【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十二話 絶望的な逃走

 

「お父様。確かに彼らは吸血鬼ハンターですが、ここまで私を無事に案内してくれた者たちでもあります」

 

「わかっている。しかし、こいつらは危険だ。見過ごすことはできん。殺せ」

 

 セラーナが二人をかばうが、ハルコンは己の決定を覆さなかった。

 ハルコンの命令に、壁際まで退避していた配下の吸血鬼達が、二人を取り囲もうと動き始める。

 

「くそ、やっぱりこうなったか!」

 

「これは、生きては戻れなさそうね……!」

 

「ハルコン卿の命令だ、逃がすな!」

 

 ハルコンに続いて、ヴィンガルモの声が響く。

 ガンマーとソリーヌは踵を返し、即座に逃げようとするが、瞬く間にその進路を塞がれた。

 彼らの前に立ちふさがったのは、薄茶色の髪と髭を持ち、髭を金属の輪で止めているのが特徴的なノルドの吸血鬼。見たところ、ハルコン以外の吸血鬼達の中でも、相当な力を持っていることがうかがえた。

 

「さて、新しい食材を料理するとしようか」

 

「オースユルフ、主の命だ、さっさと殺せ」

 

「ヴィンガルモ、お前に言われるまでもない」

 

 鋼鉄の片手斧を構えるガンマーに、オースユルフは無手のまま悠々と近づいていく。

 間合いに入ったオースユルフに、ガンマーが全力で振り下ろす。彼とて、一端の戦士である。だがオースユルフは、彼の斧を片手でつかみ取ってしまう。

 

「……この程度か? 吸血鬼ハンター」

 

 失望とともに、オースユルフの裏拳がガンマーの頬を捉えた。

 身長180センチを超えるガンマーの体が吹き飛ばされ、ロビーへと続く階段の壁面に叩きつけられる。

 

「ガンマー! この……!」

 

「うお!?」

 

 激高したソリーヌが、構えたクロスボウを放つ。

 番えられていたのは、爆裂ショックボルト。オースユルフは顔面に迫るボルトを軽々とつかみ取るも、炸裂した雷の衝撃をモロに受けることになった。

 

「驚いたな。しかし、所詮は玩具だ」

 

「そんな……」

 

 しかし、オースユルフが纏う鎧に僅かに焦げ目がついたくらいで、これといって怪我を負うことはなかった。

 彼我の圧倒的な戦力差を突きけられ、ソリーヌは思わず後ずさる。

 気が付けば、彼女はガンマーが倒れる二股階段の壁面へと追い詰められていた。

 

「では死ね、定命の者」

 

 にんまりと、嗜虐的な笑みを浮かべながら、オースユルフは振りかぶった拳をソリーヌめがけて放つ。

 ザクロのように粉砕される己の頭蓋を想像し、硬直しているソリーヌ。ガンマーの方も、壁面に叩きつけられた衝撃で動けそうになかった。

 だが直後、にんまりと歪んでいたオースユルフの顔が一気に引きつり、突然その場を飛びのいた。

 オースユルフの背後から風を切る音とともに、先ほどまで彼がいた場所を銀閃が走り抜ける。

 

「あなた……」

 

(逃げるぞ!)

 

「っ、わかったわ!」

 

 背後からオースユルフに斬りかかったのは健人だった。彼はそのまま視線でソリーヌに脱出を指示。応えるように、彼女はガンマーに肩を貸して駆け出した。

 

「まて!」

 

「逃がすか!」

 

 当然ながら、階段へと向かおうとする健人達の前に、他の吸血鬼達が立ちふさがっている。

 腰の剣を抜いて斬りかかってくる者が二人。その後ろで手のひらにマジカを収束させているのが二人。

 前衛の吸血鬼達が、鈍色の刃を人間離れした力で振り下ろしてくる。

 

(どけ……!)

