【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
「ぐうぅっ!?」
鎧越しに叩きつけられる衝撃に、サージの口からうめき声が漏れる。
反撃として繰り出した右の横なぎは出かかりから潰され、続く左の袈裟切りも返しの刃で弾かれた。
双刀であるこちらの方が手数は多いはずなのに、片手剣一本に圧倒される現実。
彼我との間に存在する圧倒的な速度差に、サージは汗だくになりながらも凄惨に笑う。
(ああ、やはり。やはりこの方は素晴らしい……!)
ウィンドヘルムの英雄。本物のドラゴンボーン。ストームクローク最大の拠点を壊滅寸前に追い込んだ伝説のドラゴンを、一人で征した男。
かつて一人の戦士として憧れ、子供の名前にもあやかった人物と剣を交えている事実に、彼はこれまでの人生で最高の高揚を抱く。
「…………」
一方、健人の表情はどこまでも冷ややかだった。
心は熱しながらも、頭は冷静に。相手の挙動や気配、動作の起こり、全てを見抜き、サージを一方的に追い詰めていく。
確かに、サージは優れた剣士ではある。純粋な剣腕なら、あのサルモール特殊部隊の隊長にも迫るだろう。
しかし、健人はその特殊部隊を一人で追い込んだ実力者。上澄みの中の上澄みだ。
長い旅を経て高まった技量はアルドゥインとの闘いの中でさらに磨かれ、既にただの人間が追随できる領域を超えてしまっている。
ゆえに、いくらサージといえど、単純な一対一で勝てる道理はない。
(いい加減、返せ……!)
健人の体が落ち、落下エネルギーが踵に叩きつけられた。
地面との反発を得て、地面スレスレを這うように加速した健人は、そのまま一気にサージの足元に滑り込もうとする。
「っ……!」
反射的に繰り出される、右の突き。
カウンターの要領で放たれたこともあり、血髄の魔刀の切っ先が瞬く間に健人の眼前に迫る。
(……ふん!)
その刺突を、健人は片手剣の腹で受けた。火花が弾け、鋼鉄の鉄片が舞い散る。
そして彼は掲げた剣の切っ先に右手を添えながら半身となり、刺突の作用点を横にずらしながらさらに踏み込んだ。
鋼鉄の片手剣と『血髄の魔刀』が擦れ合い、ギャリリリ! と耳障りな金属音を響かせながらも、健人は一歩間合いを詰めることに成功する。
そして、魔刀の鍔に鋼鉄の片手剣がぶつかる直前、体をさらにひねりながら片手剣の腹を魔刀の鍔にひっかけた。
「っ!?」
指に当たりそうになる刃に、サージは反射的に右腕を引く。
しかし、魔刀の鍔が鋼鉄の片手剣が引っかかって止められた。
強制的に動作を中断されたサージが一瞬硬直する中、健人の左肘が彼の鼻っ面に叩きこまれる。
「がっ!?」
走る激痛に、思わず『血髄の魔刀』を取り落とす。
サージは反射的に左の『落氷涙』を振りぬこうとするが、健人は落ちていく『血髄の魔刀』を片手でキャッチしながら振り上げた。
キィイン! 隣響く甲高い金属音と共に、蒼い短刀が宙を舞う。
「くっ……!?」
サージは仕切り直すように後ろに跳躍。
健人は鋼鉄の片手剣を捨て、落ちてきた『落氷涙』を悠々とキャッチする。
(ふう、やっと取り戻せた……)
戻ってきた愛刀たちを一振り。
主の元に戻ってきた双刀は、待ち焦がれたというように刃を煌かせながら、ひゅん! 小気味よい音が響かせる。
(ふっ……!)
