【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第六話 装備調達

 

 ブリーズホームで一夜を明かした翌朝、健人はドルマと共に風地区を訪れていた。

 商店などが軒を連ねている場所よりも、一段高い地区。

 目的は当然、武具の調達だ。二人の後ろには、双子を抱っこしたリータとセラーナ、そしてリディアの姿がある。

 風地区へと続く階段を上ると見えてくるのは、広い公園、そして同胞団の拠点であるジョルバスクルとスカイフォージだ。

 健人たちはジョルバスクルの脇を抜け、スカイフォージの鍛冶場へと足を進める。

 巨大な鷹の彫像。その足元の鍛冶場で、老齢のノルドが槌を振るっていた。

 

「来たか、ドルマ。それに、久しぶりだな、もう一人のドラゴンボーン。また会えて光栄だ」

 

 エオルンド・グレイメーン。

 スカイリム一の鍛冶師であり、アルドゥインとの決戦前にも、壊れた健人の竜鱗の盾を作り直してくれた人物だ。厳つい顔をさらにしかめるような表情をしつつも、その眼には強い感動の光を瞬かせている。

 彼もまたドルマと同じくノルド。

 自分の感情をあけっぴろげにすることはないが、それ以上に視線や仕草が心情を語ってくる。

 健人はそんな彼に挨拶がてら静かに頭を下げると、腰に差したままだったものを、黒板と共にエオルンドの前に掲げた。

 

『これを、直してもらいたい』

 

「君の愛剣だな。ふむ、完全に折れてしまっているな……」

 

 健人から折れた『血髄の魔刀』を受け取ったエオルンドは、刀身を確かめて顔をしかめる。

 

「無理だな。ノルドが使うものとは違う技術が使われている。それに、そもそも素材がない」

 

 エオルンドの言葉に、健人は残念そうにため息をつく。

 彼にとって、この刀はスカイリムに戻ってきてから、数多くの困難を払いのけてくれた武器だ。ひとかどならぬ思い入れがある。

できるなら、直せてほしかったのだが……。

 

「勘違いするな。今すぐには無理という話だ。このスカイフォージを預かる者として、必ず直して見せる」

 

 そんな健人の無念を、エオルンドの声が吹き飛ばす。

 スカイリム一の鍛冶師の目に輝く自信と誇りは、いささかも曇っていない。

 本当に、彼はこの折れた名剣を直せると断言していた。

 

「しかし、その為にも君の協力が必要だ」

 

(俺?)

 

 戸惑う健人を他所に、老齢の鍛冶師は言葉を続ける。

 

「まず、素材を確保してほしい。これは、すぐには無理だろう。なにせ、相当希少な素材が使われているみたいだからな」

 

 血髄の魔刀を作るために使われたのは、黒檀とデイドラの心臓だ。

 そのどれもが希少品。簡単に手に入るようなものではない。

 

「それから、この剣を作るための技術を教えてほしい」

 

 他にエオルンドが求めたのは、ブレイズソードを作成する技術。

 そもそも、血髄の魔刀は健人が愛用していたブレイズソードを、スコール村の鍛冶師であるバルドール・アイアンシェイパーが解析し、そこに健人が持つ日本刀の技術を注ぎ込んで作った刀。

 ある種、タムリエルと地球の技術のハイブリット品だ。

 

「見たところ、君も鍛冶師だ。打てるのだろう?」

 

(まあ……、そうですけど……)

 

 健人自身もソルスセイム滞在中に、バルドールから鍛冶の技術を学んでいる。当然、剣の一本は打てるだろう。

 しかし、眼前のスカイリム一の鍛冶師と比べると、その技術は拙いと言わざるを得ない。

 

(でも、直せる可能性があるのなら……)

 

『分かりました。どこまでお力になれるかわかりませんが、全力を尽くします』

 

 数秒の逡巡。

 しかし、健人はすぐに気持ちを立て直し、まっすぐエオルンドの視線を受け止めながら、彼の条件を飲むことを決めた。

 まっすぐ見つめ返してくる健人にエオルンドは満足そうに頷く。

 

「よかった。それでは、さっそく始めようか」

 

『セラーナさん、これ』

 

「なんですの? え……」

 

 エオルンドの導きに健人は頷いて返答すると、腰に差していたもう一本の刀をセラーナに渡した。愛用の短刀『落氷涙』である。

 

『護身用です。持っておいてください』

 

 このスタルリム製の短刀には、魔力吸収と氷属性攻撃の付呪が施されている。魔法を使うことが多いセラーナとの相性はいいはず。

 一応、護衛として雇われている以上、可能な限りそばにいることが望ましいが、しばらくは無理そうであるための措置だ。

 

