【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第二話の更新です。
しばしの間、文章量は控えめで行きます。


第二話 近況報告

 

 復興し始めていたヘルゲンでのドルマとの再会。

 突然の出来事に健人は茫然としたまま馬から降りる。

 改めて彼と向き合うも、どんな言葉をかければいいのか迷ってしまう。

 確かに、健人はドルマとリータと会うためにホワイトランを目指していた。とはいえ、もう少し時間があると思っていただけに突然の再会に驚きを隠せない。

 

「…………」

 

 一方のドルマは、眼力のある瞳で健人を見つめたまま、口をへの字に曲げ、ズンズンと彼に歩み寄っていく。

 こちらでは三年という年月が過ぎているためだろうか。妙に圧が強い。

 やがて、ドルマが健人の目の前に立った。彼は健人と比べて、頭一つ分高い。

 元々の人相の悪さと相まって、初めて相対した者は威圧的に感じてしまうだろう。

 しかし、健人には分かっていた。鋭く、にらみつけるように見えてしまう目つきの奥に、安堵と強い歓喜があふれ出していることを。

 

「こいつ、ずっと心配かけやがって……!」

 

 口を真一文字にしながらも、ドルマは思いっきり健人を抱きしめた。

 ノルドの中でも腕力のある彼の抱擁。健人の体がギリギリと悲鳴を上げ始める。

 

(ぐえ~~! ちょ、苦しい! 離せ!)

 

「あっと、悪い。つい力が入っちまった」

 

 バンバンと二の腕を叩かれ、ドルマは慌てて抱擁を解く。

 そして強面の彼には似合わない笑みを浮かべた。

 

「本当に久しぶりだな。三年も行方不明で、どこで何をしてやがった」

 

 その質問に健人は少し逡巡してしまう。

 実際のところ、アルドゥインとの戦いは健人にとって、ほんの一か月ほど前でしかない。

 一方、タムリエルで経過した時間は三年。同年代だったドルマとも歳が離れ、彼はすっかり精悍な大人の男性に変わっている。

 今まで感じていなかった月日の経過を、健人は今さらながら少しずつ実感し始めていた。

 一方、ドルマの視線は健人の後ろに控えていたセラーナへと向かっていた。

 強面の笑顔が、これまた意地悪そうに深まる。

 

「しかも、まさか女連れとはな。奥手だと思っていたけど、この三年で随分と男らしくなったじゃねえか」

 

 お前の愛しの細君なんだろう? と、続くドルマの言葉に、健人は思わず顔を顰めた。

 この三年会いに来なかった理由が、彼の中で変な形で解釈されたのだろう。ものすごい誤解である。

 嘆息しながら、健人は黒板に白墨を走らせる。

 

『違うよ。とある仕事で、彼女が帰るまでの護衛を頼まれただけさ』

 

「そうか。そりゃ悪かった。ところで、お前なんで筆談なんだ?」

 

『アルドゥインとの戦いで、声が出せなくなった』

 

 健人は顎を上げ、傷を負った喉をドルマに見せる。

 引き攣った皮膚の上に張り付いた、醜い傷跡。まるで瘡蓋のような喉の様子に、ドルマは痛ましそうな表情で口を開きかけ、しかし言いかけた言葉を飲み込むように真一文字に引き締める。

 

「そう、か……アルドゥインは?」

 

『消えたよ。多少は、満足していたんじゃないかな……』

 

 二人の間に流れる一瞬の沈黙。

 傷跡はノルドにとって、誇れる称号だ。

 しかし、それが自分の身内となれば、悲哀を覚えずにはいられない。

 なによりドルマにとって、健人は交わした約束を果たしてくれた男だ。それも、普通の者ではとても成しえない約束を。

 だからドルマは無言のまま、健人をねぎらうように肩を叩いた。

 一方の健人も静かに頷く。それだけで、十分だった。

 

『ドルマは、ヘルゲンの復興を?』

 

 話題を変えるように、健人は黒板を掲げる。

 彼としても三年も経っているのだから、何らかの変化はあってほしいと思っていたが、まさかここまで復興しているとは思わなかった。

 

「ああ、故郷だからな。つもる話もあるし、宿舎に行こう。ちょっと待っててくれ。お~い、ガンマー!」

 