そして健人は戻ってきた愛刀達を手に、再び地を蹴った。
あっという間に間合いを詰め、双刀の暴力を叩き込む。
「ぐ、が……!?」
サージは腰に差していたエルフの片手剣とオークの短剣を抜いて応戦するが、健人の剣嵐に瞬く間に飲まれた。
先ほどの倍以上の剣戟が叩き込まれ、黄金色のエルフの装甲が瞬く間に剥がれ、ボロボロにされていく。
共に二刀流を操る者同士。サージが苦痛に顔を歪める一方、健人の表情は変わらない。
反射神経や体捌きを含めた速度差が如実に表れた結果だった。
「ケ、ント……?」
「な、なんだ、あれ……」
「うそ、だろ……」
サージを追い詰めていく健人の姿に、ルナを始めとした見習い娼婦や山賊達は一様に言葉を失っていた。
無理もない。先ほどのサミュエルとロアーは、明らかに武器を振るうこと自体慣れてなない素人であり、山賊達も内心馬鹿にしていた者達。
しかし、こうしてこうして山賊団のナンバー2を圧倒する姿を見せられれば、嫌が応にも認めざるを得ない。
すなわち、この異邦人の実力は、この場にいる誰よりも優れていると。
そして同時に、山賊達の頭に不安の種が芽吹く。
もしサージが敗れたら、自分達はこの男を止められるのか、と。
もちろん、数の差は圧倒的だ。だが一度芽吹いた不安の種は消えない。
むしろ、どんどん大きくなっていく。
「くっ!?」
そんな山賊達の不安を現実化させるように、キィィぃィィン! と、ひときわ大きく乾いた金属音が響く。
半ばから折れた剣身が宙を舞う。健人が繰り出した一太刀が、サージのエルフの片手剣を斬り飛ばしたのだ。
続いて繰り出された横薙ぎが、サージの両太ももを切り裂く。
「あぐ!?」
両足を斬られたサージが膝をつく。
度重なる双刀の乱舞を前に、鎧はボロボロ。疲労困憊な様子で、ゼエゼエと荒い息を吐いている。
鎧の下からも血が滲んでおり、満身創痍といった有様。
そんな中、サージは冷淡な表情で見下ろしてくる健人を、焦がれるような目で見上げていた。
「はは……分かっていましたが、やはり手も足も出ませんか」
サージは分かっていた。自分では彼に手も足も出ないと。ウィンドヘルムで、その力を間近で目の当たりにしたのだから。
そして、同時に自分の復讐が果たせないことも。
「決着はつきました、さあ、トドメを! 英雄の手で、私をソブンガルデへ送ってください!」
ならばと、後は戦士としての栄誉を求める。
英雄と戦い、その手でソブンガルデに送られたのならば、死後も胸を張れる誉れだろう。
そう言って首を差し出すようにサージは目を閉じた。
「がっ!?」
しかし、栄誉の死は訪れず、代わりに強烈な衝撃が頬に走った。健人がサージの頬を思いっきり殴りつけたからだ。
「な、なぜ、殺さな……あぐっ!?」
(誰が、お前なんかを送るかよ……!)
自己満足で人を殺し続けた奴が、何を言っているのか。
ソブンガルデの英雄たちの姿を思い出しながら、健人はサージを躊躇なく殴り続ける。
殺してなどやらない、死後の栄誉などやらない。そもそも、この者達にそんな価値があるはずがない。
ノルド達の誉れとは何か。この世界に来たばかりの時は分からなかったが、今ならわかる。
自分の大切な誰かの為に、己を奮い立たせるための言葉だ。
だからこそ、復讐の代替などにその言葉を使うことなど許さない。
(もっとも、ソブンガルデに行けたとしても、英雄の間に入れるわけないけどな。お前、……愉しんでいただろうが!)
なにより、健人は察していた。この男の殺意の裏に覗く、享楽の影を。
仇を前にしたゆえの殺意かと思っていたが、そうではない。人を殺すこと……正確に言えば、子供を殺すことを、この男は愉しんでいた。
健人の脳裏に、デュラックの話が思い出される。
郊外で見つかる浮浪児たちの死体。獣達に食われてもなお、人の手によるものと分かるほど損壊させられていた亡骸。
(もしかしたら、この男……)
「ぐが、がはっ……! お前達、その娘たちを捕まえなさい! 」
自分の願いが聞き届けられなかったサージが、ルナ達を人質しろと周囲の山賊達に指示する。
呆けていた山賊達、その中で最前列にいた三人が反射的に動いた。
迫ってくる男達に、身を寄せ合っていたルナ達の顔が引きつる。
(させるかよ……!)
当然、健人がそれを許すはずがない。ルナ達に向かおうとする山賊達の横合いから突撃し、三人の足を斬りつけて無力化。ついでにその内の一人の顎を蹴りつける。
三人の山賊達を呼び水に、他の山賊達が次々にルナ達めがけて襲いかかり始めた。
バラバラにルナ達に向かってくる山賊達。健人はその全てを迎撃していく。
「うが……!?」
「ぐえ!?」
「この……! おぶ!?」
迫ってくる健人を迎撃しようとする者もいるが、一合すら刃を交えられずに倒されていく。
しかし、徐々にルナ達に迫る山賊の数が増え始めた。
一度に襲ってくる数が十を超えたあたりで、迎撃が間に合わなくなってくる。
そしてついに、山賊の一人が健人の迎撃の網を突破し、ルナに手を伸ばした。
「いや、離して!」
「こいつ、大人しくしろ……がっ!?」
ルナを掴む山賊の腕に『落氷涙』を投げつけ、怯んだ隙に顎を殴って昏倒させる。
素早く投げたスタルリムの短刀を回収し、再び迎撃に戻るも、既に山賊たちは次々とルナ達に向かって襲い掛かってきていた。
いくら力量差があろうと、今の健人は独り。ルナ達を奪還されるわけにはいかない。
(こいつら……いい加減にしろ!)
