【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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ええっと、今回かなりドギツイ事実が発覚します。
人によっては不快感を覚えるかもしれません。
それでもよければどうぞ。


第十一話 破局点

 事の発端は、翌日の夕食時だった。

 地下室に閉じ込められている健人たちはともかく、商品価値の高い娼婦達にはそれなりの食事が出される。

 運んできた山賊の新米たち。年齢は十代から二十代とは幅広い。

 その中の一人が、ルナを見て声をかけてきたのだ

 

「お前、ルナか?」

 

「え、あ……」

 

 簡素な皮の鎧を纏った、十代前半の少年。

 ルナと同じく、オナーホール孤児院の出身であったサミュエルだ。

 浮浪児時代、身を寄せ合ってなんとか暮らしてきた者同士。その再会にサミュエルは驚き、続いて笑顔を浮かべる。

 

「随分探したんだぜ? どこでなにやってたんだよ。おいロアー、ちょっと来いよ。懐かしい奴がいたぜ」

 

「え? へえ、ルナじゃないか。元気だったか?」

 

「な、なんで二人がここに……」

 

 笑顔のサミュエルとロアー。

 しかし、一方でルナの様子は尋常ではなかった。

 

「あ、ああ、あああ……」

 

 全身を震わせ、後ずさるルナ。しかし、足に力が入らず、尻餅をついてしまう。

 顔面は蒼白になり、瞳はこれ以上ないほど見開かれている。まるで狼に囲まれた子ヤギのようだ。

 元々男性恐怖症であり、男に対しては触られることですら恐怖を抱く彼女だが、最初からこの怯え方は異様だ。

 しかも、相手は十代前半の少年。暴力的な外見という感じでもないし、先の会話を考えれば、親しい間柄であるようにも見えた。しかし……。

 

「いや!」

 

 体に触れようとしてくるサミュエルの手を、ルナは声を荒げて振り払う。

 バチン! と激しい音が鳴り響き、サミュエルが顔を顰めた。

 

「痛て……! おいおい、酷いじゃないかルナ」

 

「何をしているのですか?」

 

 騒ぎを聞きつけたサージが、女性達がいる三階にやってくる。

 彼は愛用しているエルフの鎧を纏い、両腰にエルフの片手剣を差していた。左手には布で巻かれた細長い物を持っている。

 山賊の重鎮の登場に、場の空気が一気に凍り付く。新米であり、知り合いとはいえ、山賊の一味に対して手を上げた。

 それがどのような結果をもたらすのか。最悪の事態を想像した娼婦達の顔が引きつる。

 

「サージさん。こいつ、突然ぶってきたんです。飯を持ってきただけなのに……」

 

 しかも、サミュエルもまたサージに対して、馬鹿正直に事の次第を報告してしまう。

 ルナがどのような目に遭うのか、想像できていないのだろうか?

 女達の疑問と心配をよそに、話を聞いたサージは冷たい瞳でルナを見下ろす。

 

「抵抗したと? なら仕方ありません。地下牢へ移しましょう。もしくは、慰安室にでも……」

 

 慰安室。

 健人が発見した、もう一つの地下牢。女性達がなぶりものにされていた部屋だ。

 その存在を聞いていたルナの顔が、青を通り越して真っ白になる。

 サミュエルも一瞬、しまったというような顔をした。やはり、どのようになるのか想像できていなかったらしい。

 

「ちょっと待ってください、サージさん! こいつは俺と同じ孤児院の人間なんです。チャンスをくれませんか?」

 

「そ、そうです! 抵抗って言っても、ちょっと手が当たったくらいですし……」

 

 サージが冷徹に処分を下そうとする中、ロアーが声を上げた。

 そしてサミュエルもまた、今さらながらに場を取り繕うとする。

 一方、いくら指導役とはいえ、山賊団をまとめる大幹部に対して異を唱える新人達に、他の山賊たちが一斉にしかめっ面を浮かべた。

 中にはこれ見よがしに睨みつける者もいるが、肝心の二人は気づかぬまま、己の言葉を捲し立てていく。

 

