【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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エピローグ いつも貴方を想う

 リフテンの宿屋に、美しい旋律が鳴り響いていた。

 騒々しいこの街には似つかわしくない、穏やかな音色。

 普段は酒と賭けの喧騒に溢れるこの宿屋も、この時だけはまるで帝都のコンサートホールのような静謐に包まれていた。

 その音色の中心にいるのは、一人の美しい少女。

 歳の頃は、十七歳ぐらいだろうか。

 まるで、湖で一人戯れる妖精を思わせる佇まい。その優れた容姿もあって、この場にいるすべての人間が、彼女が奏でる美曲に聞き惚れていた。

 やがて、少女の曲が終わる。

 静かに首を垂れる彼女の姿に、呆けていた観衆たちはようやく我に返り、万雷の拍手を少女に送った。

 

 もう一度弾いてくれ。今度は別の楽器で奏でてくれ。

 

 止まらないアンコール。中には、少女に対して愛の言葉を叫ぶ者もいた。

 そんな彼らに、少女は静かに微笑みながらも「ごめんなさい、もうそろそろ帰らないといけないの」と、穏やかな表情で断りを入れる。

 そして彼女は、袋一杯に金貨が詰まった袋を受け取り、宿屋を後にした。

 向かう先は、再び家となった孤児院。玄関のドアを開けると、優しげなインペリアルの女性が彼女を出迎える。

 

「おかえりなさい、ルナ」

 

「ただいま、コンスタンス・ミッシェル。他の皆は?」

 

「ほかの子たちの世話をしてくれているわ。今日一日、お疲れ様」

 

 出迎えてくれたコンスタンス・ミッシェルに笑顔で返事を返すと、持っていた楽器を玄関の傍にそっと置き、奥へと向かう。

 再建されたオナーホール孤児院。

 まだ真新しい木の香りを嗅ぎながら奥へと向かうと、まだ幼い四人の子供と、彼らの相手をしているヴェルナ達がいた。

 ヴェルナを始めとした元『蒼の艶百合』の見習い達は、しばらく娼婦旅団に残った後、再建されたこの孤児院に来た。

 蒼の艶百合自体、女の体だけでなく、芸や音楽、教養で客を楽しませるという、かなりハイソな娼婦旅団だったこともあり、ヴェルナ達もあの事件の後、様々な知識や技術をクレティエンから学んでいた。

 今ではこの孤児院を支える立派な従業員であり、リフテンでも様々な仕事をこなして活躍をしている。

 

「おかえり、ルナ。もうお仕事終わったの? 早かったね」

 

「もう持ちきれなくなっちゃって……」

 

 そう言って、彼女はコインでいっぱいになった袋を差し出す。

 色々あったが、ルナは今こうして、故郷であるこの街で曲を奏で、孤児院の経営を助けている。

 ルナはあのクレティエンから音楽の才を認められた人物。その腕はシロディールの帝都の劇場でも通用するほどの腕前であり、この街ではちょっとした名物となっていた。

 

「そっか。で、今日はどんな曲を弾いていたの?」

 

「別に、いつも通りの選曲よ」

 

「ほうほう。じゃあ、調子は? どんな事考えながら弾いてた?」

 

「さあ、ね……」

 

 含みのある笑みを浮かべながら、ルナは駆け寄ってきた子を抱き上げる。

 女であるヴェルナから見ても、魅力的な笑顔。

 ヴェルナも街ではモテる方だが、ルナとは比較にならない。

街での様子や話を聞く限りでは、彼女に惚れている男は三桁に及ぶのではないかというのが、元蒼の艶百合見習い達の予想だった。

 実際、ルナは綺麗になった。容姿もそうだが、なによりも心が。

 それだけ彼女が美しくなった理由は……今さら野暮だろう。

 

「ルナお姉ちゃん、おかえりなさい!」

 

「何か弾いて!」

 

 そんな彼女は、孤児院の子供達にも人気だ。

 毎日毎日、音楽をねだられるのが常。子供なのだから、早く寝かせないといけないので、一曲だけと決められている。

 

「俺、英雄の曲がいい!」

 

「ええ!? そんなのつまらないよ! おとぎ話の曲がいい!」

 

「はいはい、騒がないの。ちゃんと弾いてあげるから」

 

 そう言って、ルナは近くに置いてあるリュートを手に取る。

 蒼の艶百合にいた頃に使っていた楽器だ。

 そのリュートを愛おしそうに撫で、微笑みながら、彼女は曲を弾き始めた。

 静かに目を閉じ、白く、細い指が繊細な旋律を奏でる。

 引くのは、ドラゴンボーンの歌。しかし、原曲の勇ましさはどこか抑えられ、穏やかで、心地よい音色が孤児院に響き渡る。

 

「やっぱり、お姉ちゃん綺麗……」

 

「そりゃ、恋も愛も籠っていますからねぇ……」

 

「むぅう……」

 

 若干名の男子達からは嫉妬の念が漂ってくる。

 閉じた瞼の裏に、いったい誰の姿を思い浮かべているのやら。

 コンスタンス・ミッシェルも片づけを終えて、ルナの曲に聞き入っていた。

 孤児院全員の視線を独り占めしながら、心の中で『彼』の姿を思い出しつつ、彼女は旋律を奏で続ける。

 

 貴方は今、どこにいますか……。

 

 ようやく戻ってきた日常。

 かつては傷つき、穢されながらも、身も心も美しく成長した少女は救ってくれた彼への愛を胸に抱きながら、今を強く生きていくのだった。

 

 




いかがだったでしょうか?
これにてドーンガード編前日譚は終了、ドーンガード編の本編へと続きます。
以下、登場人物紹介。

ルナ・フェアシールド
かつては浮浪児として、時には犯罪を犯しながら生きていた少女。
その罪を突きつけられ、殺されそうになるも助けられ、山賊団での一件が終わった後はしばらくの間、蒼の艶百合の中で芸を磨いていた。
その後はコンスタンス・ミッシェルと共にリフテンの孤児院を再建。その音楽の腕前で生計を立てている。
美しく成長し、芸にも秀でた彼女は相当モテるらしく、求婚してくる男性が数多くいるが、現在のところ、誰かと一緒になる様子はない。
同期の元見習い曰く、その席は既に埋まっているとのこと。


蒼の艶百合
クレティエンが率いていた娼婦旅団。
山賊団事件の後は方針を転換し、本格的に芸や音楽だけで経費をやりくりするようになる。
ちなみに団長の色好きは変わらず、気に入った男女がテントに引っ張り込まれるのは日常茶飯事だった。

ヴェルナ
数年を新生『蒼の艶百合』で過ごし、様々な技術を身に着けた後、ルナとリフテンで同居生活を始める。
彼女もまたルナとは別方面で才能がある人物で、実は数字に強く、様々な経理を担当している。
その財務能力は、首長にも目を付けられいるとかなんとか……。



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