そして、ついに健人の我慢が限界に達した。
間合いに入ってきた三人の間を駆け抜け、首、脇の下、腹の急所を容赦なく斬りつける。
「わ、わあああ!」
「だ、誰か! 血を、血を止めてくれええ!」
斬られた山賊が悲鳴を上げる。
たとえ今すぐ絶命しなくても放っておけば間違いなく死ぬ傷だ。
今まで、健人は戦う際もワザと無力化していた。圧倒的な力量差を見せつけて威圧し、時間を稼ぐのが目的だったからだ。
しかし、その中途半端な行動が、山賊達の抵抗を煽ってしまっていた。
(ふううう……!)
「ひっ……」
「がぺ……!」
だから、もう回りくどいことはしない。
四方八方から振るわれる武器を滑るように躱し、敵が間合いに入った端から、容赦なく致命傷を刻んでいく。
(あっちはまだなのか……!)
逆を言えば、健人の方も追い詰められているともいえた。
そもそも健人が時間稼ぎしている理由は、アグミル達が馬車と他の虜囚を確保してもらうためだ。
後は、他の馬を逃がし、同時に馬車を走らせて中央突破する。複数の馬車で一気に突破する。大人数の虜囚を連れて脱出するには、これしかないのだ。
その時、ひゅん! という風切り音が健人の耳に流れてきた。
反射的に振り返って剣を薙ぐ。
死角から迫ってきていた矢が斬り払われ、ぬかるんだ地面に落ちる。
矢が飛んできた方に目を向ければ、弓を構えている山賊たちの姿があった。間合いの外からの攻撃に切り替えたのだ。
その数、十五人ほど。
(さらに面倒なことになった……!)
今の健人には遠距離攻撃の手段がない。声が出せない為に、魔法もシャウトも使えないからだ。
十五人の山賊達が、健人めがけて一斉に矢を放つ。
健人は咄嗟に近くの無力化した山賊を引き寄せて盾にしつつ、ルナ達に向かう流れ矢を迎撃する。
だが、間合いの外を飛んでいった矢がヴェルナの肩に突き刺さってしまう。
「あう……!」
「ヴェルナ!」
矢で射抜かれた肩を押さえて蹲るヴェルナ。山賊達は既に次の矢を番えている。
しかも、今度は倍の三十人ほどが弓矢を構えている。その中には当然、ルナ達を狙っている者もいた。
(くそ!)
健人はハリネズミのようになった山賊を放り捨て、ルナ達と山賊の間に割り込む。
いくら健人でも、鎧も盾もない状態で、一斉に放たれる三十の矢を迎撃することは難しい。
しかし、後ろにルナ達がいる。
(やってやる……!)
確固たる意志と共に、健人は山賊の射手たちを睨みつけた。
ドラゴンのごとき眼光に射すくめられ、僅かな動揺が射手たちに走る。
「う、撃て!!」
山賊の誰かが、震えながら声を上げた。
直後、番えられた三十の矢が次々に放たれる。
(おおおおおおおおおおおおお!)