「なるほど。そういえば、これから選抜を始めます。ちょうどいいかもしれませんね。広場に連れて来なさい。それからあの娘と、あの娘、それから、そちらの子も連れていきましょう」

 

 選抜。健人が見た、山賊の仲間になりえるか確かめる通過儀式だろう。

 そしてサージは、女達を一人一人、指さしていく。

 そのほとんどが、ルナと同じ見習い。

 ヴェルナを始めとした十代前半の、まだ子供と呼んでもさしつかえない年頃の少女達だった。儀式の内容を知っている彼女達の顔が、一斉に恐怖に染まる。

 

「待ってください」

 

「セラーナ……」

 

 そんな中、サージの行動にセラーナが待ったをかける。

 

「おや、意見をするつもりですか? 貴女については団長から丁寧に扱えと言われていますが、あくまでそれは抵抗しない場合に限られます」

 

「へへ……。そういうことだぜ」

 

「触らないでいただけますか……?」

 

 割って入ってきたセラーナに対し、サージは淡々と応える。

 調子に乗った山賊の一部がセラーナに手を伸ばすが、そんな無法者達を睨む。

 眼帯の裏から向けられる冷たい視線に、山賊たちは思わず気圧される。

 一方、サージの態度は変わらず、冷徹な瞳でセラーナを見つめていた。

 

「今の貴方達がそれなりの扱いをされているのは、貴方達の団長が骨を折ったからです。今でも、貴方達の団長は我々の仲間の相手をしているのですよ? それを無碍にするなら……」

 

「っ!!」

 

 次の瞬間、鈍い閃光が走った。ザシュ! と肉を裂く音と共に鮮血が舞う。

 サージの右手には、緩やかな反りを持つ黒紅の刃。左手に持っていた布からは、同じ色の鞘口と蒼い柄を持つ剣が顔を覗かせていた。

 太ももを斬りつけられたセラーナは、走る痛みに思わずその場に崩れ落ちる。

 

「セラーナ!?」

 

「きゃあああああああ!」

 

「分かったのなら、大人しくしていることです。それでは……」

 

 娼婦たちの悲鳴が木霊する中、サージは抜いていた刃を鞘に戻す。

 そして五名ほどの山賊を残すと、恐怖に震えるルナ達を拘束し、連行していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああ!」

 

 地下牢の中で、健人はその悲鳴を耳にした。

 

「離して! いや、いや!!」

 

(ルナ……?)

 

 一階へと続く階段から聞こえてくる、恐怖に満ちた金切声。

 彼女だけではない。耳をすませば、他にも複数の少女達が助けを求める声が響いてくる。

 

「今のは……」

 

「上の方から聞こえてきましたね」

 

 同じく、悲鳴を耳にしたアグミルとキーロもまた、驚いた様子で階段の方に目を向けた。

 何が起きているのか、予想はついた。山賊達が本格的に蒼の艶百合に手を出し始めたのだ。

 聞こえてきた声は、ルナを始めとした見習い娼婦たちのもの。

 最初の標的が娼婦旅団の中で最も幼い少女達だったのは、他の娼婦達へ自分達の恐怖を刷り込むためだろう。

 時間がない。本当なら夜まで待ちたかったが、こうなった以上、即座に行動する必要がある。

 

『計画を早めます。今すぐ脱獄しますよ』

 

「え? 今すぐって……」

 

 アグミルが聞き返してくるうちに、健人はベッドロールに隠していた片手剣を取り出し、さっさと牢の鍵を開けた。

 既に一度開錠している錠だ。どこを弄れば開くかは既に把握している。

 ものの数秒で牢から出た健人の前には、見張りをしていた二人の山賊がいる。

 

「おい、お前ら、いったい何をして……」

 

 叫ぶ暇など与えない。

 踵に力を込めて踏み込み、一気に間合いを詰める。同時に隠していた鋼鉄の片手剣を右手で一閃。一人目の山賊の首を切り裂く。

 

「な、きさ……がっ!?」

 

