【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第四話 芽吹いていた新たな命達

 小高い丘の上に造られた街、ホワイトラン。スカイリムの中心地であり、交易の拠点。そして屈指の穀倉地帯を治めるホールド。

 そして、健人が会いたかった家族たちが居を構える街だ。

 

(ようやく、か……)

 

 春の青空の下、遠くに見えるホワイトランを見つめながら、健人は感慨深そうに白い息を吐く。

 思った以上に時間がかかってしまった。

 街へと入るための門を通り、そのまま街の中へ。三年という年月の経過による変化に身構えていたものの、入ると意外にも以前と変わらぬ街並みが出迎えてくれた。

 

(建物はほとんど変わっていない。でも……)

 

 心なしか、道を行く人たちの顔は笑顔が多いような気がする。

 竜の被害が落ち着き、更に内戦もまだ再開される様子はない。

 いつかは再び戦火が広がるのだろうが、それでも今を精一杯楽しみながら生きる様は、相も変わらず、健人が惹かれたこの地の人達の強さを垣間見せている。

 久しぶりのホワイトランを見渡しながら、健人は目的地へと進む。

 門の傍の鍛冶屋、左手に見える衛兵の詰め所と酒場。中央通りの脇に建つブリーズホーム。その前に立ったドルマが、扉を開けた。

 

「リータ、戻ったぜ」

 

「おかえり、ドルマ。お疲れ様!」

 

 懐かしい声に、思わず心臓が高鳴る。

 扉の影になって見えないが、ドルマが一言二言会話をすると、彼の体がドンと押しのけられ、『彼女』が姿を現した。

 金色のカーテンがふわりと広がる。

 あの戦いに赴いていた時よりも、柔らかい表情と、少し丸みを帯びた頬。

 足元まで隠す、長い黄淡色のワンピースに身を包んだ彼女は、思っていた以上に大人びていながらも、どこか懐かしさを感じさせた。

 

(ああ、本当に……)

 

 戻れたのだろう。普通の、町娘に……。

 思わず込み上げる、万感の思い。家族になってくれた彼女が、その恰好をしている姿を見ただけで、健人の胸に言い表せないほどの嬉しさがこみ上げてくる。

 

「ケント……」

 

 リータもまた、健人の姿を確かめ、その蒼色の瞳を見開く。

 家族をだれよりも大切にし、その死に報いようと復讐の旅に出るくらいに優しい彼女のことだ。随分と心配させてしまったことは、容易に想像できた。

 案の定、フルフルと体を震わせたリータが両手を開きながら駆け寄ってきて……。

 

(あ、なんかヤな予感……)

 

 次の瞬間、強烈な抱擁が健人に襲いかかってきた。

 ドルマと再会した時よりも、数倍強い力。

 まるでマンモスか巨人にでも踏まれたかのような圧力が全身にかかり、骨と筋肉が悲鳴を上げる。

 

(うぎゃあ~~~~!)

 

 ミシミシ、ゴリゴリ、ゴキン!

 おおよそ、人体から鳴ってはいけない音が、声にならない悲鳴と共にホワイトランの青い空に響き渡った。

 

「リータ、手加減してやれ。ケントが死ぬ」

 

 ドルマの突っ込みに、リータは慌てて抱擁を解く。

 健人の体が地面に崩れ落ちた。

 

「ご、ごめんねケント。その、嬉しすぎちゃって……」

 

(い、いや、いいけどね。体ちぎれるかと思ったけど……)

 

 なんだか数日前と同じやり取りをしながら、健人は体を起こす。

 正直なところ、ダメージだけならドルマの時より数倍酷い。なんだか体の芯から痛みが走るし、両足にも力が入らない。

 どうやら、外見はすっかり町娘でも、中身はドラゴンボーンのままのようだ。

 立ち上がった健人はリータに気遣われながら、セラーナと一緒にブリーズホームの中へ。

 内装は、正直あまり変わっていない。だがよく見ると、棚や椅子などの家具が増えていた。

 リータに促され、健人は居間の中央に置かれた焚火の傍にセラーナと並んで座る。ドルマと彼女は斜め横に隣り合う形で座った。

 パチパチと弾ける火。かけられた鍋から立つ湯気。

 差し出されたお茶の器を、両手で包み込む。寒空の下で冷えた指が、ゆっくりと温められていく。

 そしてドルマと健人の二人で、アルドゥインとの戦いや、その際に声を失ったことをリータに伝えた。

 

