【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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今話は前話の後、真夜中のセラーナさん視点のお話。
ちょっと短く、前のお話に入れるには長かったので、閑話として入れました。


閑話 姫の葛藤

 

 二つの月が高く上る真夜中。すっかり暗くなったブリーズホームの一階。

 その奥の部屋で、あてがわれたベッドに横になっていた私は、暇を持て余していた。

 目が冴えて眠れない。ヘルゲンに行くまで、夜は常に起きて移動していたこともあるが、そもそも吸血鬼の私にとって夜は活動時間。眠れないのも当然だ。

 部屋の反対側には、私をここまで連れてきてくれた『彼』が、静かに寝息を立てている。

 音をたてないようにベッドから降りて、彼に近づく。

 こうして吸血鬼が傍に寝ているというのに、彼は相変わらず、私を警戒する気がない。息を殺し、彼の寝顔を覗き見る。

 

(本当に、古の吸血鬼に勝った戦士とは思えないあどけなさですわね…)

 

 実際の歳よりも若く見える顔立ちも相まって、本当に卓越した戦士には見えない。

 その時、はだけた彼の首元が見えた。

 体が火照り、思わず口が開いて唾が溢れてくる。

 一気に増した渇きを誤魔化すようにあふれた唾を飲み込み、私は彼から離れて、おもむろにベッドの下に入れていた荷物に手を伸ばした。

 荷物の中から彼の血を入れたシリンジを取り出し、ブリーズホームの外に出て中身を嚥下する。

 口の中に広がる芳醇な血の香りと共に、渇きが癒えていく。

 

「ふう……」

 

 夜の冷気が、火照った体に心地よい。

 満天の星々、そして闇夜に浮かぶ二つの月も、優しく私を照らしてくれていた。

 夜は吸血鬼の時間。

 人外となってから、すでに数千年。陽の光などほとんど見なくなって久しい。

 吸血鬼としての能力が減退し、体を蝕まれるような感覚を覚えることを考えると、太陽はむしろ害しかなく、忌むべきものになっているといってもいい。

 しかし、今はなぜか、その日の下の温もりが恋しい。

 どうしてだろうか。手の中の空のシリンジに目が向く。理由は、すぐに思いついた。

 

「…………」

 

 脳裏によぎるのは、ノルドでもインペリアルでもブレトンでもレットガードでもない、奇妙な顔の青年。

 自分の頬に、自然と手が伸びる。

 彼の膝に触れていた場所。気が付けば、そこに残る残熱を思い出すように、数度、撫でていた。

 

「あら、セラーナさん。眠れないの」

 

 そんな時、背中にから軽やかな声がかけられた。

 振り返ると、金髪の美女がブリーズホームから出てきている。

 リータ・ティグナ。彼の義姉であり、家族。

 

「はい。夜は私たちの時間ですから」

 

 湧き上がる動揺を抑えるように、努めて平坦な口調で返す。

 正直なところ、セラーナにとって、リータは一目見た時から苦手な印象を持つ人物だった。

 彼女を一言でいえば、太陽のような明るさを持つ人物、という表現が正しいだろう。

 明るく、健気で、慈愛に溢れ、子供を産んだとは思えないほど美しい。

 少し抜けているところも、妙な愛嬌の良さを感じさせる。

 なによりも、自分が吸血鬼と知っても、こうして気兼ねなく自宅に泊めてしまうほど人がいい。なるほど、彼の姉と呼ばれても、妙に納得してしまう。

 しかし、だからこそ警戒心を抱かずにもいられない。

 疑心暗鬼。吸血鬼となった時から……いや、それ以前から、常に付きまとってきた感情だ。

 

「それは確かに。私は、ちょっと眠れなくてね~~。うぷ……」

 

 一方、彼の姉は、瑞々しい肌を蒼白に変えながらえずいている。先の食事で食べたマッシュポテトが原因だ。

 正直、アレは酷い味だった。コールドハーバーの娘である自分が、意識を混濁させるほどの劇物である。

 しかし、私が一口食べただけでダメになる料理を皿一杯食べたのに、どうして彼女はえずく程度で済んでいるのか疑問でもあった。

 だが、相手もまた伝説のドラゴンボーンであるからと思って、無理やり納得させておく。

 

「大丈夫ですか?」

 

「うん、なんとか……。これでも体は頑丈だから。心配してくれるんだ?」

 

 疑っている相手なのに?

