【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
「こんなところか」
太陽が真南を過ぎ、西に傾き始めた頃。スカイフォージで槌を振るっていた健人とエオルンドは、目の前の成果物にようやくその手を止めていた。
彼らの前には、二振りの得物が鎮座している。
大小、二本の鋼鉄製のブレイズソード。
スカイフォージの恩恵なのだろうか。心無しか、健人にはその刃が以前自分が使っていたデルフィンのブレイズソードよりも質がいいように見えた。
このわずかな時間に、ここまでの品を作り上げる辺り、さすがはスカイリム最高の鍛冶師である。
「素材の問題もあるし、正直手を加えたいと思えるところは多い。とりあえず、といったところだな」
(そ、そうですか……?)
一方のエオルンドとしては、到底満足できる品ではないらしい。
立派な顎髭を撫でながら、厳しい表情で作ったばかりのブレイズソードを矯めつ眇めつ。
極めた職人特有の感覚で物申すエオルンドに健人は内心首を傾げているが、自分も“スゥーム”に関する理解や感覚は常人のそれとは大きく異なっているので、浮かんだ疑念を無理やり飲み込む。
そんな健人の雰囲気を察し、エオルンドが苦笑を浮かべた。
「君にもいずれできるようになる。筋はいいようだからな」
健人個人の感想としては、この凄腕の鍛冶師の力になれたか正直怪しい。
とはいえ、悪い気分ではなかった。それは、この鍛冶師が基本的に嘘をつかないからだろう。
実直故に、エオルンドの言葉には、一言一言に重みがあった。
「それから、防具の方はドルマに頼まれてから、あらかじめ作っておいた。確認してくれ」
エオルンドが取り出したのは革製の軽装鎧と盾だ。
手に持ってみると、見た目以上の重みがかかる。撫でると、所々に硬い感触が返ってくる。以前健人が使っていたような鎧のように、革の下に金属板が仕込まれているようだった。
(これ、中に入っているのはただの鉄板じゃない?)
コンコンと金属板を覆う革を叩くと、軽くも硬質な感触と鉄とは違う音が返ってくる。
「ああ。碧水晶の金属板を仕込んでいる。表と裏を革で覆うようにしているから、目立つ感じはないだろう。派手な鎧というのは、君の好みではないだろうしな」
軽く、鉄よりも硬い碧水晶。それを使用した鎧は、上位のエルフの戦士が良く着込んでいる。
早速着込んでみると、体にしっかりとフィットする。
手足を動かしてみても、抵抗はほとんどない。それに、背中には以前の竜鱗の鎧同様、盾などをひっかけて置ける取付具が付けてあった。
盾の方も同様。
一見すると革製だが、その裏に碧水晶の金属板を仕込んでいる。
「悪くないようだな。調子を見てみるか?」
大小二本のブレイズソードを差し出してきたエオルンドに頷きながら、健人は今作ったばかりの得物を受け取った。
「こっちだ」
エオルンドの案内で、健人はスカイフォージの階段を降り、ジョルバスクルの裏手へと向かう。
どうやら、裏の方に訓練場があるらしい。
同胞団が、そもそも戦士が集まった集団であることを考えれば、当然の設備。
だが、その道中で、妙な喧騒が訓練場の方から流れてきた。
歓声と、それに混じる金属音。思わず、健人は眉を顰める。明らかに戦闘音だったからだ。
二人が訓練場を覗き込むと、同胞団の皆が何故か集まっていた。
円を描くように集まったメンバーの中心にいるのは、ドルマと健人が知らない女性。
互いに剣を抜き、ピリついた空気の中で剣をぶつけ合っている。
「アエラ、それにドルマ、何をしている」
「随分と長々街づくりをしていた奴の腕が鈍っていないか、確かめていただけよ」
ドルマと相対していた女性がエオルンドの問いかけに答える。
顔に戦化粧を施し、右手には鋼鉄製の片手剣。背中には弓を背負った女戦士。その視線が、エオルンドの隣にいた健人に向けられた。
「それで、そっちが例のドラゴンボーンね。私はアエラ、会えて光栄だわ。もしよかったら、一手おねがいできないかしら?」