「そんな……」

 

 健人の喉が潰れたことを知ったリータは、本当に痛ましそうに瞳を揺らしていた。

 よく見れば、涙も浮かんでいる。

 

(やっぱり、こうなったか)

 

 彼女の反応を予想していた健人は、出来る限り軽い笑みを浮かべながら、黒板を掲げる。

 

『気にしなくていいよ。俺自身の選択の結果だし』

 

「でも、でも……!」

 

「リータ、男が決めたことだ。それ以上は言うな」

 

 言い募ろうとするリータの言葉を、ドルマが止める。

 現代日本ではまず言われることのなくなった言葉。しかし、この厳しいスカイリムの地では、常に求められる姿勢。

 自らの意志で臨み、自らの責は甘んじて受ける。

 ドルマは男が決めたことと言っているが、女であろうとこのスカイリムでは、常に自らの道は自らで切り開くことを求められる。

 そもそも、健人自身がアルドゥインと戦ったことに後悔はないのだ。

 だから、リータにも責任感は抱いてほしくはない。

 そんな健人の内心を察したのか、彼女も気持ちを落ち着けようと一度深呼吸をする。

 

「分かった。ありがとう、ケント。本当に、お疲れ様……」

 

 続いて流れたのは、静かで、柔らかい、ねぎらいの言葉。

 健人もまたゆっくりと頷き、出されたお茶を啜る。体の芯から温もりが広がっていく心地よさに、彼はしばしの間、沈黙の中で身をゆだねていた。

 

「うえ、うええええええ!」

 

「あ~~! あ~~~~~!」

 

「あ、いけない!」

 

 奥の部屋から甲高い鳴き声が響いてきた。

 一体何事かと健人が顔を上げると、リータが慌てた様子で奥へと向かっていく。

 今の声は間違いなく、赤ん坊の泣き声。

 おもわず、向かいに座るドルマに視線を向けると、彼は恥ずかしそうに頭を搔いていた。

 

「ああ、まあ、その……。遠くに旅できないって言ったろ? そういうことだ」

 

 彼の言葉に、健人は驚きの表情を浮かべる。

 しかし、よく考えれば当然のことだ。二人は夫婦となっていたのだから。

 案の定、奥に向かったリータは、二人の赤子を抱きかかえて戻ってきた。

 

「ほらほら、よしよし。大丈夫だからね~~。ドルマ、レメネをお願い」

 

「ああ、分かった」

 

 レメネと呼ばれた赤ん坊が、ドルマに預けられる。

 泣いていた赤ん坊だが、親の二人を認識すると、すぐに泣き止んだ。

 どうやら、親がいなくなって不安だったらしい。

 くるまれていた麻の布の中で、父親を見上げながら、楽しそうに手をワキワキさせている。

 

「こっちがレメネ。リータが抱いているのがオルレナスだ」

 

「双子……ですか?」

 

「うん。男の子と女の子」

 

 健人の内心を代弁するかのようなセラーナのセリフに、リータは頷く。

 女の子のレメネと、男の子のオルレナス。

 二人の赤子は、どちらもリータによく似た金髪と蒼い瞳をしていた。

 顔つきは何となく、二人を足して割ったような感じで、どちらも愛らしい容姿をしている。

 美しいリータに隠れがちだが、ドルマも顔立ちは精悍で整っている。将来有望な赤子たちだった。

 

「それでケント、こちらはどなた?」

 

 リータの視線が、健人の隣に座ったセラーナに向けられる。

 口元に笑みを浮かべながらも、探るような視線。

 リータの瞳の奥にある強大な気配を感じ取ってか、セラーナは緊張した様子で自己紹介を始める。

 

「……セラーナと、申しますわ」

 

『ある人の依頼で、彼女が家に帰るまで護衛してる』

 

「ふ~~ん。吸血鬼?」

 

 リータの言葉に、セラーナの体がピクリと震えた。

 相も変わらず、カンが鋭い人である。

 

『そうだ』

 