 続けて、もう一人の顎を左拳で打ち抜く。

 山賊の首がねじれ、目がぐるりと回った。音が響かないように崩れ落ちる山賊の体を支え、ゆっくりと石床に降ろす。

 そして懐をまさぐり、牢の鍵を取り出した。

 

「……は?」

 

「やはり、相当お強い方だったのですね」

 

 あまりの手際の良さに、アグミルは呆け、キーロは感嘆の声を漏らす。

 牢から出てきた二人に倒した山賊の片手剣を渡し、健人は手早く奪った鍵で他の牢を開けていく。

 

「あ、あんたら……」

 

『逃げたいのなら、こちらの指示に従ってください。いいですね?』

 

「あ、ああ。分かった……」

 

 うろたえる商人達の前に黒板をかざし、続いて彼らの体の状態を見る。

 元々、奴隷として売られる予定だった者たちだ。擦り傷や打ち身はあるが、骨折などの致命的な怪我を負っている様子はない。

 

『どなたか、戦える方はいますか?』

 

「一応、弓が使える。商売をする前は獣を狩って暮らしていたからな……」

 

「俺もだ」

 

「私も」

 

 捕らえられていた商人や丁稚達は驚きながらも、健人の言葉に従う意思を示してくれた。

 数としては、四十人ほど。商人が五人、丁稚が二十人前後。元護衛の者たちも十人ほど残っていた。捕らえられた人数を考えれば、商隊の四割ほどが残っている。

 健人はアグミルとキーロ、そして解放した商隊の男達を連れて、階段を上がる。

 そして、塔の入口に設置されていた武器棚から、心得のある者達に武器を配布していく。

 弓を使える当然弓矢を。他の人達には、片手剣や斧などを持ってもらった。

 とはいえ、弓の数は三つほど。他の武器も五つほどと、この人数を守るにはあまりに心もとない。それでもないよりマシのはず。

 

(次は、上の娼婦たちの開放か……)

 

 連れ去られたルナの様子が気になるが、まずは三階の娼婦達を解放しないといけない。

 彼は他の男達を連れて階段を上る。

 二階には山賊はおらず、三階へと続く階段から喧騒が聞こえてくる。

 おそらく、ルナ達を連れて行ったことで、他の娼婦たちが抗議しているのだろう。二階の山賊達も、おそらく対処の為に上の階に上がっているのだ。

 ある意味好機だ。上手くすれば、一階から三階までの山賊たちを一気に殲滅できる。

 

『弓の用意をしておいてください』

 

「わ、わかった」

 

 商隊の男達に弓の準備をさせ、健人は三階の様子を覗き見る。

 やはり、三階に山賊たちは集まっていた。数は五人。

 それぞれが壁際に集められた娼婦達を取り囲んでいる。

 その時、健人の目に床に倒れ伏したセラーナの姿が映った。よく見れば、太ももの部分のローブが真っ赤に染まっている。

 それだけで、彼女が山賊たちに何をされたのか容易に想像がついた。

 

(まさか、ルナ達を守ろうとして……)

 

 ギリ……。奥歯を噛み締めた音が、健人の耳奥に響く。

 その時、山賊の一人が手近にいた娼婦に手を伸ばした。

 無理やり引っ張り、後ろから彼女の体を抱きかかえる。

 

「おら、大人しくしていろよ」

 

「ちょっと、やめてよ!」

 

「サージさんから抵抗するなって言われたのが分からなかったのか? お前も儀式に連行してもいいんだぜ?」

 

 下卑た表情。興奮を隠しきれないのか、荒い息を吐きながら、山賊は娼婦の胸に手を伸ばす。

 

「あいつら……!」

 

 様子を見ていたアグミルが気炎を上げた。

 他の男達も、怒気を滲ませながら山賊たちを睨みつけている。

 

『タイミングを合わせて突入します。弓矢は彼女達の両側を固めている二人へ』

 

「ほかの三人は、私達で片付けましょう」

 