 

 掲げられるブレイズソード。そのなめらかな曲線を十全に使い、健人は迫る二刀を完全に受け流した。返す刀で、両者の太ももに傷を刻み込む。

 

「がっ!?」

 

「ぐわ!」

 

 悲鳴を上げてよろめく二人の吸血鬼。そのうちの一人に思いっきり体当たりしながら、後衛の二人の場所まで押し込む。

 

「ちょっ……!」

 

 仲間を盾にされ、精彩を欠く後衛の吸血鬼達。その隙に健人は押し込んだ前衛の一人をたたきつけた。階段までの道が開く。

 

「ガンマー、早く!」

 

「っ、もう大丈夫だ! 自分で走れる!」

 

 その間に、ガンマーはなんとか自分で走れるようになり、ソリーヌと二人で二股階段の壁面を回りこんでいた。そのままロビーへと続く階段を駆け上がる。

 幸いだったのは、ガンマー達がロビーへ続く二股階段の傍まで追い込まれていたこと。

 確かにこの場にいる吸血鬼達は多いが、階段へ回り込むだけなら、相手にする吸血鬼の数は限られる。

 もっとも、四体の吸血鬼を相手にできる人間など、どれほどいるのかという話にもなるが。

 

「行かせるか!」

 

「邪魔だ!」

 

 騒ぎを聞きつけて城内に来た門番の従僕を、ガンマーが斧で叩き殺す。

 その間に、ソリーヌはクロスボウに爆裂火炎ボルトを装填。反対側の階段から登ってこようとしている吸血鬼を吹き飛ばしていた。

 

「ケント、早く!」

 

 その間に、今度は健人が階段を駆け上がる。

 この瞬間、正門までの障害は排除された。脱出のチャンスである。

 

「何をやっている! 逃げてしまうぞ!」

 

「ふん……!」

 

 ヴィンガルモが声を荒げる中、オースユルフが手近にあった槍をひっつかみ、投擲してきた。

 狙いは、邪魔をしてきた健人。古の吸血鬼の剛力で放たれた槍は、大気をねじ切りながら、彼の側頭部を吹き飛ばさんと迫る。

 健人は反射的に、背中に左手を伸ばした。

 

(っ……!)

 

 直後、バキン! と耳を突くような音が響き、黒い金属片が舞い散った。

 それは、健人の盾の破片だった。反射的ながらも、適切な角度とタイミングで差し込まれた盾は、その三分の一を粉砕される代わりに、しっかりと主の命を守り切った。

 作ってくれたエオルンドに感謝しながら、健人は階段を登り切る。

 すでに階下の吸血鬼達が無数に魔法を放ってくるが、ほとんどの者はすでに射線は切れている。あとは、このまま正門を抜けて、小舟に乗り込むのみ。

 

「ついでに、こいつも全部あげるわ!」

 

 さらに、ここでソリーヌがダメ押しに、腰のポーチに入れていた爆裂火炎ボルトをすべてひっつかみ、ロビーの天井めがけて放り投げた。

 天井に接触した爆裂火炎ボルトは、次々にその内部にため込まれていた魂力を開放。刻まれた術式に従って、次々に爆風を走らせる。

 

「これは……」

 

「まずい、崩れるぞ!」

 

 吸血鬼達が動揺する中、ロビーの天井に皹が入り崩落を始めた。

 瓦礫で道を塞いでしまえば、追撃を防げる。

 しかし、今まさに天井が崩壊を始めた直後、強烈な力に、健人の体が急激に引っ張られ始めた。

 

(なっ?)

 

「ケント!?」

 

「おい!?」

 

 健人の体は彼の意思とは裏腹にまるでロープで引っ張られたように後ろへと吹き飛ぶ。

 直後に、ロビーの天井が崩落を開始。ガンマーとソリーヌの姿は、崩れる瓦礫の向こう側へと消えてしまった。

 そして健人は二股階段の上を飛び越え、大広間の中央へと放り出される。

 そこには、変わらず、異形の姿で佇むハルコンの姿があった。

 

「ふん、随分と大立ち回りをしてくれたな。それにしても、臣下達の油断にも困ったものだ」

 

 床の上に放り出された健人を見下ろしながら、ハルコンは臣下への失望の声を漏らす。

 不機嫌な主に、配下の吸血鬼達に緊張が走った。慌てた様子で崩壊したロビーへと駆け寄り、瓦礫を取り除こうと試みる者もいる。

 そんな中、健人は絶望的な状況に、何とか脱出できないか必死に頭を動かす。

 

(くそ、いったい何が起きたんだ? 吸血鬼の能力か何かか!?)

 

「ふん……」

 

(ぐっ……!)