 元々隠し事をするつもりはなかった健人は、あっさりとセラーナが吸血鬼であることを認めた。

 とりあえず、事情の説明もしよう。

 そう思って健人が黒板の字を書き直している中、リータは口を開く。

 

「そっか。健人と一緒にいるなら、それほど悪い人じゃないんでしょ」

 

 事情も聴かずにセラーナを悪い人じゃないと言い切るリータに、セラーナが眼帯の奥で目を見開く。

 健人も思わず、黒板に走らせていた白墨を止めてしまった。

 

「とりあえず、判断するのは話を聞いてからにしろ……」

 

 あきれ顔のドルマが突っ込み、健人の代わりに事情を説明する。

 時間としては数分。

 それだけでリータは「分かった、いいよ!」と協力を承諾してしまった。

 

「本当に、簡単に信じるのですね……」

 

「まあ、健人と一緒にいるからね。多分ドルマも同じこと言ったと思うけど。それに、声を聞けば大体、その人の人となりは分かるからね~~」

 

 ドラゴンボーンとしての資質なのか、それとも三年間の経験によるものなのか。おそらくは後者なのだろう。ニコニコとオルレナスをあやすリータの姿は、すっかり幸せいっぱいな新妻といった様子。

 この三年間で一体何があったのか。健人としては興味をそそられる。

 

(……そういえば、あの人の姿が見えない)

 

『リディアさんは?』

 

 リディア。リータの私兵で、健人にとってはもう一人の姉とも言える人。

 彼女の気配はブリーズホームの中には感じ取れなかった。

 

「今はドラゴンズリーチに行っていると思う。私の代わりに色々とお願いしてるの」

 

 リディアはどうやら、首長のところに行っているらしい。

 話を聞くと、今は子供のために動けないリータに代わって、首長から頼まれた依頼をこなしているらしい。

 彼女の生存を聞き、健人はほっと安堵の息を漏らす。

 命が軽いスカイリムだ。もしかしたら、凶事に見舞われたのかもしれないと思っていたから。

 

「あ、そうそうドルマ。留守の間にファルカスさんが来てたよ。」

 

(ファルカス?)

 

 聞いたことのない名前だった。

 健人が首をかしげていると、ドルマが説明をしてくれる。

 

「同胞団の一員だ。幹部といってもいいな」

 

「ケント、覚えてない? この街でミムルムミニルと戦った時に参戦してきた人達」

 

(そういえば……)

 

 ホワイトランを襲ったドラゴン。ミルムルニル。その時の戦いでは、首長たちの兵のほか、別の武装集団が参戦してきた。

 同胞団と呼ばれている者達である。

 彼らは、スカイリムで最も歴史のある集団のひとつだ。

 その源流は、スカイリムに最初に入植してきた人間、イスグラモルが率いた五百人の英傑達。彼らは『涙の夜』と呼ばれるエルフの虐殺に対して報復を行い、そしてタムリエル大陸に人間という種族が入植する礎を築いた。

 今の同胞団はホワイトランを拠点とし、スカイフォージと呼ばれる鍛冶場を管理しながら、様々な依頼をスカイリム中から引き受け、この地に生きる人達の力となっている。

 

『でも、なんで同胞団の人がドルマに?』

 

「俺は今、同胞団に属しているからな」

 

(へ?)

 

「そうなのですか?」

 

 健人とセラーナが驚きの顔を浮かべ、ドルマは思わず苦笑を返す。

 確かに、意外といえば意外だろう。

 元々ドルマはいかにもスカイリムのノルドらしく、排他的。そこに若干の人間不信も相まって、同族相手にすら簡単には心を開かない。そんな人間だったのだ。

 彼が気を許したのは、幼馴染のリータと彼女の両親のみだった。

 

「まあ、このスカイリムでも名誉ある集団だからな」

 

 確かに同胞団は栄誉ある集団だが、問題はそこではない。

 彼ほどの気難しい男が、きちんと集団生活しているあたりが意外なのだ。

 同胞団はその長い歴史と名誉を預かる関係上、団員たちにも相応の力量と人間性を求められるはずだ。

 もちろん、ドルマも三年間の中で成長していることは察せられた。実際、ヘルゲンの復興指揮もきちんとしている様子だったのだ。

 そして、その成長は同胞団に入れるほどになっていたらしい。

 健人が意外なドルマの就職先に驚いていると、ブリーズホームの玄関の扉がドンドンと叩かれた。

 リータがオルレナスを抱いたまま扉を開けると、大剣を背負い、ひげを生やしたノルドが立っている。

 