 射線が被る関係上、弓で狙えるのは二人までだ。他の三人は直接打ち倒す必要がある。

 健人の指示の元、弓を使える商隊の三人が構えた。矢をつがえ、弦を引く。ギリギリと弦が緊張する音が、静かな階段に流れる。

 矢が準備できたことを確認し、健人は左手を上げた。

 五、四……。指を一つずつ折っていく。

 三、二……。全身を弛緩させ、血液を筋肉にくまなく巡らせる。

 一、零。

 直後、三本の矢が一斉に放たれ、健人達は地を蹴った。

 

「ぐあ!」

 

「がっ!?」

 

 放たれた三本の矢は一人の頭と腹を貫き、もう一人の太ももに着弾した。

 仕留めきれなかった! このままでは叫ばれ、応援を呼ばれる。弓を放った商隊の男達の顔が蒼白になった。

 

「な、なんだ……あぐ!?」

 

「き、貴様ら! おい、脱ご……!」

 

 しかし、直後に突入してきた健人が、瞬く間に三人の口を封じた。

 一太刀で三人目と四人目の首を斬り飛ばし、返す刃を矢で負傷していた二人目の喉に叩き込む。

 

「……は? ぐわ!?」

 

 思わず呆けていた最後のひとりは、アグミルとキーロが仕留めた。

 脇腹と首の横を刺され、最後の山賊は何が起こったのかわからないまま絶命する。

 

「オブリビオンに落ちやがれ……!」

 

 アグミルが斬り捨てた山賊を吐き捨てる中、健人は倒れているセラーナに駆け寄る。

 案の定、出血はかなり酷く、流れ出した血がローブの太ももをぐっしょりと濡れらしていた。

 

『大丈夫ですか?』

 

「すみません、ルナが連れていかれて……」

 

(手当しないと……!)

 

 傷は相当深いだろう。

 健人は手当をしようと患部に手を伸ばし、患部を押さえた。グチャリと粘着質な感触が、両手に広がる。

 

(くそ、薬の一本くらい残しておくべきだったか!?)

 

 かなりマズい。

 今の健人は回復魔法を使えない。用意していた薬も、コンスタンス・ミッシェルに渡してしまった。

 傷をこの場で癒せない以上、彼女に合わせて逃走の足は鈍るだろう。

 それに、連れていかれたルナ達の身も心配だ。

 置いていく……などという選択を取る気はない。しかし……。

 脳裏に走る逡巡。それを察したかのように、健人の手の甲に紅く染まったセラーナの指が触れた。

 

「私のことはいいです。それより、ルナ達を助けに行ってください……」

 

 セラーナは唇を噛み締めながらも、血で汚れたローブを裂き、そのまま傷口を硬く結ぶと、なんと自分の足で立ち上がった。

 しかし、やはりその足元はふらつき、走れる様子ではない。

 そんな彼女の体を、傍で見守っていたキーロが支える。

 

「彼女は私が連れて行きます。アグミルは他の皆さんをつれて、逃走手段の確保と、もう一方の地下牢に囚われた人達の救出を……」

 

「お、俺!?」

 

「ほかに適任者がいません」

 

 いきなり大役を任されたアグミルが戸惑いの声を上げるが、生憎と状況が切迫している。

 とにかく迅速に行動していかなければならない以上、仕方のないことだ。

 アグミルも状況を理解しているので、十秒後には気を持ち直して、一同をまとめ始める。

 

『……そういえば、クレティエンとメリエルナさんは?』

 

「分からないの。メリエルナは昨日から上の階に行って戻ってきていない。クレティエンの方も……」

 

 健人が姿の見えないクレティエンとメリエルナについて尋ねると、娼婦の一人が心配そうな顔を浮かべた。

 

「そっちは私がどうにかする。武器はあるか?」

 

 そんな中、メリエルナの恋人であるレキナラが声を上げる。

 彼女は近くにいた商隊の人から片手剣を譲り受けると、使い心地を確かめるように一振りした。

 ヒュッという小気味よい風切り音が鳴る。女性でありながら、体幹も全くブレた様子がない。

 切っ先まで走る剣気は、彼女が相当な修羅場をくぐってきたことを思わせる。少なくとも、ドーンガードの新人であるアグミルよりは様になっていた。

 