 

 しかし、考えをまとめる間はなかった。

 ハルコンが左手を掲げると同時に、健人の喉が強烈な力で締め付けられ、体が宙を浮く。

 

(これは……念動力か!?)

 

「いや、我らの基本的な能力の一つに過ぎん」

 

 吸血鬼の手。

 精鋭クラスの変性魔法、念動力と同質の能力だ。

『念動力』は遠くの物を引き寄せたり、弾き飛ばしたりする魔法であり、あのミラークも使っていた術。健人も、彼の助力を借りて使用したことがある。

 

(この……)

 

 相手の力場に囚われた状態なのはマズいと、健人はハルコンの胸に蹴りを繰り出し、その反動で何とか『吸血鬼の手』の影響範囲から逃れようとする。

 しかし、その前にハルコンが力場を一方向……己の前方へと解放。健人の体をピンボールの玉のように弾き飛ばした。

 

(が……!)

 

 先ほどのガンマーと同じように、二股階段の壁に叩きつけられる健人。

 衝撃で肺が痺れ、声にならない呻きが吐息となって漏れる。

 

「さて。いい加減、この不愉快な宴に終幕を下ろすとしよう。ついでに、部下の不始末をぬぐってやるとするか」

 

(あれは……!)

 

 ハルコンが、右腕を掲げる。

 ボコリと彼の手のひらに真っ赤な泡が立ち、そこから一本の剣が姿を現した。

 ブレイズソードに似た、緩やかな曲線を描く片端の曲刀。鮮血よりもなお紅い刀身。喀血を塗り固めたかのようにどす黒く、無数の棘を帯びた柄。

 それは、以前セラーナを探していた吸血鬼、ロキルが持ち、健人の『血髄の魔刀』をへし折った刃『神血の魔剣』だった。

 

(なんであの剣がここにある!? 確かに、ロキルは「ハルコンから拝借した剣」と言っていたが、あの剣はリフトでの戦いの際に消息不明に……)

 

「目覚めよ、我が刃!」

 

 考えている間もなく、神血の魔剣がハルコンの声に拍動を始めた。

 本来の主の呼びかけに、魔剣は血を食うことすらなく、ロキルの時以上のマジカを放出し始める。

 噴き出した魔力は、渦を巻きながら収束を開始。深紅の刀身を包み込み、何倍もの巨大な魔力の刃を形成する。

 

「さあ、我が力を見るがいい!」

 

 そして、ハルコンは健人めがけて、神血の魔剣を振り下ろした。

 魔力の渦を纏った極太の刃が、城の天井を削りながら健人に迫る。

 

(まず……)

 

 今の健人には、到底抗い切れない力。それから少しでも逃れようと、健人は全力で両足に力を入れて跳ぶ。

 直後、魔力の刃が二股階段を両断し、開放されたマジカが嵐となって吹き荒れる。

 そしてロビーを塞いでいた瓦礫は、ハルコンの一刀を前に正門ごと吹き飛ばされた。

 残されたのは、城に穿たれた巨大な穴。瓦礫が舞う中、配下の吸血鬼達すらも、あまりの主の力を前に呆然としていた。

 

「何をしている。さっさと奴らを追いかけて殺せ」

 

「は、は! おいお前ら、行くぞ!」

 

 真っ先に我に返ったオースユルフが、部下の吸血鬼を連れてガンマー達を追いかける。

 逃げた吸血鬼ハンターを臣下に任せたハルコンは、まき散らされた瓦礫を見渡す。

 

「さて、あのケントとかいう人間は……ほう、まだ息があるのか」

 

 なんとか神血の魔剣の一撃を躱していた健人。

 しかし、受け身を取る余裕はなく、頭を瓦礫に強打し、気絶してしまっていた。

 そこにヴィンガルモが慇懃な態度で話しかけてくる。

 

「主様、ここは私が始末しておきます」

 

 少しでも、己の失態を払拭しておきたいのか、ヴィンガルモは健人の始末を買って出てくる。ハルコンは変身を解き、考え込むように顎に手を当てた。

 彼としては、自分が提示した最上の褒美を受け取らなかっただけでなく、善意までをも反故にしたのだ。この場で殺すのが当然である。

 だが、王として、一度は口にした言葉に反することもまた、自分のプライドが許さない。

 そんな主の様子に、何としても己の失態を拭いたいヴィンガルモが再び口を開く。

 