「すまない、ドルマは戻っているか?」

 

「あ、いらっしゃいファルカスさん」

 

 どうやら、この人物が先ほど名前が出ていた同胞団のメンバーらしい。

 健人はリータの背中越しに、訪ねてきたファルカスを観察する。

 話をしたことはないが、確かにミルムルニルを撃退した戦いの場にいた人物だった。

 

「ああリータ、ドルマは……いるみたいだな」

 

 ファルカスの視線が、レメネを抱いて火箸で暖炉の炭をいじっていたドルマに向けられる。

 

「何か用か?」

 

「ちょっとジョルバスクルに来てくれ。話がある」

 

「今日は兄弟が数年ぶりに来てくれたんだ。できるなら明日まで待って欲しいんだがな……」

 

「そいつは悪かったな。コドラクがヘルゲンの復興に関して、少し話を聞きたいらしい」

 

 コドラクは、同胞団の中で「導き手」と呼ばれる存在である。

 同胞団は意外なことに、明確な指導者というものが存在しない。

 それは創設者であるイスグラモルのみとされていて、彼の没後は「相談役」が代表的な立場として同胞団を率いてきた。

 しかし、導き手はリーダーでないので、団員たちの活動を強制的に止めることはない。

 ドルマが故郷の復興のため、ヘルゲンに長く留まっていられるのも、このあたりの事情があるのかもしれない。

 健人がそんなことを考えている中、ファルカス達の話は続いていく。

 

「ドルマ、行ってきなさいよ。ファルカスさん、夕食までには終わるんですよね?」

 

「ああ。そんなに時間は取らせないって言ってたからな」

 

「コドラクの方は心配していない。問題は別なんだが……」

 

「アエラのことか? 気の毒とは思うが、お前の選択だ。それに同胞団としてお前の意思は尊重するが、盾の兄弟としては、まあ仕方ないというしかない。それより、来てくれるのか?」

 

「はあ、分かった。すまんケント、ちょっと出てくる。それからリータ……」

 

「はいはい、お任せを」

 

 そう言って、ドルマはファルカスと共にブリーズホームを後にした。

 暖炉の前に座り直したリータに、健人はあらためて事情を尋ねる。

 

『どうしてドルマは、同胞団に?』

 

「まあ、私とこの子達のため、かな? ほら、私ってドラゴンキラーとしてかなり名が売れちゃったじゃない?」

 

 リータが普通に生きる上で最も問題となるのが、帝国とストームクロークの内乱である。

 現在は停戦状態になっているが、それもいつまで持つかは不明だ。

 停戦協定である五年の期間が終われば、戦端が開かれる可能性が高い。その時、両勢力は間違いなくリータに声をかけてくるはずだ。

それを見越して、ドルマは同胞団に入ることを決めたらしい。

 

「結婚した時に、私とこの子達を戦いに巻き込ませたくないって言ってね。自分は力じゃ守れないから、他の方法で守るって言って……」

 

(確か、同胞団は帝国にもストームクローク側にも付くとは言っていない。内戦からは距離を置いて、静観し続けていたはずだ……)

 

 同胞団の名声は、このスカリムでは非常に大きなものである。

 それは、グレイビアードや上級王の名に次ぐといっても過言ではない。

 そして現に、同胞団はスカイリムに住む人たちのため、その脅威と戦い続けている。

 邪悪な魔法使いや山賊、そして獣たち。この脅威に相対し続けているのが、同胞団だ。

 内乱で秩序の乱れたスカイリムにおいて、彼らは間違いなく、力のない民たちの寄る辺であった。だからこそ、内乱に対して静観し続けているし、それをスカイリム民は許してもいる。

 リータの夫であるドルマが同胞団に入ることで、彼女とその子供を間接的に同胞団の庇護下に置く。

 それが、ドルマが考えた、彼女と子供たちを守る方法だった。

 