「うむ」

 

「え? あれ?」

 

「彼女も相当な使い手だったのですね」

 

 実際、レキナラが剣を構える様子に、アグミルは呆け、キーロは感心した表情を浮かべている。

 特にアグミルは彼女と一夜を共にしたこともあり、その驚きもひとしおのようだ。

 

「彼ほどじゃないけどね」

 

 レキナラは男達から向けられる驚きの目に苦笑を浮かべながら、健人が駆け下りていった階段に視線を移す。

 既に健人は階段を駆け下り、姿が見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後ろ手に縛られたルナ達は、集落の広場に連行され、山賊達に取り囲まれた。

 向けられる数多の視線。意地汚そうに見つめてくるのは男達だけでなく、この山賊に迎合した女達もまた同じだった。

 彼女達にとっても、この少女達は生贄だ。

 力が弱く、年端も行かず、そして帰る場所のない者達。ルサンチマンからくる欲求。山賊に身を寄せるしかない自分達の優越感を満たせる存在として。

 それは、どこまで行っても空しい自慰行動でしかない。

 この選抜儀式を執り行うサージが、少女達を見下ろしながら口を開く。

 

「さてお嬢さん達。私達の仲間になる気はありますか?」

 

「あ、う、うう……」

 

 これほどの悪意を受けて、少女達がまともな受け答えなどできるはずもない。

 娼婦の見習いである以上、いつか男の手にかかることは理解していた。

 自分達が男達から、どのような目で見られているかも。

 健人からこの山賊たちの異常性と、逆らった者達の末路も聞いているがゆえに、恐怖で動けなくなってしまった。

 

「い、いや、いやいや……」

 

 その中で、一番拒絶反応を示したのは、やはりルナだった。

 か細い声を上げながら頬を引きつらせ、髪を振り乱す。

 明らかに尋常な様子ではない。しかし、その怯える様が、周囲を囲んだ山賊たちの嗜虐心をさらに刺激する。

 

「まあ、断るなら仕方ありません。サミュエル、ロアー」

 

「はい」

 

「この少女を辱めなさい」

 

「……え?」

 

「仲間にならない以上、見せしめが必要です。貴方達の手で、この少女の尊厳を徹底的に踏みにじりなさい」

 

 やり方は任せます。

 そう言うと、サージは一歩引いて、サミュエルとロアーの二人をルナの前に出す。

 ここに来てからずっとルナを凝視していた二人。その目に、怪しい光が灯る。

 ルナの顔が、更なる恐怖に染まった。

 

「やれやれ!」

 

「おいおい、なんで新米たちにやらせるんだよ! 俺にやらせろ!」

 

 さらに、サージの言に呼応した周囲の男達が、歓声を上げはじめた。

 彼らにとっても、この儀式は非常に大きな『娯楽』だ。

 自分以外の誰かが、自分より不幸になる様。それを見ずにはいられない。

 別世界ではシャーデンフロイデと呼ばれる、人間の闇の発露。

 そして、その闇はサミュエルとロアーにも降りかかっていた。

 二人は怯えるルナに近づくと、彼女を地面に押し倒す。

 

「いや、離して!」

 

「抵抗するなよ!」

 

「そうだぜ! 上手くいけば、俺達が守ってやれるんだ!」

 

 そう言いながら、二人はルナの服に手をかけた。

 ビリッ! と布が裂ける音と共に、少女の白磁の肌が曝される。

 その白さに、サミュエルとロアーはごくりとつばを飲む。

 以前、浮浪児として見ていた時よりも、ずっと美しくなった少女。その甘い香りに鼻息を荒くし、晒された少女の肌に手を伸ばす。

 

「暴れるんじゃない! すぐに終わらせるって言ってるじゃないか!?」

 

「別に初めてってわけでもないだろ!」

 

「イヤ、触らないで!」

 

「へ、へへ……結構大きくなってきていたんだな」

 

