【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第三話 状況証拠的信用

 セラーナの正体と、スカイリムに戻ってからの出来事を一通り聞いたドルマは、大きく息を吐きながら、呆れのセリフを健人にぶつける。

 

「まさか、吸血鬼とはな。相変わらずトラブル好きな奴だな」

 

 少々緩い口調なのは、彼なりの気づかいだろう。

 一方の健人は不満顔で黒板を掲げた。

 

『別に好きでトラブルに首を突っ込んでるわけじゃない』

 

 健人としては、別に自分から好きで問題に遭遇しているわけではない。気がついたらとんでもない状況になっていただけだ。

 セラーナが吸血鬼であることもそうだし、山賊に攫われたこともそうだし、その後に千年クラスの吸血鬼と戦う羽目になったのもそうだ。

 確かに最後は自分の意志で戦い抜いたが、始まりは本当に只の偶然である、というのが健人の主張。

 一方のドルマは、健人が掲げた黒板を見て、更にため息を吐く。

 

「よく言う。アストンさんの宿屋で働いていた時、あの猫に自分から関わっていただろうが。その後もなんだかんだ料理の試作品を食わせてやってたしな」

 

 ドルマが言う猫とはカシトのこと。

 まだドラゴン退治の旅に出る前、この街で給仕の仕事をしていた健人は、無銭飲食した挙句、給料を取り上げられてツケを払えなくなった彼とアストンの間を取り持った。

 普通なら、そのような客に自分から関わろうとする従業員はいないだろう。

 つまるところ、目の前の問題に対し、面倒でもどうにかしようと動こうとするのが健人であり、彼が色々なトラブルに首を突っ込む羽目になるのもそれが理由。

 その自覚が本人もあるのか、ドルマのセリフに健人は口をへの字に曲げて押し黙る。

 一方のセラーナは、困惑した表情のまま、所なさげに体を揺らしていた。

 即座に排除されると思っていたところに、二人の緩い空気に当てられたからだ。

 その後のドルマの言葉も、彼女をより当惑させる。

 

「分かった。手を貸そう。ハーフィンガルまでだったな。一度ホワイトランに寄ってから行くんだろ?」

 

「あ、あの……本気ですか?」

 

 思わず尋ねてしまうセラーナ。ゆっくりとドルマの目が、彼女に戻される。

 向けられるまっすぐな視線に、セラーナは息を飲み、おもわず背筋が伸びた。

 

「ああ、本気だ。アンタが吸血鬼だというのは分かったが、こいつが手を貸すんだ。いたずらに人間の血を吸いまくるような奴じゃないんだろ?」

 

「え、ええ……」

 

「今はケントから血を貰ってんのか?」

 

「は、はい……」

 

「だろうな。だから信用できるのさ」

 

 首を傾げるセラーナに、ドルマは言葉を続ける。

 

「力や権力欲に取り付かれた吸血鬼なら、こいつを吸血鬼にしない理由はない。ついでに言うと、こいつから無理やり血を吸うことも困難極まりない。一緒にいて、血を貰っていて、かつコイツが吸血鬼になっていない時点で、アンタを一時的にでも信用する情報としては十分なんだよ」

 

 ドルマの回答に、セラーナだけでなく健人も目をぱちくりさせた。

 そして数秒の驚きの後、彼女は静かに頭を下げる。

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

「ただ、忘れんなよ。アンタへの信用は、こいつからの信頼が前提になってるってな。さて、それじゃ先の話をするか。お前たちはこれからハーフィンガルへ行くためにホワイトランに寄る、でいいな?」

 

 最後に釘を刺しながら、ドルマは健人に視線を戻す。

 健人もまた、ドルマの言葉に頷いた。ハーフィンガルまでの長旅なのだ。補給はしたいし、なにより一目リータに会っておきたい。

 

「俺もリータも、今は遠くへ旅をすることは難しい。だが、必要なものを用意する手伝いはできる。とりあえず健人に必要なのは武具か?」

 

 その言葉に、健人は再び静かに頷く。

 今の彼は、ほとんどの武具を失っている状態だ。

それに現在、ドーンガードにも目をつけられている。長旅であることを考えれば、まともな装具が欲しい。

 

「なら、またエオルンド・グレイメーンに頼もう。以前も竜鱗の盾を作ってくれたから、今回も大丈夫だろう。ただ、以前お前が使っていた鎧クラスの武器は難しいな。リータは三年前からドラゴン退治はしていないから必要な資材がないし、付呪の方も無理だろう」

 

 少し申し訳なさそうなドルマに、健人は「気にしていない」というように首を振る。

 健人がアルドゥインの戦いで身に着けていた装具は、どれもが最上級の品だ。特に二つの効果を付呪した装具はこの世界ではほとんどない。

 あれはネロスという、長い時を生きたウィザードの協力を得られたから作れたもの。健人もさすがに、あれほどの装備が用意できるとは思っていない。

 むしろ、またエオルンドに口利きしてくれるだけでも十分だ。彼の鍛冶の腕は、健人もよく知っている。

 そもそも、協力が欲しいのは健人の方だ。だから感謝しかしていないのだが、変なところで律儀なドルマに思わず苦笑してしまう。

 