「なんだ?」

 

 ドルマが作業場の方に声をかけると、豊かな鳶色の髭を蓄えたノルドの男性が応えた。

 見たところ、ドルマより少し年上。三十歳ほどのノルドが汗を流しながら、材木の加工作業をしている。

 体もがっしりとしている。明らかに戦士の体つきだ。

 

「親友が来てくれた。ちょっと話をしてくるから、しばらくここを頼む」

 

「分かった!」

 

 ガンマーと呼ばれたノルドに作業を託すと、ドルマは健人とセラーナを宿舎へと案内していく。

 案内の途中、健人の目に奇妙な光景が映ってきた。

 大人のノルドよりも大きな、毛むくじゃらの獣。人に似た二足歩行をしながらも、明らかに人とは違う生き物が作業場を跋扈している。

 

『なんでトロールが作業場にいるんだ?』

 

 トロール。

 二足歩行をする肉食の獣であり、優れた腕力と回復力を誇る。

 当然、一般人にとってはクマと並ぶ大きな脅威。彼らの巣で人間の白骨死体が見つかることも珍しくない。

 人里の近くに出没すれば、間違いなく駆除対象になる猛獣。それがなぜか、人間に交じって復興作業を手伝っていた。

 観たことのない光景に健人とセラーナが驚く中、ドルマが口を開く。

 

「ん? ああ、ガンマーのトロールだ。あいつ、調教師らしくてな。いろいろな動物を調教して従わせてるんだ。確かに俺も初めて見たときは信じられなかったが、これまで家畜や人間を襲ったことはないからな。それに復興のためにやることは山積みだから、色々と頼ってる」

 

 ドルマの口から、先ほどドルマが作業を任せていたノルドの名が出る。

 かなりの戦士であると予想していたが、それに加えて相当な変わり者であるようだ。

 健人が視線でドルマにどんな縁で知り合ったのかを尋ねると、彼は苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「ガンマーは前にクマ退治していて、それを手伝ったことがあってな。その時に話をして、復興に手を貸してもらっている」

 

 いったいドルマ達は、どんな三年間を過ごしていたのだろう。

 健人が好奇心をくすぐられている中、彼はふと作業場から向けられる視線に気づく。

 

(……ん?)

 

 気配の元を追うと、先ほどドルマが話をしていたガンマーがこちらを見つめていた。

 正確には、健人の傍にいるセラーナを、である。

 確かにセラーナの恰好は目立つ。全身を覆う黒いローブと目を覆う眼帯。なにより、彼女が持つ隠し切れない美貌と高貴な気配が、自然と人目を惹いてしまう。

 実際、作業場の男達だけでなく、井戸で洗濯をしているご婦人方もチラチラとセラーナを覗き見ている。

 だが、健人が気になったのは、ガンマーから向けられる疑惑の視線に交じった、黒い気配。

 セラーナもドルマも気づいていないほど僅かなものだったが、健人は自身の直感が囁くのを感じた。

 

(すこし、気に掛けておく必要があるかもな……)

 

 胸の奥にノルドの調教師のことを留めながら、健人は努めて平静を装いつつ、ドルマの後ろを歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 案内された宿舎の中は宿屋を元にしているのか、入ってすぐに大きな火床がある大広間となっている。

 奥には料理や飲み物を提供するカウンターと調理場への扉、そして地下倉庫に続いていると思われる階段がある。

 二階への階段も併設されており、作業員への十分な住居が提供できるか体になっていた。

 健人の胸に、懐かしさがこみ上げる。リータの両親であるティグナ夫妻が営んでいた宿屋によく似ていたからだ。

 おそらく、ドルマが意識的にあの宿屋の造りを取り入れたのだろう。

 

「俺の部屋はこっちだ」

 

 ドルマはカウンターのすぐ近くの部屋に健人達を案内する。

 部屋の中もそれなりに広く、机とベッド、そして来客用の長椅子とテーブルが設けられていた。机の上には、復興のために必要と思われる書類もいくつか置かれている。

 ドルマは健人達を案内した後、一旦部屋を出ると、トレーを持って戻ってきた。

 トレーの上には、三つの木製の杯と蜂蜜酒の瓶が乗せられている。

 酒の銘は、ホニングブリュー。健人の口元に思わす笑みが浮かんだ。

 