「おい……」
アエラと名乗った女性が抜いていた片手剣を健人に向け、そんな彼女をドルマが諫める。
なにやら険悪な空気。健人が場の空気に乗れないまま、二人は睨み合う。
そんな二人の様子に、エオルンドが「またか」というようにため息を吐く。
「とりあえず、少し待て。彼は手に入れた得物を、まだ一振りもしていないんだ」
エオルンドの一言に、アエラは「まあ、少しくらいなら待つ」と述べて引き下がってくれた。剣を抜いたままなのが気になったが、健人はとりあえず、訓練場の開けた場所へと移動する。
向けられる好奇の視線。何とも言えない気まずさを押し殺しながら、健人は腰の長刀に手をかけた。
腰を切り、抜刀。次の瞬間には、刃は正眼に構え切られていた。
「ほう……」
なめらかな曲線と、鋭い刃を持つ刀身が露になり、誰かが感嘆の声を漏らす。
それは見事な刀に対するものか、それとも動いたことすら察知させないほど、精緻で、隙のない抜刀によるものか。
耳に流れてくる声を他所に、健人は静かに刀身をあげて振り下ろす。
(すぅ……。ふぅ……)
そのまま、流れるように振り向きつつ、横なぎへ。
自身の重心移動と、手にかかる重さ感じながら、ゆっくり、ゆっくりと振るう。
激しく力強いノルド達の剣技とは違う、緩やかながらつかみどころのない、そよ風のような剣舞。
十度ほど長刀を振るったところで腰の短刀も引き抜き、二刀となって型を変える。
動きの速度は変わらず静謐。しかし、その一振り一振りが、岩すらも両断するのではと思えるほどの剣気を纏っている。
そして時と共に、放たれる剣気もまたその圧を増していく。見ている者に、嵐のように激しい剣戟を幻視させるほどに。
いつしか、彼に向けられる好奇の視線は減り、静寂が訓練場を包み込んでいた。
そんな中、健人は意識を己のうちへと沈めていく。
周囲の喧騒はとうに消え、感じるのは手に持つ刃と己だけになり、感覚が研ぎ澄まされていく。
底へ、底へ、意識の底へ……。ひたすら集中しながら、確かめるように得物を振り続ける。
そして最後に、横なぎを繰り出す。
ビュ! と風が断ち切られ、同時に沈めていた意識が現実に一気に引き戻された。
(ふう……。こんなものかな)
改めて、手に持つ二本の刃を見下ろす。
いい剣だ。思わず口元を緩めてしまうほど、手にしっくりくる。
エオルンドに視線を向け、礼を言うように頭を下げると、彼もまた厳つい顔で頷き返す。
「じゃあ、さっそくやろう」
そんな健人の前に、アエラが出てくる。元々抜身だった片手剣。
気のせいか、彼女は先ほどドルマと打ち合っていた時よりも、闘志を滲ませていた。
「アエラ……」
「止めるなよ、ドルマ。あれだけの剣を見せられて、手合わせしないなんてことできない。そうだろう、みんな」
アエラの言葉に、周囲を囲んでいた同胞団のメンバーたちが、頷く。
皆一様に、これ以上ないほど好戦的な笑みを浮かべていた。街のチンピラなら、思わず漏らして逃げ出しそうなほどの笑顔である。
(……なんで?)
一方、健人としては、ただ新しい武器の使い勝手を確かめていただけである。
どうして、今にも襲いかかられそうになっているのかわからない。
しかし、忘れてはいけない。この男、シャウトが使えなくとも、剣技だけでも最上位クラスの存在。
本人は気づかなくとも、型をしている間に放たれた剣気は、否応なく血に敏感なノルド達の戦意を刺激していた。
そんなこんなしている間に、片手剣を構えたアエラが踏み込んでくる。
(っ!?)
容赦のない打ち込み。大上段から振り下ろされた刃を、健人は思わず双刀で受け止めた。
アエラは即座に押し込もうと、力をかけてくる。
健人は両腕にかかる圧力を逃すように半身になり、彼女の側面を抜けた。
「は、ふっ! せい!」
アエラは構わず刃を切り返し、追撃を放つ。
数瞬のうちに放たれる三連撃。
袈裟掛け、右薙ぎ、左薙ぎと、間隙なく繰り出された刃が、茫然としている健人に迫る。
(ちょ、ちょちょちょ……!)