「とりあえず、部屋を用意するから、今日はゆっくり休んでくれ。出発は明日の朝でいいか?」

 

 否はない。しかし、付いてくることを匂わせるドルマに、健人は質問をぶつけた。

 

『一緒に来てくれるのは嬉しいが、ドルマはヘルゲンを離れて大丈夫なのか?』

 

「ああ。ホワイトランまでなら問題ないさ。確かに工事はあるが、今はある程度空けても大丈夫だし、俺自身、一度家に帰ろうと思っていたところだったんだ」

 

 そういって、ドルマは宿舎を管理するご婦人に個室二つを用意させた。

 場所は、宿舎の一番奥まったところ。部屋が隣同士なのも含め、セラーナの事情を考慮してくれたのだろう。

 部屋へ案内された健人はセラーナと分かれ、用意された部屋に入ると荷物を下ろす。

 内装は木製のベッドと、小さな卓と椅子が置かれていた。

 普通の宿屋と特に変わらないが、ずっと野宿であった健人には風雨にさらされないだけで嬉しい。思わすベッドに腰かけ、敷かれた毛皮を撫でてしまう。

 

(ふう……)

 

 緊張を解くように静かに息を吐き、健人はベッドに体を横たえた。

 これまでの疲労が急激に襲いかかってくる。

 そして重くなる瞼に抗えぬまま、健人は深い眠りへと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 翌日、健人とセラーナはドルマと共に、復興中のヘルゲンを後にした。

 二頭の馬に乗って並びながら、ヘルゲンを離れていく。一頭目の馬にはドルマが乗り、もう一頭に健人とセラーナが乗っている。

 健人の腰には、鉄製の片手剣。そして背には新たに鉄製の盾を背負っている。ドルマが用意した武具だ。

 ドラゴンや吸血鬼を相手にするには、いささか心もとないが、山賊程度相手なら、これで十分。

 ヘルゲンの北門から出た二頭は、そのまま街道沿いに北進。緩やかに下る街道を進みながらゆるやかな坂道を下っていく。

 坂道はやがて見覚えのある道へと変わり、三つの大立石が見えてくる。

 

「なんだか、懐かしいな」

 

(ああ……)

 

 感慨深そうなドルマの一言に、健人も静かに頷く。

 そこはかつて、アルドゥインによってヘルゲンを追われた彼らが歩いていた道だった。

 やがて見えてくる小さな村。リバーウッドだ。

 ヘルゲンから追われた時、一時的に避難した村。

 健人はドルマに頼み、少しだけ待ってもらう。そして馬を降りると、門の近くに構える鍛冶屋へと足を向けた。

 仕事場と住居が一体となった鍛冶屋では皓々と炉が焚かれ、その前で髭を生やした中年のノルドが槌を振るっている。

 彼の名はアルヴォア。崩壊するヘルゲンから逃げる際に助けてくれた帝国兵、ハドバルの叔父だ。

 

「君は……」

 

 店の前に立つ健人に気づいたアルヴォアが僅かに目を見開く。

 健人は挨拶がてら、静かに頭を下げる。  

 アルヴォアは作っていた斧を作業台に置くと、煤で汚れた手を手拭いで拭きながら歩み寄ってきた。

 

「驚いたな。無事だったのか」

 

『はい。三年前はお世話になりました』

 

 黒板を掲げて筆談をする健人にアルヴォアは首を傾げる。

 声を出せなくなったことを黒板で伝えると、アルヴォアは痛ましそうに顔を歪めた。

 恩人の表情を見て、やはりこの人は優しい人だなと思いながら、健人は自身がドラゴンボーンであること、ソブンガルデでハドバルとレイロフに会ったことを告げた。

 アルヴォアは大きく息を吐き、しばしの間、鍛冶場の天井を見上げる。

 

「そうか。ソブンガルデに行けたのなら、本望だろう。ありがとう」

 

 ハドバルの死の報せは、当然アルヴォアにも届いていた。

 甥の死にどれだけ彼が心を痛めていたのか、健人には知る由もない。

 しかし、恩人がノルド達にとって天国であるソブンガルデに行けたことは、少なからずこの壮年の鍛冶師の救いになっただろう。

 その後、アルヴォアは泊っていくかと尋ねてきたが、健人は辞退し、先へ進むことを告げた。焦る必要は確かにないが、セラーナのこともある。

 去り際に手を振り、健人はドルマ達の元に戻った。

 

『ドルマは話さなくてよかったのか?』

 

「ああ。俺はよく会うからな」

 