 視線から告げられる言葉に、私は思わず声を失う。

 

「それは……」

 

「まあ、変だよね。吸血鬼だってわかってるのに、家に泊めさせるんだから。変な勘繰りをされても仕方ない」

 

「…………」

 

 そう言い切る彼女の声に、暗さは一切ない。

 吸血鬼を匿う危険性を理解した上での決断であることを示す、強い意志の片鱗を伺わせる声。彼女がドラゴンボーンであることを、強く感じさせる。

 そして、その華奢な体の奥に秘められた、強大な力も。

 

(……勝てませんわね)

 

 華奢な女性。その後ろに、巨大なドラゴンを幻視する。

 純血の吸血鬼である自分ですら、思わず息を飲むほどの存在感。

 正面から戦って勝てるとは思えない。

 これほどまでに力の差を感じさせられたことは、吸血鬼として生きた数千年間を考えても、ほとんどなかった。

 

(あの方も、元々はこれほどの力を持っていたのでしょうか……)

 

 ケント・サカガミ。

 このドラゴンボーンの義弟。そして、私の護衛。

 彼と義姉が歩んだドラゴン事変の話は、食事の中で度々出てきていたし、ある程度は聞いてもいた。

 今の彼に、彼女ほどの力は感じない。やはり、声を失った影響が大きいのだろう。

 一方、彼の姉は私の疑心暗鬼を「ま、いいか!」と軽く流していた。

 

「それでセラーナさんは、お家に帰るんでしょ? どのくらいかかりそうなの?」

 

「たぶん、二週間ほどでしょうか……」

 

「よかったわね。ケントが一緒だし、大した問題はないでしょ」

 

「それは……そうですね」

 

 古の吸血鬼を倒しているのだ。今さら、彼の力を疑う理由はない。

 たとえ声の力を失っていても、戦士としての力量は抜きんでている。

 だが、こちらを窺うようなリータの視線に、言葉を詰まらせてしまう。

 そんな私に、彼女が念を押すように尋ねてきた。

 

「ねえ、念のためにもう一度聞くけど、きちんと家に帰るのよね?」

 

「……ええ、もちろんです」

 

 彼女は暗にこう言っているのだろう。必要以上に義弟を関わらせるなと。

 それだけ義弟が大切であり、ようやく戻ってこれた彼に無茶をしてほしくないのだろう。

 本当なら、すぐさまこの場で私に街を去るよう言いたいはずだ。

 分かっている。私は吸血鬼。彼とは、そもそも住んでいる世界が違うのだ。家であるヴォルキハル城に着けば、そこで別れることになる。

 でも何故だろう。分かっていたはずなのに、こうして口に出すと、どうしようもなく寂しくなってしまうのは……。

 

「うん、それを聞けて安心したわ。大丈夫、たとえ依頼でも、健人は一度約束したことは必ず果たしてくれるわ。だから、安心してね?」

 

「……ありがとうございます」

 

 そんな私の内心を知ってか知らずか、彼の義姉は笑顔でそんなことを言ってくる。

「約束したことは必ず果たす」という実感がこもったその言葉が頼もしく、同時に先ほど感じていた彼との距離をさらに突きつけてくる。。

 

「どういたしまして。ちょっと冷えてきたわね。蝙蝠にのぞき見されているから、家の中に戻ったほうがいいわよ」

 

「いえ、その、私は……」

 

「いいからいいから。今日くらいは普通の人間のリズムに付き合いなさいな」

 

 背中を押され、家の中に入らされた。

 あれだけ私に釘を刺した彼女は、さっさと二階の自室に戻ってしまう。

 色々言いながらも、常時監視はしない。矛盾したその行動の真意は、あくまでも義弟のため。ただ、今はその微妙な気遣いすらもありがたかった。

 

(そうですわね。時間は、限られているのですよね……)

 

 相も変わらず、静かに寝入っている彼を起こさないよう、静かに自分にあてがわれたベッドに戻る。

 耳元に流れてくる、穏やかな彼の息遣い。

 気がつけば、私の意識はかつて人だった時のように、優しいまどろみの中に包まれていくのだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか?
徐々に、しかし確実に健人に惹かれていくお姫様。
セラーナさん視点はいつかきちんと入れておかないとと思って書きました。
しかし、こうして考えると、健人は本当に傷ついた女性に取り入るのが上手いな。本人に自覚がなく、恋愛感情に結びついていないあたりも本当に厄介。
いつか、ツケを払う羽目になりそう。
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