「主様は、すでに十分な慈悲を見せておりました。それをないがしろにしたのは、この者の愚かさ故。主様が気にすることは……」

 

「この者を殺すことは、私が許しません……!」

 

 ヴィンガルモが言葉を続ける中、健人をかばうように、ハルコンの前に立ち塞がる者がいた。セラーナだ。

 彼女の瞳は、不安と憤りで揺れ、唇もまた真っ白になるまで噛みしめていた。

 セラーナは、己の父の非情さを知っている。その隔絶した力も知っている。

 ともすれば、自分もどうなるかわからない。実際、先ほどは健人達の危機に、動くことすらできなかった。父の機嫌を損ねるということは、それだけ危険なことなのだ。

 

(でも、彼が死ぬのは許容できませんわ!)

 

 ケント・サカガミ。

 吸血鬼であることを知っても、普通に接してくれたどころか、命すら救ってくれた人。

 それだけでなく、セラーナに必要な血を分け与え、さらにここまで送り届けてくれた。

 そんな恩人が、父に殺される。それだけは、絶対に許せなかった。

 その激情のまま、彼女は腰の落氷涙を引き抜いた。

 顕になる、冬の氷湖のような刀身。澄んだ刃が、主人の危機とセラーナの意思に呼応するように煌めく。

 ハルコンの眉が吊り上がる。続いて、諦めたかのような息が、彼の口から漏れた。

 

「……牢に入れておけ」

 

「主様、しかし……」

 

「くどいぞ、さっさとしろ」

 

「は、は」

 

 命だけは救ってやる。しかし、囚人として牢屋行き。それが、ハルコンの決定だった。

 主の命に仕方なく、ヴィンガルモは健人を牢屋に運ぼうと手を伸ばした。健人の襟元を荒々しく掴み、引きずっていこうとする。

 しかし、その手をパン! とセラーナが払いのけた。

 

「彼に触れないで。私が連れていきます」

 

「し、しかし……」

 

 セラーナは落氷涙を納めると、傷ついた健人の体を気遣うように、己の腕を彼の肩と膝の裏に通し、ゆっくりと持ち上げる。

 その『無駄な気遣い』に、ハルコンは眉を顰め、ヴィンガルモは視線を泳がせた。

 彼らからしたら、セラーナの行動は理解不能だった。

 命が残っているだけマシというが、ここは吸血鬼達の城。しかも、刃を向けた者となれば、その者がどのような末路をたどるのか。この場にいる全員が、よく知っている。

 気を使うだけ無駄であり、同時にその必要もない。

 そもそも、定命の者に対する慈悲など、必要ないと思っているのだ。

 

「……好きにするがいい。だがセラーナ、その者を牢に入れたら、私のところに来い。星霜の書を持ってな」

 

 それだけを言うと、ハルコンは背を向け、半壊した大広間を後にした。

 彼の姿が大広間の出口の奥へと消えると、ヴィンガルモは口元を不満げにゆがめながらも、健人を捉える牢へとセラーナを案内し始める。

 一方、セラーナはできるだけ健人の体を揺らさないように、ヴィンガルモの後に続く。

 そして、先を行く彼に聞こえないように、静かに彼の耳元でつぶやいた。

 

「ケント……。必ず、家に帰してあげますからね」

 

 こうして、健人は吸血鬼の城に囚われの身となった。

 事態は再び、暗雲が立ち込める。

 

 




いかがだったでしょうか?
再び虜囚になってしまった健人君。しかし、今回は吸血鬼達の本丸に捕らえられるという絶望的な状況に。
以下、登場人物紹介

オースユルフ
ハルコンの相談役であるノルドの吸血鬼。ノルドらしく、基本脳筋思考。
ヴィンガルモとは地位が同じであり、種族的な相性の悪さもあって仲が悪い。

神血の魔剣
ドーンガード前日譚にて、健人の愛刀「血髄の魔刀」をへし折ったハルコンの愛剣。
持ち主であるハルコンが使用した場合、血を捧げなくても、配下が使用したときの数倍の威力を発揮する。
前日譚にて、放置されていたはずのこの魔剣がこの場にあったということは……?
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