「そういうことですのね。同胞団の団員の妻、ということなら、誰も簡単には引き込めない。帝国も、反乱軍も、そして同胞団自身も……」

 

 セラーナの言葉を「そういうこと!」と軽い口調で肯定しながら、リータは双子をあやし続ける。

 ここで肝なのは、リータ自身は同胞団には入らない、という点だ。

 リータは歴代の中でも、最上位に位置するほどの力を持つドラゴンボーンだ。

 スカイリムはおろか、タムリエル大陸における最高クラスの戦力。それに同胞団が魅入られないとは限らない。

 だがドルマがとった方法なら、リータというドラゴンにも勝る強大な戦士が、完全に宙に浮くことが可能になる。

 彼女とドルマ。二人が、何が何でも守りたかったもの。守り続けてきたものを知り、健人は思わず感嘆の息を漏らす。

 そんな中、リータの腕に戻されたレメネがくずり始めた。

 

「あううう……うああああああ!」

 

「ああ、よしよし。う~~ん、お腹もいっぱいのはずだし、おしめは濡れていないし……ちょっとご機嫌斜めなのかな~~。あ、そうだケント、抱いてみる?」

 

(え?)

 

「はい」

 

 軽い調子で、リータが突然オルレナスを健人に渡してきた。

 健人もまた、反射的に受け取ってしまう。

 とりあえず、リータをまねて横抱きにしてみる。先ほどまでリラックスしている様子だったオルレナスの顔が、一気にゆがんだ。

 

「うううえええええええええええええ~~~~!」

 

(うぎゃあああ~~~~!)

 

 直後、健人の耳にオルレナスの鳴き声が突き刺さった。

 まるで家を揺らしてしまうのではと思えるほどの大爆音。思わず片手で耳を塞ぐも、オルレナスの鳴き声は容赦なく健人の鼓膜を貫いてくる。

 

「ありゃりゃ。ダメか~~。はいはい、お母さんのところに戻りましょうね~~。じゃあケント、代わりにレメネの方をお願い」

 

(いやいやいや……)

 

 大泣きを始めてしまったオルレナスを健人の腕からパパっと取り上げ、代わりに妹であるレメネを放り込むリータ。

 また耳に大爆音を叩き込まれるのかと、健人は思わず身構える。

 

「う、うう? あうぅ~~?」

 

(あれ?)

 

 しかし、レメネの反応は健人が予想したものとは違っていた。

 くりくりとした瞳で、興味深そうに健人を見上げてくる。

 

「あう~~! きゃ、きゃ!」

 

 そして楽しそうな声をあげながら、肉付きのいい両手で健人の顔を触りはじめた。

 ぺたぺた、むにむに、ぺちぺち……。

 赤子らしく遠慮というもののないほど力いっぱいに、しかし大人にとっては心地よいとも思えるくらいの感触が、健人の顔に広がる。

 先ほどのオルレナスとは正反対の反応に健人が驚く中、リータはどこか納得したような表情を浮かべている。

 

「あら、レメネの方は大丈夫みたいね。普段はレメネの方が気難しいのに。やっぱりわかるのかな~~」

 

(分かる……?)

 

 母親が持つ、子供への共感能力だろうか?

 健人が首をかしげている中、リータは言葉を続ける。

 

「ケント。この双子を見ていて、何か感じない?」

 

(何か……?)

 

 あらためて、健人は自分の腕の中ではしゃぐレメネを見つめる。

 手加減なくぺちぺちと顔に触れてくる手は、赤子らしい瑞々しさと、特有のミルクの香りを漂わせている。

 本当にこの子の方が気難しいのか? と疑問に思うくらいのはしゃぎっぷりである。

 そこまで考えたところで、よく知った感覚が全身に走った。

 心臓が震えるような感じ。同族であるがゆえに抱く、ある種の共感性。

 それに、健人は覚えがあった。翼と鱗を持つ者達と相対した時と同じ感覚だ。

 

(ドラゴンボーン……)

 

 健人の目が、思わず見開かれる。

 リータもまた健人の反応に、彼が双子の秘密に気付いたことを悟った。

 

「そ、そういうこと。オルレナスは、多分ケントの力に当てられちゃったんじゃないかな~~。子供ほど、そのあたりのカンは鋭いっていうし」

 