「せっかくの再会なんだ。祝わないと勿体ないだろ?」

 

 そう言って、ドルマは嬉々として杯に酒を満たしていく。

 蜂蜜酒を選ぶあたりがにくい。なぜなら、二人がリータを守ると約束したときに交わした酒だからだ。

 一方のセラーナは、注がれる蜂蜜酒を興味深そうに眺めている。

 もしかしたら、封印から目を覚まして以降、このような酒を飲む機会がなかったのかもしれない。

 彼女にとっては、数千年ぶりの酒精。そして健人とドルマにとっては、思い出の酒。

 二人は互いに杯を鳴らし、一気に飲み干す。蜂蜜の甘さと酒の熱が胃の中へと落ちていく。

 セラーナもチビチビと現代の酒を味わっていた。

 

「さて、それじゃ。色々と話をしようか」

 

 飲み干された杯が、カタンとテーブルの上に置かれる。そしてその声に促されるように、健人はソブンガルデへ向かった後のことについて説明し始めた。

 勇気の間の英雄達と共に、アルドゥインと戦ったこと。その後にアルドゥインが世界の全てを食い尽くしたこと。

 

「なるほどな。やっぱあの時、俺達は一度死んでいたのか……」

 

「あの時、とは……?」

 

 声を出せない健人の代わりに、セラーナが尋ねる。

 彼女もまた、長年封印されていた者。アルドゥインが世界を食い尽くしたときのことは覚えていない。

 

「ん? まあ、こいつ等がソブンガルデに行って、俺達がホワイトランで北から来たアンデッド共と戦っていた時、東の空から突然黒い影が迫ってきてな。その後意識を失ったんだが、気がついたら何もなく戦場に佇んでいたってことが起きたんだ」

 

 その後、ホワイトランを襲ってきたアンデッドは撤退。街は平穏を取り戻したらしい。

 また、その『黒い影』はタムリエルの全土で同時に起こっていたとのこと。

 タイミングを考えるに、健人がアルドゥインを倒して世界を再構築したときと同期している。

 

「やっぱ、お前がどうにかしていたのか。まったく、大した奴だよ。しかし、まさかあの戦いがお前にとっては一か月前程度の出来事とはな。道理で変わらないわけだ……」

 

 一方のドルマは健人の話を聞いて、呆れとも関心とも取れない表情で木製の天井を見上げる。ドラゴンボーンの出鱈目さは身をもって知っているが、今回聞いた話はそんな彼の想像以上だった。

 まず間違いなく、タムリエル史に刻まれるべき出来事だろう。

 同時にドルマは、それが健人の為になるとも思えなかった。

 異世界からの迷い人。偶然、この地に落ちてしまった一般人。かつて彼から聞いた境遇は、そんなごく普通のものだった。

 世界を守れるほどの力を手に入れても、健人の本質は変わっていない。どこまでも普通の感性を持つ者だ。

 そんなことを考えながら、ドルマは目の前のドラゴンボーンの様子を眺める。

 相も変わらず、どこか気の抜けたような空気を纏っている親友。変わらないその姿に安心しつつも、彼は内心嘆息を漏らす。

 

『ドルマ、リータは?』

 

「リータは今、ホワイトランだ。ちょっと外せなくてな。それに……」

 

 先ほどまでのはきはきとした様子から一転、迷うように視線を巡らせ始めたドルマに、健人は首を傾げる。

 

「なあ、気づかねえか?」

 

 一瞬首傾げる健人。その目に、ドルマの指にきらりと光る銀の指輪が飛び込んできた。

 

(指輪……? まさか……)

 

「ああ、その、結婚したんだ。俺達……」

 

 誰と、誰が? 言葉にするまでもない。健人は思わず大きく息を吐く。

 驚きと当惑。同時に浮かぶ、やっぱりなという感情。

 アルドゥインとの戦い前の二人の様子を思い出せば、納得できることではあった。

 驚きの事実を告げられた健人は、しばしの間目を見開いた後、静かな笑みを口元に浮かべながら、黒板に白墨を走らせて掲げる。

 

『おめでとう』

 

「いいのか? その……」

 

 どこか気まずそうなドルマに、健人は言葉を続ける。

 