 ルナの脳裏に、過去のトラウマがフラッシュバックする。

 オナーホール孤児院が潰れ、放り出された子供達四人。ラットウェイに隠れ住み始めてしばらく経った頃。

 一緒に逃げたサミュエル、ロアー、そしてフランソワ・ビューフォール。彼らからの視線が、徐々に変化していった。

 まるで蛇が、餌であるカエルを見つめるような目。ネバつくような視線に、徐々に不安を覚えるようになった。

 それは、四人が二次性徴を迎え始めた故の変化。

 そして食べ物を盗む際にフランソワが捕まり、殴り殺されからしばらくの後、事件が起きた。

 夜寝静まった夜に、ルナは突然二人に襲われたのだ。

 何が起きたのかわからず、叫んでも抵抗しても聞いてもらえず、幼くも際限のない欲望に蹂躙される。

 そう、この二人こそ、ルナのトラウマの元凶だったのだ。

 

「あ、ああ、あああ……」

 

「あんた達、まさか……」

 

 隣でルナに襲い掛かる二人の様子を見せつけられていたヴェルナが、震えた声を漏らす。

 ルナのトラウマ。そして、この二人のやり取り。一時的に一緒にいたという関係性。見習い達の中では比較的落ち着いていたこともあり、彼女もまたルナのトラウマの元凶に気づいたのだ。

 だが、ヴェルナにはどうすることもできない。

 拘束され、周囲に味方はいない。ルナだけでなく、自分達も次の瞬間には男達の餌食になるかもしれない状況なのだ。

 

「おいおい! なんで新米のアイツらなんだよ!」

 

「そう言うなよ。知り合いみたいだし、これはこれで面白そうじゃねえか」

 

「じゃあ、他の女達ならいいだろ? この前は後だったんだから、今回は俺からやらせろよ!」

 

 事実、周囲には屈強で悪辣な男達のボルテージはさらに上がり、そんな彼らに同調した女達も、ニヒルで歪んだ笑みを浮かべる。

 この場全ての大人達が、一人の少女の心が壊される様を心底楽しそうに、嗤いながら眺めていた。

 少女達の顔が絶望に染まる。

 そしていよいよ、ルナの体が本格的に穢されそうになる。

 だが次の瞬間、一体の影が広場に跳び込んできた。

 

「がっ!?」

 

「ぶっ!?」

 

 ルナに覆いかぶさっていたサミュエルとロアーが引き剥がされ、影に殴られて吹き飛ばされる。

 

「……は?」

 

 突然の出来事に静まり返る喧騒。

 圧し掛かる重圧から解放されたルナの目に一人の男性が映る。

 ノルドに比べれば小柄で、でもどこか安心感を覚える背中……。

 

「あ……」

 

 ルナの口から思わず、安堵の声が漏れる。

 その声を背中で優しく受け止めながら、乱入した男……健人は倒れるサミュエルとロアー、そして周囲を囲む山賊たちを睨みつけていた。

 

(こいつら……)

 

 その目に、燃え上がる怒りを宿して。

 

 

 





ということで、今回は色々とドギツイ事実が発覚しました。
実は第七話「襲撃」の彼女の回想シーンでも、その時のことはちょろっと出ていました。気づいた方もいると思います。

以下、登場人物紹介


ルナ・フォアシールド
浮浪児時代に同じ孤児院の男子二人に襲われ、それによって男性恐怖症になった。
今回、元凶の二人に再会した結果、再び辱められそうになる事態に。

サミュエル、ロアー
ルナのトラウマの元凶達。
浮浪児時代、明日がどうなるか分からない不安と二次性徴が重なり、結果として溜まりに溜まったストレスが性欲に変換。結果、ルナを深く傷つけることに。
山賊に参加した後も新米としていびられ続けており、抱えた欲求不満を再びルナにぶつけようとする。


坂上健人
ついに表立って行動を開始。
目の前で行われていたあまりに酷い儀式に激おこ。
とりあえず、ルナを襲っていた新米二人を殴り飛ばした。


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