まずは先頭の二矢を『落氷涙』の一閃で斬り払い、続く三矢を『血髄の魔刀』で落とす。外れていく五矢を無視し、続く四矢を双刀で打ち払う。
動作を細かく、かつ複数の矢を同時に打ち落とせるように、刃を振るい、次々と迫る矢を打ち落とし続ける。
放たれた矢は三十と多いが、外れる矢もかなりある。タイミングもズレたためか、矢も一気に襲ってはこない。
健人の剣気に打たれ、動揺したことが原因だ。
それでも数本を落としきれず、健人の体に裂傷を刻む。その痛みを無視し、双刀を振るい続け、そして彼はついに最後の一本を弾き飛ばした。
(はあ、はあ、はあ……ふう……)
「嘘だろ……」
三十もの矢を防ぎきれると思わなかったのか、山賊達の動きが一瞬止まる。
この隙に射手たちを排除しようと、健人が踏み出そうとしたその時、山賊達の後ろ……ちょうど集落の入口付近から、無数の細長い何かが空へと打ち上げられた。
(あれは……)
それは、先ほどをはるかに超える数の矢だった。
舞い上がった無数の矢は、頂点でその切っ先を山賊達に向けた後、一斉に死角から山賊達に襲い掛かる。
「が!?」
「ぐえ!?」
「な、なんだ!?」
突然襲いかかってきた矢の雨に、山賊達の動揺が更に広がる。
そして矢の雨が放たれた方向から、鬨の声が響いてきた。
「あれは……ストームクローク!?」
「いたぞ。我らの民を苦しめ続けた山賊どもだ。一人も逃がすな!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」
青いキュライスを纏った三百人ほどの兵士達が、部隊長の命令と共に一斉に山賊達に襲い掛かる。
瞬く間に広場は、ストームクロークと山賊達が入り乱れる乱戦の場と化した。
そんな中、健人達に駆け寄ってくる者がいる。
特徴的なドーンガードの重奏鎧を纏ったオーク。デュラックだった。
「無事か」
(デュラックさん……)
「すまない、遅くなったな。ここを突き止め、逃がした商人達が呼んだ軍勢を案内するのに時間がかかってしまった」
謝るデュラックに対し、健人は静かに首を振る。
彼は商人達を逃がした後、帰っていく山賊達を追跡。そして山賊達の拠点を見つけた後、逃した商人達が呼んだストームクロークをここまで案内してきたらしい。
さすがは熟練の戦士。状況判断と行動が適格だ。
援軍の到着に健人達がほっとしている中、デュラックはこれまでの鬱憤を晴らすかのように、山賊たちを次々に討ち取っていく。
(あれは、クロスボウか? この世界にもあるんだな……)
彼が使っているのは、クロスボウ。もしくは、弩弓と呼ばれる武器だ。
通常の弓よりも強力な弦を機械等の力で引き、ボルトと呼ばれる小型の矢を打ち出す武器だ。
構造としては、健人がいた地球の物とほぼ大差がない。
先端に輪状の部品があり、そのすぐ後ろには金属製のリムと、リムの力をボルトに伝える弦。そして、持ち手の横には、弦を引くための滑車が取り付けられている。
鋼鉄製の鎧すら穿つ威力がある強力な弓だが、一方で装填に時間がかかるというデメリットがある。
しかし、デュラックは素早く、手慣れた手つきで次弾を装填していく。
装填には弓の横に取り付けてある取っ手を回して弦を引くようだが、彼は足でクロスボウの先端の輪を踏み、手で直接弦を引いて装填をしたりもしている。
装填にかかる時間は五秒ほどだろうか。驚異的な速度だ。
おまけに装填の隙を突いて迫ってくる山賊達も、腰の片手斧で返り討ちにするほど。やはり、歴戦の戦士である。
そんな中、更に別の一団が広場に駆け込んできた。
ガラガラガラガラ! と車輪の音を響かせ、進路上の山賊を跳ね飛ばしながら広場に突撃してきたのは、山賊達が商人達から奪った馬車だった。
乗っているのは当然、アグミル達である。
しかし、乗っている商人や娼婦達は何故かその顔を恐怖に引き攣らせていた。
「た、たた、たた大変だ! き、きき、きゅう、きゅう……!」
先頭の馬車を操っていたアグミルが震える声を漏らしている中、馬車の一段の後方からは、おそらく塔の中にいたであろう山賊達が逃げたアグミル達を追いかけている様子が見える。
だが、その山賊の様子は、この広場にいる者達とはいささか様子が違っていた。
(あれは……)
「やはりいたか」
馬車を追いかけている一団は皆怪しく瞳を輝かせ、まるで腹を減らした犬のようにだらしなく口を開け、荒い息を吐いている。
そして、彼らは広場に跳び込むと、手近にいる自分達の仲間に襲い掛かり始めた。
「な、なにを……ぎゃあああ!」
「喉が、喉が渇く、飲ませろ、飲ませろ~~!」
押し倒した仲間に次々に群がり、噛みつき、その肉を食い破る。そして噴き出した血を、擦り始めた。
口元を地で真っ赤に汚し、一心不乱に血を啜るその様は、健人が昔日本で見たパニックホラーを彷彿とさせる光景だった。
そして、その怪物に生憎と健人は見覚えがあった。
これほど無秩序ではなかったが、他者の血を飲まずにはいられない存在。
吸血鬼。
かつてモーサルで暗躍し、そしてドーンガードの存在理由が突如として姿を現し、襲いかかってきたのだ。
というわけで、山賊、討伐軍、脱出組、吸血鬼と様相が混沌としてきました。