【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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集落探索の続きです。


第十話 集落探索 その2

 

 ダークライトタワーを出てサミュエル達と分かれたサージは独り、集落から少し離れた小屋へと戻ってきた。

 内装は簡素で、小さな棚と机、そして暖炉とベッドのみ。

 彼は来ていた鎧を脱いで小屋の端に置くと、暖炉に火をつける。

 机の上の皿には、芯だけになったリンゴが黒ずんだまま放置されていた。床には土埃が溜まり、室内は澱んだ空気に満ちている。

 薄汚れ、生活感の失われた部屋。その中で、ベッド脇の棚の上だけが、妙に小綺麗に整理されていた。

 その棚の上には、一枚の肖像画。お腹の大きくなった女性の絵が、額縁に入れられて飾られている。

 

「ただいま、遅くなってすまなかった」

 

 絵の中の女性に声かけながら、サージは優しく額縁を手に取ると、ポケットから取り出した布で優しく拭いていく。

 

「今日も疲れたよ。アイツらの相手をするというのは、本当に……吐き気がする……」

 

 細められていた眼が開かれ、どす黒い憎しみに染まった瞳が顕わになる。

 常に微笑みを浮かべていた口元も引き締まり、憤怒の表情へと変わっていた。

 

「ああ、すまない。もちろん、君と僕達の子供は別だよ? ウィンドヘルムにいた時も、君の機転のおかげで生き延びれたんだから」

 

 しかし、それも一瞬。申し訳なさそうな顔を浮かべて謝ると、肖像画の女性を撫でる。

 

「でも、意外な幸運にも出会えたよ。まさか、彼にまた会えるなんてね……」

 

 そう言って、サージは外套に巻かれた二本の刃に目を向ける。

 サージの脳裏に強烈に焼き付いている光景。天から舞い降りた災厄と、それに相対する一人の男。

 恩人であり、同時に一人の戦士として憧れを抱く相手でもある。まさか、こんなところで彼の姿を見れるとは思っていなかった。

 柔和な笑みを浮かべつつ、彼は偶然出会った憧憬について熱く語り、やがてひとしきりしゃべり終えると、ふう……と息を吐く。

 

「もう一度、君に会いたいよ。君もそう思ってくれるかい?」

 

 望外の幸運を笑顔で肖像画の女性に報告していると、サージは突然驚いたような顔を浮かべる。

 突拍子もなく変わる話題と表情。

 顔半分を暖炉の炎に照らし、物言わぬ絵に向かって話しかけながらコロコロと表情を変えるその様は、言いようのない不気味さを醸し出していた。

 

「あんな男に協力して大丈夫かって? 別に問題ないよ。お互いに利用し合う関係だけど、それももう終わる」

 

 この山賊団の団長。

 臑に傷がある男であり、サージ自身、以前の自分だったら絶対に協力しない男だと断言できる人物だ。

 しかし、今の彼にはなんら気になるものではない。かつて抱いていた使命感など、とっくになくなっていた。誰よりも大切な彼女が死んだ時に……。

 

「最後の一人をようやく見つけたんだ。これでようやく、終わらせられる。もう少し、もう少しだよ……」

 

 かび臭くなったベッドに体を横たえ、彼は目を閉じる。

 手にした肖像画を何度も何度も撫でながら。

 その瞼の裏に、ほの暗い希望を燃やし続けて。

 

 

 

 

 

 

 

 コンスタンス・ミッシェルと名乗ったインペリアルの女性から話を聞いた健人は、とりあえず持っていた薬を全て彼女に渡した後、自分が閉じこめられていた塔へと戻った。

 室内は相も変わらず、薄暗い闇と湿気に満ちている。

 

「キィキィ……」

 

(蝙蝠か……)

 

