を見て、慌てて表情を引き締める。

 

「貴方は、確かここに残っていた待機組のメンバーですね。それで、また地下牢に行っていたのですか?」

 

「え、ええ、まあ……」

 

「仕事は終わらせたのでしょうね?」

 

 詰問するようなサージの鋭い視線に、山賊は額に汗を浮かべる。

 

「も、もちろんです! サージさんも下に用事で?」

 

「……いえ、私はありません。もう帰るところです。それでは今日はこれで」

 

 そう言うと、サージは健人がいる物陰を確かめることなく去っていった。

 遠ざかっていく足音に健人は倉庫の端で安堵の息を漏らし、再び物陰から広間の様子を伺う。

 一方、サージを前に卑屈に笑っていた山賊は彼の姿が見えなくなると、不愉快そうにサミュエルとロアーを睨みつけた。

 

「おい、サミュエル、ロアー。お前ら、夕飯の支度はできたのか? お前らの仕事だろうが」

 

「え? あ、いえまだ……」

 

「もう飯だろうが、なに油ってやがる!」

 

「でも俺達、サージさんの手伝いで……ぐえ!?」

 

 サミュエルが何か説明をする前に、山賊はサミュエルの腹を蹴り飛ばした。

 

「ああ? 言い訳してんじゃねえよ! それも考えて仕事するのは当然だろうが、この役立たず」

 

「あが!?」

 

 山賊は続いてロアーも殴り飛ばす。

 随分と癇癖の強い男だ。暴力を振るわれた二人は、身を縮め、ひたすらに謝り倒している。

 サミュエルとロアーをひとしきり殴り終えると、男は満足したように息を吐く。

 

「ふう、分かったらさっさと用意しろ! この役立たずども!」

 

 そして、二人を小突き回しながら、木製の集合住宅へと消えていった。

 なるほど、新米がいびられるのは、この世界でも同じらしい。

 健人は三人がいなくなったことを確かめると、健人は物陰から出て、先ほど山賊の男が出てきた厩の影を覗き込む。

 

(これは……扉?)

 

 そこには、木製の扉が地面に張り付いていた。

 開いてみると、地下への階段が続いている。

 

(もう一つの地下室?)

 

 健人は足を忍ばせながら、ゆっくりと階段を下りていく。

 漂ってくるのはすえた臭いと性臭。そして、僅かな呻き声。

 階段が終わると、そこにはやはり、健人達が閉じこめられていた場所と同じような地下牢が複数存在していた。

 ただ、その様相は、健人達の牢よりもひどい。

 囚われているのはほとんどが女性だが、皆精気がなく、虚ろな様子で天井を見上げたり、ブツブツと声にならない独り言をつぶやいている。

 中には、ガリガリと自分の体を引っかいたり、自傷行為を行ったりしている者もいた。

 各牢には申し訳程度の干し草が敷かれているが、あちこちカビが生えて腐りかけている。

 石床に放られている皿にも、芽の生えたジャガイモやしなびたニンジンなど、食べるには向かないものしか入っていなかった。

 なによりも、漂う強烈な臭い、そして直前にここから出てきた山賊の言葉から、彼女達がいったい何をされていたのかが容易に想像がつく。

 そして、どうして彼女達がここに閉じ込められているのかも。

 

(なるほど、奴隷にはされなかったが、山賊の仲間にもならなかった人達か……)

 

 山賊たちの欲の解消、そして信賞必罰を示すために残された生贄。山賊という集団を団結させるための犠牲。ある意味、先ほど集落の広場で行われていた儀式の犠牲者たちと同じだ。

 間違いなく、この山賊は碌な集団ではない。

 同時に、一刻も早くここから脱出する必要があることを再認識しつつ、健人はこの牢屋を後にしようとする。

 その時、近くの牢屋につながれていた女性と目が合った。

 

「ヒュー、ヒュー……」

 

 見たところ、二十代から三十代のインペリアルの女性だ。

 かなり長い時間ここに閉じ込められているのか、他の女性達よりも衰弱が酷いように思える。

 しかし、やせ細った容貌とは裏腹に、その瞳には強い光を帯びていた。

 その目に導かれるように、健人は彼女の牢の鍵を開け、静かに傍に近寄る。

 そして、少し前にアグミルにも与えたものと同じ薬を、乾ききってひび割れた彼女の口に近づけた。

 ボロボロの女性は僅かに咽つつも、健人の薬を舐めるようにゆっくりと嚥下していく。土気色だった顔色が、少し赤みを取り戻してくれた。

 

「あなた、あの男達の仲間じゃ、ないんですか?」

 

 消えそうなほど小さく、掠れる彼女の言葉に健人は頷く。

 インペリアルの女性は体を起こそうとするが、手足に力が入らず、すぐに干し草の上に倒れ込んだ。薬のおかげで多少回復しても、元々の衰弱が酷いのだ。今すぐ動くのは無理である。

 

「帰らないと、帰らないと……あの子達が……げほ、げほ!」

 

『今すぐ動くのは無理です。しばらくは大人しくしてください』

 

 健人が黒板で大人しくするよう言い含める。すると、女性はガシッと健人の二の腕につかみかかってきた。

 見上げてくる瞳に宿る懇願。続く言葉に、彼は僅かに目を細めた。

 

「私は、コンスタンス・ミッシェル。お願いします……あの子達を、助けて、ください」

 

 

 

 




今回はちょっと短めでした。
主人公、久しぶりの隠形。
師匠であるデルフィンには遠く及ばず、危険な場面もあるが、それでもそこそこの練度はある。

以下、登場人物紹介

コンスタンス・ミッシェル
かつてオナーホール孤児院で働いていたインペリアル。
虐待されていた孤児たちにもきちんと優しさをもって接していたが、グレロッドの横暴を止めることはできなかった。
グレロッド死後、孤児院の経営を引き継ぐが、首長からの運営費が削られたことで一気に困窮する。
じつは運営費が削られたのは、ウィンドヘルムがドラゴンの襲撃で大被害を被り、その復興の為にウルフリックが協力してくれるホールドに援助を頼んだから。
コンスタンス・ミッシェルは運営費を戻してくれるようリフトの首長に頼むも断られ、その後、どうにか資金を募ろうと奔走中に山賊に攫われる。
以後、二年近く山賊の集落で囚われの身に。
度重なる暴行を受け、非常に衰弱した状態で健人に発見される。
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