【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
「吸血鬼と一緒にいたドルマの義弟か!」
リーダーであるガンマーへの危機に、セラーナの周囲を固めていたトロール達がケントへ向かって駆け出す。
トロールは、このスカイリムの中でもクマに並ぶ怪物だ。
強靭な筋肉は並の武器を弾き返し、鋭い牙は鎧すら容易く噛み砕く。
なにより驚異的なのは、その回復能力だ。単純な切り傷程度は即座に塞がれ、数日も経たずに治ってしまうほど。
まして、このトロール達は武骨ながらも、武器と鎧で武装されている。
それが三体。同胞団の戦士でも十分足止め、場合によっては撃退できる戦力だ。
しかし……。
「グオゥウウッ!」
「ガフゥウ……!!」
三体のトロールは、数瞬の足止めもままならず、無力化された。
最初に飛び出した一頭目は振り抜いた鉄爪を躱され、右腕と両足の腱を切断されて地面に倒れこむ。
筋肉の力を骨に伝えるための腱が切れれば、まともに立つことすらできない。
続く二頭目、三頭目はすれ違いざまに首を斬られた。傷はすぐに塞がるも、急激な血圧低下に脳が襲われ、昏倒。
この間、五秒足らず。
あっさりとトロール三体を無力化した健人は、そのままがガンマーに斬りかかる。
「くっ……がっ!」
ガンマーは振るわれた鋼鉄製のブレイズソードを斧で何とか受けるも、その間に健人は間合いを詰め、掌底で彼の顎をかち上げた。
さらにショートタックルの要領でガンマーの体を突き飛ばし、セラーナから距離を取らせる。そして、十分な距離を取らせると、一気にギアを引き上げた。
上下左右、縦横無尽に振るわれるブレイズソード。ガンマーはなんとか両手に携えた片手斧を振るうも、あっという間に健人が繰り出す剣嵐に飲まれていく。
「シャレにならん腕だ!」
「ガンマー、退いて!」
根本から違う技量差にガンマーが悲鳴を上げる中、側面にいたソリーヌが声を上げる。
彼女のクロスボウの狙いは、既にセラーナから健人に向けられていた。引き金が引き絞られ、張り詰めた弦が開放。一気に加速した矢が健人めがけて迫る。
クロスボウが放つボルトの初速は、通常の弓よりはるかに速い。具体的には、通常の矢の数割増し。使用するリムの強度によっては、数倍にもなる。
これは弓で使われる矢よりも軽いボルトに、十分な貫通力を持たせるためだ。
既に夜になり、暗くなっている今、高速で飛翔する矢を視認することはほぼ不可能。
しかし、予想とは裏腹に、ソリーヌは呆けた声を漏らすことになった。
「え……?」
健人は背中に手を回し、背中の留め金を外し背負っていた盾を取り出すとそのままソリーヌめがけて……正確には、彼女が持つクロスボウが狙う射線上に重なるように投擲した。
健人が投げた盾とソリーヌが撃ったボルトが空中で衝突。激しい雷をまき散らす。
(別に直接撃たれた矢を視認する必要はない。相手が撃つタイミングに合わせて、射線上に異物を放り込むだけでいい……)
クロスボウの矢は基本、放たれた後は直進するしかない。当然、目標との間に障害物を割り込ませれば、空中で迎撃することは可能。
もっとも、理屈は正しくとも、実行し、成功させるかは全くの別問題。相手の狙いとタイミングを完璧に読まなければ、到底できない芸当だ。
実際、ソリーヌは完全に呆けてしまっている。
そして、その隙をこの男が逃すはずもない。
「がっ!!」
一瞬でソリーヌの懐に入り込んだ健人が、彼女の水月に容赦なく左拳を叩き込む。
横隔膜がマヒし、一瞬で呼吸困難に陥ったソリーヌ。健人は彼女のクロスボウを弾き飛ばすと、そのまま左手で襟を掴むと背負い投げの要領で投げ飛ばした。
地面に強かに背中を打ち、ソリーヌの視界が砂嵐に塗りつぶされる。二度も肺に強烈な衝撃を受け、全身が硬直。全く動けなくなってしまった。
「ソリーヌ! くそ……!」
ソリーヌを無力化した健人の視線が、残されたガンマーに向けられた。
健人の体がブレて落ち、落下エネルギーを踵に叩き込まれ、地を這うように一気に加速。