『俺にとって、リータは手のかかる姉ではあるけど、そういう対象に見たことはないよ』

 

「にしては、随分とリータの為に色々としてくれたじゃねえか……」

 

『俺には、ここに来るまで、家族が父親以外にいなかったからね』

 

 健人は父子家庭。その父も忙しく、家では独りでいることが多かった。

 友人がいないわけではなかったが、家に誘うわけでもない。それに、一時は変な同級生に目を付けられ、孤立していた時もあった。

 思い返してみれば、誰かとのつながりを強く求めていたのかもしれない。

だから、この世界に迷い込んだ上、どこにも行く当てのなかった自分の家族になってくれたティグナ夫妻やリータの為に必死になっていた。

 ある意味、孤独感をこじらせた執着……とも取れるだろう。

 しかし、この世界で様々な人と係わり、多くの経験を積んだ今、健人は冷静に自分自身を俯瞰してみることができている。

 リータへの感情は、愛は愛でも、家族愛だ。ドルマが彼女へ向けていたような、女性への恋愛感情ではなかった。

 そんな健人の心の内を察してか、彼の事情を知るドルマも納得の顔を浮かべる。

 

「そうか……。お前の出自を考えれば、それも当然……」

 

 そこまで口にして、ドルマも思わず口を閉じて言いかけた言葉を飲み込んだ、

 そして、健人に釣られるように、ゆっくりと口元を緩めていく。

 

「ケント、ありがとな……」

 

 何に対して、とは言わない。言葉にするのも無粋。

 代わりに、穏やかな沈黙が二人の間に流れる。

 そして健人は、ドルマから礼に応えるように、カラになっていた二人の杯に蜂蜜酒を注ぐ。

 示し合わせたように杯を掲げ、静かに乾杯。再びのどを潤す甘い酒精に、二人はしばしの間酔いしれる。

 

「ところで話は変わるんだが、そっちの美人とはどういう関係だ?」

 

 中身を飲み干した杯をテーブルに置いたドルマの視線が、健人の隣に座るセラーナに向けられる。

 

『事情を話すよ』

 

 彼女の事情の説明も必要だ。健人はセラーナに目配せを送る。

 視線の真意を悟り、吸血姫の口元が引き締まる。

 

「本気ですか? いえ、貴方を信用していないわけではないのですが……その……」

 

『大丈夫です。彼は信頼できますよ』

 

 確信をもって伝えられる健人の言葉に、セラーナは押し黙った。耳鳴りがするほどの沈黙が流れる。無理もない。セラーナの事情を鑑みれば、いたずらに自分の正体を話すということは、自殺行為でしかない。

 しかし現状、誰かの協力は絶対に必要だった。

 クレティエンから受け取った資金がいくらかあるとはいえ、人と全く関わらずにハーフィンガルまで行くことは無理だろう。それは、セラーナも理解している。

 

「……貴方が、そうおっしゃるなら」

 

 十秒近い沈黙の後、セラーナは覚悟を決めたように、眼帯に手を伸ばした。

 端正な顔に巻かれていた帯が、はらりと外される。

 向けられる不気味な虹彩の瞳に、ドルマの目元がぴくりと揺れた。

 

 




というわけで第二話です。
ドルマとリータ、結婚していました。
まあ、この辺は本編でもそれとなく匂わせましたから、予想していた読者さんもいるでしょうね。

それから、ドーンガードのもう一人の登場人物も登場しました。
以下、登場人物紹介。

ドルマ
リータの幼馴染。
アルドゥイン事変の際はドラゴンボーンであるリータの旅に同行。
最終決戦時はホワイトランで攻め込んできたアンデット相手に戦っていた。
その後、帰ってきたリータに想いを告げ、結婚。
健人とは義兄弟の関係となっている。

ガンマー
DLCドーンガードの登場人物。
戦士であり、同時に調教師をしており、様々な動物を従える術を学んでいる。
ドーンガード側のクエストで登場し、イスランとは仲たがいしている状態だった。
ゲームでは彼のクマ退治に主人公が協力することで、ドーンガードに戻り、武装トロールの調教を受け持つようになる。
本作の中では、ドルマが彼のクマ退治を助けたらしく、ヘルゲンの復興に協力してくれている。
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