普通の兵士なら、最初の一太刀で切り伏せられるであろう速撃。しかし、それを健人は左の短刀で軽々と切り払った。
返す刀で繰り出されたブレイズソードがアエラの片手剣を跳ね上げ、続いて健人の蹴りが彼女の腹に叩き込まれる。
「っ!?」
強烈な衝撃が水月に走り、思わず息が止まった。
それでもアエラは痺れそうな両足に力を入れ、後方に跳躍。背中に弓を抜き、立て続けに三射を見舞う。
狙いは眉間、心臓、肝臓。どれも致命傷となる部位。咄嗟にこれほど正確な射撃を連続して放てる辺りが、アエラの力量を示している。
しかし、その三射も、健人が掲げた双刀に容易く弾き返された。
長刀で二本、短刀で一本を、それぞれの矢の軌道上に置いておくだけの最低限の動きで。
「……やっぱりか」
自分の渾身の射撃を簡単にいなされながらも、アエラの戦意は衰えない。むしろ、強風にあおられた炎のように、より激しく燃え上がる。
一方の健人としては、思わず渋顔を浮かべずにはいられない。
いきなり斬りかかられたのだ。抗議したくもなろう。生憎と肝心の声が出ないので、とにかく嫌そうな顔だけはしておく。
そんな健人の気持ちとは裏腹に、気勢の乗ったアエラは今一度刃を交えようと両足に力を入れる。
次の瞬間、横から割り込んできた大きな影が、彼女の頭を引っぱたいた。
「いい加減にしろ」
「ぐ、ドルマ、お前……」
後頭部を叩かれたアエラが思わず前につんのめり、抗議の視線をドルマに向ける。
そんな彼女をいさめるように、今度は禿げ頭の隻眼の男が口を開く。
「ドルマの言うとおりだ、アエラ。同胞団の一員なら、剣だけでなく鞘も持ち合わせるべきだ」
「……そうね、確かにスコールの言うとおりだわ。すまなかったわね、ドラゴンボーン。つい、昂ってしまったの」
(つい、で斬りかかってくるなよ……)
スコールと呼ばれた男性の諫言に、アエラは意外にもすんなりと剣を引いてくれた。
一応、謝罪もしてはくれるものの、健人としては思わずジト目を向けずにはいられない。
「でもまあ、あなたも悪いのよ? あれだけの覇気で私達を誘ったのだから。ほら、他の皆も、あなたと一戦やりたくて仕方ない様子よ?」
しかも、まだまだ反省してとは言えない様子。
どうせなら、ここにいる者たち全員と戦ってみないか?
その言葉を待っていたかのように、周囲を囲む同胞団達から強烈な戦意が叩きつけられる。
相も変わらず、戦いになると目の色を変えるノルド達。しかも、ここはそんなノルド達の中でも、特に戦いを名誉と重んじる面々が集まった同胞団だ。当然の反応ともいえる。
心なしか、ティグナ家の面々も何かを期待しているような眼をしていた。
『遠慮しておきます』
「なんだ、つれないな」
とはいえ、健人としてはここで色々と消耗するのは避けたい。
武器の依頼と話をしに来ただけなのだ。
心底嫌そうな顔で掲げられた黒板に、アエラを含めた同胞団の面々は一様に残念そうに溜息を吐く。
「それにしても、アエラ相手にあそこまで優勢とは……」
「そりゃ、ケントだからね~~。サークルのメンバー複数を相手にしても勝てるんじゃないかな~~」
「ほう……」
(おいこら、そこのポンコツ姉、燃料を追加するんじゃない)
双子を抱いたリータの言葉に、消えかけていた同胞団の戦意が再燃。各々自分の得物の柄を触ったり、ゆらゆらと体を揺らし始める。
健人は思わず非難の視線を義姉にぶつけた。
「え~~。でも、事実でしょ?」
「まあ、俺ともう一人、コドラククラスの実力者二人同時に相手にして、勝っているからな、コイツ……」
さらに、ドルマもつい余計な一言を言ってしまう。
確かに、以前に健人はドルマと彼の師であるデルフィン二人と戦い、シャウトを使用せずに退けている。
とはいえ、あくまでタムリエルでは三年前の話。正直、今のドルマ相手にどこまで戦えるのかといわれると、健人としては正直判断がつかなかった。
少なくとも、先ほどのアエラと同等か、それ以上の使い手に成長しているように見えるが……。
(とにかく、これ以上は付き合ってられない。早々にコドラクと話をして、帰ろう)
向けられる好戦的な目を努めて無視しながら、健人は同胞団の面々に背を向けてジョルバスクルへ向かう。