 上を見れば、数匹の蝙蝠が影の中で身を寄せ合っていた。そろそろ彼らの時間だ。起き出して、餌を取りに行くのだろう。

 元々古い塔だ。隙間風が吹くと言っても、どうしても空気は澱むし、このような同居人も出てくる。

 静かに塔の入口を閉めた健人は、上階への階段へ向かう。

 次は蒼の艶百合の人達の捜索。

 二階への階段を慎重に上りながら、先ほどコンスタンス・ミッシェルから聞いた話を思い出す。

 彼女は、今は閉鎖されたリフテンのオナーホール孤児院で子供たちの世話をしていた。

 経営者であるグレロッドの死後、孤児院の運営を任された彼女だが、その後すぐに問題が発生した。首長から毎月送られていた補助金が大幅に減らされたのだ。

 理由は、ドラゴンの襲撃でウィンドヘルムが半壊状態になったから。

 現在のリフトの首長はウルフリックを支持しており、彼の要請を断ることはできなかった。

 その中で幾つかのつつましやかな事業や経費が削減され、その中にオナーホール孤児院も入っていた。

 もちろん、コンスタンス・ミッシェルは首長に抗議したが、簡単に認められるはずもない。

 最終的に彼女は元凶であるウルフリックに直談判しようとリフテンを旅立ち、その道中で山賊に攫われ、今に至るということだ。

 

(なんというか、あの子もやるせないよな……)

 

 オナーホール孤児院となると、健人の脳裏に浮かぶのはルナだ。

 彼女は身を寄せていた孤児院が潰れた結果、浮浪児になった。その後に蒼の艶百合に保護されたということは知っていたが、こんなところで縁者に会うとは思わなかった。

 

(とはいえ、やることは変わらない。全員を助けて、脱出することだ)

 

 改めて目的を確かにしながら、健人は階段を上がり、陰から様子をうかがう。

 

(……ダメだな。人が多すぎる)

 

 二階はこの塔に詰めている山賊たちの生活空間になっており、数多くの山賊たちがいた。

 室内は松明や蝋燭で明るく照らされ、全員リラックスした様子で喋ったり酒を飲んだりしているが、とても隠れたまま通過できる様子ではない。

 

「あら、本当ですの? お強いのですね……!」

 

「へへ、分かってんじゃねえか」

 

 その中で妙に異彩を放っている人物がいた。蒼の艶百合の筆頭娼婦、メリエルナだ。

 類まれな美貌と、まるで物語の中のお姫様のようなオーラ。それを相反する、経験豊富な娼婦としての男の視線を独占する色気。

 娼婦としての手練手管と手を出したら後に引けなくなるような……孤虫を思わせる危うさに、会話をしている男だけでなく、部屋中の男達が彼女を覗き見ていた。

 元々クレティエンに並ぶほどのヘンタ……もとい変わり者である彼女なら、確かにこの山賊の男達に声をかけていてもおかしくない。

 その時、男達と談笑していた彼女の視線が、階段の陰に隠れている健人に向いた。

 

「……ふふ!」

 

 彼女は静かに微笑むと、すっと立ち上がる。

 

「皆様、実は私、歌が得意ですの。もしよろしければ、一曲聞いてくださらないかしら」

 

 この場の全員へ向けた言葉に、彼女へ集まる視線の圧が一気に高まる。

 彼女は部屋の壁のそばへと移動し、即席の歌を披露し始めた。

 それは同時に、健人が山賊たちに気づかれずに上階へ向かう機会が訪れたということ。

 

(っ……!)

 

 健人は素早く身をかがめ、メリエルナがいる壁とは反対側を抜けて三階への階段へと飛び込む。

 時間がない。

 彼女の歌が終わるまでに蒼の艶百合の人たちの居場所を特定しないといけない。

 

「あ……」

 

 幸い、健人はすぐに見つけることができた。

 階段を上ったすぐそこに、心配そうな顔をしたルナがいたのだ。多分、男達の元に行ったメリエルナを心配していたのだろう。

 彼女の後ろには、同じく階段の下をのぞき込んでいる蒼の艶百合の女性達。

 全員、ルナと同じく、呆けたような表情で下から登ってきた健人を見つめている。

 まあ、当然だろう。彼女達にとって、健人はただのお手伝いさん。見た目も纏う雰囲気も一般人のそれで、とても戦えるような人間には見えないからだ。

 唯一、メリエルナの恋人であるレキナラだけが、感心した表情を健人に向けている。

 

(怪我は……大丈夫そうだ。よかった……)

 

『よかった。無事だったか』

 

 一方の健人は、ルナの無事にほっと胸をなでおろす。

 なにせ、彼女は極度の男性恐怖症だ。粗野な男だらけで暴力上等な集団の中で、相当心身に負担がかかっていただろう。

 未だに惚けているルナを他所に、娼婦の一人が小さな声で話しかける。

 

「ケント。どうして、ここに?」

 

『皆の無事と脱出するため、状況確認をしてました』

 

「え? 逃げられるの!?」

 

(わああ! 静かに!)