あまりにも速い踏み込みに、ガンマーが健人の動きを察知した瞬間には、健人は既に相手の足元に滑り込んでいた。
直後、踏み込みの速度を乗せた強烈な斬り上げが、ガンマーに襲い掛かる。
「ぐっ!?」
とっさに軌道上に両手に持つ片手斧を滑り込ませるが、健人の斬撃はそのまま二本の斧を両断。ガンマーはそのまま胸ぐらをつかまれ、地面に投げ飛ばされる。
「ぐぅ……!」
仰向けに倒されたガンマーの眼前に、鋼鉄のブレイズソードが突き付けられる。
圧倒的な腕の差。まさか、同じ鋼鉄製の斧を刃ごと両断されるとは思わなかった。
ガンマーは横目でソリーヌの様子を伺うも、彼女もまた動けない様子。
「助かりましたわ……」
「くそ、ここまでか……」
そして、腹の傷を癒し終えたセラーナが立ち上がる。
この状況に、ガンマーは死を覚悟した。
そんな中、気の抜けた二つの声が夜の草原に響く。
「はあ、何やってんだ、お前ら」
「ええっと、ガンマーさんとソリーヌさんだよね?」
茂みの奥から姿を現した男女。健人と同じくセラーナを探していたドルマとリータだった。
二人はヘルゲンにいるはずのガンマーとソリーヌの姿を確かめ、続いて状況を理解してため息を漏らす。
「ドルマ、早くあの吸血鬼を殺せ! こいつらは死ぬべき存在だ……っ!?」
一方、ドルマの登場に、ガンマーは声を荒げた。吸血鬼を殺せと。
実際、セラーナは吸血鬼だ。定命の者の血を啜り、化け物に変える存在。
その時、倒れているガンマーの額めがけて一本の氷柱が飛んできた。
「おっと……」
その氷柱を、ドルマは射線に割り込み、小手で打ち砕く。
氷柱が放ってきたのは、先ほどまで追い詰められていたセラーナだ。
彼女から見れば、ガンマーとソリーヌは自分の命を狙ってきた襲撃者。排除しようとするのは当然と言える。
「悪い、コイツを殺すのは勘弁してくれないか? 一応、ヘルゲン復興に世話になった、大切な協力者なんだ」
そんなセラーナを前に、ドルマはできる限り穏やかな口調で助命を乞う。
「ドルマ……!」
「で、あるなら、どうするおつもりですか? 見たところ、そこの二人は吸血鬼ハンター。ドーンガードと係わりのある者達ですわ。生憎と私、殺されてやるつもりは毛頭ありませんの」
しかし、それで納得するセラーナではない。
吸血鬼ハンターと吸血鬼。互いに殺すか殺されるかという関係。水と油、という表現が相応しい天敵同士だ。
吸血鬼は生きる限り人の血を吸わずにはいられず、吸血鬼ハンターはそんな吸血鬼を狩りつくそうとする。
「ドーンガード?」
「イスランという男が率いる、吸血鬼ハンターの集団ですわ」
「ガンマー、本当か?」
「いや、俺たちはイスランからは協力を断られた。だからとっくに縁は切れてる。だが、吸血鬼は殺さねばならん」
実際、ガンマーもソリーヌもイスランとは随分前に袂を分かっていた。
以降、それぞれ別々の道を進んでいたが、吸血鬼に脅威を感じ、排除しようする意思に変わりはない。
「この通りですわ。彼らは私を殺したい。私は殺されてやるつもりはない。決して交わることがありませんわ」
「分かったろ! こいつはこれからも人の血を吸う! 未来に犠牲者を出さないためにも、殺すんだ!」
「だがな~~。ここでもしそれをしようとすれば、ケントが敵になるんだろ? 俺は無理だぜ、コイツを止めるのは」
「なら、ドラゴンボーンに……」
「え、私にケントと戦えって? イヤよ」
「…………」
一縷の望みをかけて、ガンマーはリータに視線を送るも、彼女もまたガンマーの訴えを一蹴した。
彼女にとって、健人は家族だ。それに、自らが負うはずだった使命と業を代わりに背負ってくれた、大事な恩人である。
セラーナが吸血鬼であり、その護衛を健人がしていることに多少思うところはあるが、それでも彼の意思を尊重すると決めていた。
一方のセラーナは、未だに殺意を持ってガンマー達を睨みつけている。二進も三進もいかない状況だった。
そんな中、ドルマが口を開く。
「そういうことだから、提案だ。お前ら、ケントに同行しろ」
(は?)