そして、裏口の扉に手をかけた際、扉の奥から話声が聞こえてきた。
「…………?」
何を話しているかはわからないが、おそらくは訓練場にいなかったコドラクとセラーナだろう。
だが、変な印象を覚える。手をかけた扉の隙間から、妙に冷たい空気が漏れているような気がするのだ。
「どうかしたのか?」
固まった健人にドルマが声をかけてきた。
健人はとりあえず、脳裏によぎった違和感を押さえ込みながら、扉を開けるのだった。
「ええ。少し聞きたいことがありますから。どうして、ウェアウルフがここにおりますの?」
ジョルバスクル内の空気が、一気に凍り付く。
焚火が勢い良く燃え上がっているはずなのに、石床に霜が降り始める。セラーナの魔力に反応しているのだ。
一方のコドラクも、眼帯越しに見つめてくるセラーナの目を、正面から見据えていた。
交わる視線。数秒の沈黙の後、コドラクがゆっくりと口を開く。
「気づいていたか。そういう君も、普通の人間ではあるまい。巧妙に隠してはいるが、吸血鬼だろう。君こそ、なぜドラゴンボーンと一緒にいる?」
「ちょっと事情がありますの」
「そうか。だが当然、私の方にも事情がある」
にべもない返答。耳が痛くなるほどの沈黙が、二人の間に流れる。
静寂に比して、増していく緊張。先に動いたのはセラーナだった。
既に隆起させていたマジカを練り、素早く詠唱を済ませる。
放たれるのはアイススパイク。氷の棘を飛ばす破壊魔法。威力は低いが、詠唱時間が短く、即応性に優れた魔法だ。
それを、コドラクは腕の一振りで粉砕した。
毛むくじゃらの、おおよそ人が持つには違和感を抱くほどの巨大な腕。長く伸びた爪はクマのようで、一本一本がまるで研ぎ澄まされたナイフのように鋭い。
セラーナは反射的に後ろに飛び、右手で腰の短刀を抜いて詠唱。左手に先ほどのアイススパイクよりも大きな氷柱を作り上げる。
アイスジャベリン。熟練者クラスの破壊魔法。セラーナほどの使い手なら、バリスタほどの威力まで引き上げることができる、強力な魔法だ。
放たれれば、人体など軽く貫いて吹き飛ばすくらいの威力がある。
一方のコドラクは、セラーナのアイスジャベリンを見せられても、表情は変わらない。
むしろ、彼女の魔法よりも、その眼は右手の落氷涙に向けられていた。
「それは、彼の剣か。なるほど、相当な信頼を得ているようだな」
「…………」
そして、いまにも放たれそうな氷の攻城矢を前に、苦笑を漏らしながら、変化させていた腕を元に戻すと、近くの椅子に腰を掛けた。
「お互い、よく知らぬ者同士なのだまずは自己紹介から始めぬか?」
戦意のないコドラクに疑念の目を向けつつも、セラーナもまた待機させていたアイスジャベリンを消し、落氷涙を納める。
そして、コドラクの斜め前に近くの椅子を動かし、座った。
一応、魔法と武器はしまったが、その気になればいつでも動ける位置。
そんな警戒心バリバリのセラーナにより苦笑を深めつつ、コドラクは話し始めた。
「確かに、私はウェアウルフだ。同胞団のサークル、それに属することになった際に与えられた、血の祝福の結果だ。きみは、なぜ吸血鬼に?」
「モラグ・バルの儀式で、ですわ。一応、それなりに長生きしておりますので」
「ほう……。コールドハーバーの娘。まさか、それほどの存在に生きているうちに会えるとは思わなかった」
そう言って、コドラクは近くに置いてあった蜂蜜酒の瓶と杯を手に取り、中身を注ぐと一飲み。ついでに別の杯に蜂蜜酒を注ぎ、セラーナに差し出すも、彼女は首を振って固辞した。
「それで、これから君は何をすると?」
「……家に帰りますわ。私が人の世にいては、色々と問題がありますでしょう? 貴方は、なぜ彼と話がしたいのです?」
そもそも、健人を呼び出したのはこの老人だ。
自分には直接関係はないのだろうが、そこに、コドラクが何らかの目的を見出しているようにも見えた。セラーナとしては、少々気になるのも確かである。
「私は同胞団として、常に戦いに身を投じ続けてきた。そのことに後悔はない。しかし、この歳になると思ってしまうのだ。英霊たちが導かれるといわれる、ソブンガルデのことを……」