「でも、この剣は……」

 

「ま、受け取っときなさいよ。それじゃケント、私たちはジョルバスクルの中で待ってるからね~~!」

 

 この剣が健人にとって大事な品であることを察しているセラーナは思わず問い返してしまうも、それをリータが止める。

 そして、双子の母はセラーナを連れて、ジョルバスクルの方へと戻っていってしまった。

 リータ達を見送ると、エオルンドは健人をスカイフォージの炉へと導く。

 四半刻後、巨大な鷹の彫像から、鉄を打つ音が響き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 健人とエオルンドをスカイフォージに残し、セラーナ達はドルマに連れられてジョルバスクルへと案内された。

 船を逆さまにしたような建物の中は、一つの大きな広間になっている。

 中央に巨大なかがり火が焚かれ、その周りを囲うようにテーブルを配置し、疲れて帰ってきた団員をもてなす為か、酒や食べ物が並べられていた。

 健人が見れば、その様がソブンガルデの“勇気の間”を模しているように見えただろう。

 

「来たか、ドルマ」

 

「リータも、久しぶりだな」

 

「ああ」

 

「お久しぶり、ファルカスさん、ヴィルカスさん」

 

 ドルマ達を出迎えたのは三人のノルドだった。

 一人はコドラク。この同胞団の導き手。

 その彼の後ろに、よく似た容貌の二人のノルドが控えていた。

 二人の内、一人は昨日ブリーズホームを尋ねてきたファルカス。もう一人は、そのファルカスの弟であるヴィルカスだ。共に狼を模した特徴的な鎧を纏っている。

 二人はこの同胞団では幹部格で、幼い頃から人々のために刃を振るっていた。

 コドラクの視線が、ティグナ家の面々の後ろに控える女性に向けられる。

 

「ドルマ、そちらのお嬢さんが……」

 

「ああ、兄弟が護衛している人だ」

 

「……セラーナと申します。お邪魔いたしますわ」

 

「美しいお嬢さんの訪問は歓迎すべきことだ。それで盾の兄弟よ、彼は……」

 

「今、エオルンドのところで話をしている。もしかしたら、時間がかかるかもしれない」

 

「そうか……。お嬢さん達、ゆっくりしていくといい」

 

 コドラクの視線が、チラリとスカイフォージの方へと向けられるも、すぐにリータ達を手近のテーブルへと案内する。

 

「ティルマ、お茶を用意してもらえるか?」

 

「はい、ただいま……」

 

「あ、ティルマさん、お手伝いしま……」

 

「アンタは手を出すんじゃないよ」

 

「ぶう……」

 

 コドラクがテーブルの傍に控えていた老婆に、お茶の用意を頼む。

 観たところ、かなりの高齢のノルドの女性。

 そんなティルマの手伝いをリータが申し出るが、きっぱりと断られてしまう。

 顔を顰め、にらみつける老婆の視線からは、水すらも汲ませないという確固たる意志が感じられた。

 

(まあ、当然ですわよね。吸血鬼である私すらノックダウンするほどの激マズ料理を作ってしまう方ですから)

 

 もしかしたら、この同胞団にも被害者がいるのかもしれない。

 セラーナがそんなことを考えていると、リータが抱く双子が騒ぎ始めた。

 

「ううううぅう……!」

 

「きゃ、きゃ!」

 

「ふむ、相変わらず元気なことだ。子供が無邪気でいられることは良いことだ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 気難しい(とされている)レナスは、コドラクを前にしてむくれた顔をし、一方のオルレナスの方は老齢の戦士に対して、物怖じせずに手を伸ばす。

 そんな双子を眺めながら、リータとコドラクは気安い会話を交わしていた。

 夫が団員なのだ。顔見知りであるのも当然と言える。

 双子眺めるコドラクは、その厳つい顔とは裏腹に、好々爺のように口元を緩ませながら見つめていた。

 そんなコドラクを眺めながら、セラーナは僅かに香ってきた臭いに首を傾げる。

 

(……獣の臭い?)