「な、何を言ってるんだ!」
ガンマーは思わず声を荒げる。
健人もドルマの言うことが理解できずに首を傾げ、ようやく身を起こしたソリーヌも目をぱちくり。セラーナに至っては眉を顰めてドルマを睨みつけていた。
「倒すことも殺すこともできないなら、監視するしかないだろ。そういうことだから、ケント、解放してやれないか?」
(ええ……)
「私としては、ここで殺しておきたいのですけど……」
「さっきも言ったが、それは勘弁してくれ。こいつらの性格はよく知っている。吸血鬼に対して確かに強い殺意はあるが、決して悪い奴らじゃない。話だって通じる。一宿一飯の宿代だと思って、一度だけチャンスをくれてやってくれ」
そして、ドルマは落ちていたソリーヌのクロスボウを拾うと、セラーナに差し出す。
これで、ガンマーとソリーヌの武器はなくなった。二人が持っていた武器の扱いに関しては、健人とセラーナに任せるという意思表示である。
健人は今一度考え、そして溜息を吐きながら、黒板に軽く白墨を走らせた。
『分かった。この装備代、ってことでいいか?』
「悪いな。セラーナはどうだ?」
「……彼が言うなら、今回は見逃します。しかし、同行中にもし襲ってくるようなら」
「その時は仕方ない。運命をショールにゆだねてやってくれ」
ドルマの説得と行動に、健人はガンマーに突き付けていたブレイズソードを納める。
解放されたガンマーは、未だに釈然としない様子。黙り込んだまま、話を勝手に進めたドルマを睨みつけている。
従えていたトロールを無力化され、武器すら失い、説得すら通じなかった以上、正直ガンマーにできることはそれだけだった。
そんなガンマーに、ドルマは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「…………」
「そんな顔をするな。こいつと一緒にいるのは、いい経験になると思うぜ。ということだから、ケント、よろしく頼む」
ドルマに肩を叩かれ、健人は今日一番の深いため息を漏らす。
「……はあ、また変な同行者が増えましたわね」
セラーナもまた、この奇妙な事態に呆れ顔を浮かべるしかできなかった。
襲われたと思ったら、まさか同道を提案されたのだ。無理もない。
そんな中、解放されたソリーヌが、そっとガンマーの傍によって耳打ちする。
(ちょっと、どうするのよ……)
(現状、しかたない。今の俺達では、この男と吸血鬼には勝てない……)
あまりにも隔絶した力の差を見せつけられたガンマーは、今すぐにセラーナをどうにかすることは不可能だと判断し、しぶしぶドルマの提案を飲む意思を彼女に伝えた。
そして、改めて健人に目を向ける。
彼は途切れなくガンマー達を視界に捉えているが、戦意は既に治められていた。
もしかしたら、ソリーヌとの先ほどのやり取りが聞こえていたのかもしれない。
(ここまで来たら、覚悟を決めるしかない。クマの子を手に入れるには、クマの巣に入るしかない)
吸血鬼は基本、人間達に気づかれないように生きている。上手くいけば、潜伏している吸血鬼達の情報を集めることもできるだろう。
ガンマーは開き直り、改めて正面から健人の視線を受け止める。
静かな目が、ガンマーを見透かすかのように見つめていた。
まるで大海をのぞき込むか、果てのない空を見上げるような感覚に襲われ、思わず背筋に冷や汗が流れる。
「じゃ、帰ろっか。あ、ガンマーさんとソリーヌさんもうちで泊まってくよね?」
「「「……はい?」」」
そんな中、あっけらかんとしたリータのセリフに、先ほどまで殺し合いをしていた三人が気の抜けた声を漏らす。
泊まる? ドラゴンボーンの家に? さっきまで殺し合いをしていた相手と?
リータに「お前、正気か?」と疑う四対の視線が向けられる。
「ん? 同道するんだから、できるだけ一緒の時間を過ごしたほうがいいでしょ? ほらほら、行くわよ」
しかし、残念ながらこの天然娘は本気の本気だった。
ガンマーとソリーヌの腕をつかむと、ホワイトランへと歩き始める。
二人はとっさに抵抗しようとするが、ほっそりとした街娘の手はビクともしない。
そのままズルズルと引きずられるように歩かされる。
「ちょ、ちょっと待ってくれドラゴンボーン、俺は……」
「い、いくらなんでも吸血鬼と同じ屋根の下なんて……!」
「大丈夫、大丈夫。セラーナさん、いたずらに血を吸うタイプの吸血鬼じゃないし、今は健人から血を貰っているから、他人の血を吸う必要はないの。そうだよね?」
「……ええ、確かにそうですわ」
そう言って、セラーナは懐に手を入れ、健人の血を納めたシリンジを取り出した。
正直、健人の血があまりに美味すぎて、最近は他の人間の血を飲みたいとは思えなくなってもいた。
吸血鬼が血を吸うことを自粛している。
その事実に、ガンマーとソリーヌは信じられないというように目を見開く。
「ほらね? と、いうことで、二名様ご案内~~~~!」
そして二人は、問答無用でブリーズホームまで引きずられていった。
ちなみに、招待(という名目で拉致)された二人がどうなったかというと……。
「ぐふ……」
「きゅう……」
「あれ? 二人とも、もう寝ちゃったの?」
リータが作った夕食を前に撃沈した。
吸血鬼を殺すことを使命とした吸血鬼ハンター達。ツンツンと元凶に頬をつつかれながら、白目をむいてブリーズホームの石床の上に倒れこむ。
(まあ、気絶していてもらった方がいい、んだろうけど……)
(憐れですわ……)
そして、健人とセラーナから向けられる、憐れみの目。
しかし同時に、同じ劇物料理の被害者ということで、襲撃による確執は幾分か和らいだのは余談である。
いかがだったでしょうか?
ということで、ガンマーとソリーヌが健人一行と同道することになりました。