ソブンガルデ。
戦いの神ショール、すなわち、ロルカーンの領域にして、勇気ある者が死後に招かれる領域。そして、かつて健人がアルドゥインとの決着のために赴いた地だ。
ノルドにとっては、天国とも呼べる場所であり、そこに招かれることはこれ以上ない栄誉である。
他にもニルンの者が死後に贈られる場所として有名なのは、九大神の一柱、アーケイの領域だろう。輪廻を司るこの神は、死者の埋葬にも深くかかわっている。
「死後の世界。確かに、ウェアウルフは死後、ハーシーンの領域であるハンティンググランドに招かれますわね」
だが、この世界の死者の魂は、死後にこの二柱とは別の領域に送られる者もいる。
その典型例が、デイドラとの契約者だ。
デイドラと契約した者は、強い力や強力な道具などを授かるが、代わりに魂を縛られてしまう。
コドラクが罹患している人狼病は、デイドラロード、ハーシーンとの契約の証。
獣に変化する体も、その強力な力も、すべては死後をデイドラに捧げる代わりに受け取れる力なのだ。
そこまで話を聞いて、セラーナはなぜコドラクがソブンガルデの話を健人に聞きたがっているのかを察した。
「戻りたいのですね、人に」
セラーナ言葉を肯定するも否定するもなく、コドラクは寂しげな笑みを浮かべる。
同時に、セラーナの胸に嫌悪感がこみあげた。
「都合のいい話ですわね。今までウェアウルフの力を使っておきながら、その死後は明け渡したくないと申しますの?」
体の一部だけを変化させていたところを見れば、コドラクがウェアウルフの力を相当使ってきたことは明白だ。普通のウェアウルフは、そのような器用な真似はできない。
セラーナの指摘を前に、コドラクは己の醜さを認めるように、静かに頷く。
「そうだな。都合のいいことを言っているのだろう。だが、まずこの獣人の血は、初めからこの同胞団にあったものではない。数百年前の導き手が、同胞団に入れたものだ」
一息入れるように、コドラクは再び蜂蜜酒に口をつける。
一方のセラーナは、コドラクを睨みつけたまま。
どんな理由があろうと、この男がウェアウルフの力を使い続けていたことに変わりはない。
「君は、どうなのだ?」
「あり得ませんわ。あれだけ苦しみ、恥辱にまみれて手にした力です。どうして、今更捨てられると?」
人に戻りたくはないのか?
言外に告げられたコドラクの問いかけを、セラーナは吐き捨てる。
セラーナにとって、吸血鬼の力は、家族との絆、太陽の下で生きる権利、そのすべてを失って手に入れたもの。何もかもを失った自分に、唯一残ったものだ。
たとえ呪われていようと、今更捨てられるものではない。
そんな彼女の声を正面から受け止めながら、コドラクは静かに口を開く。
「死ぬからだ。いずれ、必ず。かつての選択が間違いであったと分かったのなら、せめてそれを正してから死にたい。彼にソブンガルデの話を聞きたかったのは、そんな私の気持ちを今一度確かめるためだ」
静かな、しかし確かな意思をもって述べられたコドラクの言葉に、セラーナはさらなる憤りを吐き出そうとする。
しかし、その言葉はジョルバスクルの裏口の扉が開かれる音に止められた。武器の調達と調整をしていた健人を含めた、他の者たちが戻ってきたのだ。
扉を開けた健人が向かい合うコドラクとセラーナを見て、怪訝な表情を浮かべる。
おそらく、二人の間に流れる張り詰めた空気を察したのだろう。
「終わったようだな」
『すみません、お待たせしました』
「いやいや、中々楽しい語り合いだったよ」
そんな健人の疑念を払うように、コドラクはニコニコと軽く笑う。
一方、憤りを発散できなかったセラーナは、表情を硬くしたまま俯く。
『どうかしましたか?』
「……いえ、なんでもありませんわ。それより、お話があるのでしょう? 私はお先に失礼いたしますわ」
そんなセラーナの様子が気になり、健人は声をかけるも、彼女は逃げるようにジョルバスクルから出て行ってしまった。
「すまないな、ドラゴンボーン。少しでも楽しく話ができればと思ったのだが、年寄りとは合わなかったようだ」
(え、あ、え?)