 話しを聞くと、ドルマはヘルゲンの復興のための木材を、このリバーウッドから調達していたらしい。

 そのため、健人がアルドゥイン事変の中でどうなったのかも、ある程度話すことがあったそうだ。

 アルヴォアが、健人がドラゴンボーンであり、ソブンガルデのことを話してもすぐに受け入れたのは、そんな事情があったかららしい。

 ハドバル達のことをアルヴォアに伝えた後、健人達は再びホワイトランを目指して北と進む。

 一行は途中で夜を迎えたため、街道の脇で一泊することとなった。

 テントを立てて火を起こし、食事をとる。

 食事が終わると健人は、注射器でシリンジに自分の血を取り始めた。

 

「お前、本当に血を分けることに戸惑いがないんだな」

 

『俺の故郷には、血が足りない人に自分の血を分け与えることが国の機能としてあったんだ』

 

 いわゆる、献血と輸血を始めとした医療機構だ。

 日本ではボランティアから提供された血液が赤十字社を通じて、様々な医療機関へと送られている。

 献血と輸血の話を聞いて、ドルマは顔を顰めた。

 

「そんなことして大丈夫なのか? 確かに血は命の塊だが、普通他人の血を体に入れたら死ぬだろ」

 

『もちろん、下手をすればとても危険だよ。安全性にはとても気を配ってる』

 

 血は生命とエネルギーの塊である。これは地球でも長年信じられてきた。血を流しすぎると死ぬ姿が、肉体から命が抜けていく様と重なったからなのかもしれない。

 また、他人の血を飲むと若返るなどという話や、若さを保つために血の浴槽に漬かるなどという話が、時代を問わず残っている。

それほどまでに、生命力と血は密接に結びつけられて考えられてきた。

 しかし同時に、血には災いも付いてくると信じられてきた。

 血を媒介にする感染症、血液成分のバランスが崩れるなど、その原因は様々。

 顕微鏡などが発明されていない時代では細菌やウイルスが発見されていなかったこともあり、統計的に血に触れると体調を崩しやすいという話に留まっていた。

 また、原因が不明であるが故に恐怖心が先行し、悲劇にもつながった例も多々あった。

 

(実際、こんな環境で採血するとか、故郷の医療関係者なら絶対にしないだろうな……)

 

 感染症への理解が深まっている現代日本でも、こんな野外で、しかも同じ注射針を使って採血を続けるのは、絶対に良くないだろう。

 一応、殺菌の為に道具を全部煮沸消毒しているが、それでも未知のウイルスや細菌が存在しないとは言えない。

 とはいえ、現代日本で病気の原因が見えない細菌やウイルスのせいであることを知っている健人にとって、輸血の精神的ハードルはタムリエルに住む者よりもずっと低い。

 なによりセラーナに下手に他人の血を吸わせるわけにもいかない。

 彼女の感染力は、普通の吸血鬼とは比較にならないからだ。

 

「……相変わらず、俺達の知らないことをよく知っている奴だが、分かっていても俺には無理そうだな」

 

 ドルマの方は、健人が言っていることを今一理解しきれない様子。まあ、無理もない。今のタムリエルにはない考え方だ。

 いや、もしかしたらあるのかもしれないが、少なくとも死霊術師など、おおよそ邪悪と判断されるような集団しか行っていないだろう。

 健人も慄くドルマに苦笑を返しながら、消毒の終わった注射器を腕に刺す。

 プツリと針が肌を貫き、注射器に刺されたシリンジに紅い液体が満たされていく。

 シリンジが一杯になると、カラのシリンジへと交換。そうして健人は五本ほどのシリンジに血を満たした。これで五日ほどはもつだろう。

 そのうちの一本をセラーナに渡す。

 彼女はすぐにシリンジを開け、器に移して中身を嚥下した。

 はぁ……と艶を帯びた声が、夜の冷たい空気に溶けていく。

 一見、平淡に見える表情も、どこか満足そうだった。

 そんな彼女の様子に、健人もまた静かに微笑む。

 吸血鬼に対して少しの躊躇もなく血を提供する健人。その姿をまざまざと見せつけられ、ドルマは改めて驚嘆の表情を浮かべていた。

 

「ほんとお前って、よくわからん奴だな」

 

 セラーナも内心、ドルマの言葉に同意するように頷く。

 苦笑を浮かべる健人にドルマは「そういやこいつ、そういう奴だったな」と呆れ顔を浮かべつつ、自分のテントに戻っていくのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
かつてヘルゲンから逃げ延びた道を、再び歩む健人。
次はいよいよ、ホワイトランで彼女との再会です。

それから、久しぶりのアンケートを作ってみました!
題名はずばり、健人のヒロインは誰が相応しいか! というもの。
皆さん、ぜひ参加してみてください。

健人のヒロインアンケート

  • 正統派吸血姫 セラーナ
  • ブラコン妹系ヒロイン ソフィ
  • ツンデレ枠ヒロイン ルナ
  • 一冬一緒に過ごした フリア
  • クトゥルフ系邪神ストーカー モラ様
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