 

 思わず声のトーンを上げた娼婦の口を、慌てて押さえ込む。

 さすがに大声を出せば山賊に気づかれる。

 口をふさがれた娼婦は自分の迂闊さに汗を流しながら、何度も何度も頷いていた。

 

「で、ほんとに大丈夫なの?」

 

『そのために動いています。それで、クレティエンとセラーナさんは?』

 

「ここより上の階に連れて行かれて……」

 

「……あら、貴方」

 

 そんな中、話題になっていたセラーナが上の階から戻ってきた。

 彼女の身を案じていたルナが、ほっとした表情を浮かべる。セラーナもルナに向かって小さく微笑むと、改めて健人に視線を戻した。

 

『よかった。無事でしたか。クレティエンは?』

 

「……彼女なら無事です。確認しました」

 

 セラーナが無事というならそうなのだろう。

 時間がない健人は黒板に見てきた集落と地下室の様子を書いて掲げる。

 山賊たちがしていた儀式。奴隷として売り飛ばされるか、なぶりものにされるかという話を聞いて、娼婦たちは眉を顰める。

 彼女達もまた、自分達がそのような扱いを受ける可能性というのは考えていたのだろう。

 

『ここはかなりヤバイ場所です。できるだけ早く逃げたほうがいいでしょう』

 

 しかし、続くその言葉に、娼婦たちの顔に迷いが浮かぶ。

 捕まれば、間違いなく碌な目に遭わないだろう。ほぼ間違いなく、もう一つの地下室行きだ。危機的状況だからこそ、脳裏に失敗した際のリスクが浮かんで竦んでしまう。

 儀式で山賊の仲間になれば大丈夫なんじゃないか……。そんな考えも頭によぎっているだろう。

 しかし、もし山賊になっても、そもそもほとんどが男性、しかも性欲を持て余している者達だ。碌な目に遭わないことは、想像に難くない。

 

「分かった、やろう。確かに私達は女だが、同時に自分が望むものがあるのなら、戦って手に入れるしかないだろうな」

 

 そんな中、声を上げたのはレキナラだった。

 他の娼婦たちが迷う中、彼女は腕を組み、その瞳に強い意志の光を宿しながら、健人を閉じっと見つめている。

 娼婦の一人が、震えながら声を上げた。

 

「れ、レキナラ……本気なの?」

 

「ああ、本気だ。どこかの好事家に売られようが、ここに残されようが、旅団にいた時よりマトモな生活ができると思うか?」

 

(やっぱりこの人、戦士だよな)

 

 興奮を隠しきれないようすで口元が吊り上げながら、レキナラはそう言いきった。

 欲しければ勝ち取れ。やはり、どのような職につこうが、結果を出す人間というのは、戦うべき時には戦う姿勢ができている。

 そんなレキナラに感心しつつも、健人は横目でセラーナの様子を窺う。

 彼女もまた、静かに健人の方を見つめていた。眼帯のため表情を伺うことは相変わらず難しいが、覚悟を決めているようにも見える。

 しかし、その眼帯の裏から見つめてくる視線が、健人には何故か気になって仕方なかった。

 

『何かありましたか?』

 

「なにか、とは?」

 

『どこか、上の空のような気がしましたので』

 

 だからだろうか。健人は思わずセラーナに質問をぶつけてしまう。

 彼のその一言に、セラーナは一瞬戸惑ったかのように口元を引き締めた。

 

「それは、貴方が……いえ、なんでもありませんわ。お気になさらないでください」

 

 何とも言えない微妙な空気が、二人の間に流れる。

 そんな中、レキナラが場の空気を換えるように口を開く。

 

「で、いつ動くんだ?」

 

『明日です』

 

 レキナラの問いかけに、健人は黒板を掲げる。

 素早く、簡潔に書かれたその言葉に、娼婦たちは息を飲み、レキナラとセラーナは静かに頷くのだった。

 話を終えると、健人はすぐに自分がいた地下牢へと戻った。

 幸い、まだ見張りは戻ってきていない。

 待っていたアグミルとキーロが、戻ってきた彼を笑顔で出迎える。

 