「ケント、彼女は私が見ておくから。コドラクさんとの用事を済ませて」
茫然としている健人の代わりに、リータがセラーナの後を追ってジョルバスクルを後にする。
「リータ、すまないな。さあ、座ってくれ」
一方、穏やかながらも、コドラクの妙に力のこもった言葉に促され、健人は先ほどセラーナが座っていた席に着かされる。
そして、蜂蜜酒をなみなみ注がれた杯を差し出された。
「一度、君とは話をしてみたかった。君が見たという、ソブンガルデの話を……」
「ソブンガルデ!?」
「おい爺さん、どういうことだ!?」
「どうもなにも、彼は生きてソブンガルデに赴き、そして帰ってきた人間だ。ぜひともその話を聞いてみたいとは思わんか?」
案の定、同胞団の面々はコドラクの言葉に色めき立った。
彼らにとって、死後ソブンガルデに招かれることは、これ以上ないほどの名誉。実際にそこに赴いた健人の話に、興味を持たないはずはない。
正直、セラーナの様子が気になっていた健人だが、こうなってはソブンガルデの話をしない限り、解放してくれそうにない。
そして彼はしかたなく、彼は黒板に白墨を走らせるのだった。
一方、セラーナを追いかけたリータはというと……。
「セラーナさん、ちょっと待って~~!」
「「うえ、うええええええ~~~ん!」」
「ああ、ごめんね。ちょっと声が大きかったね! あ、あれ……セラーナさん、どこに?」
ぐずる双子に気を取られ、雑踏の中に消えた吸血姫を完全に見失っていた。
いかがだったでしょうか。
正直、コドラクとセラーナ。互いに同じ異形でありながら、その力へと向き合う姿勢は逆な二人。セラーナを深堀するなら、関わらせたいと思ったキャラです。
そして健人は、新しい装備を手に入れました。
かつて使っていた竜鱗の鎧や血髄の魔刀には及びませんが、一応、本来の戦闘スタイルで戦えるようになりました。
以下、登場人物、用語紹介
コドラク
同胞団の導き手。
ウェアウルフであるが、老いていく中で自分の人生を見つめ直すうちに、ソブンガルデへの思いを募らせるようになる。
そして彼は、独自に同胞団になぜウェアウルフの血が入ったのかを調べるうちに、数百年前の導き手が入れたのだと知り、現在はひそかに己の中の獣の血を消す方法を探している。
そんな彼の様子が、セラーナにとっては目につくのだが……。
ソブンガルデに赴き、帰還した健人に対しては一人の戦士として敬意を抱いており、彼の話を聞いて己の気持ちを確かめるため、ドルマに連れてくるよう頼んでいる。
アエラ
同胞団のサークルの一人であり、ウェアウルフの女性。
野性的な性格ではあるが、コドラク曰く、孤独すぎるとのこと。弓を得意とする。
健人に興味を抱き、好奇心から無理やり模擬戦を行うも、一蹴される。
ドルマに対して、妙に対抗意識がある。
ウェアウルフの血に対しては肯定的。
スコール
同胞団のサークルの一人。冷静沈着で、次期導き手の最有力候補とされている。
彼もまた、ウェアウルフについて肯定的な人物。
サークル
同胞団の幹部たちの総称。
彼らは優れた戦士達であると同時に、全員ウェアウルフである。
現在のサークルメンバーはコドラク、スコール、アエラ、ファルカス、ヴィルカスの五人。
ドルマは彼らに比する戦士であるが、サークルのメンバーではない。
ハーシーン
デイドラロードの一柱。狩猟を司り、常に借りが行われる領域、ハンティング・グランドの主。鹿の頭骨に筋骨隆々の男性の肉体、そして槍を持った姿で描かれることが多い。
本神の気質としては、とにかく大の狩猟好き。
時折ニルンで最も狩りがいのある獲物を複数拉致して狩猟祭を楽しんだりする。拉致された方はたまったものではない。
ハンティング・グランドは永遠の借りが行われている場所であり、狩人も獲物も魂なので、永遠に狩る狩られるかが行われている。場合によっては死んでも殺され続けるので、デイドラらしくヤバい場所である。