 

 普通の人間には感じ取れないであろう、人間とは違う体臭。

 吸血鬼である自分と似た、しかし違う臭い。

 獣臭を漂わせているのは三人。コドラク、ファルカス、ヴィルカスの三人だ。

 セラーナの脳裏に、吸血鬼とよく似た、しかし違う存在がよぎる。

 

(ウェアウルフ……)

 

 デイドラロード、ハーシーンの眷属。

 吸血鬼と同じく、デイドラがニルンにもたらした病。人狼病に人が罹患することでなる存在だ。

 体は文字通り人狼のそれとなり、変化することで力、敏捷性、感覚は人のそれから大幅に強化される。その力は爪で鎧を引き裂き、牙を突き立てれば人の体など容易く食いちぎれる。

 一方で吸血鬼と同じく、血を渇望するようになり、精神の弱き者は時に獣のように獰猛になってしまう。

 それこそ、親しい人を本能的に食い殺すほどに……。

 

「どうかしたかな、お嬢さん」

 

「いえ、なんでもありませんわ……」

 

「……そうか。男ばかりでむさ苦しいかもしれんが、ティルマのお茶は格別だ。ぜひ味わってくれ」

 

 なぜ、同胞団の中にウェアウルフがいるのか。

 コドラクと視線が合い、脳裏に浮かんだ疑問を気づかれないように努めながら、セラーナは差し出されたお茶に口をつける。

 

(変なものは、入っていなさそうですが……)

 

 吸血鬼であるセラーナに、普通の毒は効果が薄い。

 鎌首をもたげた警戒心を察知されないように平静を装いながら、セラーナは獣の臭いを感じたコドラクと他二人の様子を伺い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョルバスクルに来て数時間。既に昼を過ぎ、太陽は西に傾き始めている。

 セラーナはスカイフォージからまだ戻ってこない健人を、ジョルバスクルにいる女性陣と話をしながら待っていた。

 

「それでね、この娘には本当に困ったもんで……」

 

「あの、ティルマおばさん、その辺りにしてもらえると……」

 

 セラーナの周りにいるのは、リータやジョルバスクルで食事などを提供しているティルマ。そして団員であるンジャタ、リアである。

 話の内容は、リータの家事能力の酷さについて。どうやら、ドルマが同胞団に入った後、彼女もジョルバスクルの手伝いをしていた時期があるらしい。

 その際に、かなりのヘマをやらかしまくったとか。

 

「洗濯物は洗ってすぐにぶちまける、裁縫をやると逆に生地をダメにする、料理については言わずもがなさ」

 

「あの時は、確かに酷かった」

 

「そうね。一瞬ソブンガルデが見えた気がしたわ」

 

「ぐう……」

 

 まくしたてるティルマの言にンジャタとリアが同意し、リータはぐもった声を漏らして打ちひしがれる。

 

(今のところ、特に動く様子はありませんわね)

 

 リータ達の話に耳を傾けつつも、セラーナは周囲を観察し続ける。

 ジョルバスクルに来てから数時間。その間に、彼女はおおよそ、この中にいるウェアウルフの数を大体把握できていた。

 数は、最初に感じ取ったコドラク、ヴィルカス、ファルカスの三人のみ。

 目の前の女性達からは獣臭は感じない。

 そして、当のコドラク達はドルマやほかの団員と酒を飲みながら談笑をしており、セラーナを警戒している様子はない。

 自分を監視しないコドラク達に幾分か警戒心を解きつつ、セラーナは意識を女性陣の会話に戻す。

 

「やはり、酷かったのですね」

 

「それはもう! 裁縫とかは幾分マシになったけど、料理についてはもう諦めたよ」

 

 セラーナがティルマの話に同意すると、老婆はさらに饒舌になった。

 どうやら、彼女がリータに家事を仕込んだらしい。

 続いてリア、ンジャタが口を開く。

 

「狩猟に関してはこのホワイトランでも右に出る人はいないんですけどね……」

 

「肉屋のアノリアスも、その辺りはとても助かっているらしく、よく取引していたわ」

 

「リディアが家にいられるときだけだけどね」

 

 レメネをあやしながら、会話に興じるリータ。

 ちなみに、オルレナスは他の四人の間を行き来しており、今はセラーナが抱いていた。

 正直、吸血鬼と分かりながらも自分の子供を抱かせる彼女の豪胆さに内心驚いてもいる。 

 そうこうしながらも、女性の話に終わりはなく、まるで多頭蛇のごとく様々な話題に分岐していく。

 

「同胞団に入ってくれると嬉しいんですけど……」

 

「ごめんね、ちょっとそれは難しいかな」

 

 話はリータの同胞団入りについてになった。

 既に何度も話をしているのか、リアのお願いをリータはよどみなく断る。

 

「だが、腕が鈍るのはどうなんだ?」

 

「う~~ん。今はこの子達のお世話に集中したいかな~~」

 

 次に指摘を飛ばしてきたのはンジャタだ。

 彼女はリアと比べても熟練の戦士なので、どうしても思考が武力に寄ってしまう。

 

「鈍っておりますの?」

 

「……どう思う?」

 

「分かりませんわ。そもそも、貴方が全盛期の頃を知りませんので……」

 