 オルレナスから見れば、突然目の前に母親とは違う、巨大なドラゴンが出現したような感じだったのだろう。怯えるのは無理もない。

 

「レメネの方は逆に楽しそうにしてるけど。やっぱり兄妹で違うんだね~~」

 

(いや、そんなこと言われても……)

 

「あう、あううぅう!」

 

 のんきな反応の母親を他所に、レメネの方はさらに遠慮がなくなっていく。

 推定年齢二歳以下の新生児は、そのハムみたいな両手で健人の頭を思いっきりつかんで、ひっぱってくる。

 このままでは抱き辛いと持ち替え、横抱きから縦抱きに変える。

 必然、レメネと健人の顔がより近づき、小さなお姫様はさらにご満悦。

 満面の笑顔で、健人の顔にかぶりつき始めた。

 

(子供、特に小さい子は、なんでも口に入れたがりはするらしいけど、生憎と俺は食べられないよ……)

 

「ありゃりゃ、本当によく懐いたみたいね。じゃあ、健人はしばらくレメネをお願い。セラーナさん、ちょっと一緒に来てくれない?」

 

(……はい?)

 

「あの、どちらへ……」

 

「市場よ」

 

 そう言って、リータはオルレナスを抱いたまま、買い物かごを取り出す。

 その数三つ。買うものは分からないが、かなりの量になるだろう。

 

(……ん?)

 

 はむはむ、かぷかぷと、レメネに噛みつかれている健人に、イヤな予感がよぎる。

 

「実は、食材が少なくて、晩御飯作るのに足りないの。だから、買い足しに行きたくて……。お客さんに手伝ってもらうのは心苦しいけど、子供もいるし、荷物を持つの、手伝ってほしいの」

 

 案の定、健人の背筋に悪寒が走った。スカイリムに来てからの、強烈な記憶がフラッシュバックする。

 リータはとにかく家事が苦手だった。特に料理についてはひどいもので、彼女の母親であり、健人を住まわせるほど優しかったエミーナさんが匙を投げ、宿屋の料理に絶対に触らせなかったレベルである。

 鍋いっぱいの炭を作るならまだマシで、勝手に店の料理にアレンジをして、病人を発生させたこともあった。

 ちなみに、使われたのはカニスの根とモラタピネラ。錬金術でも使われる、立派な毒物である。

 

「分かりました。行きましょう」

 

(あ、ちょ、ま……)

 

 一方、そんなリータの問題点など全く知らないセラーナが、健人が固まっている間に買い物かごを受け取ってしまった。

 健人は慌てて止めようとするも、生憎と声の出ない身。あたふたとしている間に、二人は玄関から外に出て市場へと向かってしまう。

 二人を止められず、茫然自失となった健人。

 そんな彼の頬をレメネが無邪気にほおばり続け、よだれでべとべとにしていくのだった。

 

 

 

 




ということで、リータとの再会でした。
前回のヒロインアンケート、第二位がモラ様ってのはさすがに笑うんよ……!

以下、登場人物紹介

リータ
普通の町娘に戻ったラストドラゴンボーン。
今では立派な二児の母。新しい家族を少しずつ、自らの手で作っている最中。

ドルマ
実は同胞団に属していた、リータの夫。
タムリエル最高戦力であり、その血も含め、様々な勢力から妻と子供達を守るために同胞団に身を置いている。
力では彼女を守れない。だからこそ、それ以外で家族を守ろうとしている。


レメネ
リータとドルマの娘であり、双子の妹。
外見はリータに似ているが、性格がドルマ似らしく、母親曰く気難しいとのこと。
しかし、健人には何故か初見からなついている。
子供らしい好奇心にもあふれており、目の前に母親クラスの知らないドラゴンが現れても嬉々として玩具にしにいく、猪突猛進新生児。

オルレナス
リータとドルマの息子であり、双子の兄。
レメネと比べると普通の赤子ではあるが、そこはドラゴンボーンの血をひく子供。
目の前に現れた叔父が母親と同クラスか、もしくはそれ以上のとんでもない竜だと察知し、ギャン泣きする。
その声量は、まさしくあのリータの息子にふさわしいほどの大きさ。本気で泣かれると近所迷惑まったなし。

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