「戻りましたか。無事で何よりです」

 

「どうだった?」

 

『集落の様子は確認できました。時間が経てば経つほど、不利になりますね。明日動きましょう。やるべきことは分かっています』

 

 蒼の艶百合の面々に話した内容を告げると、二人は複雑な顔をしながらも、健人の意見に同意した。

 必要なものは三つ。

 一つ、逃走手段の確保。

 二つ、囚われている人たちの確保。

 三つ、追跡手段の排除。

 まず、深夜にこの場にいる全員を牢から出し、塔の入口で待機させる。

 続いて、健人、アグミル、キーロの三人で、二階の山賊を排除。夜の寝込みを襲えば、問題ないだろう。

 クレティエンの無事もセラーナが確認している。脱出計画に関してはセラーナを介して、クレティエンにも届くだろう。

 彼女達は別階に軟禁されているが、クレティエンが相当骨を折ったらしく、娼婦達がいる三階までなら比較的自由に動けるらしい。明日は何かと理由をつけて、他の娼婦達と一緒にいると言っていた。

 普通ならまずありえないが、いったいあの変態団長は何をしたのだろうか……。

 気にはなるが、時間の制約もあり、健人は確認できなかった。

 それから、ルナにコンスタンス・ミッシェルが生きていることを伝えることも。

 とはいえ、生きているなら、脱出の時に会える。

 全員が合流したら、上階の蒼の艶百合の面々を連れて、塔の傍の厩から馬と馬車を拝借。

 残りの馬を解放するついでに火を放ち、そのまま逃げるという算段だ。

 幸い、この集落はまだ発展途上。その為、重要な施設がダークライトタワー周辺に集中している。夜に動けば、逃げれる可能性は十分ある。

 だが、事態はそう上手く運んではくれなかった。

 脱出計画の実行直前、ルナを始めとした見習い達が山賊たちに連れていかれたのだ。

 

「これより、この者達の選別、および審判を行う!」

 

 健人が集落の広場で見た、仲間になるか否かを問う選別儀式。

 少女達を囲む百以上の山賊達が、無遠慮で下卑た視線を少女達に向ける。

 その先頭には、同じ孤児院出身のはずのサミュエルとロアーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……。

 暗がりの中に浮かび上がる、一つの人影。その目の前には、横たわる男。

 血の気が失せたそれに、牙を突き立て、一心不乱に啜る。

流れ出る熱いその滴を、影は貪るように舐めとっていく。錆鉄の味しかしなかったはずのそれは驚くほどの甘露となって臓腑に落ち、全身が沸騰するような熱を影にもたらしていた。

 

「……っ! …………!!」

 

 これまでの人生で感じたことのない恍惚と共に、下腹部に走る痺れに体を震わせた。

 長い間飢えてきた心身が、これ以上ないほど満ちていく。

 

「っ! はあ、はあ、はあ……」

 

 あまりに美味な血の味に、思わず荒い息が漏れる。

 よく見れば、周囲には同じように血の気を失った男達が倒れていた。

 その数、二十人ほど。

 それほどの血を飲んでも、影は貪るように啜り続ける。その身の内に隠してきた渇きを癒そうと。

 

『協力するなら、力をやろう』

 

 偶然の出会い、その時にかけられた言葉。

 隠し切れない野心を感じながらも、自らの渇望の為に、彼の条件を飲んだ。

 絶大な力と、老いることのない力。おおよそ、全ての人間が求めてやまないものの為に。

 彼が探していたのは、一人の女性。

 知っている人物であり、同時にどうしようもなくいけ好かない娘だった。

 

「はあ……」

 

 ようやく人心地つき、突き刺していた牙を離す。

 ぬらりと滴る血と唾液の混合物が、今しがた血を啜っていた男の胸板に滴り落ちる。

 そろそろ時間だ。まもなく、彼が動く。それに合わせて、こちらも用意していた手駒を使おう。

 そうすれば、否応なしに混乱が始まる。その隙を狙うのだ。

 そして、今度こそつかみ取る。己の人生と、運命を……。

 




いかがだったでしょうか?
どうも場面転換が多いお話になってしまった。しかも、あちこちに不穏な雰囲気が……。
しかし、これでようやく話を大きく動かせる……。後はクライマックスまで一直線です!
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