 リータはのらりくらりと、セラーナの問いかけにも、笑顔を浮かべるのみ。

 そんな中、バン! と音を立てて、ジョルバスクルの扉が開かれた。

 その場にいた人達全ての視線が、扉に向かう。

 

「今帰った」

 

「戻ってきたか、スコール、アエラ」

 

 扉を開けて入ってきたのは、二人の男女だった。

 ジョルバスクルの中に熟練の戦士達と比べても、頭ふたつ抜けた覇気。

 アエラと呼ばれる女性は顔全体に爪痕のような戦化粧を施し、胸元をはだけさせた特徴的な軽装鎧を纏っていた。背中には弓矢を、腰には鋼鉄の片手剣を差している。

 スコールと呼ばれた男性は、ファルカスやヴィルカスと同じ、狼を象った重装鎧と大剣を装備していた。

 濃い血の臭いと獣臭。そこに交じったウェアウルフの気配に、セラーナの目が細まる。

 

「ほう、戻ってきていたのか、ドルマ」

 

「ああ……」

 

 アエラと呼ばれた女性の視線が、コドラク達と一緒にいたドルマに向けられる。

 その視線にわずかに漂う侮蔑の色。セラーナが首を傾げていると、今度はリータが口を開いた。

 

「アエラさん、お久しぶり」

 

「久しぶりだな、ドラゴンボーン。ところで、そこにいるのは誰だ?」

 

 アエラの視線がリータに向かい、自然と傍にいたセラーナを捉える。

 

「私の客人の連れだ」

 

「ふむ……」

 

 こちらを一瞥したアエラだが、すぐに視線をドルマに戻す。

 

「ところでドルマ、ヘルゲンの方はどうなんだ?」

 

「順調だ」

 

「そうか。まあ、早く終わらせて移住することだな。ジョルバスクルより、そちらの方がお前にはお似合いだろう」

 

 やや挑発を含むような口調に、益々セラーナは疑問を覚える。

 見たところ、このアエラという女性……おそらくは同胞団の中でも有数の実力者なのだろう彼女は、ドルマに妙な対抗心を持っている。

 さらに、彼女もまたウェアウルフ。

 そんなセラーナの疑問をよそに、アエラは視線をジョルバスクルの外……スカイフォージの方に向けた。

 

「ところで、スカイフォージにエオルンド以外の者が来ているみたいだけど、誰?」

 

「俺の義弟だ」

 

 ドルマの言葉に、アエラの目じりが好戦的に吊り上がる。

 

「へえ……。それは、ぜひお手合わせしてほしいところね」

 

「悪いが、今はやめてくれ。アイツも今は色々と忙しいんだ」

 

「そう? 遠目から見たところ、武具を作っている様子だったわ。新しい武器の使い勝手を確かめるついでに相手してもらう分にはいいでしょ?」

 

 どうやら、アエラは健人にかなり興味を持っているらしい。

 彼がもう一人のドラゴンボーンであることを知っているのなら無理はない。無理はないが……。

 

(どうにも、ドルマへの当てつけに見えますわね……)

 

「なんだ、まだ元気が有り余っているのか? もう一件、依頼を受けてきたらどうだ?」

 

「野獣を相手にするのは楽しいが、今はそれよりも心躍る相手がいるわ。別に、かのドラゴンボーンも構わないと言ってくれるでしょ」

 

「なら、俺が相手をしてやる」

 

「あら、どんな気の迷いかしら?」

 

「いいから、さっさとやるぞ」

 

 そうして、ドルマは立ち上がると、裏の扉から出て行ってしまった。

 そんな彼の姿にアエラは口元を楽しげに吊り上げ、後に続く。

 

「お、ドルマが久しぶりに剣を振るうのか?」

 

「せっかくだから、街づくりで腕が鈍っていないか見せてもらいましょ」

 

 二人の戦意に当てられたのか、団員たちがにわかに騒がしくなる。

 

「まったく、しょうがない。ほどほどにするのだぞ」

 

「言われなくてもわかっているわ、コドラク」

 

 投げなりな返事を返しながら、アエラが外に出ていき、他の団員達も軒並み付いてってしまう。

 双子を抱いたリータはどうしようか少し迷いを見せていたが、夫の様子が気になるのか、団員たちに続いて行った。

 そしてジョルバスクルには、セラーナとコドラクだけが残される。

 

「ふむ、お嬢さんはいかなくても良かったのかな?」

 

「ええ。少し聞きたいことがありますから。どうして、ウェアウルフがここにおりますの?」

 

 ジョルバスクルの中の空気が、一瞬で凍り付いた。

 

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